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ビジネス情報

新春に思う Wi-Fiの針路とWi-Bizの使命

無線LANビジネス推進連絡会顧問 小林 忠男

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。

元日を迎えると、習慣として必ずチェックすることが二つあります。一つは年賀状で、もう一つは普段の何倍もある新聞の特集記事です。新聞社は今年はどんな年になるかを競って考え紙面を作っているからと思うからです。

ICT関連については、やはり、「AI、IoT、自動運転、4K・8K、ロボット・ドローン、VR・AR」そして「5G」です。

「GAFA」とともに「CASE」という自動運転のクルマに関する新しい言葉も目にするようになりました。

無線LANビジネス推進連絡会の顧問として、無線LAN、Wi-Fiに関連する記事があるかどうか、注意深く探しましたが一つだけしか見つけることが出来ませんでした。ここ一、二年の正月特集にWi-Fiの文字を見ることが少なくなりました。

その前は、「Wi-Fiという言葉を知っているか」「Wi-Fiの読み方はどうか」という今では信じられないような記事に始まり、携帯電話・モバイルと並んで扱いは小さいながらもWi-Fiがどんどんと進化し、様々な端末に搭載されていき、生活になくてはならないものになりつつあるという記事が毎年様々に掲載されたものでした。

余談ですが、まだWi-Fiという言葉が今のように認知されていない頃に、新大阪の新幹線待合室で隣に座った若いカップルの女性が、「Wi-Fiって知っている。最近ではWi-Fiを知っている人は最先端の人なのよ」って話しているのを聞いてとても嬉しかった記憶があります。

既に家庭や会社や様々な公衆スポットでWi-Fiが便利に使えるようになり多くの人たちの生活に浸透しているので、今更記事にする価値がないのかもしれません。

一方で、5Gはこれまでの社会生活を大きく変革する「新しいワイヤレスシステム」として各紙とも大きく取り扱っています。

元日の日経産業新聞には、『 5G元年 通信「外」へ  携帯各社、協業で事業開発 』との見出しで記事があり、4Gから5Gへの変化の内容として、
① 用途:携帯電話、スマホ中心から社会インフラ(スマホに加えて、自動運転、遠隔医療など)
② ビジネスモデル:一般消費者(B2C)から企業との協業(B2B2X)
③ エリア展開:人口が多い都市部から需要がある地域から(地方を含む)
と書かれています。

どのくらいの市場規模がどのくらいの時間で創出されるのか定量的には分かりませんが大きな変革の時代が到来することは間違いないでしょう。

さて、Wi-Fiには5Gのように世の中を変革する新たなサービス/システムは出て来ないのでしょうか。これから本格化する802.11axや11ahや11adやWPA3には、5Gのような魅力がないのでしょうか。

そんなことはないと思います。

現在のWi-Fiの主力商品である802.11acの伝送速度は6.9GbpsでLTEの10倍近い伝送速度を実現しています。

Wi-Fi Allianceが2019年から認証プログラムを開始する802.11axの伝送速度は9.6Gbpsで、5G並の伝送速度をすでに実現しています。

802.11axは、端末に加えてアクセスポイント側でも通信制御を行うために図-1に示すように周波数の利用効率を高めることで、端末が込み合った状況でも快適に通信が出来るようになります。


図-1 周波数利用効率の向上(出典:テレコミュニケーション2019年1月号)

とかくセキュリティが問題になるWi-Fiですが、Wi-Fi Allianceが2018年6月に発表した「WPA3」は、WPA2の問題点を解決する暗号化方式として導入されていきます。WPA3には、個人ユーザー向けと企業向けがあり、さらに公衆無線LANのオープンなWi-Fiネットワークの使いやすさを維持しながら自動的に暗号化する「Enhanced Open」も普及拡大していくでしょう。

また、IoTに最適な802.11ahも昨年、「ah推進協議会」が発足し日本での商用化が早まると期待されています。

毎日の生活、仕事の中でLTEと同じように使われながら、5Gよりも大きな潜在能力を有しながらWi-Fiはあまり話題になりません。

携帯電話ビジネスは、厳正な審査を経て特定の事業者にライセンスの電波が占有的に割り当てられ、兆円規模の設備投資を行い、何千万のユーザーを獲得し兆円単位の市場を創出しています。そのネットワークを構築運用しサービス適用するために数え切れない企業が参画し世界的に揺るぎないビジネスモデルが確立されています。

5Gをビッグビジネスにしたいという、世界中の企業・キャリア、多様なプロバイダーが膨大な開発投資を進め、設備投資をする計画だと情報発信し、今まさにラスベガスで行われている「CES」で大規模な宣伝PRを行っています。またこれからバルセロナで始まる「Mobile World Congress」は世界最大のモバイルの祭典ですが、話題を独占するでしょう。

モバイル業界の新しいビジネス・サービス実現へ向けての組織力、実行力、情報発信力はパワフルでダイナミックです。

しかしWi-Fiはそうはなっていません。

Wi-Fiはアンライセンスで誰でも使えるため、通信キャリアが公衆無線LANネットワークを構築していますが設備投資額は携帯電話事業ほどではありません。またWi-Fiはプライベート空間のワイヤレス化に大量に使われていますが、特定の企業が膨大な設備投資をするわけでなく自営的に設備構築をするため、その全体の規模を正確に定量的に把握することが困難なためなかなか記事にしにくいのかもしれません。

Wi-Fiは基本的には企業・家庭、最近では学校・ホテル・自治体等の自営設備として普及拡大しているために、オーナーが設備構築を行う受益者負担のビジネスモデルが中心となっています。規模の小さなネットワークが無数に存在するため、全体を一つの大きなビジネスとしてとらえることが難しいのかもしれません。

しかし、現実にはWi-Fiはもはや無くてはならない通信基盤となっています。人々の生活現場においては、Wi-Fiはモバイルと相互補完的な通信手段になっており、両方を相補的に使うことが最も便利であり、全体最適を実現することになっていると思います。

無線LANの普及拡大を目的とする「無線LANビジネス推進連絡会」はこの1月31日で満6歳になります。前会長としての私の個人的感覚としては、最初は吹けば飛ぶような規模のWi-Fiビジネスでしたが、「ワイヤレス&パーソナル」から「ワイヤレス&ブロードバンド」が必要な時代になりWi-Fiの必要性が認識されて本格的な夜明けを迎え、次にスマートフォンの登場によりWi-Fi基地局は急激に増加し、それが一段落した時に、2020東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まるとともに訪日外国人から日本はフリーWi-Fiが少ないという不満があがり、国を挙げてのフリーWi-Fi整備が始まりWi-Fiのインフラは順調に拡大してきました。そして現在は、IoT時代の到来、テレワーク等の働き方改革の必需品としてWi-Fiが必要とされるに至っています。

これが、私がキャリア出身であることに基づくWi-Fiビジネスのストリームの振り返りになってしまうのですが、他方で忘れてはならないのは、無線LANビジネス推進連絡会に集う会員企業の多くが無線LAN、Wi-Fiの機器/システムを取り扱い、企業向けソリューションとして学校、病院、ホテル、自治体等のワイヤレス化に長年、地道に取り組み、Wi-Fi市場を開拓、拡大してきたのです。

こうした取り組みがあったからこそ、公衆無線LANもスマートフォンが出現した時に速やかにエリア拡大が出来たのだと思います。Wi-Fiビジネスの展開がWi-Fiを通信基盤として確立させてきたのです。

現在は、キャリアが主体となって進めるパブリックスポットのWi-Fi化と、Wi-Fiを手掛ける多くの企業が進めるプライベート空間のWi-Fi化が上手くクロスオーバーして2020へ向けてWi-Fi整備が進んでいると思います。さらに人の集まるトラヒックの高いスポットは民間の投資により、また投資効果の低いスポットは国が整備を進め、2020へ向けた全国のWi-Fiスポットの拡大が進んでいます。

しかしながら、今日、Wi-Fiスポットの拡大に伴い、前から指摘されている2.4GHz帯の干渉による品質の低下、煩雑な接続手続き、セキュリティリスク等の問題がますます顕在化しています。

また、802.11ac対応の端末が多くなっているにもかかわらず、公衆スポットのアクセスポイントのac化は進んでいません。スマートフォンが高速化に対応してもネットワークインフラ側が対応していなければ、お客様は快適なWi-Fi環境を享受することが出来ませんし、新たな可能性を秘めたWi-Fiインフラが構築可能なのに、Wi-Fiキャリアにその気がなく、または構築計画をオープンに情報発信しなければ、メディアはニュースにしたくとも記事に出来ないのは当然のことと思います。

このように、Wi-Fiには5Gに匹敵する大きな可能性を持っています。と同時に、解決すべき課題も山積しています。Wi-Fiは、次の発展に向けて、一つの転換点に差し掛かっているといえるかもしれません。

Wi-Fiも5Gもお客様の端末をネットワークにつなぐワイヤレスの伝送路の一つであり、それぞれの特長を活かしてお客様に最適なワイヤレス環境を実現することがWi-Fiビジネスに携わる企業、人の役割だと思います。

このために無線LANビジネス推進連絡会は設立され今に至っています。

Wi-Fiビジネスはそれなりに順調に成長し、無線LANビジネス推進連絡会もいろいろな活動を行いWi-Fiの普及拡大に努めていますが、今までにない技術革新が本格的に始まる5G・AI・IoT時代の中でのWi-Fiの存在意義と今後のシステムの在り方を考えるべき時ではないでしょうか。また、ワイヤレスの本質を正しく理解したうえで、ビジネスの新たな展開を進めるような活動もすべきではないでしょうか。

また、全体組織としての無線LANビジネス推進連絡会に加えて、会員各社、団体もそれぞれの活動の中でやるべき役割はいろいろあると思います。

Wi-Fiメーカー/ベンダーは顧客にWi-Fiを販売することに加えて、メディアに対してWi-Fiの特徴をもっと発信すべきではないでしょうか。

黙っても売れる時はよいですが、市場は必ず飽和します。IEEE802.11グループが標準化しWi-Fi Allianceが相互接続認証したものを販売するだけでは次の時代の変革について行けないかもしれません。

Wi-Fiネットワークを構築運営するキャリアは、現在の802.11nのネットワークを2020へ向けて、「いつ、どのように802.11ac、axへ更改し、その結果お客様にとってどのように快適、安全なWi-Fi環境が実現するか」をもっと発信すべきではないでしょうか。

お客様が802.11ac対応の端末を持っているのに、キャリアが提供するアクセスポイントがいつまでも11nのアクセスポイントで許されるのでしょうか。さらに高速で干渉に強い802.11axや高セキュリティのWPA3が本格的に使うことが出来るようになろうとしています。それを念頭にネットワークを構築すれば今のWi-Fiの諸課題はあっという間に解決するかもしれません。絶好の機会を何もせずに2020を迎えるのでしょうか。

長々と書いてきましたが、5Gと共に絶対に必要なWi-Fiをもっと世の中に人に使って頂くために無線LANビジネス推進連絡会はやるべきことがたくさんあると思います。

今年は昨年の11月に発足したah推進協議会に注力し、ah実験を一日も早く開始し、2020年を目指し日本で802.11ahが少しでも早く商用で使えるようにしたいと考えています。


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