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ビジネス情報
ワイヤレスの高速化と画面との最適視聴距離

無線LANビジネス推進連絡会顧問 小林忠男

一カ月ほど前に、2030年代を想定した総務省の電波利用戦略案が明らかになりました。

日経新聞では、次のように紹介されています。

超高速通信規格「5G」の次の世代にあたり、現在の携帯通信の1000倍以上の速度の通信規格の実用化に向け、110GHzの周波数帯域を新たに確保する。
全自動運転や電力の無線伝送といった新技術の開発を推進。電波関連産業の市場規模を40年に現在の3倍の112兆円に拡大させる
ことを目指すという内容です。

これは、毎日のように2020年に実用化されると話題になる5Gシステムの次の「Beyond 5G」になります。東京オリンピック・パラリンピックの年に実用化される「5G」は現在のモバイル通信の100倍も高速で、2時間の映画を3秒でダウンロード出来るようになります。
「Beyond 5G」はそのさらに10倍以上の高速化を目指すそうです。

あらためて、モバイル通信を振り返ると、モバイル通信の規格はほぼ10年ごとに大きな進化を遂げ、高速化を実現してきました。

自動車・携帯電話の最初はアナログ方式の第1世代と呼ばれ、大きな端末が自動車のトランクの中に置かれた時代もありました。第2世代は携帯電話がデジタル化され、1995年に日本では携帯電話の本格普及が始まりました。

第3世代(3G)では電話に加えてモバイルによるインターネット接続が実現しデータ通信が急速に拡大し、第4世代ではそれがさらにメガクラスに高速化し、今に至っています。

第3世代と、これから始まる第5世代(5G)の概要を表1に示します(日経新聞記事を一部修正)。

表1

すべての人とモノがワイヤレスでつながる時代においてはワイヤレスシステムの更なる高速化と低遅延化は必須であり、5Gはそれに対応できるシステムになっています。

モバイルやWi-Fiの進化は、高速化へのチャレンジと言っても過言ではないと思います。

さて、私たちが文字や画像の情報をやり取りする場合に必要な伝送速度はどのくらいになるのでしょうか。

テキストは600文字/分なら0.16kbps、音声・テレビ電話は64kbps、地上波デジタルは16.8Mbps、ブルーレイは36Mbpsと言われています。これから本格的に始まる8K放送は80Mbpsまで帯域圧縮が可能で、このスピードで十分伝送できると言われています。

画面の解像度と伝送速度

では、モバイルデバイスの画面サイズと解像度との関係を見てみましょう。

多くの人が手放すことの出来ない最新のiPhoneで言いますと、いつくかのタイプがあります。

① iPhone X  5.8 インチ  画面解像度2436 x 1125
② iPhone 8 Plus  5.5 インチ  画面解像度1920 x 1080

を例にとって考えます。

② は画面解像度がフルHDの動画対応になりますので、10~15Mbpsぐらいのデータレートになると思われます。
① は画面解像度がもう少し高いのですが、あまり一般的な解像度ではなくやや特殊のため、同じようにフルHDの動画を見る場合は②と同様、あるいは、その特殊な画面サイズに合わせたとしても、フルHDの30%増ぐらいだと思われますので、 ~20Mbpsぐらいだと思われます。

スマートフォンの画面は約6インチ、大型のテレビは50~60インチが普通になっています。
スマートフォンを目から遠く離してしまうと見えにくくなりますし、大型テレビをあまり近くでは気持ち良く観ることは出来ません。
つまり、面サイズにより最適視聴距離というものがあります。

次のサイトで、画面サイズと解像度を入力すると最適視聴距離の計算値が示されています。
http://area-sasuke.net/hometheater/screen_distance.php

それによると、上記のiPhoneの最適視聴距離は約20㎝になります。せいぜい自分の腕の長さの範囲内で使うことになります。

さらに、次のサイトには、フルHDと4Kテレビの高さと視聴距離が出ています。お奨めのテレビの高さは、75㎝、視聴距離はフルHDでは約2m、4Kテレビでは約1mになっています。
http://www.best-antenna-koji.jp/column/tv-size/

普段私たちが使っているスマートフォンを1mも離して使うことはなく、通信速度としてはせいぜい20Mbpsもあれば十分ということになります。

50インチのテレビを携帯してタクシーの中で視聴することはないので、屋内で高速のワイヤレス通信、例えばWi-Fiが確保できれば十分かも知れません。

無線の高速化のメリットとは

最初に高速化の歴史と書きましたが、新しい世代毎にどんどん高速化するとユーザーにとってどんなメリットがあるのでしょうか。

5Gで20Gbpsが実現しても、20㎝の距離で使うスマートフォンには20Mbpsのスピードがあれば十分なのです。では、何のために高速化する必要があるのでしょうか。

まず、最初に書きましたように、動画等の大容量のコンテンツをスマートフォンにダウンロードする場合に、現在は数分から10分の時間がかかりイライラすることがありますが、これが数秒でダウンロード可能になります。ストレスなく快適にコンテンツを楽しむことが出来るようになります。

短時間でダウンロード出来るということは、一つの基地局を今まで以上にたくさんのユーザーが共有することが出来るということになりますので、多くのユーザーが快適な通信環境を得ることが出来ることになります。

更にこれからは、今まで以上に高画質、高品質の動画サービスが始まるでしょうし、遠隔地のイベントと三次元映像をリアルタイムで楽しむというサービスも始まるでしょう。

すでに始まっている、VR、ARについても高速化は必要です。
ワイヤレス通信は、基地局から遠くの端末は近くの端末より速度が遅くなり、同じ基地局内にたくさんのユーザーがいれば一人当たりの速度は低くなります。従って、モバイルキャリアの公称値と実際の通信速度にはギャップがあります。

ワイヤレスシステムの世代が進むことによって、そのギャップが少なくなるので、より使いやすい環境が実現すると思います。

また、インフラ構築コストが今の世代と同じであれば、ビット当たりのコストは安くなるということですから、料金値下げにつながることになり、それはユーザーには有難いことです。5Gの商用化に期待したいと思います。

人の走るスピードと電波の特性

最後に今までの話とは関係ありませんが、陸上競技の花に、短距離の100mと長距離の42.195kmのマラソンがあります。

100mの世界記録の時速は約38kmです。42.195kmを2時間で走ったとすると時速は21km超になります。
筋肉隆々の短距離ランナーは時速38kMで走りますがせいぜい100mから200mしか走れません。筋肉は無いような細身のマラソンランナーは42kmも走りますが時速は20kmです。それでも私には逆立ちしても真似は出来ませんが。

速ければ短く、長くなれば遅くなるというと、なんか電波と似ている感じがしますが、考えすぎでしょうか。一つですべてを満足するユニークなものはないと思います。


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