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フルノシステムズ 代表取締役社長 中谷 聡志 氏
まだまだ伸びる学校、観光、防災のWi-Fi需要
評価される特徴ある製品で市場拡大へ
業務用無線端末、無線LAN製品を中心に無線LANビジネス市場を牽引しているフルノシステムズ。
市場への参入は比較的新しいが、コア技術の「無線通信技術」にこだわることで特徴ある製品を投入してきました。
中谷社長は、2020へ自治体向けの学校、観光、防災分野を中心にまだまだ需要は拡大すると見ており、パートナーとともに市場拡大に貢献したいと述べます。
また、「快適無線」をコンセプトにIoTをはじめとする新分野の開拓にも注力したい意欲を見せています。
スタートは業務用無線端末
――御社のWi-Fi事業はいつごろからですか。
中谷社長 私どもの親会社は古野電気といい、船舶用の機械を全世界で販売しております。
超音波技術や、無線の高周波技術を持っていて、事業のドメインが「海」「陸」「空」ということになります。
海、空で持っている技術を、陸に展開できないかということで新たに始めた事業がフルノシステムズということになります。
フルノシステムズは1984年設立で、当時は業務用のハンディターミナルからスタートしました。
物流センターや工場で商品管理や工程管理をするためのもので、特に我々がフォーカスしたのが無線ハンディターミナルでした。データをリアルタイムにやりとりし、業務のやり方を変えようということで事業をスタートしました。
――古野電気の子会社としてのスタートですね。
中谷 当時は子会社で販売会社でした。古野電気の中で開発して、フルノシステムズが販売したり、あるいはフルノシステムズがSIerさんを通して販売するという形態です。
しかし、古野電気の海の世界とは違って、ITの世界は非常に進歩も激しく、会社組織を分けておくのではスピードに追い付かないということで、2000年に古野電気の開発部隊とフルノシステムズの販売部隊を一緒にして、それが今のフルノシステムズになっているわけです。
――開発も販売も行うメーカーとしての発足で、今の形ですね。
中谷 事業の中心は業務用無線端末でした。もともとハンディターミナルは、無線の規格でいえば微弱無線とか特定小電力の分野で、技術変化に応じて無線規格は変わっていきましたが、ちょうど2000年過ぎぐらいから家庭用はWi-Fiが普及を始め、広がってきました。我々も無線の規格の1つとしてWi-Fiをハンディターミナルに取り込もうということになりました。
Wi-Fiのハンディターミナル、それを受けるWi-Fi基地局の製品を作って、そこからWi-Fi事業に本格的に取り組み始めたわけです。
2005年ぐらいになって、一般の企業にもWi-Fiが新たなネットワークとして入るようになってきました。そこで、ハンディターミナル分野からネットワーク分野を切り離してビジネスができるのではないかということで、「アクセスポイント」プラス「アクセスポイントの管理をするソフトウェア」をセットにして、新たに事業の展開を始めたわけです。
――ハンディターミナル付きのWi-Fiから独立のWi-Fi事業へ発展したのですね。
中谷 そうです。ただ、簡単には立ち上がらなかったです。6年ぐらいは掛かったでしょうか。勢いがついたのは、2010年を超えてからです。スマートフォンが世の中に出てきて、キャリアの通信トラフィックのオフロードが課題になってきて、Wi-Fiが非常に注目され始め、それを背景にして、我々のWi-Fi製品もたくさん売れ始めたという感じですね。
文教分野に注力し評価される
――当時の主な販売先はどういうところだったのですか。
中谷 当初は学校や一般企業です。ただ今のような小中学校ではなくて大学キャンパスとか、先進的に無線を入れたいお客様が中心です。そして、学校、大学、企業という形で、無線LAN導入がどんどん始まっていき、Wi-Fi市場が立ち上がっていきました。
我々としては、コンペティターがたくさん居るわけで、やはりマーケットに特化してやろうと、2012年ぐらいから小中高の文教市場に注力することにしました。
当時、文科省が2017年までに普通教室に100%無線LANを入れると発表した時期だったのです。我々もそれに合わせて学校にフォーカスして販売を強化したわけです。
――文教分野に注力したわけですね。
中谷 そうですね。現在、販売の中心が文教市場です。我々は後発だと思いますが、お客様に非常に製品をご評価いただいて、結構、口コミで「フルノの製品は安定しているね」ということで導入いただいていると思います。
――製品開発は自力で進めているのですか。
中谷 技術はすべて自力です。もともと古野電気はメーカーなので、自社工場を持っていますが、2000年に独立した企業体になった時、親会社の工場を使ってもいいし外を使ってもいいということで、我々はファブレスで一番適した工場を使うということでやっています。ただ、設計部隊だけは社内に残して、自社で研究開発を進めています。
無線の世界は今は規格ものなので、チップや基本ソフトのほとんどは標準です。あとは、各メーカーがどうそれを安定させるか、どういうスペックで使えるように設計するか、そういうところの違いです。
――文教分野での伸びの要因は何ですか。
中谷 我々は後発ですが、お蔭様でご評価をいただき一気に販売量も増えていき、着実に導入して頂くお客様が増えて来ました。背景には、学校側の予算の増加だけではなくて、ニーズの変化というか、使い方のグレードアップということがあったと考えています。
我々が参入する少し前からWi-Fiは学校の教育現場に入っていましたが、当時は先生1人のパソコンを無線LANにつなぐという、そのような要望に合わせた商品でした。それが、だんだんと使い方が変わってきて、各教室で生徒1人に1台ずつタブレットを持たせようとなってきました。ところが、安定して動かないということが市場で起きてしまいました。
その点、我々はもともとハンディターミナルの世界でしたので、1台のアクセスポイントに100台がつながるのは当たり前だったわけです。そういうことがお客様に高く評価されるということすら知らなかったのです。我々は当たり前と思っていましたから。
学校現場では、「つながらないんだよ」とか「たくさんつなぐと不安定になるんだよ」という話を聞いて、むしろ我々が驚くような状況でした。
それで、「我々のものを試してください」と入れたら「フルノさんのものは安定するね」ということで非常に評価され、着実に浸透したのかなと思っています。
――ハンディターミナルの経験というか実績が生きてきたわけですね。
中谷 そうだと思います。物流センターなんかですと、朝一に端末の電源を事務所で同時に入れます。そうすると、100台200台の端末が1台2台のアクセスポイントに一気につながりに行くわけです。
我々は、もともとそういう使い方で満足できるようにと作っていたので、それを別に特別なスペックと思っていなかったのですが、世の中のアクセスポイントはそれが必ずしもできるわけではないと分かったわけです。
――文教市場以外ではどういう取り組みですか。
中谷 いくつかフォーカスしている分野があって、自治体関係ですと、今は観光とか防災というキーワードがあるので、自治体の観光課や防災関係の部署への営業活動をしています。
文教分野と同じようにここでも変化というか、予算の付け方が変わってきています。訪日外国人の増加に伴い観光が注目されるなかで、各自治体も見よう見まねの段階から「やっぱりWi-Fi環境の整備を進めなくては」というふうに、大きく変わってきています。
また、防災関係ですと総務省の補助金が付いたりとか、以前に比べるとかなり導入機運は高まっていると思います。
ただ規模でいうと、学校の場合は教室数でも100万教室以上あります。それに対して観光防災拠点は6万カ所くらいです。
――観光防災拠点はどれぐらい普及しているのでしょうか。
中谷 全部で6万カ所ほどあって、今は3万カ所ぐらいが整備されていて、残りの3万カ所を3年計画で整備していくことになっています。
そのうちの半分は自主財源でやる、残り1万5000カ所を総務省の補助金でやりましょうとなっています。それが現在2年目に入っていて、残りあと9000カ所まで進んでいます。
防災色を強く出しているのが総務省で、観光色を強く出しているのが観光庁になるので、自治体としては本当は一緒に全部使えるといいのですけれども、総務省の補助金の方に慣れています。過去の経緯として、総務省のWi-Fi防災ステーション事業は、3年ぐらい前からやっています。それの延長線上で今回の公衆無線LAN環境整備支援事業になっているので、どちらかというとそちら寄りに行く傾向があります。
――自治体の補助金活用では、何がネックなのでしょうか。
中谷 補助金活用に慣れていて申請書を作るのが得意な自治体と、全く慣れていない自治体とがあります。慣れていない自治体に対しては、Wi-Bizに入っているインテグレーター、ネットワーク構築ベンダーが手厚くフォローをしてあげないといけないと思います。すると、もっともっと補助金活動が進むのではないかと思っています。
私どもはアンテナメーカーということになるわけですが、「補助金全体の話を聞かせて欲しい」「防災とか観光を含めたネットワーク全体の話をいろいろ聞かせて欲しい」とよく言われます。
我々はメーカーなので、自治体に直接提案したり入札するわけではないので、地元のベンダーさん、大手インテグレーターさんが連携してやっていくと、もっともっと観光・防災周りの整備は進んでいくのではないかと思っています。
今後の無線LAN市場の発展方向
――文教、観光、防災分野の話を伺いましたが、Wi-Fiビジネスの観点で、今後は市場はどういう展望でしょうか。
中谷 ビジネスとしてはまだまだ様々な業種、分野で大きな可能性があると思いますが、私どもからするとやはりある分野に絞らざるを得ないです。
――その時、学校のように「フルノシステムズのAPはいいね」という特徴があると有利ですね。
中谷 それはとても重要なことです。我々はお客様に評価される特徴を持った商品を出したいという指向を強く持っています。
例えば防災関係ですと、Wi-Bizで取り組んでいる00000JAPAN対応がそれにあたります。
災害の混乱時に自治体が設定変更するのは大変ですから、アクセスポイントのオプションの「Wi-Fiモードセレクター」という「鍵」を回すだけで事前に設定していた災害時の無線の設定になるという商品を出しています。非常に分かりやすくて、お客様の関心も引いています。
――自治体のご担当の方は便利になるわけですね。
中谷 オプションで買っていただく必要はありますが、その「鍵」を回すと鍵を回したという情報が無線経由で私どもの管理サーバーのほうに入る仕組みですから、例えば教育委員会や学校に1個置いていただいて、それを回すとあらかじめ設定していた00000JAPAN対応になりますし、それ以外にも例えば独自に来訪者にWi-Fiを提供するという設定をしておけば、その鍵を回すだけで、それがすぐできるということになります。
また、学校でいうと、例えば一斉放送ですね。文教向けに特化した動画対応アクセスポイントという製品があります。普段の授業では、先生や生徒のタブレットの画面を大型TVに映すことができます。そこに校長先生の生の声を流し、生徒がそれぞれの教室に座った状況で聞くことができるようにするとか。
体育館に集めてやる始業式ができない時とか、運動場で朝礼ができない時に、各教室でやるとかですね。あと九州ですとPM2.5の注意報が出ると校庭に出られないので、教室で校長先生の話を聞くとかですね。
――今後も、2020もありますし、自治体、学校、観光、防災の需要は続きますね。
中谷 今年の天候は異常が続き、地震もありましたから、日本の国として防災関連は継続的な対応策が必要だと思います。そういう観点で見ると、それぞれの自治体の現状はまだまだ非常にこころもとない整備状況ではないかと思います。是非、もっともっと貢献したいと考えています。
――Wi-Fi市場全体が今後、さらに発展していくには、どういう方向が考えられますか。
中谷 例えばキャリアさんのWi-Fiにしても、たぶんこれから置き換え事業需要が起きてくると思います。何年も前に入れた時と今とではトラフィック量が全然違っています。
世の中のフリーWi-Fiは使えないというのが、たぶん、多くの皆さんの認識だと思います。モバイルより速いとか安いといううたい文句がだんだん色あせていますからね。
我々自身のWi-Fiビジネスはどうかということですが、それはWi-Bizの中でもよく話されていますが、まだまだ広がるだろうし、例え5Gが出たから減少するということもないと思います。
――5Gが高速でエリアが広がったとしても、Wi-Fiがなくなるということはないと。
中谷 そうです。システムが違いますからね。5Gの何十GHzという高い周波数で、それほどエリアを確保できるとも思われませんから、そこを補完するものとしてWi-Fiは要ると思います。
特にモバイルが高速になればなるほど、それに負けないスピードを出せるWi-Fiというのは、自営網を作れるところでは非常に重要になるはずです。
――IoTはどう考えていますか。
中谷 それはフォーカスしなければならないと思っています。IoTの世界でも無線は必須になってくると思います。規格としては現状のWi-Fiを、さらに802.11ahを使ってIoTをやりますということはもちろんこれから起きてきますし、LPWAなど違う規格のものを使いますということもあります。技術レベルでは、いろいろと検証しています。
――適材適所でユーザーが一番喜ぶところをチョイスして提案していくというのがベンダーの役割ですね。
中谷 そうですね。無線というものが持っている広さをどう生かしていくかということだと考えています。
弊社はもともと「快適無線」というコンセプトです。無線規格は何であろうと、お客様には関係ないのです。世の中、よく安心・安全とかといわれ、我々もそういう言葉も言いますが、最近は、快適無線ということが、非常にしっくりすると思っています。
――Wi-Bizには、何を期待されていますか。
中谷 我々は業界団体に参画することは少ないのですが、Wi-Bizに入れていただいて、いろいろ活動をさせてもらっていますが、まずはWi-Fiの市場自体を大きくできるかどうかだと思うのです。
例えばWi-Fi業界からいろいろな広報活動をしたりとか、あるいは00000JAPANの普及活動もそうですね。こういうことをやれば、みんなが何かあったときに助かるよというようなことを提案して、それを日本中に広めていくことです。私どもも業界団体の1人として少しでも活躍して、まずは市場が大きくなればいいと思っています。00000JAPANというのは1社ではできませんからね。
あとは業界団体なので、そこに行けばコンペティターもいっぱいいらっしゃるわけですが、逆にハードメーカーもおれば、インテグレーターもおれば、キャリアさんもいて、各ポジションがみんなそろっているので、そこが協力すれば、いろいろなことができるのではないかと期待しています。
協力と競争、協調と競争といいますが、まさにそれを実現する場です。市場拡大に皆さんと一致協力できれば嬉しいです。
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