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特別座談会
Wi-Fi6の登場とWi-Fiビジネスの展望 (下)
5G/ローカル5Gと協調するWi-Fi6

5GとWi-Fi6は協調していく

――さっき5Gの話も出たんですけど、5GとWi-Fi6は一緒に語られることが非常に多くなったと思っています。これと協調していくのか競合していくのか、どうでしょうか。

田中 スタンスとしては協調していく、競合は全く考えてない。

前原 同じです。

田中 ユーザーさんが「5Gを使うとIoTですごい良くなるんですよね?」みたいな話をされているんです。たとえば物を製造する事業所があって、そこのシステムには超ミッションクリティカルなものがあるわけで、1時間止まったら何億円損失というようなものです。そこにはローカル5Gを使えばいいわけです。きれいな周波数帯でレイテンシーも少ない、それでよいと思います。もちろん、Wi-Fi6だって同じようにレイテンシーは少なくていいんだけれども、Wi-Fiはみんなが使える周波数帯なので、止めたら何億円みたいなところには向いていません。せっかくきれいなローカル5Gのネットワークを作ったにもかかわらず、そこにいろいろな端末を参画させようというのは愚の骨頂ですよ。むしろ、それ以外の一般のシステム、アプリケーションのところでWi-Fiを使いましょう、こういうと、納得していただけますね。

――高いSLAを保持した運用をしなきゃいけないところを5Gにしてください、でもそれよりはもっとオープンで簡単に使えて自分たちで拡張できるようなものはWi-Fiでいいんじゃないですか、そんな感じですかね。

田中 そうですね。別にWi-Fiの信頼性が低いということではなくてね。レイテンシーが低くてもいいやつがあるじゃないですか。温度センサーは別にレイテンシーとかパケットロスとか、関係ないじゃないですか。それは安価なWi-Fiを共有システムとして使っていってもいいんじゃないですか、と。

――キャリアが保証してくれているようなネットワークと、自分たちで責任を持っていかなきゃいけないネットワークの違いですよね

田中 例えば自動車工場の組み立てなどの高速で動くところを無線でやったら厳しいわけで、これをWi-Fiでやりますか?と、やらないほうがいいです。周りにどんな電波が来るか分からないわけですから。

前原 工場で言われるのはレイテンシーがある・なしよりも、それが一定かどうかという、要はジッターのところ。だから、一定で来ると分かっていれば、それを計算に入れてシステムを作るからいいですと。でも無線は、一定性はさすがに担保できないから、そこはWi-Fiじゃないですね、みたいな。でも、それは5Gでも厳しくないですか、と思ったりします。

北條 それを私も言っているところです。命に関わるものに使えますかと。そういうトラブルが起きるのは確率的に1年に1回なのか100年に1回なのか1万年に1回なのかはあるけど、でも1万年に1回だって今それが起こる可能性は誰も否定できないわけです。例えば1万分の1の確率で起こります、明日起こるのかと言われたときに、みんなが本当にそれを使ったら、1万事業所があったら1個どこかで起こるということですから、そういう確率は少ないようで結構多いんですよと。それに命を預けられますかということなんです。それが心配な人はきっと有線を使うと思うんです。だったら5GとWi-Fiはどう違うんですかと、レベルの違いであって、どっちみち完璧にはできないけど、安心してできるか、ちょっと不安かというぐらいの差分でしかない。

――それは、5Gもやめたほうがいい。結局、有線しかないという話になります。でも、有線もIPは使えないと。

田中 そうですよね。有線でもそうです。

北條 5Gの話ですが、キャリアは5Gをユーザーの要望通りに基地局を打ってくれるわけではありません。打つか打たないかは、そのエリアの採算が取れるかどうかということなんです。今までのLTEまでは、このエリアをカバーするBSを1つ作りましょうと。ここには企業A、B、C……があり、パブリックのお客さんが1万人が行き帰するとか、こういうふうになっているわけです。1個を作れば、それだけの人をみんな満足させられるから、投資判断を決めてオーケーにするんです。ところが、28GHzになると、その工場のためにしか使えないじゃないですか、狭いですから。そうすると、その工場で100%投資を回収できないといけないので、結局そのコストはその企業に転嫁するしかないんです。キャリアの5Gは投資をキャリアが先にしてくれますが、後の通信料金で結局、元は取られることになります。

――それはローカル5Gも同じですね。ローカル5G事業者なのか、これまでのモバイル通信事業者なのかだけの違いですね。

北條 5Gは、ユーザーが依頼しキャリアがサービス提供しても、5年間は使い続けてお金を払ってください、みたいなことになります。ネットワークソリューション的になってくるわけです。あるいは、5Gの設備創設費の一部を負担してIRUみたいな形で会社が一部負担してくださいということになってしまいます。「じゃあ、ローカル5Gのほうがいいじゃないか」となるんだけど、ローカル5Gだって全く一緒で、基本はローカル5G事業者のサービスを受けることになるわけです。そもそものコンセプトがそのエリアだけなので、そこで100%元が取れないとローカル5G事業者は受けられないわけです。結局、キャリアがやる5Gと、ローカル5Gとは基本的にやるコストは一緒です。それをキャリアが前もって持つか、こっちが最初から持つかです。

儲かるところはキャリアが出てくるけど、もうからないところは自分でやるということになる。そういうところにしかローカル5Gは生きていけない。そうすると、全部丸々払わなきゃいけないし、しかも高コストのEPCに相当する5Gのセンター設備が、どれだけでシェアできるかということが次のポイントになるわけです。

そうすると、投資が先に出ていっても耐えられるところしかできないということになり、それをローカルのメーカー・ベンダーにやらせるということは元々無理があるんです。全国規模の会社ならともかく、ローカル規模の企業ではとても耐えられるものではないと思います。

――ユーザーはローカル5Gサービス事業者のサービスを利用することがメインになるとうことですね。

北條 そうなると思います。そうだとするとローカル5G事業者は相当大規模な会社じゃないといけないのではないかと思います。ただ、モバイルキャリアはやっちゃいけないということを言われているから、ローカル5G事業は固定系キャリアや大きなベンダーということになりますね。

――いまのローカル5Gの論議は、大手SIが企業のためにWi-Fi型でローカル5Gのシステムを構築してくれるというイメージがあります。

北條 確かに、そういうイメージで語られていますが、その時高コストのセンター設備は誰が払うのですか、ということですね。最近はEPCもOSSでシンプルなものもできているから、それで安くなればいいけど、コスト負担としては大きくなってくるのです。今、モバイルキャリアがローカル5Gに対してあまり危機感を持っていないのも、うちがやれば絶対にローカル5G事業者より安くできるという自信があるからなんだと思います。

――ローカル5G用の装置もキャリアグレードでないとだめですから、結構高くなるわけでしょう。

北條 普通の5Gと同じ装置を使うのだとしたらそうなると思います。もう一つローカル5Gの問題は、周波数が限られているにもかかわらず、隣の工場の人と同じ周波数を、ひょっとしたら使わなきゃいけないということです。キャリアだったら当然、周波数をうまく調整して分けたりタイミングを分けたりして同期が取れるけど、こっちはA社に頼みました、こっちはB社に頼みました、全く協調もないわけだから、下手したら同じ周波数を使って干渉してしまいます。

――ローカル5Gのグレードは、EPCがあるだけのものと、フルセットの完全なキャリアサービスのものなど6タイプがあるようですが、今、どれかということがまだ決まってないんですね。

北條 その制度設計はまだ決まっていませんので、まだ不透明です。

――シスコさんは、5GとWi-Fi6はどういうふうに切り分けて説明されているんですか。

前原 基本は共存で、ケース・バイ・ケースのシチュエーションもあるという話はしています。工場とかは、さっきの話のように、お客さんのニーズによってはWi-Fiを使ったり5Gを使ったりとかです。あとは屋外ですが、4.5GHzを想定して「屋外は5Gでしょう、距離が飛ぶ」というように話しています。ここまでの議論でもあった通り、ユースケースとしてWi-Fiが絶対ダメと想定されているものは限定的と考えています。だったら安いWi-Fiで取りあえずやってみた方がよいのでは、だめだったら5Gで検討したら?と。Wi-Fi6も次にはあるし、安いし、誰でも構築できるんだから、まずやってみませんかと。

北條 そうだと思います。価格を比較したって、初期コストも含めるとやっぱり値段が格段に違いますからね。

Wi-Fi6はIPとの親和性もいいから本当にローカルにネットワークを作るなら、それでいいじゃないですかと強く思います。

――本当はパブリック5Gが広がって、端末が普及してこないことにはエコシステムができてないから、ローカル5Gだけインフラを作っても、つながる端末がないんですよね。一方、Wi-Fiというと、そこら中に端末があるから、取りあえず持ってきたものがすべてつながったということができるわけです。もちろん、Wi-Fi6対応のスマートフォンなりがいずれ出てくるわけですが。

前原 端末の互換性があるというのは、Wi-Fiの圧倒的な強みですね。

田中 5GやWi-Fi6などは7階層のレイヤーでいくと下のほうじゃないですか。そこにフォーカスしてしまうと、そこが変わったときに大きく揺れるので、そうではなくて、もうちょっと上のレイヤーのところで、きっちりと押さえて、下のところは時の流れるままに付いていくみたいな、そういう戦略でやっています。だから、何よりもセキュリティでしょうとか、そっちのほうに持っていきますよね。

小松 もう本当に適材適所としか言いようがないんですが、おそらくみなさん、これまでもそういう検討をして、じゃあこれを使おうと決めてこられたのだと思うんですね。5GもWi-Fi6もできることが増えたということで、自分がやりたいことにはどっちがいいんだろう? こっちの方がいい、もしくはこっちでいいよねという悩みというか楽しみはこれからも続くと思います。ただ、他のテクノロジーに比較して、Wi-Fiはイーサネットを無線にしたようなシンプルさを持っていますから、それは他にはない強みだと思います。

Wi-Fiビジネス、今後の大いなる展望

――最後のテーマで、Wi-Fiビジネスのこれからの方向性について、お願いいたします。

前原 この間の技術セミナーでも言いましたけど、今、Wi-Fiにつながっているとか5Gにつながっているとか、ユーザーさんが気にしなくなるんじゃないかなと思っています。その前提になるものが、さっき言ったWi-Fi6です。Wi-Fi6だと、ちゃんとつながるし、電池もそんなに気にしなくていいとなったら、「今、Wi-Fiにつながっているの」みたいな意識はたぶんなくなるから、あとはお金の問題だけになってくる、ユーザーさんが気にしないという世界になってくると思っています。

田中 日本は国土が小さいじゃないですか。アメリカで大学の1校を取ると何億円という案件になります。日本の場合は「無線LANの案件です」と結構有名な大学の1キャンパスを取っても数千万円しか入ってこないんです。こういう国土の違いは、ビジネスの差なんだろうなと思っていて、国土を増やすのは難しいから、よく考えるとレガシーの同軸ケーブルでやっているようなネットワークというところで考えると、例えば踏切は、全踏切に監視カメラを置いてあるらしいんです。これは同軸ケーブルでIPではない通信がされているということを聞きました。そこはおそらくIPカメラがこれからは当たり前のように設置をされて、自動的に感知してクラウド側で処理していくようなことになるんでしょう。そうした場合にカメラを、今だったら踏切のところに当てて見ているやつを、もっとたくさんの視点で見られるようなカメラを置いたらいいのではないかと。そうしたらケーブル線を引っ張るよりもWi-Fiのほうがいいねとなるところなんです。

学校の監視カメラだって、塀のところに不審者が入ってくる、対策をというのも、Wi-Fiでやったほうがいいではないかと思うんです。国土は広がらないけど、今、IP化が進んでいるだろうところに対してWi-Fiは普及が進んでいくでしょう。あと高速道路に必ず1キロ置きに電話があるじゃないですか、あれもIPじゃないんです。あれをどうやってIP化していって、しかも有線で這わせたら高いから無線でできないかなとか、そういうことをやっていけば、今はたぶん250億円から300億円しかない無線LANのビジネスが飛躍的に跳ね上がると思うんです。そっちを考えたほうがいいのではないかと。

北條 それはたぶんIPじゃないから無線化できないんですね。

田中 そうですね。いろいろなサービスが出てきてIoTと言っているからにはIP化されるはずなので、そこをWi-Fiでどうやって狙っていくかということを考えたほうがいいですね。

――それはたぶん地方創生というなかで、AIを絡ませて安全を確保するとか、学童もいろいろな事件が起きている、そのカメラとWi-FiとAIと地域政策、そのような話ですね。

田中 そうです。国策でIoTやAIと言っているわけで、そこにつながるネットワークを5Gだけと考えているのはまったくおかしいですね。IP化することによってAIとの連動によりデジタルトランスフォーメーションが実現できると思うのです。

北條 Wi-Fiの仲間の802.11ahは協議会を作って利用を推進していますが、そもそもIPはベストエフォート的なところがあるけれども通信としては簡単には切れないし、今後もデータ通信の核となっていくのは間違いありません。LoRaやSIGFOXをIPのネットワークに組み入れるのがとても大変で、余計な制御信号を追加しなくてはいけなくなりますが、802.11ahだったらその問題はありません。IPだったらどれだけ楽か分かりません。

これまでは、Wi-Fiだと親和性がいいが、距離が飛ばないからと言われてきました。ax自体も距離が飛ぶようになり、省電力もうまくできるといわれていますが、その機能を持ち周波数の低いところを活用したのが11ahであって、帯域はいらないけど遠くまで飛ぶということができるようになります。全くそれと同様に今度は超高速に対応したアンライセンスとして802.11adがあり、例えばポイント・ツー・ポイントなら光の代わりに使えるような回線が自由に独立して使えるようなものとして用意をされる。そういうWi-Fi6を核に両側に手を伸ばすことによって、IP系の安いネットワーク、しかも利便性の高いネットワークを作っていけるのかなということが、今、一番期待をしているところです。

日本のキャリアはライセンスバンドでお客から通信料でもらうというモデルだけでは、たぶんこれからはいかないんじゃないかなと思います。

前原 これからは、使う側は簡単になるけど、ネットワークを作る側はすごい難しくなりそうです、選択肢が増えて。

北條 そうです。お金をどう取るかというところがまた課題ですね。全部をIP系にすると、皆さん、無料と思っているので、どこでお金をもらうかというビジネス観は考えていかないといけない。

田中 コンサンプションモデルにしたビジネスはクラウドをベースに進んでいるので、マネージドになってくるとは思うんです。マネージドはたぶんネットワークでいうと、回線はもちろん月額いくらというものは、最初からコンサンプションモデルでありますけど、おそらくゲートウェイのところ、ファイアウォールとかVPN装置のマネージドサービスは、それこそ20年ぐらい前からあるんですけど、LANのマネージドがこれから進んでくるかなと思っていて、そのときにマネージドサービスが得意としているものはモバイルキャリアではなくて固定系のキャリアとか大手SIとかで、そういうサービスで伸びてくるだろうなと思います。それを普通のインテグレーターとかがやり始めるということもありかなと思っていて、インテグレーターといっても大企業だったらIT子会社があるじゃないですか。ここがキャリアではないんだけれども、マネージドサービスを展開していくようになっていくのではないかな、すべきなのではないかなと思っていて、そういうところがWi-Fiをどういうふうに使って、ネットワーク全体をどうするかと、仕組みですかね、そこかなと。

小松 新しいテクノロジーで出来ることが増えたというのは、うれしいですし、楽しいですよね。あとはそれを使って何をしたいか、何をするか、今まで出来なかったことができるかもしれませんし、今までと全然違うことが出来たりするかもしれませんし、それを使ってどうビジネスにしていくかというのは、Wi-Fiに限らず、常につきまとう問題であり、同時にとても楽しみなことだと思います。

――まったく、その通りですね。今日は、ありがとうございました。


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