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キャリアインタビュー
ソフトバンク株式会社 デバイス技術本部 本部長 小林 丈記 氏

IoTで自治体の問題解決に取り組む
Wi-Fiビジネスモデルの新たな発展期に

ソフトバンクは、大胆な展開方式で日本の公衆Wi-Fiサービスの普及にいち早く取り組みました。

IoT時代を迎え、今また「10円から利用できるNB-IoT」で普及の先鞭をつけようとしています。

そして、Wi-Fi事業を管理する小林デバイス技術本部長は、収益の上がるWi-Fi事業を目指す事は業界全体で取り組む課題であると強調しています。

 

――デジタルトランスフォーメーションやデジタル変革が言われ、IoT、5G、AIなどの新しい技術が進む中で、社会的にも経済的にも大きな変革の波が来ています。

小林本部長 我が社はここ数年、携帯電話、特にスマートフォンを中心に通信サービスを提供し、それに注力して技術開発をしてきましたが、これからはスマートフォン以外のデバイスからの接続要求が高まり、それがIoTを招来するのではないでしょうか。

いろいろなデバイスをつなげたい、今まで手作業でやっていたもの、人が介在してやっていたものを自動化したい、効率を上げていきたいというニーズが非常に高まっていると考えていまして、当社はNB-IoT (Narrow Band-IoT)を手掛け、このサービスを開始しました。

――ソフトバンクのNB-IoTは大胆な価格戦略も大きな話題を集めていますね。

小林 時代の変革期なので、皆様が使いたいと思うものを使いやすい価格でご提供させていただき、まず使ってみていただくということが今は非常に重要なことと考えています。

IoTの領域は今までのスマートフォンとは違い、各産業ごとに課題やそれぞれ特有の問題があって、われわれ通信会社だけでは解決できないと考えています。ですから、我々はそれに適した形での通信サービス、NB-IoTに代表されるような技術を使い、各産業の方々と一緒に課題を解決して新しい価値をつくっていくことが、当社の役割かと考えています。

――ソフトバンクはIoT向けサービスでは、LoRaを提供されていました。

小林 お客様が望まれる場合はLoRaも提供いたしますが、全国でセルラーベースのIoTサービスを始めましたので、大部分はそちらに流れてくるのではないかと思います。

LoRaの場合は、お客様のニーズに合わせて、場所毎に機器の設置や運営メンテナンスを行っていく必要がありますし、それらをお客様ご自身でやっていらっしゃるケースもあると思います。

キャリアのサービスに縛られない形での独自ネットワークの通信、つまり自営網が必要だというお客様は一定数いらっしゃると思いますので、そういったお客様は引き続きLoRaをお使いいただくのではないかと思っています。

――IoTは、スマートフォンのように、通信料収入で収益をどんどん稼ぐビジネスモデルではないと言われています。企業顧客にアプローチして稼げるようになるには時間がかかると思われますか。

小林 短期間で結果を出すのは難しい領域だと思いますし、通信料収入だけでは十分な収益をあげられない領域に入ってきています。その上のアプリケーションや分析、AIの活用など、そういったもので付加価値を出していくことが必要です。

また、IoTで上がってきたデータにいかに付加価値を付けるかというところに関しては、AIという技術は間違いなく有効な技術の1つであると考えています。

――孫会長はIoTとAI、5Gは一緒になって進んでいく時代と述べていますね。

小林 はい。その通りだと思います。3つの要素技術を用いて各産業の課題解決を行い、新たな付加価値をつくっていくというふうに自分は理解しています。

地方自治体との取り組みを強化

――デジタルトランスフォーメーションということでは、日本では2020、地方創生が一つの焦点ですが、そこでのモバイル/ワイヤレスの役割も注目されています。

小林 今、いろいろな自治体様とお話をさせていただいていますが、地方は様々な課題を抱えていらっしゃいます。持っているインフラのメンテナンス作業やその費用、少子高齢化に伴う労働力の減少などです。IoTでの自動化や効率化はこうした課題を解決する有効な手段の1つであり、地方創生に対するモバイル/ワイヤレスの役割は大きいと考えています。

――その領域は、今までなかった分だけに、新しいトライが新しいビジネスを生み出していくということですね。

小林 地方創生の取り組みにあたっては、地方自治体の方々と当社の考え方がかなり一致しているので、共同で様々な実験やPoCといった取り組みが始まっています。

――2020には、どういう取り組みをされていますか。

小林 我が社に限った話ではないと思いますけれども、2020に向けての取り組みで大きいものの1つは5Gです。5Gのローンチというものを日本全体で2020をターゲットにどう盛り上げていくのかというのが、1つの大きな話題になっていますね。

――5Gサービスの開始は2019年度末までともいわれていますね。

小林 まずは周波数の割り当てを頂いてからという事になりますので、時期についてお話できる段階ではありません。ただ、1つの方式を全国へネットワーク展開するには5~6年は掛かります。

5Gには大容量や低遅延、高信頼性といったいくつかの要素があるので、これらのニーズを見極め、優先順位をつけて展開する必要があると考えています。

5G時代のWi-Fiの役割

――5Gが非常に高速化して全国エリアになったときに、Wi-Fiは要るのかという議論をいう人がいますが。

小林 いろいろな統計がありますが、スマートフォンにおいては、4割から5割ぐらいが携帯電話網で、半分以上が実はWi-Fi経由で使っているというデータもあります。

またWi-Fiは、キャリアのビジネスとは切り離されて、ご自宅向けなどお客様自身が自由な形でネットワークを構築できるという利点もありますので、今後もWi-Fiを必要とされるお客様がいらっしゃると考えています。

お客様からすると、5GやWi-Fiといった無線通信の種類を意識せずにシームレスに快適な通信ができる事が重要です。その為には、Wi-Fiの技術やアクセスポイントなど機器の発展が必要です。

これが実現できれば、「Wi-Fiを利用している」という意識自体は低くなるかもしれませんね。

Wi-Fiビジネスモデルの発展期

――Wi-Fiはもう立派な通信基盤になりました。それ分だけ、つながりにくいとか、つながっても遅いとかという苦情があって、そういう点でいうと、多少お金を払っても、ロイヤルWi-Fiじゃないけど、いいWi-Fiを使いたいという意見もあります。お客さんもグレードアップしていますから、その要望に耐えるネットワークを作る時期という見方もあります。

小林 そうですね。そういう考え方もありますね。Wi-Fi技術もちょうど変わり目で、来年ぐらいから「11ax」規格に対応したアクセスポイントも登場してくるのかと思います。

ただアクセスポイントだけではなく、バックホールなども含めた1つの通信ネットワークとして、場所や用途に合わせた増強や改善を行っていく必要があると考えています。

――もう1つは、Wi-Fiが重要な通信基盤になって、Wi-Fiのビジネスモデルというか、Wi-Fiの収益化の問題です。どこでWi-Fiのビジネスというものをやっていくのかということです。従来、オフロードで基盤を作りネットワークを広げて、これだけ広がって貢献しているわけですけど、今後のWi-Fiビジネスモデルというと、Wi-Fi自体がどういう収益が可能なのかWi-Fiネットワークに何をのせ、どういうサービスをのせて、収益にするのか、いろいろな試みがあると思うんですが、このWi-Fiビジネスの発展でいうと、どういう展望になりますか。

小林 これは業界全体の課題であり、収益化ということができていかないと、新しい技術を導入する為の継続的な投資が行えないと思います。

その為にも業界全体で新しいビジネスモデルを作る事が重要です。数年前まではWi-Fiの展開はキャリア主導でやってきた側面があると思いますが、今はエリアオーナー様が、自社のお客様のために主体的に導入されているケースも増えてきました。

――「エリアオーナー型」ですね。

小林 そうです。我々はWi-Fiを支えるための基盤やその運用ノウハウを持っています。我々はそれらをプラットフォームとしてご提供し、エリアオーナー様ブランドのWi-Fiをご一緒させていただく事で収益を考えるというのが1つです。

――冒頭にお話しいただいた、通信というものが産業の中、お客さんの中に入って、そこを押し上げることで収益化に貢献すると、似ていますよね。

小林 そうですね。そういう意味でいうと、IoTと同じような流れをしているのかもしれないですね。

もう一つは、Wi-Fiに合わせて、何らかの広告や分析といったサービスなどをご提供することで収益につなげるという考えです。

通信以外の新しいアプローチやビジネスモデルにトライし、収益をあげながら継続的なWi-Fiの投資を行っていく、この循環をつくっていかないといけない時期に来ているのは間違いないですね。

――Wi-Fiは、ビジネスモデルとして発展の次のフェーズに入っているということですね。

小林 その通りです。

Wi-Bizへの期待

――そのなかで、Wi-Bizの役割、あるいはWi-Bizへの期待について。

小林 Wi-Fi全体のビジネスモデルを考えると、競争領域の部分もあるので、各社それぞれで頑張るべきことがあります。一方、モデルを変えていく、構造を変えていくという部分では、Wi-Fi事業に関わる皆さんで一緒になって考え、推し進めていくという協調が必要だと思います。

競争と協調という相反する事を同時に進めなければなりませんから、これはなかなか難しい事です。そこで協調という面においては、Wi-Bizが旗振り役となって、是非活発な活動をして頂きたいと思います。

また最終的には、利用者の更なる利便性向上や、Wi-Fi産業のより一層の活性化につなげていく核になっていただければと思っています。


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