技術情報
5Gとともに進む無線LANの新技術
北條 博史
現在、モバイルデータ通信は4G(LTE)、無線LANは802.11acが主流になっていますが、無線通信は、これまでの歴史の中で、通信速度を向上するためにいろいろな施策を行ってきました。これから始まる5Gでは、新たに28GHz帯を活用する方式が追加され、さらなる高速化を実現しようとしています。さらに5Gでは多端末接続など新機能追加も行われています。本稿ではこのような環境の中、5Gとともに進んで行く無線LANの新たな方向性について技術的観点からご紹介します。
通信速度向上を目指して
無線システムは、干渉を避けるためにすべて決められた特定の周波数の電波を使って通信することを基本としています。モバイルは、当初は800MHz帯でしたが、より多くの帯域を確保するために、次々と新しい(より高い)周波数帯を確保して、需要の拡大に対応してきました。具体的には1.5GHz/1.7GHz/2GHz帯が新たに割り当てられ、4G(LTE)になってさらに3.5GHzなどが使われ始めました。
無線LANについては当初は2.4GHz帯のみでしたが、需要の拡大に対応するために5GHz帯が追加され今日に至っています。
また、より高い通信速度を実現するために変調方式が年々進化し、モバイルでは3G(W-CDMA/CDMA2000)→3.5G(HSPA)→4G(LTE)と進化し、変調方式は位相偏移変調(BPSK/QPSK)や直交振幅変調(QAM)と直交周波数分割多重(OFDM)を組み合わせた方式が基本となっています。
無線LANについてもまったく同様で、802.11acではOFDMとBPSK/QPSK/QAMを組み合わせた方式となっています(図表1)。
また、通信速度を飛躍的に向上させるMIMO方式が無線LANでは802.11nから、モバイルではLTEから導入されました。これらの向上と合わせて、チャネルボンディングという複数のチャネルを束ねる技術も導入され、通信速度の向上を実現しました(図表2)。なお、モバイルではさらに複数の周波数帯を束ねて使うキャリアアグリゲーションという技術でさらに最大スループットを向上させています。
高速性から多様性へ
Wi-Fiの高速化の歴史を見ると、規格上の最大伝送速度は2Mbps(11)→11Mbps(11b)→54Mbps(11a)→600Mbps(11n)→6.9Gbps(11ac)と向上してきました(図表3)。Wi-Fiアライアンスでは、昨年規格の呼び名を変更して、11n→Wi-Fi4、11ac→Wi-Fi5とし、今年から製品がお目見えする802.11axはWi-Fi6と命名されました。
新規格Wi-Fi6を見て、意外だと思った方もおられるかもしれませんが、11axの最大伝送速度は9.6Gbpsで、11acの3割増し程度です。これまで桁違いに増加してきた伝送速度がそれほど増えていません。これはなぜなのでしょう。
実は、周波数の利用効率を向上させる技術の進展により、ほぼ上限になりつつあるということと、4G(LTE)+Wi-Fi5という無線通信の組み合わせが、現状のスマートフォンの通信需要をほぼ満足させているため、無線の高速性が必ずしも必要がなくなったことに起因すると考えられます。課題となっているのはそれ以上の高速性ではなく、通信容量の不足だからです(結果的に通信速度が低下)。
このため無線LANでは高速性のみを追求するのではなく、今後期待される、多様な使い方に対応できるような多様な無線LAN方式の実現に向け、新しい取り組みをスタートしました。
無線LANの多様な方式により利用拡大へ
無線LANでは今年、以下の新規格の導入が期待されています。実は、5Gの流れ(高速・大容量/多数の端末接続/低遅延:安定性)と同様の進化を遂げようとしています。
- 高密度化 → 11ax(Wi-Fi6)
11ax(Wi-Fi6)は、11acの通信方式をさらに進化させ、スタジアムやイベント会場など多くの人が集まる環境においても快適に通信ができるような技術が導入されました。上り下りのMIMOをはじめとして、より細かく多重が可能なOFDMA、さらには基地局の連携により同時に複数のAPと端末が通信できる空間再利用技術などが組み込まれています。
- セキュリティ → WPA3/Enhanced Open
WPA2の脆弱性問題は記憶に新しいところですが、より強固なセキュリティを実現するWPA3が11axと合わせて導入される予定です。また、これまで公共スポットのWi-Fiでは暗号化されていないことがほとんどでしたが、新たにEnhanced Openが規定され、個人個人で別々の暗号化が可能になります。
- 品質・使い勝手(Wi-Fi Vantage release2)
混雑時のスループットの改善、通信が不安定なWi-Fiを切断する機能など、品質の悪いWi-Fiを改善する機能が含まれています。
- 超高速化 → 11ad/ay(WiGig)
桁違いの高速性を実現するものとして60GHz帯を利用した無線LANの導入が期待されています。端末の実効速度として1Gbps以上出ることが特徴で、超高速の通信が必要なアプリケーションに最適です。
- エリア拡大・IoT対応 → 11ah
サブギガ(1GHz以下)の周波数を利用し、より遠くまで通信が可能な無線LANの導入が期待されています。LoRaやSIGFOXでは実現できない上りの高速性と、アンライセンスであることの最大のメリットである、誰もが簡単に設置できる無線LANのメリットをIoTに生かすことができます(日本では昨年末802.11ah推進協議会が設立され導入が進められています)。
これらの技術は、実は5Gの方向性と一致していて、高速・大容量化については802.11ad/ayと802.11ax、多端末やIoT対応技術はそれぞれ802.11axと802.11ah、さらに低遅延や品質向上についてはWi-Fi Vantageという形です。今後も4G(LTE)+Wi-Fi(11ac)の連携と同様、モバイルと無線LANの連携がそれぞれのテーマで実現されていくものと思います。
Wi-Bizはこれらの動きを推進し、無線LANの利用拡大を目指します。
註)いろいろな専門用語がでますがここではキーワードのみの紹介とします。詳しく知りたい方は「Wi-Fiのすべて(リックテレコム)」やインターネット(Wikipediaなど)でご確認ください。
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら