特別座談会
Wi-Fi6の登場とWi-Fiビジネスの展望 (上)
「パーフェクトWi-Fi」の期待担うWi-Fi6
Wi-Fiの新規格11axが「Wi-Fi6」として登場、いよいよ実装がはじまっていく。Wi-Fi6は、どういうインパクトを持ってWi-Fiビジネスを変えていくのか。今後の展望を語っていただいた。
出席者 北條会長、田中副会長、小松技術・調査委員会委員長、前原技術・調査委員会副委員長
司会 江副渉外・広報委員会委員長
――今日は、「Wi-Fi6の登場とWi-Fiビジネスの展望」というテーマで、Wi-Fi6を中心にお話を伺いたいと思います。まず、Wi-Fi6の特徴ということから入っていきたいと思います。
技術を標準化して安定化、高速化
前原 今までWi-Fiはユーザーから「つながらないことがあって当たり前、それは仕方ない」みたいに捉えられていたところがあったと思うのですけど、Wi-Fi6はそういう安定性のところで、ちゃんとつながることにフォーカスした規格というのがポイントと思っています。
その1つはOFDMAというセルラーでも使われている技術や、干渉を考慮したBSS Coloring、あと高速化するとWi-Fiはすぐ電池がなくなると言われていましたがTWTという技術で改善されています。Wi-Fiだから仕方ないと諦めていた部分が改善された規格だと思っています。
田中 これまでのWi-Fiでトラブルが起きることは確かにあったとは思うんですけど、11acの時代に結構解決してきたと思っていますので、やはりWi-Fi6は高速化のインパクトは大きい側面だと思います。過去の諸課題は、これまでベンダー各社がいろいろな技術で解決してきましたので、それが平準化されてきたという面は大きいと思います。
(左) 田中副会長 (右) 前原技術・調査委員会副委員長
――これまでメーカー同士がそれぞれ切磋琢磨し、それぞれ別アプローチで問題を解決してきた、それが平準化してきて、Wi-Fi6の技術につながっていったと。
前原 スピードは、確かに大幅にアップします。ですので、Wi-Fiをつなぐ有線側が1Gbpsでは足りないという状況に確実になってきます。Wi-Fi6でスループットが上がるのは、アプリ側というか、端末側のトラフィックがどんどん増えているからです。VR・ARを代表として、ビデオを皆さんが普通に使っていますし、20代なんかはテレビよりYou Tubeを見ています。そういう世代は仕事でもビデオをいろいろ使うと思うんです、そうすると爆発的に増えていきます。
田中 昔、何がWi-Fiでトラブっていたかというと音声なんです。特に日本の場合は電話の品質が他国に比べると圧倒的に良い。だから、みんな耳が良くて、それで「音声のところがWi-Fiはだめだよね」とか、Wi-Fiの信頼性が蔑まれてきた感じがあると思います。
一時期、Voice over Wireless LANが流行りましたが、結局、広がらなかった。今はそれがスマホ上のアプリケーションで動きます。そういうニーズもあって、11axつまりWi-Fi6のスピードが上がること以上に、レイテンシーが低くなるということがいい影響を与えてくると思います。これから働き方改革に向けてコラボレーションツールを使いましょうとなり、そうしたらWi-Fiもレイテンシーを考えないといけないという時ですので、Wi-Fi6はいいタイミングだと思います。
――ボイスがWi-Fiをちゃんと通るようになったというのは大きいですね。
田中 散々苦労してきて、日本からのニーズとして本社に上げてきたわけです。「お客さんがこういうふうに言っている」と。ところが「他の国からは、そんなには言われない」と叩かれながらも、我々は頑張ってやってきたことが、技術として組み込まれているのです。それがaxになったので、さらにクオリティが良くなります。
前原 我々が独自でやっていたものが標準化している。そういう流れの中で、Wi-Fi6がありますね。ある意味、現段階でのパーフェクトWi-Fiとも言えるかもしれません。
田中 そういう点では、ベンダー各社が頑張ってきた技術が標準化されるので、どのベンダーのWi-Fi製品でもWi-Fi6を使えば、これまでの問題は解決すると思います。
通信事業者の導入メリット
――通信事業者にとっては、Wi-Fi6はどういう意義を持つのでしょうか。
北條 公衆無線LANサービスは成熟しており、今は11acが主流ですが11nもまだ残っているという状況です。公衆スポットでnからacにしたら良くなるかというと、今はネットワーク側の帯域の問題でその性能を生かし切れていないため、場所によっては数十Mbpsくらいしか出ていないところがある状況です。そういったところでは、帯域のキャパが数十Mbps程度しかないので、Wi-Fi6にしても仕方がないのではないかという見方もあります。
むしろ、スタジアムだとか、駅だとか、本当に高密度になるところ、そういうところだと効果が出るのでまずそういったところから導入が始まると考えています。
小松 そうですね。やはり11nから11acでも同じだったと思いますが、11axの製品がでてきたからと言って、明日から設置するAPはすべて11axで行きましょうという訳にはいかないと思います。とはいえ、会長がおっしゃっているように11axで現在の問題の解決できるところもありますので、そういうところには導入してご利用いただくということになると思いますね。
北條 ax自体は素晴らしい規格です。今までは同じタイミングで発信してもぶつかってうまくいかないものが、うまくタイミングを図ってつながるとか、OFDMAが入ってもっとデータが詰め込めるようになるとか。今までは常に耳をそばだてていないといけないような端末が長時間寝ることを可能にして電力を持つようにしようとか、そういうことができるようになり、まさにスタジアムとか、そういったところでマッチする規格だと思います。
一般のホットスポットでいうと、モバイルキャリアのトラフィックオフロードが一段落したので、11acですらなかなか更改が進まないし、ましてやWi-Fi6へはすぐには進まない状況です。メーカーさんの努力でacはnと値段が同じかそれ以下になっていますので、新規に入れるところは当然acを入れますけど、axもいずれそういうふうになれば、新規のところはaxが入っていくと思います。既存のnやacがいつaxに切り替わるかというと、お客さんのメリットがどれだけあるのかということを、どうやって示すかというところが重要になってきます。
スタジアムでなくても例えば地下鉄のAPは、電車が入ってくると1両に100人単位でいて、それが6両とか10両とかあるわけで、ホームに入った瞬間にみんながアクセスすると、とても厳しいことになっていることは間違いない。それをaxにすれば結構、通信がよくなるよというのなら大きなモチベーションになると思いますので、この検証が重要ですね。
小松 ホットスポットという意味では、場所やユースケースに適したテクノロジーが登場したということなんだと思います。それに加えて、いままでWi-Fiではちょっとね、というようなところにもWi-Fi6でWi-Fiでも検討してみようか、という広がり方も期待しています。私どもも、人の密集度の高いところ、スタジアムとか駅とかでよりスムーズな利用が実現できると思いますので、準備しているところです。5Gも同じだと思いますが、IoTのようなものも高密度、低レイテンシーという要件はWi-Fi6でも満たせるということだと思います。ボイスは結構ドキドキしますが。
小松技術調・査委員会委員長
企業ネットワークでの活用
田中 11axに置き換えると、バックヤードのスイッチをアップグレードさせなくてはいけません。そこのビジネスは大事です。価格は全部そろえているのでnからacになります。acからaxになるときも価格を据え置きにしているので、acの人をaxにしましょうということはなかなか難しいですけど、nだったらもうそろそろリプレイスメントサイクルに入りましょうということは言えます。企業だと5年ぐらいでリプレイスメントをしますので、「ここはEnd Of Salesです。せっかくだからWi-Fi6にしましょう。PoEスイッチも変えないと」ということは説得力を持ちます。PoEも新しい給電方式になっており、全ポートがそれをサポートしています、ギガ対応していますということで、Wi-Fi6とセットにして、回線自体も高速化することは、ユーザーは納得されますから、ビジネスは広がると思います。
Wi-Fi6はWi-Fi6だけで普及させようとはベンダー側は考えていなくて、これをきっかけにしてエンタプライズのネットワークそのもののアップグレードで、企業ユーザーのシステムを改善することが狙いです。
北條 講演のときに言っているんですけれども、5G時代と言われていますが5Gネットワークという意味ではエッジコンピューティングも含めてネットワークをトータルでどう作るか、つまりギガオーダーの通信がばんばん飛び交う時代のネットワークにしなければ本当に5Gのメリットは出てこないわけで、その時代のWi-Fiは何かといったらWi-Fi6しかないということです。
モバイルとWi-Fiの基地局には必ず光回線が来ているという基本を知らない人が多くて誤解されています。28GHz帯を使ったら高速通信ができますと言うけど、そこまでのネットワークをどうするの?ということなんです。28GHzの5Gのエリアはこれまでと違って狭小になるので、そこにすべて光ファイバーを通さなければいけないということが意外に認識されていないと思うんですね。
5Gの無線区間はGbpsそれも20Gbpsを通すと言っています。アクセスラインが1Gbpsの線だったら意味がないし、しかもベストエフォート回線でも全く使えない。普通の携帯電話基地局ではダークファイバに近い専用線が必要です、それを28GHzの5G基地局に1本ずつ、しかもモバイル4社分を引くというのは到底無理なことです。それで、基地局を共用にしましょうという話になっています。
コンシューマー市場でのインパクト
――企業向けはWi-Fi6のメリットもあり導入価値がある見通しですが、コンシューマーの方はどうでしょうか
(左) 江副渉外・広報委員会委員長 (右) 北條会長
北條 これは少し難しい問題があります。キャリアのWi-Fiに対する見方が変わってきているのです。昔は、ともかくモバイルオフロードということで絶対に必要なものだったから、戦略としてモバイルの投資のうちのいくらかをWi-Fiにも投資しましょうということでやってきました。それが、LTEのトラフィックがだいぶ落ち着いてきて、これから5Gの投資を始めようとなると、少しトーンが下がっているのではないでしょうか。もちろん混んでいる場所はたくさんあって、そういうところにはWi-Fiを打っているのですが。
――その問題はLTEになったからではなくて、LTEになったときに従量制課金にして、使い放題でなくしたということではないでしょうか。
北條 それもありますね。
――使い放題のままだったら、たぶんオフロード向けのWi-Fi投資はそのままやっていたはずです。価格形態を変えたということですよね。それしかないかなと僕は思うんですけど。
北條 私も最近、値段はそんな変わらないというので、今までは家族全体で10GBを30GBにしました。朝の電車の中でも動画を見たりしていますが、僕1人で10~15GBくらいです。そんなものなんです。家族4人なので、これに収まります。本当にめちゃくちゃ使う人はほんの少人数で、そういう人さえ制限を加えれば、今でも需要には応えられるぐらいの容量がモバイル側であるかもしれません。
ただオフロードという意味ではそうですけど、一方でWi-Fiのメリットがすっかり定着してきています。キャリアに依存しないとか、本当に気兼ねなく利用できるとか。電波の使い方にしてもそうだし、アンライセンスの周波数をうまく使って収容できているということは、基盤としてWi-Fiは価値を持ち、根付いていると思うんです。
前原 公衆Wi-Fiはここから先は訪日外国人のためというほうが、たぶん強いかなと思っています。
北條 キャリアからしてみると何も自分がわざわざWi-Fiを打たなくても自治体とかが打ってくれるから、それで十分にオフロードになるじゃないかと考えているところもあるかもしれませんね。
前原 自治体とかが、まさに人を呼び込むためにWi-Fiを始めているところもあるので、別にキャリアさんに依存しなくても、確かに公衆Wi-Fiという定義であれば、たぶんいろいろな人がやってくれているということは、間違いなくあると思います。
小松 ビット単価が下がってきているのはまさにそのとおりだと思いますし、インターネットの歴史なんかもまさにそんな感じですよね。ただ、それでも自分が契約している通信容量をもっていながらWi-FiがあったらWi-Fiを使おうというシチュエーションは残るんじゃないでしょうか?
Wi-Fiのいいところはキャリアではない、我々のようなWi-Fi事業者、自治体、お店のオーナーさん、誰もが、お客さんが喜んでくれる、または無いと困るというなら入れようと決めれるところだと思います。そうやって導入したWi-Fiをお客さんだけではなく、自分のために、例えばサイネージとか決済端末とかにもつかえるんじゃない、といったこともできちゃいますし。
――最近、電車の中で、シスコさんの宣伝の動画でWi-Fi6が出てきて、普及のための取り組みの力を入れておられるように見られます。
前原 東京2020のキャンペーンと共に、Wi-Fi6をアピールしています。日本で急に「5GがあればWi-Fiはいらない?」という人が増えたので、このままじゃWi-Fiの市場がシュリンクすると思ったのでWi-Fi6のメリットを打ち出しています。最近ようやく「5GかWi-Fiか」という流れは収まってきましたね。シスコのCMというよりは、Wi-Fi6のことしか出していません。6という数字を覚えてもらえば、それでいいというくらいの気持ちです。
――最後に小さいロゴが出てくるだけでしたね、確かに。
前原 「何だ? 6って」と思ってもらえば、それでいいという、割り切ったCMなのです。
田中 ラージエンタープライズ系の、特に日本だと製造業が多いから、そういうところに行くと「5GとかWi-Fi6とかって同じものなんですよね」みたいな感じで聞かれるんです。「同じです」「じゃあ、こっちでやりましょう」みたいなことが通じちゃうぐらいです。5Gは余り意識しなくてもいいかなとも思っています。
――Wi-Fi6を普及させるにあたって課題はなんでしょうか。
田中 Wi-Fi5でも30%近く伸びています。ラージエンタープライズだけかというと、そうではなくて、ミッドマーケットのところとか、地方自治体もそうだし、小中学校なんかもコンスタントに増えていっていると思います。Wi-Fi6が出てきて、新しいテクノロジーに関心の高い人たちは、「早く入れよう」となると思っています。
――Wi-Fi5までが安定してきているので、それがむしろWi-Fi6普及の課題かもしれないというところがあるかもしれないですね。
北條 同じacでも、CPUが違うだけで処理が速くなることもありますからね。
田中 それってありましたよね、昔も。ハードウェアの処理が速いだけでレスポンスは随分、変わってきますね。
――同じacのときでも安いCPUで動いている時と、同じacなのに値段が違って、この値段の差は何なんだといったときに、つなげてみたら明らかに速さが違ったじゃないですか。あれはそこじゃないかなという気がしますね。
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