ビジネス情報
コロナ情勢で問われること、そして5Gスタートについて
一般社団法人無線LANビジネス推進連絡会顧問 小林忠男
新型コロナウィルスの脅威が世界中を覆い、日本でも毎日毎日、感染者が直線的から指数関数的に増加する状況になり、ついに緊急事態宣言が発出されました。
先月号で「コロナウィルスとテレワーク、Wi-Fi活用を考える」を書きましたが、多くの皆様に読んでいただきました。
新型コロナウィルスの更なる感染拡大、緊急事態宣言の発令によりテレワークの必要性は日毎に高まっています。
しかし、国土交通省の3月の調査では、在宅勤務を実施していると回答したのは働く人の12.6%だったそうです。アメリカに比べるとかなり低い割合だと思います。政府も、7割はテレワークにして欲しいと要望しています。
そこで今回は、Wi-Fi業界とWi-Bizが取り組んだら、日本のテレワークの普及拡大がもっと進むのではないかというアイデアを考えてみました。
思い付きかもしれませんが、如何でしょうか。
1 テレワークのためのツール、アプリ解説
今月号の技術講座に、中野祐介氏(電マーク 代表取締役)に執筆頂いた、「緊急事態宣言下における、オンラインビデオコミュニケーションの活用法」が掲載されています。
Zoom、Skype、Webexなどの様々なオンラインビデオコミュニケーションサービスの活用法について大変詳しく分かり易く解説して頂いています。是非、皆さんにはご一読ください。
テレワークの実施には、オンラインビデオコミュニケーションサービスの他に、
- テレワークのためのパソコン、タブレット、スマートフォンなどの端末
- 家や会社に必要なWi-Fi設備
- 家や会社までの光回線、またはワイヤレスのインターネット回線
- 安全なコミュニケーションのためのセキュリティ対策
等があります。
これらをWi-Bizメルマガの中で、シリーズとして解説するのはどうでしょうか。
既に始めたけれど分からないことがある、これから始めるけどどうしたらよいか分からないなど、Wi-Biz会員やメルマガを読んで頂いている方々に役立つ内容にしたら喜んでもらえるのではないでしょうか。
2 通信費軽減のための情報発信
家やマンションで光回線の先にWi-Fiアクセスポイントを接続し、パソコンやスマホのインターネット接続に使っている人はたくさんいます。日本の家庭の6割には光回線が引かれていると聞いたことがありますが、まだ光化されていない家庭も企業も多いと思います。
家を光にすれば、家族全員が高速で定額で通信量を気にせずに何台もの端末をインターネットに接続できることを知らない方も多いです。
家のWi-Fi+光インターネット接続と屋外のフリーWi-Fiをうまく使えばモバイルの通信量を減らすことも出来ます。
Wi-Fiのうまい使い方を紹介するのはどうでしょうか。
また、最近の新聞に
①携帯3社の学生向け通信費軽減策
②神戸市、軽症者施設にWi-Fi用意
③家のネット環境見直しで通信費節約
等の記事が出ています。
緊急事態宣言により、多くの店舗や施設は休業することになりますが、JR・私鉄・地下鉄の公共交通機関は運行されます。これらの駅にはほとんどWi-Fiが設置されていますし、最近は、走行中の車内でもWi-Fiが使えるようになりつつあります。また、コンビニ、ファミリーレストラン、カフェにもWi-Fiが設置されています。
当然長時間の使用は避けなければなりませんが、この緊急事態宣言下でWi-Fiが自由に使えるスポットを何らかの形で周知することは如何でしょうか。
3 アソシエーションデータの活用
前月のメルマガにも書きましたが、新幹線やバスや飛行機の車両、機体毎に、鉄道駅の改札口毎に、コンビニやカフェの店舗毎に、デパートのフロアーやラウンジ毎にWi-Fi端末を持った人がアクセスポイントを通り過ぎたかをカウントすることが出来ます。
外出自粛がどの程度実行されているか、携帯電話会社やGoogle等のデータが新聞にでていますが、これらとWi-Fiのデータを合体すれば更にきめ細かい分析が出来ると思います。これはWi-BizではなくWi-Fiキャリアしか出来ないことですが。
以上は個人的なアイデアに過ぎませんが、新型コロナウィルスの感染拡大の中、テレワークのためのWi-Fiの重要性は高まっています。また、本格的な5G時代が到来する中で、Wi-Fiの位置付けはどうなるかということを考える必要があります。
新型コロナウィルス終息後、テレワークの普及により仕事のやり方が根本的に変わるかもしれません。また、5G時代の到来によりワイヤレス通信の在り方が根本的に変わるかもしれません。
明確なことは、ますます人とモノは「何時でも、何処でも、誰とでも、どんなモノとでも」ワイヤレスでネットワークとつながる時代になるということです。
世の中の様相が一変する可能性が大きく,ワイヤレスの位置付けが重要になることを見通して,Wi-Fi業界として,Wi-Bizとして今までの延長線上ではなく今までとは違う視点からの取組みを小さなことからでも良いので,始めることが大切だと思います。
5Gの船出とこれからの課題
3月末、携帯電話3社がほぼ一斉に、5Gサービスを開始しました。楽天モバイルの4Gサービスも4月8日から始まりました。
アメリカや韓国ではすでに昨年から5Gサービスが提供されていて、日本の出遅れ感は否めませんが、5Gに使う周波数がモバイルに使うにはとても高いために、アメリカも韓国もエリアが狭いと大きな問題になっています。
日経産業新聞(2020年2月9日)によると、5Gを本来の移動通信ではなく基地局から家庭への固定回線に使えるかを、5G基地局から半径1km以内に位置する6万件の家庭について調べたところ、加入できる家庭はわずか3700件程度(約6%)だったとのことです。また、ベライゾンのロサンゼルス地域における5Gのスループットは620Mbps超でしたが、接続率は0.4%とのことです。
記事にもあるように、電波というものは「速いが狭い」か「広いが遅い」なのです。電波の性質は太古の時代から同じで、5Gを始めて分かったことではなく、それこそ私が新入社員だった40年以上前に教わった基本のままなのです。5Gの本来の素晴らしい特長をどのように面的展開するかがこれからの重要な課題になると思います。
3月25日に始まったドコモの5Gサービスは、主要交通施設や観光施設を中心に、29都道府県の150ヵ所からスタートします。当初はスポット的で、本格的にエリアが広がるのは2020年度の後半になる見通しだそうです。
しかし、突然の新型コロナウィルスの感染拡大によりこのエリア拡大計画が遅れそうです。まず5Gのショーケースと目されていた東京五輪・パラリンピックは1年延期され、3社はエリア拡大ピッチを緩めることになり、20年9月と予想されていた5G対応「次期iPhone」の発売も数カ月遅れ、21年前半となる可能性を複数メディアが報じています。米アップルは日本で最大のスマホ供給メーカーであり、大量のiPhoneユーザーが5Gに触れるチャンスは21年に遠のきそうです。
東京五輪と5G対応iPhoneの2つの延期で3社にとっては20年に積極的にエリアを広げる動機が失われ、実質的には携帯3社がエリアを拡大し、本格的に利用者獲得競争に着手するのは21年からとなりそうと日経新聞が報じています。
また、5Gは電波が飛ぶ範囲が狭いため現行のLTEより4倍程度の基地局が必要なため、KDDIとソフトバンクは5G基地局共同整備する「5G JAPAN」という新会社を設立しました。もともと多くの基地局が必要とされるため、設置場所の確保などが課題になっていました。両社が共同で整備することにより、整備期間の短縮やコスト削減につなげたい考えとのことです。(読売新聞2020年4月6日)
5Gサービスがスポットから始まる記事を読んで、私たちがWi-Fiを始めた時もそうだったと懐かしく思いだしました。
約20年前に私はNTTブロードバンドプラットフォーム(以下、NTTBP)というWi-Fiの会社を立上げ、「無線LAN倶楽部」という高速Wi-Fiサービスを始めました。京浜急行と京王電鉄の急行の停車する6駅で携帯電話より高速なワイヤレスインターネットが出来るという触れ込みで月額1500円のサービスでした。Wi-Fiのアクセスポイントは30か所もなかったと思います。
モバイルキャリアの5Gサービスはスポットからのスタートですが、凄いスピードで面的に充実していくと思いますのでWi-Fiと比べても意味がないのですが、5Gの周波数が3.7GHz帯と4.5GHz帯、及び28GHz帯という今までモバイルでは使ったことがない高い周波数帯であるため、高速を保ちつつ面的なエリア展開が出来るかが最大ンポイントになるでしょう。
この問題をクリアするために、3G/4Gで利用されている既存周波数帯(700MHz帯~3.5GHz帯)を5Gとして使えるようにし、2020年中にも実現することは良いことだと思います。
5Gの次は6Gの開発、商用化になるわけですが、これまでのように新しい世代のワイヤレスサービスに、「高速化、低遅延、多接続」を追及するとともに、このテレワークの時代に屋内外、何処でも面的にエリア展開するためにはどのような周波数を組み合わせて使うのが最適なのかを今までの延長線上から離れて考える電波戦略が必要だと思います。
また、電波を発射する基地局には最寄りのデータセンターと結ぶ回線が必要になります。無線を使うことも出来ますが、これからのブロードバンド化の時代に安定して使える回線は光回線しかありません。
新型コロナウィルスでテレワークが俄然注目されていますが、テレワークの普及のためにも、6G時代のネットワーク構築にも光回線は絶対に必要になりますので、IPネットワークやクラウドの高速化と経済化もあわせて検討必要があると思います。
「光の先はワイヤレスが基本」という環境を実現するために業界を挙げて取り組んで行ければと思います。
新たなビジネスモデルを柔軟に考える
5G基地局の共同整備についても思い出すことがあります。
NTTBPでサービスを開始しスポット拡大のために、新宿の大きなホテルの宴会場にWi-Fiを設置させて下さいとお願いに行った時に、宴会係の責任者の方から、「NTTから既に二人、Wi-Fiを設置させて欲しいと来られました。あなたが三人目ですが、まだ来ますか」と言われました。
そこで、黒字になるか分からないビジネスでそれぞれがコストをかけてインフラを構築するのは効率的でないと考え、キャリアというかWi-Fiサービスプロバイダーが割り勘でWi-Fiアクセスポイントを共用するビジネスモデルに変更しました。
キャリアフリー、デバイスフリーの設備共用は、現在のシェアリングエコノミーに通じる意味あるビジネスモデルだと思います。
ワイヤレスの高速化を求めて周波数帯がミリ波からテラヘルツ波と更に高くなりますが、それだけどんどんエリアは狭くなり多くの基地局が必要になります。その時に、「設備の共用」はビジネスモデルとして重要なポイントになると思います。
また、パブリックとプライベートの空間をどのようにエリア化するかも難しい重要な問題だと思います。Wi-Fiは毎日の生活でなくてはならない情報インフラになっています。家やオフィス等のプライベート空間のWi-Fi設備はそこのオーナーが設置して使う、受益者負担のモデルになっています。
これまでのように、キャリアが周波数を占有して管理され安全なワイヤレスネットワークを提供するモデルと、周波数を共有して受益者負担でオーナーがワイヤレスネットワーク構築することは、これからの時代にますます必要ではないかと思います。
キャリア5Gとともにローカル5Gが注目されていますが、誰もが受益者負担で最先端のワイヤレスネットワークを使えるのは素晴らしく革新的なことだと思います。周波数占有型の厳しいネットワーク展開だけではなく、Wi-Fiのような緩い展開が可能なローカル5Gになれば、新たなワイヤレス市場の創出につながって行くと思います。もちろん、創出まで高いハードルが沢山あるでしょうが。
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら