ビジネス情報
公衆Wi-Fiスポットの拡大と多様化、そして課題
小林忠男
日本の公衆Wi-Fiスポットは、図表-1に示すように、駅・鉄道、空港、コンビニ、カフェ、商業施設等はスマートフォンが登場以来トラヒックオフロードのために主にキャリアを中心に民間主導で整備が進んできました。一方、大規模災害時等の避難所、避難場所(学校、市民センター、公民館等)、官公署や避難場所として災害対応の強化が望まれる公的拠点(博物館、文化財、自然・都市公園、案内所)は行政主導で整備が行われてきました。
図表-1 設備エリアと運営分担
私は数年前次のような心配をしていました。
『図表-1の民間主導による左からのWi-Fiスポット拡大と、行政主導による右からのアプローチが進む中で,Wi-Fiスポットが増えれば、増加する外国人観光客だけでなくWi-Fiを便利だと思う日本人全てが何処でもWi-Fiを使いたいと思うようになる。しかし、中間に存在するキャリアも行政もインセンティブのわかないスポットはいつまでもWi-Fiスポットにならないのではないか』と。
私の心配は杞憂だったようです。
今回は、以前にはとても期待できなかったスポットにもWi-Fiが設置されている事例について、定性的ではありますが紹介したいと思います。
小売り、エンタメ業界での充実
まず、ショッピングモールのWi-Fi環境がかなり充実してきていると感じます。施設全体として提供しているWi-Fiと,施設内のショップ、例えばモール内のスターバックスでも別のWi-Fiが提供されているところが増えています。
利用者は迷ってしまうかも知れませんが、よく利用しているSSIDがサービスされているエリアが増えているのはWi-Fi利用者として使いやすいと思います。
小売業で言うとドラッグストアも積極的にWi-Fi環境を整備しているようです。昨年などはインバウンド対策の一環で都内主要駅近隣店舗の設置が大半でしたが、最近は郊外主要都市(例えば埼玉県の川口、大宮、浦和、所沢、川越等)の郊外型路面店舗でもWi-Fiが導入されて来ています。
多分,都市部店舗でサービスしていて、その影響で利用者からニーズが増えて郊外路面店舗でもサービスの一環で整備をしていと推測できます。
アミューズメント施設、遊戯施設、スポーツジムのWi-Fi環境のサービ
ス提供しているベンダー様からの情報ですが、このマーケットは特定の人が利用するフリーWi-Fiになりますが、最近の動向としてどんどんWi-Fi環境の設置を進めているとのことです。
どのような利用方法かは不明ですが、滞在時間が長い=色々と調べたり情報収集する事が多いのかも知れません。
自治体でもますます増加
自治体の無料公衆無線LANはますます増加しています。その設置に関しては3つのパターンに分けることができます。
1.キャリアサービスをそのまま利用(BP社のJAPAN Wi-Fiが多い)
2.NTT東「光ステーション、ギガ楽」を利用
3.公設民営で地域ケーブルTV会社やインテグレーターと組んでしっかりと運用
各地にフリーWi-Fi設置を推進する自治体の役所内でWi-Fiが使えない場合が大変多かったのですが、ようやく最近は役所内でもWi-Fiが使えるようになったことは凄い進歩だと思います。
ただ,全般的にWi-Fiスポットの周知と、どれだけ使われているかの分析と対策がきちんと行われているかは今後の課題だと思います。
テレワークは全国的な取り組みが始まった「働き方改革」には必要な取組みになります。テレワークにはWi-Fi環境は必須となりテレワークを行うために自治体が役所や公民館、市民センター等の会議室に別回線を引いてWi-Fi環境を用意する動きが増えています。特に東京近郊で通勤圏内の自治体でその傾向が強いようです。
毎日ということではないのですが、月に何日か決めて会議室を無料開放(利用者申請は必要)して、サラリーマンは満員電車に乗らずともWi-Fiのもとで仕事ができる環境を用意しています。
またテレワークセンターと言われる施設を自治体が用意・運営して提供しているケースも少なくないです。
テレワーク視点で自治体が地域住民のサラリーマン対象に自治体施設開放する取り組みは今年くらいだと思います。自治体におけるWi-Fi導入の新しい視点になるかと思います。
民間企業が有料で提供するサービスは2~3年前くらい前から、コアワーキングスペースやレンタルオフィス、サテライトオフィス等、会員企業や個人会員向けにモバイルワーカーサービスの環境を都内で提供し、どんどん増えています。
以下に民間企業や自治体が提供するサービスについて図表-2にまとめてみました。
図表-2 民間企業や自治体が提供するサービス
但し不特定多数の人がWi-Fi経由でインターネット接続、企業のネットワークに入ることも少なくないので、セキュテリィ対応等しっかりした環境で提供することが重要です。
それらのセキュテリィ環境、ネットワーク環境の整備の考え方については、日本テレワーク協会の方で取組みを進めている。
日本テレワーク協会 https://japan-telework.or.jp/
交通機関での目覚ましい普及
Wi-Fiスポットの新しいトレンドの最後は、移動中の列車、飛行機、バス、船舶の中でのWi-Fiスポットの増加です。
鉄道各社は車内や駅構内での無料Wi-Fiの整備を進めています。JR各社は2020年度までに、ほぼすべての新幹線の車両と駅に導入を終える予定です。東京メトロも都営地下鉄も20年夏までに全ての車両でサービスを提供する計画です。訪日客からの不満が多い無料Wi―Fiの未整備を解消するとともに利用者の拡大につなげる狙いだと思います.図表-3に鉄道車両内へのWi-Fiサービス展開を示します。
図表-3 鉄道車両内へのWi-Fiサービス展開
つくばEX車内のWi-Fiサービス開始からちょうど10年前に東海道新幹線N700車両のWi-Fiサービスを実現しましたが、これ以外に車両内でWi-Fiが使えるようになる時がやってくるとは正直想像出来ませんでした。地下鉄のトンネル内でWi-Fiが無料で使えるなんて私にとっては夢のようです。
列車に加えて国内線JALとANAの機内でもフリーWi-Fiサービスが提供されていますし、図表-4にバス、図表-5に船舶のWi-Fiサービスを示します。
図表-4 バスのWi-Fiサービス
図表-5 船舶のWi-Fiサービス
Wi-Fiサービスの課題
以上のように数年前には考えられなかったスポットにまでWi-Fiは設置されたくさんの人に使われています。スマートフォンが登場した時にオフロードのために沢山の公衆Wi-Fiスポットを設置しましたが、現在は家や会社や格段に増加したWi-Fiスポットで膨大なトラヒックがスマートフォンやパソコンからインターネットに流れていると思います。
しかし、Wi-Fiスポットの増加と共に問題も発生しています。
私の場合、家と会社はWi-Fi環境になっており毎日安定してインターネット接続が可能です。家を出ると、駅までのコンビニ、公園、駅前のロータリー、乗降し途中停車する中央線と地下鉄駅のホーム、立ち寄るカフェ、食堂、居酒屋でWi-Fiを使うことが出来ます。
Wi-Fiの電波は見えているのにインターネットにつながらないという事象が色々な場所で起きています。
駅前のバスロータリーで直ぐにつながる時もあれば、夜などはなかなかつながりません。メールを急いで送りたいのでWi-Fiをオフにし,LTEでやり取りをします。その時、年のせいかメールのやり取りをした後にWi-Fiをオンにすることを忘れてしまい、帰宅してもLTEでスマートフォンを使ってしまいます。動画を見たり大容量の資料をダウンロードすると、docomoから容量アップの通知が来ます。これでは何のためのWi-Fiか分かりません。
バスロータリーでフリーWi-Fiを提供している自治体は、Wi-Fiサービスプロバイダーは品質の良いフリーWi-Fiを提供してくれていると信じているのではないでしょうか。
サービスプロバイダーは、B2B2Xのビジネスモデルの中で、Xのお客様は無料で使っているが、インフラを提供しているスポットオーナーからはお金を頂いている意識を持って、品質の管理と新しいインフラへの更改計画を持って事業を進める必要があると思います。
00000JAPANの浸透と課題
最後に、災害時に注目されている「00000JAPAN」です。
今回の台風で関東近郊のほぼ全域で3キャリアが「00000JAPAN」サービスを提供しましたので、「00000JAPAN」の認知度は更に向上しましたが、その反面心配をする声の問い合わせが少なくありません。
知人に聞いた話ですが、例えば台風被害があった埼玉県では川越や東松山の一部が河川氾濫で大きな災害になりましたが、それ以外の地域でも市民の安全を考慮して避難所開放を実施しましたが、甚大な被害にはなりませんでした。 但し「00000JAPAN」は県内全域サービスしているので、台風以降も全域でサービスしていました。そのことからあらゆるところで「000JAPAN」のサービス提供がされて いて、知り合いから「今イオンにいるけど00000JAPANが吹いていて、これって安心して使えるWi-Fiなの」というプライベートな問い合わせが少なくなかったようです。
「00000JAPAN」の認知度が向上するのは市場拡大には良いことですが、「00000JAPAN」は暗号化も認証もない災害用統一フリーWi-Fiなので、そのうち悪意を持った人が避難所開放と「00000JAPAN」の情報を聞きつけて、要らぬフィッシングサイトへの誘導やパケットキャプチャをして電文搾取をしたりするでしょう。日本は災害大国で毎年のように台風による災害が発生しているので、そのライフラインの一つを担うWi-Fi環境に対しても、社会問題になる前にWPA3、エンハンスドオープン、Wi-Fi6の対応が望まれます。
今回は、Wi-Fiスポットの拡大・多様化と課題について書いてみました。
Wi-Fiはモバイルと共になくてはならない情報インフラになりました。さらに拡大していくと思いますが、自律分散制御で誰でも使えるがための問題も多くなっています。
無線LANビジネス推進連絡会が中心になってこれらの問題を解決していくことが更なるWi-Fi市場の拡大のために必要だと強く感じる今日この頃です。
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