ビジネス情報
5Gに期待しWi-Fiの役割を考える
無線LANビジネス推進連絡会顧問 小林 忠男
「日経新聞」(02/06)によると、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、小惑星「りゅうぐう」の上空に待機中の探査機「はやぶさ2」が2月22日午前8時ごろに着陸を目指すと発表したと伝えています。機体の一部を地表に押し付け、有機物や水分を含む岩石を拾ってすぐに上昇し、生命誕生の謎に迫る小惑星を世界に先駆けて調査し、太陽系の成り立ちの解明などにつなげるとのことです。
りゅうぐうは地球から約3億km離れています。電波が1秒間に30万kmの速度で進んでも地球から指令電波を送ってりゅうぐうに届くまで約17分かかります。往復で30分以上かかることになるため、はやぶさ2の着陸時の細かい動きは地球からの指示では間に合わないので、自律制御で着陸することになるそうです。
因みに、これまで最も遠くまで宇宙を旅した人工天体は、NASAの宇宙探査機「ボイジャー1号」です。1977年に打ち上げられ、現在も飛行しており2016年時点でボイジャー1号から光速で発せられた信号が地球に届くまでには約18時間40分かかるそうです。電波って改めて凄いですね。
これから本格化するIoT、自動運転車、ドローン、ロボットも全てワイヤレスがないと動作することが出来ません。そして、これらは、はやぶさ2やボイジャー1号のように宇宙でただ一つではなく、地球上の人をも上回るほど数多く存在するようになるわけで、こうした膨大な「人」と「モノ」がワイヤレスでつながる時代になります。
その時にはこれらを一か所で全てを「集中制御」することは不可能なので、「自律分散制御」の時代になっていくのではないでしょうか。この自立分散制御こそWi-Fiの大きな特長の一つだと言い続けてきましたが、いよいよその具現化の時が来ているのかと思っています。
前置きが長くなりましたが、我々の現実に戻りますと今年は「5G元年」と言って良いでしょう。
5GはIoT時代のICT基盤と期待され、その特長は、総務省の「情報通信白書」によると、
① 2時間の映画を3秒でダウンロードする「超高速」
② ロボット等の精緻な操作をリアルタイム通信で実現する「超低遅延」
③ 自宅部屋内の約100個の端末・センサーがネットに接続する「多数同時接続」
などが、利活用で例示されています。
新年早々にラスベガスで開催された「CES」でも5Gは主役で、5G関連の様々なサービスが発表されたとのことです。
今回は、期待されている5Gがどこまで、その実力を発揮できるか少し考えてみました。
5GもWi-Fiもすべてのワイヤレスを使うシステムは、所要のエネルギーの電波が届くエリアの中ではその性能を発揮することが出来ますが、電波が弱くなるとその性能を実現することは出来ません。
上記の5Gの①~③の特長も、電波が届かない弱いエリア内では期待される性能を発揮することは出来ません。
図-1は、モバイルシステムの世代毎のエリアのイメージです。音声から写真、音楽、動画と大量の情報をワイヤレスで送るために使用する周波数は世代が進むたびに高い周波数になってきました。
周波数が高くなれば伝送可能な情報量は増えますが、電波の届く範囲、サービスエリアは狭くなります。
乗り物や交通機関の進歩によって私たちの「通勤圏内」「移動範囲」は時代と共に拡がっていますが、ワイヤレス通信の世界では、一つの基地局の「通信圏内」は時代と共に狭くなっています。
図-2に示すように、周波数が高くなるとエリア半径が小さくなるので、低い周波数を使う前の世代と面的に同じエリアを構築する場合には、多くの基地局をいろいろなところに設置する必要があります。
周波数が低く一つの基地局がカバーする面積が広いということは、そのエリアの中にお客様が多く存在することになり、基地局コストは低くなりますが、お客様一人当たりの情報量は少なくなります。
それを改善するために様々な技術が開発導入されていますが、より高い周波数を使う5Gにおいては今まで以上に多くの基地局が必要になり、さらには基地局までを結ぶために高速の光回線が必要になります。これは今までにないかなりのコスト高になると考えられます。また、PHSのように電柱や街灯、信号機等に多数の基地局を設置する必要があり、そのためには公共の建物の屋上には無条件で基地局を設置できるような措置も必要でしょう。アンテナの共用も有効かもしれません。
新幹線や高速移動する自動運転のクルマの中で、これから普及する4K画像を楽しむという話も色々ありますが、図-3に示すように、線路沿いにエリア半径の狭い基地局を使って線的に連続してエリアを構築することもかなり大変なことになると想像されます。
一方では、Wi-Fiも時代と共に進化していますので、高速性という点では余り5Gと差がありません。従って、最新のWi-Fiでは、5Gと同じように映画を短時間でダウンロードすることが可能です。また、家庭には既に光回線の先にWi-Fiのアクセスポイントが設置されており、多数のスマートフォンやパソコンやセンサーやIoT機器を接続することが可能です。
しかもWi-Fiは、これから開発される5Gのチップを待たなくても簡単にIoT機器を開発することが可能でしょう。光の先のWi-Fiアクセスポイントに端末を何台接続しても接続料はかかりませんが、家の中の端末を5Gの基地局につなげた場合は料金が発生します。その料金水準によって家庭での利用の形態が決まってくるでしょう。
自営のWi-Fiネットワークは基本的には面的にエリアを展開することはなく、オーナーが受益者負担により原則エリアを構成します。
これから始まる5Gの市場はWi-Fiに比べてとてつもなく大きく、そのための技術、サービス開発投資もインフラ構築のための投資もWi-Fiに比べれば巨額な数字になります。費用対効果が厳しく求められることは今更言うまでもありません。
私は、是非、5Gがこれからのワイヤレス新時代における基盤設備になって欲しいと願っています。と同時に、5G時代のなかでWi-Fiが果たす役割はますます大きくなるのではないかと考えています。それは、表面的なデータ伝送速度の比較ではなく、Wi-Fiが自律分散制御という技術の特長と自営型ネットワークというビジネス方式の特長を持っているからです。それは、間違いなく5Gを支えるとともに、5Gではできないことを実現するからです。
4G時代がそうであったと同様、いやそれ以上にWi-Fiは5G時代を引き寄せ、その相互補完を果たすことになると思います。5G時代における5G自体の発展の展望とWi-Fiの役割について、さらに考えていきたいと思います。
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