特別インタビュー
アイランド・シックス・キャピタル・アンド・ディベロップメント
代表取締役 トッド・ワルザー
Wi-Fiインフラを生かすビジネスを目指す
IoTで求められる「Wi-Fi×エッジコンピューティング」
高性能のフェイズドアレイ方式のWi-Fiアクセスポイント「GoNET」を日本市場に紹介し多くの通信事業者から評価を得たアイランド・シックス・キャピタル・アンド・ディベロップメント(以下、アイランド6)。
代表取締役のトッド・ワルザー氏は、Wi-Fi市場はまだまだこれから伸びると断言する。観光、医療、教育、農畜産、自治体などの分野はもちろん、今後は「ラストワンマイル」分野でも注目されていくのではないかと見ている。
さらに、IoT時代を迎え、エッジコンピューティング分野でも、Wi-Fiの活用が進んでいくのではないかと期待している。
Wi-Fiオフロードに着目
――アイランド6という会社は、一般には余り知られていないと思いますが、Wi-Fi業界では知名度が高いと聞いています。
トッド・ワルザー 一般に知られていないのは当然だと思っています。私どもが海外のWi-Fiをはじめとする先端の通信機器を輸入し、大手SI、NIさんに卸、そこから通信事業者や企業に販売され、導入・設置されていきますので、私どもは表にはでないからです。
Wi-Fi業界で知られているのは、単にアクセスポイント製品の輸入販売ではなく、製品の技術サポートを自ら行うというユニークな点があるからでしょう。
メーカーとユーザーを橋渡しする会社という意味で、「ソリューションブリッジ」などという言い方で自らの役割を説明しています。
――Wi-Fiアクセスポイント事業を中心とする会社になるまでの沿革を教えて下さい。
トッド・ワルザー 祖父は中央ヨーロッパの出身でしたが一家でアメリカに渡り、その後、私の家族はアメリカとイスラエルに住むようになりました。
私はペンシルベニア州のウォートン大学を終えてイスラエルのインテルに就職しました。
そこで、ソフトウエアのベンチャーを育成する事業に携わりましたが、当時、世界の半導体市場をリードしていたIT先進国の日本を販売先として意識するようになりました。
いろいろなビジネス経験のあと、思い切って、日本でイスラエルのIT製品を販売するビジネスを始めようと決意しました。1990年のことです。
そして、イスラエルのいろいろなハード、ソフトの製品を手掛け、2004年から現在の社名の「アイランド6」を名乗っています。
大きな転機となったのが、2009年のiPhone発売です。携帯電話事業者にとって、スマートフォンからのデータが携帯電話網だけではとてもさばききれなくなってWi-Fiにオフロードしなければ立ち行かなくなってきたのです。
ちょうど、そんな時、イスラエルのGoNET社のWi-Fiアクセスポイントを扱うことになったのです。
――当時、ドコモ、KDDI、ソフトバンクとも、降ってわいたようにデータオフロードが緊急課題として浮上しましたね。GoNET社のWi-Fiアクセスポイントはどういう特徴があったのでしょうか。
トッド・ワルザー まず、Wi-Fiでありながらアクセス半径500mというエリアの広さです。次に、エアタイムの効率性の良さです。これは、フェイズドアレイ方式により細い高速ビームで確実にデバイスとコネクションが取れるため、すぐつながる、すぐ通信が完了する、SN値が高い、ノイズに強いという性格を持つのです。そこで、三番目にアクセスポイント数を減らすことができ設置コストが安くなるというメリットが生まれます。
当時の携帯電話事業者3社様に高く評価していただき、多数設置していただくことができました。
――ライバル製品はなかったのでしょうか。
トッド・ワルザー もちろん、ありましたし、今もあります。しかし、製品サポートを重視し、たとえ故障した時も、いちいち全ての故障品をイスラエルに送り返し何日も掛けるのではなく、日本で技術サポート体制を作り、大抵の故障についてはその場で修理し、その場で部品を取り換え、その日に直すということを徹底しました。そこで、販売していただいているSI、NIさんも安心して売っていただき、ユーザーさんにもご評価いただくことができました。
実は、日本の携帯電話事業者がデータオフロードで悩む前から、最初のiPhone独占携帯電話事業者だったAT&TがWi-Fiオフロードに取り組んでいるという情報を掴んでいましたから、必ず日本でもそういうなるといち早く確信し、様々な準備をしていたのです。
――データオフロード用途のWi-Fiアクセスポイントは打ち終わっていますが、Wi-Fi市場は今後どう展開すると見ていますか。
トッド・ワルザー 公衆無線LANサービスそのものはかなり行き渡りましたが、オーナーWi-Fiモデルの取り組みはますます広がっていくでしょう。また、企業内の無線LAN導入、様々な産業分野での活用、社会的活用はむしろこれからでしょう。また、インバウンドの波、2020に向けた全国的な取り組みはまだ始まったばかりでしょう。私どもは、特徴のあるGoNETの活用が進むビジネスシーンがまだいっぱいあると思っていますので、パートナーのSI、NIと連携を強めながら、いろいろな提案をどんどん進めたいと思って張り切っています。
ミリ波のワイヤレス通信でラストワンマイル
――最近は、Wi-Fi事業の延長で、新しい製品を取り扱っているということですが。
トッド・ワルザー ミリ波の60G~80GHz帯を使う中継装置を取り扱っています。最近は、セキュリティ用に多数の監視カメラにWi-Fiを接続して画像を常時送るシステムが広がっています。それらの画像を受信し遠隔地に光ファイバーで送信するためのミリ波中継装置「Siklu」を提案しています。
ギガバンドなので性格上、高速だが通信が切れやすい周波数帯となります。しかし、「アダプティブモジュレーション」といいまして、雨とか霧とか障害要素がある時は自ら変調を変えることで、たとえば1Gbpsのところを700Mbpsに落としても通信を切らないで続けるということができます。また1対1ではなく、1対Nの通信ができる新製品がリリースされましたので、画像データを多数監視するなどの用途で評価をいただき、地方での活用とか、テレビ局などでの利用が始まっています。このシステムには、グーグルも注目しています。
――どういうことでしょうか。
トッド・ワルザー 街角に光ファイバーを収容したSikluを設置して各家庭に高速ワイヤレス通信サービスを提供し、家庭のWi-Fi端末を接続するサービスがあるのですが、このサービス企業がGoogleFiberに買収されたのです。一種の「ラストワンマイル」となります。各家庭に光ファイバーを引くのと同じイメージですが、工事は不要となるわけです。アメリカでは好評で伸びています。
日本でも、これに着目して、畜産分野などで、多数の牛の動態監視などに利用されています。ミリ波なので1Gbpsは楽に出ますから、100Mbpsのハイビジョンや4Kも平気です。これから活用シーンが広がっていくのではないかと期待しています。無線LANビジネス推進連絡会で発行されたばかりの『Wi-Fiのすべて』でも、「ワイヤレス新時代とWi-Fiの役割」の章で次世代システムとして取り上げられており、よく分析されていると思いました。
――Wi-Fiを中心とした通信機器ビジネスが柱でしたが、今後はどういう点に注目していますか。
トッド・ワルザー これからは、すでに設置されているWi-Fiネットワークをうまく生かすビジネスが重要になるのではないでしょうか。
世の中で言われている、IoT、M2M、コネクティッドカーなど、Wi-Fiインフラを活用したサービスやサービスが本格化する時代を迎えるのではないでしょうか。単に、フリーWi-Fiの提供だけで終わるわけではないと思います。
今、私どもが注目しているのがエッジコンピューティングです。IoTやM2Mで集めたデータをすべてクラウドに上げるのが効果的とはいえず、エッジで処理することが効率的な分野が多数あるはずです。
そこで、Wi-Fiで送られてきたデータを素早く処理するエッジコンピューター「Saguna」を取り扱い始めています。通信事業者さんとも様々な実験を始めています。
――プラットフォーム分野への進出ですね。
トッド・ワルザー 「MEC」ということばが流行っていますが、もともとは「モバイルエッジコンピューティング」でしたが、最近は「マルチアクセスエッジコンピューティング」の意味で使っています。要は、ワイヤレス通信部分は5Gでも、Wi-Fiでも、どちらでも使えるわけで、IoT時代には両方が融合して利用できるようになると思います。そして、クラウドにあげなくても俊敏にデータの活用が出来るようになるのがエッジコンピューティングだと思います。
将来は、LTE-Mでも、LTE-Vでも、Wi-Fiでも、5Gでも自在に使えるエッジコンピューティングシステムとしてSagunaをMECで活用できるようになれば、この分野が離陸できるのではないかと期待しています。Saguna はソフトウェアですが、8コア程度のサーバで動かせば1Gbps以上の性能を出す事ができます。IoT、M2M、コネクティッドカーはじめ多様な用途が出てくることと思います。
先ほどのミリ波中継装置SikluにSaguna を置き、MECとして様々に活用する時代が来るのではないかと期待しています。
――これからのビジネス展望はどう考えていますか。
トッド・ワルザー イスラエルの優れた機器を紹介しサポートを厚くすることでビジネスを伸ばすことができました。これからも、Wi-Fiとその市場はどんどん発展していくと思いますので、Wi-Fiインフラを活用する新しい分野への取り組みを絶えず怠らないようにしたいと考えています。
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら