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[トップインタビュー]
NTTコミュニケーションズ
代表取締役社長
庄司哲也氏
「DX Enabler」として産業革新を推進
ユーザー最適のローカル5G、Wi-Fi6に期待

創立20周年を経て、NTTコミュニケーションズは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する「DX Enabler」として新たな飛躍を遂げようとしている。庄司社長は、節目にあたり、「Smart Data Platform」をコアとした業界別のDX推進と社会的課題の解決に向けた新たな事業戦略を提起している。また、現下の新型コロナウイルス対策に対し自らのテレワーク推進をいち早く実現すると共に、多くの企業や教育現場の働き方改革、学び方改革の実現に貢献したいと述べた。

新型コロナウイルス対策で多くの企業がDXの必要性を再認識

――最初に、新型コロナウイルスですが、大変な情勢になっています。企業では、時差出勤やテレワークに取り組むことで、感染拡大を防止しようとしています。NTTグループはいち早く在宅勤務、テレワークを始め、NTTコミュニケーションズも企業のテレワークの導入をサポートする取り組みを始めていますね。

庄司 まずはじめに、新型コロナウイルスの被害を受けた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

我々はオリンピック・パラリンピック時の混雑対策を見据えて、新型コロナウイルス対策以前から時差出勤やテレワークの取り組みを始めており、シミュレーション的検証も進めておりました。

ここに来て、コロナ対策で出勤の工夫とか、リモートワークへの取り組みが求められるなかで、既に実践を通じて得られた知見、経験を全社に波及させようということで、2月18日から全社的にテレワーク、リモートワークを推奨し、推進していく指示を出しました。

職場ごとに、今の業務あるいは担当しているお客様周りの対外的な環境を調整しながら推進することで、2週間たって、すでに約7,000名のうち約4,500名と6割以上の社員がリモートで仕事をしているという状況になっています。

――スピーディな取り組みですね。

 

庄司 かなり広範囲、かつ大規模なリモートワークが実践できているのではないかなと思っています。オリンピック・パラリンピックを見据えて、「環境(システム)」、「制度(仕組み)」、そして働く人たちの「文化(マインド) 」、そういった面でいろいろな準備ができていたからこそ、大きな混乱もなく実現できたと思います。

――NTTグループの中でも、御社は早くからテレワークの取り組みを展開されていたので、その蓄積があったということですね。

庄司 テレビ等の報道でも、我々の取り組みが広く紹介されましたので、多くの企業の皆様からお問い合わせを受けました。いろいろなご相談に乗っている案件も増えてきております。

ただ、実際は、我々はかなりウォームアップをしていた状態、つまり先ほど申し上げた環境・制度・文化も含めて、かなりの体制が既に整っていました。今回のような事態を受けて、それぞれの企業が急遽テレワークを実施しようとしても、実際には、セキュリティポリシーを含むICT環境や、人事制度・服務管理を含む就労環境などの様々な課題をクリアする必要があり、あらかじめある程度の基礎的な準備をしていないと、すぐに実施することは難しいのが現実です。

例えば、自宅のパソコンやインターネット環境を通じて会社のサーバーなどにアクセスしていいのかというような、業務に関わる情報のやりとりはセキュリティ対策がちゃんと整備された上で確立されるべきですが、そうした運用面、ルール面からみた課題をクリアしておく必要があります。また、勤務管理や指揮命令を含むコミュニケーションなど、リモートで就労する従業員に対するフォローも大切です。そのような課題にお応えするソリューションを、我々としてもご提供し、安心安全な働き方の実現をサポートしたいと考えています。

ご相談いただいたお客様からは、「このような環境の実現こそが、働き方改革あるいは職場におけるDXですね」と、改めてご認識いただいているところです。

DXにはいろいろな捉え方がありますが、今回の新型コロナウイルス対策においては、職場や場所にとらわれない働き方や、それを成り立たせるためのICT環境をどのように整備していけばよいかなど、かなり具体的なご相談、ご照会をいただく局面が増えてきたと実感しています。

――そういう点では、今回の取り組みで、日本における働き方というもの全体が新しい経験をして、新しいステージに入ろうとしている、それが業務改革のDXにも繋がるという経験になりますね。

庄司 そうですね。今回の事態をきっかけに、新たな働き方の実現に具体的に取り組まれる企業が増えていく、という点では、今後我々がお手伝いできる機会も拡がっていくと考えています。

一方で、ご家庭に目を向けますと、全国の学校で休校措置等々が取られておりまして、就学児童生徒の皆さんがご家庭でこの期間を過ごすという形になっています。そういった状況に鑑み、あるいは保護者の立場にたってみて、何かできないかということを考え、当社が20年来育んでできた教育ICT事業における経験を活かした取組みを加速させていています。

我々がすでに提供しているソリューションの中で、教育クラウドサービス「まなびポケット」というものがあります。この「まなびポケット」や関連するコンテンツを、全国の教育機関や自治体に5月末まで無償で提供することにしました。

3月11日の時点で、すでに150の学校や教育委員会から17万ID以上のお申し込みをいただいております。

――これも、これまでの準備があったからですね。

 

庄司 その通りでして、今回の休校措置を受けまして、まなびの機会、まなびの場をとめてはならないと改めて強く思いました。中長期的な展望でも、文科省が全国の小中学校の児童生徒に1人に1台のPCを配備するということが「GIGAスクール構想」の中で具体的に提唱されています。この「GIGAスクール構想」に則って、我々はPCと、「まなびポケット」をバンドルでセットアップして提供する「GIGAスクールパッケージ」を来年度から提供する準備を進めておりました。これらを通じて、DXによって教育現場を革新する「Smart Education」を、我々としても積極的に展開しようとしていたところでした。

――この「Smart Education」というのはNTTコミュニケーションズにとっても非常に大きな事業分野になるわけですね。

庄司 我々は「Smart World」のプロジェクトとして、主に7つの分野で取り組んでおりますが、教育分野の「Smart Education」はその中の大きな柱の1つです。

――東日本大震災のときも、日本の国全体で、事業継続(BCP)に取り組むなどの経験をしました。それと、似たような形で各分野のDXのきっかけにしていくという取り組みになりますね。

庄司 そうですね。今回の新型コロナウイルスの影響で、働き方改革や業務のDXに対するお客さまの具体的な検討が加速しているという印象を受けています。

「Smart Data Platform」基軸にSmart X Project

――つい先日、組織の再編を発表されました。新しいNTTコミュニケーションズの組織体制とビジョン、今後の事業戦略について教えて下さい。

 

庄司 昨年7月に、「One NTT」として我々のサービスあるいはソリューションを海外も含めた市場で一元的に提供できるように、NTTグループのグローバル事業の統合を行いました。目的は、特に海外市場のお客様に、我々の役割や対応する窓口を明確にし、「One NTT」として提供できるソリューションをより分かりやすく提供していこうというものです。

国内においても、お客様が求めるシンプル、スマート、スピーディ、そしてセキュアなサービスやソリューションが提供できる新たな組織体制を整えることとしました。4月からの新組織体制では、全てのプロセスを一元的な責任体制のもとで運営するコンセプトで、大きな組織運営形態を2系統に再編することにいたしました。ビジネスソリューション本部とプラットフォームサービス本部の二つです。

――ビジネスソリューション本部が、顧客の産業別営業体制になるのですか。

 

庄司 それぞれの業界あるいは社会のニーズに合わせて一気通貫でソリューションを提供する主体がビジネスソリューション本部です。

ここではICTコンサルティングのフェーズから仕様決定、設計・構築、そして保守・運用まで一体的に、お客様に一元的に提供できる体制を確立するということを主眼にしております。

今回、業界別の体制を構築したのは、先ほど申し上げたように「Smart World」の重点分野を7つ作っているわけですが、業界や分野ごとにDXに求めるもの、あるいはDXによって成し遂げたいものは、それぞれ特徴が異なるわけです。その業界のDXに適した知見を集合・蓄積し、1つの業界別ソリューションという形で出していきたいと考えています。

我々は幸いなことに、インフラレイヤー、ネットワークレイヤー、PaaSレイヤーからアプリケーションレイヤー、そしてそれらのセキュリティやマネージドサービスまでフルスタック、フルレイヤーの一気通貫で提供できますので、各業界のご要望に一元的にお応えすることで、業界全体のDX、ひいては「Smart World」が実現できると思っています

――業種営業ということで、一気通貫でお客様に責任を持ち切る、深く提案できるという特徴が生かせるということですね。

庄司 業界別のソリューションを提供する上で、必要となるサービスを開発し支える部隊として、プラットフォームサービス本部というものを新設します。

お客様のDX推進の基盤となる「Smart Data Platform」の開発・提供や構成する各部材あるいは技術等々を磨き上げます。

また、目先の収益・利益ではなく、中長期な視点で新たな事業の柱を創造するために、イノベーションセンターも設置しました。全社的なCenter of Excellenceとして、デザイナー、クリエイター、あるいはデジタルエンジニアを結集し、我々が目指している「Smart World」に必要なイノベーションを生み出していきます。

――新しい改編、組織の陣形が整ったということですね。

 

庄司 4月1日を期して、そういう体制に変更したいと思っています。

――業界あるいは業種ごとでDXをサポートしていくという観点での、新しい取り組みですね。

 

庄司 はい。お客さまのご要望に応じてカスタマイズする、あるいはローカライズするところは出てくると思うのですけれども、標準化されたよりベーシックなものは我々が「Smart World」で目指そうとしている産業・業態別のソリューションをご提供していくかたちになると考えています。

――そうしますと、ますますプラットフォームサービス本部のサービス開発と、ビジネスソリューション本部の営業のところが、うまくマージしていくことがとても大事ですね。

庄司 まさにその連携が大事な点です。単純化してしまえば、プラットフォームサービス本部でサービス開発し、開発したものを市場のフロントに立つビジネスソリューション本部が責任を持ってお客様に届けるわけです。

けれども、お客様の声やニーズは刻々と変化しますので、そのビビッドな声をフロントからプラットフォームサービス本部にいち早くフィードバックしていくことも重要です。同時に、さらに先を見据えて、イノベーションセンターでニーズを先取りしたサービスや技術を形にするというサイクルを回していくことで、この変化が激しい市場のスピードに対応していこうと考えています。

「Smart World」実現に向けて「3S+S」

――組織の再編を経て、今後のNTTコミュニケーションズの方向感というか戦略ですけど、国内の企業を業種ごとあるいは業界ごとにDXを推進していくというミッションになるということで、鍵は「Smart Data Platform」を基盤にしながらSmart Worldに向けてデータ利活用を通じたDXをどう進めていくかということになりますね。

庄司 おっしゃる通りです。従前は電話サービスや各種ネットワークサービスが収益の多くの割合を占めていましたが、今後は、アプリケーションあるいはマネージドサービス系まで含めた分野のソリューション提供業者に生まれ変わろうとしているのです。

これを表す言葉として「DX Enabler」になっていくということを標榜しております。いわゆるキャリア事業という軸を捨てるわけではないのですが、レガシー系のサービスから生み出される収益が縮退していく中で、私たちが持続的に成長していくために必要なのは、「Smart Data Platform」を使って、データの収集・流通・分析あるいは管理まで含めたソリューションを一体的、一元的に提供していくことだろうと考えた訳です。

インダストリー5.0のような世界観の中でいいますと、データというものが、いろいろな分野に付加価値を生む形で流通したり、加工・分析されたりすることが見えてきています。その付加価値を、業界別あるいは業界横断という形でお客様と共に生み出し、スマートな事業運営あるいは社会的課題解決まで含めてお手伝いができますという「DX Enabler」を目指していきたいと思っております。

――「DX Enabler」が新たな目指す方向ですね。

庄司 我々が目指しているものは「Smart World」の実現ですが、スマートかつシンプルな形でスピーディでないと、お客様の求める迅速・柔軟な形でのご提供ができないわけです。しかも、NTTコミュニケーションズだからこそできるセキュリティレベルがちゃんと確保されて、安心安全な形で提供できることが真の「DX Enabler」なんだよということを主張しております。

「DX Enabler」として、Smart・Simple・Speedyと言っている3つのSに加えて、Secureをオーバーオールで被せることができるのも我々の強みだと考えています。

――次に、ワイヤレスのところをお聞きします。御社はIoTに早くから取り組まれてきましたし、今度、ローカル5Gも積極的に取り組まれていくと伺っています。今年は、5G、ローカル5G、Wi-Fi6の登場ということで、新しいステージが始まろうとしていると思います。この辺についての期待感を教えてください。

 

庄司 「Smart Data Platform」におけるデータのアクセス、即ち、収集・流通レイヤーにおいて、無線系のサービスが非常に重要な役割を担ってくると思っております。

5Gのみならずローカル5GあるいはWi-Fi6等々の技術やサービスをどの様に組み合わせて、「Smart Data Platform」とどう連携させるのが最適なのか、いろいろ検討している段階です。

今年、5G元年ということで沸き立っておりますけれども、我々もドコモと協力しながらキャリアの5Gをどう活用できるのか検討すると同時に、ローカル5Gにも挑戦したいと思っており、昨年の秋にローカル5Gの実証実験への取組みを発表したところです。

私どものラグビーチーム、シャイニングアークスのホームグラウンドの「アークス浦安パーク」でローカル5Gの実証実験を開始する準備が整いつつあります。選手にはウェアラブルのデータセンサーを付けてもらっておりまして、選手の動きやコンディション分析をローカル5Gの技術を織り交ぜながらやっていこうと思っております。

このような技術は、実は工場などに置き換えますと、工場作業者の動線最適化や健康状態を含むコンディション管理、服務管理にも転用することができると思っております。実際に「アークス浦安パーク」は高精細のカメラ等々も取り付けているので、映像と組み合わせてセンシングデータを分析できます。また、どの選手が、どのトレーニングマシンで、どの負荷で、どのくらい運動したのか、マシンの稼働データを収集・分析できますので、選手のバイタルデータと掛け合わせることで、筋力が本当にアップしているのかなどまで計測、管理できるようになると思っています。

――ローカル5Gが大変な注目を集めていますが、Wi-Fi6もこれまでになく強力なワイヤレスシステムと言われています。

 

庄司 それは理解しています。エッジ側でデータを収集したりするのにふさわしい技術は何なのか、我々も検証していかなければならないと思っておりまして、高速低遅延という面ではローカル5Gが優位だというお話もありますけど、既存のLTEの技術でも実現できること、あるいはWi-Fi6でカバーする方が良いことなど、それぞれの特性に応じた得意分野があると思うのです。トラフィックの制御が必要、セキュリティの観点で閉鎖性を求めるというニーズもあるかと思います。

我々は通信キャリアならではの知見やノウハウを活かし、様々な無線技術がどの様な利用シーン、利用用途に適しているのか、ICTシステム全体の組み合わせを勘案しながら検証していきたいと思います。

――5Gサービスと同時にローカル5Gが今、とても注目されています。これは自営ネットワークということで、顧客に合ったネットワークをユーザーが自由に使いたい、自社に合う形で使いたいというトレンドのなかで起きていることだと思います。ローカル5GにしてもWi-Fiネットワークにしても、あらためてユーザーに価値のある自営ネットワークというものが求められている時代と思います。

庄司 その通りですね。ローカル5Gは5Gよりも、特定のエリア内にとどまる場合にはセキュアで、非常に柔軟性もあります。Wi-Fi6も経済的な形で、様々なことが実現できる可能性・技術要素を持っていますので、そうした組み合わせになるのかなと思っています。

――無線LANビジネス推進連絡会では、ここまで無線LANが普及したなかで、企業で導入している無線LANをどう活用するか、それでどうマネタイズに活かすかという局面に来ていると考え、様々な取り組みを行っています。

庄司 さまざまな無線システムあるいは技術が出てきておりますけれども、それを使うお客さま側の立場にたって、ニーズに応じた無線システム、あるいはそれらの組み合わせを提供していきます。それにあたって、何が最適解なのか、我々事業者だけでは検証し切れない部分もありますので、Wi-Biz(無線LANビジネス推進連絡会)でも、事例やユースケースをお互いに共有し合って、無線システムの発展に一緒に寄与していくことが望ましいのかなと考えております。

 

――NTTコミュニケーションズ20年ということで、新しいスタート台をつくられたわけですが、これからの展望をお願いします。

 

庄司 昨年、新たなコーポレート・タグラインを「Go the Distance.」と定めました。この言葉には、遠い先にある価値を創り出す、そして、最後までやり抜くという意味を込めています。我々の道のりは無限に続きますが、常に挑戦できる業態に我々がいることはすごく幸せに思います。技術革新が絶え間なく起き、また、我々が起こし得るという立ち位置にいると思っています。

我々は距離を超えたり時間を超えたりということを支えるインフラを作り、ソリューションを社会に提供してきていますが、今回、新型コロナウイルスの影響で、在宅でも仕事を継続できる環境の実現、学校に行かなくてもまなびを続けられる環境の実現等、ある意味「Go the Distance.」的なチャレンジを通じて社会に価値を提供できていると思います。

この姿勢は忘れてはならないし、プラットフォーム提供事業者として、より安心安全に使いやすい形で、そのような環境をご提供し続けることが我々の使命だと考えております。


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