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趣味と仕事
市民農園で「プレ田舎暮らし」

株式会社ミライト  松波 誠次

私は人に「趣味は?」と聞かれると、料理(作るのも食べるのも)やゴルフと言っているのですが、いざ記事にしようとすると特に書くほどネタもないので、今回は最近ハマっている「市民農園での野菜作り」についてご紹介したいと思います。始めてまだ2年目の素人の体験談なので、余り参考にならないかもしれませんが、少々お付き合い下さい。

田舎への憧れ

私の母方の実家は京都盆地の北側の山をいくつか越えた自然豊かな山里にあり、子供の頃は毎年夏休みに入ると2~3週間はここで過ごしていました。この田舎は子供の私にとって天国のような所で、朝は山でカブトムシやクワガタを捕まえ、午後は鮎が棲む清流で泳ぎ、おやつは畑でスイカや甜瓜(マクワウリ)を採ってきて食べ、その後は薪を割って竈で五右衛門風呂を焚いて入ったりと、それは毎日がキャンプのようで楽しい出来事の連続でした。そういう原体験のせいか、いつかは田舎で菜園や果樹園をやりながら過ごしたいと割と真剣に考えています。

市民農園、借りました

そんな田舎暮らしに向けた練習にと昨年から始めたのが、近所にある市民農園での野菜作りです。この市民農園は84区画あっても空きが無い状態が続いている人気の場所で、散歩の途中に偶然空きの掲示を見つけ、宝くじに当たった気分ですぐさま年間1万6千円の利用料とともに申し込みを行い30平米を借りました。

これまで庭の隅でハーブなどを育てた事はありますが、菜園と呼ばれるようなところで本格的に野菜を育てるのは初めての経験になります。早速ネットで育てたい野菜の播種(「ハシュ」と読みます)や収穫の時期、連作障害などの情報を集め、借りた土地を10の畝に細分化して何を何処にどの順番で栽培するかザックリと2年間分の栽培計画を立てました。そして、栽培する作物に合わせて土壌の酸性度を調整したり肥料を施したりして栽培の準備を行いました。

作っているもの

この菜園で何を育てているかと言うと、春は葉物にエンドウ豆やソラ豆、夏にはビールのお供の枝豆やトマト、ナス、キュウリといった定番の夏野菜、秋から冬にはキャベツやブロッコリー、それに春菊や白菜といった鍋の具材など色々とチャレンジしています。

写真1の黒いマルチシートが施されているところが私の借りている場所で、この原稿を書いている今の時期は、22種類の野菜を育てています。ホームセンターへ行けば色んな苗が手に入りますが、中には収穫できる野菜より高いものもあったりするので、手間はかかりますがなるべく種から育てるようにしています。それでも今年は、トマト好きの妻への点数稼ぎのため、大手食品メーカーが出している高級トマト苗を3種類購入し、比較検証のためこれまでのものと並べて栽培しています。今はそれぞれ実がつき始めて家内共々赤く色づくのを心待ちにしています。

写真1 うちの畑

初めて知った事

最近の発見は、ズッキーニは写真2のように直径で1.5m位の放射線状に葉を広げ真ん中に実がなることです。買ってきた種の袋の写真には実しか写っていなかったので、これはちょっとした驚きでした。写真は無いですが、オクラもヘタを下にして角が生えたように成ったり、ブロッコリーも大きな実(つぼみの塊)を1つとった後は、脇芽から小さなものが山ほど採れたりして、育ててみて初めて知ることが沢山あります。

写真2 生育中のズッキーニ

初めて知った事といえば、地面に敷いているマルチシートが黒いのは、地温を上げるのが主目的ではなく、光を遮って雑草が生えるのを防ぐためです。単に地温を上げるためなら透明の方が効果があって、私も真夏の土壌消毒(熱で雑草の種や害虫や病原菌をやっつけます)や冬の栽培には透明なものを使っています。

このマルチシートのもう一つの大きな効用は土壌の乾燥を防ぐことで、水やりの回数が劇的に減ります。この市民農園に来る人の大半はリタイアされた方々で、毎日のように水やりや雑草とりなど手入れにやってこられますが、勤め人の私はそうそう時間もないので、この優れもののマルチシートが大活躍しています。それでも晴天が続くと週に1度は水をやらなければなりませんし、枝を誘引したり、害虫駆除をしたりと思った以上に手間がかかるもので、今では週末のゴルフの練習はそっちのけで結構な時間をこの菜園に費やしています。

バグズワールド

野菜作りを始めるにあたって大きな拘りはなかったのですが、折角自分の手で育てるのですから、少しでも安全なものをと思ってオーガニック栽培に取り組んでいます。本当は完全無農薬で行こうと思ったのですが、始めてみるとそこは正にバグズワールド! バグズライフのようにいろんな色や形をした虫達が住んでいて、少し葉っぱを食べられる位なら共存の道もありますが、中には殆ど葉や芽を食べられてしまうものも。防虫ネットや虫が嫌うキラキラテープでも防戦しますが、それでも太刀打ちができないので、最近は天然成分由来のオーガニック対応の薬で何とか対応しています。

1年目最大の失敗

何も知らない素人が始めた訳ですから失敗談には事欠きません。その中で一番の失敗は、1つの苗からどれ位の量がどれ位のペースで収穫できるのか、あまり考えずに苗を植えてしまったことです。

写真3は昨年の6月6日から約2カ月間の収穫物をカメラに収めたもので、最盛期は雨の日を除きほぼ毎日早起きをして収穫しました。昨年はキュウリの苗5本を同時期に植えたため、ご覧のとおり毎日のようにキュウリが5~6本、多い時は10本以上も採れてしまい、アッという間に冷蔵庫の中がキュウリで埋まってしまいました。キュウリの旺盛な繁殖力と、放っておくとすぐ40~50㎝に巨大化することを初めて知らされました。

写真3 収穫成果

ちなみに、採れたキュウリの半分は何とか家内を通じてご近所へ配ってもらいましたが、それでも残りは自宅で消費しなくてはなりません。幸い私は料理作りも好きなので、サラダや酢の物、漬物やキムチにピクルス、更には炒め物や煮物やパスタにと毎日手を変え品を変え食卓にキュウリ料理を並べました。家内からは「今日もキュウリ祭り?」と言われる始末ですが、おかげで今では自称「キュウリ料理専門家」を名乗れるほどキュウリ料理のレシピが劇的に増えました。

職業としての難しさ

さて、昨年1年間の収支をざっくり計算したところ、農園利用料に種苗や資材、肥料等の投入資金と、収穫できたものを仮に市場で購入した場合の費用を比べると、ほぼトントンに収まりました。趣味とすれば上出来なのですが、これを田舎暮らしの生業にできるかというと、相当厳しいと考えています。私の田舎では鹿や猪対策として、畑の周りは隙間なく電柵が設置されていますが、それでも柵の上を飛び越えたり下に穴を掘って入られたりして被害を受けているので、対策費や被害リスクを考慮すると田舎の農業は数段ハードルが上がります。

更に生活できるほどの利益を稼ごうとすると、規模で効率化を図るとか6次産業化で高付加価値を追求するとか更なる工夫と手間が必要となってきます。農水省の統計データから試算したところ、農業従事者一人当たりの農業産出額/生産農業所得は過去15年間でほぼ倍増しているものの、それでも年間約220万円/約90万円と非常に厳しいものとなっています。私自身も将来の田舎での野菜作りは、実益を兼ねた趣味に留めた方が良いと今は考えています。

最後に

Wi-Bizの会員にも、ICTを活用して農業の効率化や自動化、農産物の流通拡大や鳥獣害対策等に取り組んでいる企業があります。大規模な施設園芸に加え、露地栽培主体の零細農家を助けるソリューションを開発頂ければ、未来の私も含め日本の多くの農家が助かりますので、是非とも頑張って頂きたいと願っています。

長々と書いてしまいましたが、原稿を書きながら、菜園での野菜作りは自分にとって心を豊かにする素晴らしいものだと再認識できました。いろいろ手間と時間は掛かりますが、日々の成長を見る楽しみや期待感、色んな発見や驚き、収穫時の喜びや達成感、今一だった時の次への挑戦心、そして新鮮な野菜を美味しく頂く時の幸せなどハマりどころ満載です。自信をもってお薦めしますので、ご興味がある方は是非ともやってみて下さい。

最後に更なる私事で恐縮ですが、今年3月末を以てWi-Biz事務局長の職を離れました。在職中、皆様には一方ならぬご厚情を賜りまして心より御礼申し上げます。失礼ながら誌面をお借りしてご挨拶させて頂きます。


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