ビジネス情報
多様なネットワークから最適のサービスを意識せず使える時代

小林忠男

4Gがピークを迎えようかという時なので、いささか旧聞に属するが、ニューヨークの北にある小さな街に住むA氏が、ある日、娘の携帯のデータ使用量を何気なく確認してみたら、二ヶ月前からガクンと使用量が減っていることに気がついた。

娘に「どうしたの」と聞くと、「Wi-Fiが学校中に導入されたのでそっちをメインに使うようになったの。お金かからないし、すごく速くて快適だよ」とのこと。この街の携帯サービスは、AT&TやT-Mobileは満足いくものではなく携帯電話といえばベライゾンという具合だった。

AT&Tが早くから提供していたiPhoneサービスは長いこと使い勝手の悪い存在だったため、電波状況の良いベライゾンがiPhoneを導入したときに、一斉にハイスクールの生徒たちがベライゾンのiPhoneに契約した。

A氏の娘さんもご他聞に漏れずそれに契約した。携帯回線を使ってデータ通信をどんどんやられたらどれだけの料金になるか心配で、使いすぎないように時々娘のデータ使用量を確認していたのだ。

A氏によればこの街のハイスクールやミドルスクールの生徒は四六時中学校にいるわけで、そこでフェイスブックやメールをしているからそれが全部Wi-Fiに流れたということになる。

ユーザーのWi-Fiへのシフトによりベライゾンはかなりのデータトラヒック収入を失ったということになる。

このWi-Fiは誰が何のために作ったのかというと、この街の市が住民サービスのために導入したネットワークなのである。ベライゾンをいじめるためにやったのではなく街自身のIT化の一環であり、広く住民サービスの一環でもある。実際、これらのスクールにいる人たちは99%この街に税金を納めている人たちである。

同様の取り組みを他の地域でもやり、それらが共通のプラットフォームでつながれば草の根的なインターネットのようにアメリカ中、世界中に広がる一大Wi-Fiネットワークになるかもしれない。

そこでは、キャリアのネットワークは付随的なものになってしまうかもしれない。ユーザーは基本は自分のスマートフォンがインターネットにつながればそれで十分なのである。つないでくれるのは誰でもかまわない。キャリアである必要はない。個人情報も課金も要らない世界だ。

アメリカは日本と同じで光の売れ行きは悪い。家の前まで光を引いたキャリアは熱心にセールスを展開しているが結局安いケーブル会社のインターネットに流れてしまっている。モバイルキャリアは歩行中とか最低限のコネクティビティを提供するだけで、あとは駅・空港、バスや電車の中、地下街、学校、コンビニ等のWi-Fi、自己増殖する草の根的なWi-Fiの存在が携帯サービスと匹敵する存在になりつつある。それが草の根的に着実に進行する時代になりつつある。

電話番号は単なる一つのIDとしてのキー番号になり、あとはスカイプやLineのアプリと会話するためのIDとなる。ベライゾンもCATV会社も両方ともお客様離れが進んでその食い止めに必死に取り組んでいる。片方はオフィスを売り、片方は街角Wi-Fiを一生懸命つくって顧客確保に血眼になっている。

「ワイヤレス・ブロードバンド・インターネット」の時代において、ワイヤレスの環境を拡大するためにWi-Fiは様々な場所で使われており、ブロードバンドという面においてWi-Fiは常に時代の先端を走っている。速度という点では、Wi-Fiは常にモバイルの一世代前を走っている。

スマートフォンやタブレットが端末の主流であり、これらはほとんどすべてLTEもWi-Fiもブルーツースも搭載されたマルチモード端末なのでワイヤレスの蛇口は沢山あったほうがお客様にとっては便利である。

お客様にとって、自分のスマートフォンやタブレットがどのワイヤレスシステムでネットワークにつながるかは重要ではなく、つながりたい時に一番快適なネットワークにつながればそれがベストなのだ。

これまでに予想しなかった多様な端末を私たちは使うようになった。同時に多様なワイヤレスサービスを使うことが出来るようになった。サービス融合が言われて久しいが、全てがワイヤレスでつながり周波数がいくらあっても足りない時代が来ることが見え始めた今こそ、サービスプロバイダーは個々のシステム、サービスにこだわることなくお客様に最高のサービスを提供するためにあらゆる手段を使って取り組まなければならない。

ワイヤレスビジネスに無限のビジネスチャンスがあり、やる気になれば誰でもがそのビジネスに参画できるのだから。


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