特別報告
2017 Tokyo Wi-Fi Summit講演「マネージドネットワークの進化・発展」

Wi-Fi Alliance Vice President ケヴィン・ロビンソン氏

7月25日に開催されました「2017 Tokyo Wi-Fi Summit」において、Wi-Fi Alliance マーケティング担当Vice Presidentであるケヴィン・ロビンソン氏より「マネージドネットワークの進化・発展」と題して講演が行われました。その内容を紹介します。

マネージドWi-Fiネットワークの普及

私が行った前半のプレゼンテーションでは、いかにWi-Fiが個人や企業に多くの恩恵をもたらすかを説明しました。Wi-Fiの優れた費用対効果が成長の源泉となり、マネージドWi-Fiネットワークにおいて良いユーザーエクスペリエンスを提供しつづけることで、絶え間ない進化と発展を支えてきました。

他の技術に目を向けると、もっと高性能なものもありますが、それは必ずしも大きな成功を収めてはいません。Wi-Fiは適切なタイミングで、適切な価格と性能を携えて市場に投入されたのです。Wi-Fiが常に進化し新たな機能を提供できたのも、デバイスや端末メーカが最大の価値をユーザーが期待する価格で提供できたからです。

Wi-Fi Allianceマーケティング担当Vice President ケヴィン・ロビンソン氏

Wi-Fiは費用対効果が優れている上、既に5Gの機能であるマルチギガビットの接続環境を提供しています。そして、Wi-Fiの一番の利点は、世界中のどの国であろうと、飛行機やトラクターの中であろうとどこに居てもWi-Fiを使いたいという期待に応えてきたところにあります。

また、Wi-Fiはモバイルのオフロードで活用されてきたと説明しましたが、2021年までにモバイルトラヒックの63%がWi-Fiにオフロードされるという数字は、Wi-Fiが真に高性能なマネージドWi-Fiネットワークとして普及していることを物語っています。

モバイルテクノロジーは様々な形で進化しますが、Wi-Fiとモバイルは今後も補完関係であり続け、将来、接続環境におけるWi-Fiの役割が小さくなるという心配はまったく無用で、2021年には更に多くのトラヒックがオフロードされます。

近年、公共の場におけるWi-Fiが非常に増えており、JapanTIMES誌は特に顕著な東京を「東京ではHot Spotの中を泳いでいる」と評しています。これはマネージドWi-Fiネットワークが普及してきた好例です。

オリンピックを控え観光が盛んになるという点で、オリンピックは業界やサービスプロバイダーにとって目に見えるマイルストーンであり、エンドユーザーへ接続環境を提供するという点でも大きな節目となりますが、オリンピックで増加するトラヒック量は今後ネットワークが発展し増加するトラヒック量のごく一部でしかありません。

Wi-Fiの幅広い接続環境は日本にとって欠かせないものになりました。新たな周波数の割り当てを働きかけている米国や欧州では、Wi-Fiは国家における重要なグローバルインフラの一部であり、それは日本にとっても同じことが言えます。

ユーザーは携帯電話と同様、Wi-Fiに対し何処でもシームレスな接続を期待しており、実際の接続環境では携帯電話より良いユーザーエクスペリエンスを提供しています。携帯では成田に到着後、携帯電話をポケットから出し、携帯事業者を検索し、クリックした後に再度、利用に関する合意のクリックを行い、いくつかのポータルを見てネットワークに繋げる必要がありますが、Wi-Fiではその必要がありません。

Wi-Fiはいたるところにありますが、マネージドWi-Fiネットワークは、より良い接続体験を提供するために必要不可欠なものとなります。アクセスポイントが高密度に設置される東京において、アクセスポイントを単にアドホックネットワークであちこちに設置するだけでは、特に新宿駅のような場所では上手く動作しないでしょう。

マネージドWi-Fiネットワークの普及において、ネットワークオペレータやユーザーに恩恵を与えるという点で世界標準が重要な役割を果たしています。3GPPやIEEE等で作られる様々なWi-Fiやモバイルに関する標準が相互接続性を確保し、コンシューマデバイスへ広く搭載されることで、どのデバイスでも同じユーザーエクスペリエンスを得ることができるようになります。また、ブランドの観点で見ると、IoTでは幅広いブランドの機器が利用されるため、複数のブランドが横断的に使えるようになることはWi-Fi業界のメリットになります。

高い価値を提供する世界標準ベースのソリューション

i-Fi Allianceでは、マネージメントWi-Fiネットワークで、よりよいユーザーエクスペリエンスを提供するためのプログラムに取り組んでいます。今後、更に増加する接続デバイスの中へ重要な情報が入っていることを考えるとセキュリティが欠かせません。これに対しWi-Fiは世界中の政府や金融機関及び企業が採用している高い防御機能をもったセキュリティ機能を提供しています。

ここで紹介する幾つかのテクノロジーは近い将来、殆どのWi-Fi機器に搭載されることになります。マネージドWi-Fiネットワークのオペレータや自社ネットワークを管理している企業、もしくはサービスプロバイダーは、様々なサービスをユーザーへ提供するために、ネットワークに対して多くの制御や能力の設定を行う必要があります。2020年の東京オリンピックを想像してみると、Wi-Fiネットワークに接続されたデバイスは他のネットワークオペレータが提供しているものかもしれませんが、それでもより良いユーザーエクスペリエンスを提供しなければなりません。

Hot Spotでの自動接続を実現するWi-Fi CERTIFIED Passpoint

最初のプログラムのハイライトは、Hot Spotにおいて合理化したネットワークアクセスを実現するWi-Fi CERTIFIED Passpointで、携帯デバイスをポケットにいれたまま、シームレスにWi-Fiネットワークへ接続します。

モバイルネットワークと同様に、人がWi-Fi ネットワークに自ら介入しなくても、Wi-Fi CERTIFIED Passpoint対応のデバイスが、Wi-Fiネットワークへ自動的に接続されます。自分が住んでいるテキサス州のオースティンでは、ケーブルオペレータがWi-Fi CERTIFIED Passpoint対応のネットワークを市内全域に提供しており、車で通勤中に信号で止まる度に、私の携帯電話はWi-Fiネットワークに繋がっています。

これは、家の中で使われるケーブルオペレータとの認証情報により、屋外に設置された何千というアクセスポイントとの間で自動的に認証が行われことで実現されます。全てのWi-Fi CERTIFIED Passpoint接続には、業界標準の高いセキュリティ機能であるWPA2エンタープライズが用いられます。例えばカフェでの接続では、いわゆる公衆Wi-Fiネットワークに接続されるわけではなく、カフェの他のユーザーとは独立した接続によりセキュリティが確保されます。

Wi-Fi CERTIFIED Passpointは次世代のローミングの基盤となります。Wi-Fi Allianceとは別組織であるWireless Broadband Allianceでは、サービスプロバイダーとモバイルプロバイダーが提携するのと同じように、メンバー間でローミングを実現しようとしており、Wi-Fi CERTIFIED Passpointはこれを実現する基盤となります。既に何十万というWi-Fi CERTIFIED Passpointに対応した端末が市場に提供されています。アンドロイドやIOS、マイクロソフトWindowsのネイティブで提供されており、殆どのプラットフォームやデバイスで相互接続する際に、この技術が使われることになります。

ユーザーエクスペリエンスの向上を目指したWi-Fi Vantage

次に紹介したいのがWi-Fi Vantage™です。これは、いわゆる技術ではなくWi-Fi Allianceが主体となった活動であり、サービスプロバイダーにより立ち上げられました。ユーザーに最高のエクスペリエンスを提供するために必要となるネットワークやクライアントデバイスの機能を、ネットワークオペレータがネットワークベンダーへ簡単に伝えるための手段を検討する活動になります。

ネットワークオペレータが最新の技術を導入する場合、ネットワークベンダーに対してWi-Fi Vantageを指定するだけで、一連の必要な技術や機能が導入されます。同様に、ネットワークを介してクライアントデバイスへより良いユーザーエクスペリエンスを提供しようとすると、デバイスに必要な機能を指定する必要があり、NWオペレータがクライアントデバイスメーカに対しWi-Fi Vantageを指定することで、それを実現します。

Wi-Fi Vantageは、今のバージョンのWi-Fi CERTIFIED acと、Wi-Fi CERTIFIED Passpointのシームレスな認証機能が基盤となります。

アジャイルなマルチバンド環境と最適化した接続性

Wi-Fi Vantageは一過性のものではなく、ロードマップに従いオペレータが必要とする機能を計画的に定義していく予定で、間もなく多くの機能強化が行われ、サービスプロバイダーやユーザーへより多くのメリットをもたらします。

機能強化の第一のメリットは、よりアジャイルなマルチバンド環境が可能となることです。一連の機能セットにより、インテリジェントな形で様々な帯域やチャネル、アクセスポイントを選ぶことができるようになります。

例えば、家にある2.4GHz/5GHz双方をサポートしたアクセスポイントを使う場合、Webブラウザーでは2.4GHzで十分ですが、高解像度の動画を見たい場合は、十分なスループットと高いデータレートを得るために5GHzを選ばなくてはなりません。

アジャイルなマルチバンド環境では、5GHzのアクセスポイントへ接続することで動画の質が良くなることを、ネットワークプロバイダーやサービスプロバイダーからクライアントデバイスに対し通知することができます。

更に、スティッキークライアントも軽減することができます。あるアクセスポイントに繋がったデバイスが、そのアクセスポイントから離れた場合、近いところにアクセスポイントがあるにも関わらず、従前のアクセスポイントに繋がったままということがありますが、アジャイルなマルチバンド環境では、マネージドWi-Fiネットワークがクライアントに対して、別のアクセスポイントが近くにあり、そちらへ繋げることで同じレベルのコネクティビティとサービスが提供できると通知します。

もう一つの機能強化のメリットとして、高密度環境下におけるWi-Fiエクスペリエンスを向上する最適化したコネクティビティが上げられます。例えば、東京の地下鉄の駅で、何百人という人々が地下鉄内やプラットフォーム上に存在し、更に何百人という人々が地上から地下へ降りてくるといった動的で混沌とした状態において全ての人へコネクティビティを担保したり、Wi-Fiからモバイルネットワーク等別のネットワークへ切り替える際に、管理のためのトラヒックで帯域を飽和させないようにするために、Wi-Fi Vantageでは、アクセスポイントに対してクライアントデバイスの数や負荷に応じ最適化したコネクティビティを確保するよう調整を行います。

また、シームレスなローミングやハンドオフを行うために、アクセスポイントを切り替えても音声が途切れることがないよう迅速に別のアクセスポイントを見つけ再接続するといった機能強化も予定されています。更に、家庭においても動的で混乱した環境では管理トラヒックによりオーバーヘッドが増えデータを送る時間が長くなってしまいますが、マネージドWi-Fiネットワークを適用することでこれを解決します。

Wi-Fiは次世代のコネクティビティの基盤

Wi-Fiは次世代のコネクティビティにおいても基盤であり続けるでしょう。WI-FI CERTIFIED acでは、今後主流となる5GHz帯の利用と、マルチユーザーMIMOの採用によって、高速化と通信容量の拡大が可能となります。

これまでの技術は、ピークスループットをデバイスでどうやって実現するか、理論的スループットにどれだけ近づけるかといった高速性というイノベーションにフォーカスが当たってきましたが、Wi-Fiが広く普及する中で、ピークスループットだけではなく、多くのクライアントをどうやって接続し、同時に全てのクライアントに高性能なコネクティビティをどう提供できるかという、システムの総能力や容量が注目されるようになりました。

マルチユーザーMIMOに対応したWi-Fi CERTIFIED acは、システム容量に注目した最初の技術です。Wi-Fi CERTIFIED WiGigは、60GHz帯を利用しマルチギガビットのコネクティビティを提供するもので、5Gとして出てくる最初のテクノロジーの1つで、非常に期待しています。

Wi-Fi Vantageについては既に紹介しましたが、2018年の機能強化で殆どの機能が提供され、サービス性が高まる予定です。

Wi-Fi HaLowは802.11ahと同じ技術で、サブギガヘルツ帯を使い最大1kmの伝送距離を実現し、これまでのWi-Fiの伝送距離を大幅に伸ばすことができます。長距離伝送のユースケースとして、駐車場や都市の様々なインフラのメータを接続することでスマートシティを実現できます。

もう一つのWi-Fi HaLowの特徴は、厳しい無線環境で堅牢な接続を実現することで、例えばコンクリートで作られたビルを5GHzでカバーするのは厳しいものがありますが、Wi-Fi HaLowであれば、より堅牢なリンクをデバイスとアクセスポイント間で提供することができます。また、短距離伝送の場合はパワー効率の高い接続が可能となり、短い距離でバッテリー寿命を長くして使ったり、長い距離をカバーしたりと、柔軟性が高く様々なユースケースに対応することができます。

Wi-Fi業界では既に次世代のコネクティビティである802.11axを実現しようとしています。WI-FI CERTIFIEDacのセカンドリリースに続き、802.11axではOFDMやアップリンクのマルチユーザーMIMOによって高効率に帯域を利用することで、ネットワークの容量が飛躍的に増大します。今後Wi-Fは非常に密度の高い環境で利用されることになるため、これまでのスループットだけではなく全体のシステム容量がカギとなり、多くの機能が2020年の前に実現される予定です。

 

最後になりますが、Wi-Fiは未来のコネクトライフのカギとなるもので、Wi-Fi Allianceのメンバーの皆さんにはWi-Fiを次世代に導いて欲しいと思います。また、Allianceのメンバーでない皆さんには、是非とも積極的にこの活動に関わって頂きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。


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