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海外情報
米国では「5GよりWi-Fiが速い!」

岩本賢二

このほど、英国の調査会社Opensignal社により5G導入主要8か国での4G、5G、Wi-Fiの速度分析レポートが出て話題になりました。このレポートが衝撃だったのは、「なんと米国では5GよりもWi-Fiの方が速かった!」という事実です。そもそも、このような通信試験にはインフラ側の利用周波数、周波数帯域幅、バックホール品質が影響するので、単に5Gが速い遅いという評価とは必ずしも言えませんが、あれほど宣伝していた5GがWi-Fiより遅いというのは米国の利用者にとってかなりのショックだったようです。

以下のグラフがその話題になったグラフです。

オーストラリアとサウジアラビアを除くたいていの国では4GはWi-Fiより遅いという結果でした。しかし5Gと比較すると、米国以外は5Gが圧倒的パフォーマンスをたたき出しています。米国の5Gだけは、4Gよりも性能が出たのですが、韓国の4Gと同程度の速度しかスピードが出ておらず、Wi-Fiには勝てなかったという結果だったのです。

私自身もこのレポートを読んで最初は驚いたのですが、これにはちゃんと理由がありました。5GはNew Radio(NR)と呼ばれる28GHz帯を使うと思われていますが、実はミッドバンドと呼ばれる3.5GHz帯、ローバンドと呼ばれる4G以前から携帯電話で使われていた1GHz近辺のバンドがあります。NRは周波数が高すぎるために、ちょっと陰になると使えないため、実は多くの利用環境ではNR以外のバンドを掴んでしまいます。通信速度は帯域幅に依存するのですが、周波数が高いほど広い帯域幅を割り当てることができるので通信速度は「NR>>ミッドバンド>ローバンド」という関係になります。

実は米国ではミッドバンドの周波数割り当てが遅れたため、NRとローバンドでサービス提供が開始されました。そのため、多くのユーザーが以前と変わらないローバンドを掴んでしまった状態で5Gのインフラを使っていたという訳だったのです。

米国以外の7か国ではNRとミッドバンドが利用されています。ミッドバンドでは「既存」Wi-Fiよりも広い帯域幅を利用可能なためWi-Fiよりも速度が速いという結果を出しています。もちろんNRを使えば前出の結果を上回る結果が出ることは明白ですが実用的にはNRはかなり条件を揃えないと使うことができない状況であるという事です。

ここに出てきた速度という側面だけでは利用者側から見た使い勝手というのは良くわかりません。そこで次のグラフが理解の役に立つかもしれません。5Gの方が4Gより圧倒的に速いのであれば、5G接続の時間の方が圧倒的に長くなるはずです。しかし、5G速度の遅い米国と、爆速の韓国では、利用時間については実はほぼ同じデータでした。

これはまだ5Gが初期段階だからだと考えられます。Opensignal社は「5Gの使い勝手が良くなるには事業者、政府、利用者がさらに5Gの利用拡大を進める事が必要だ」と述べています。

米国では今後ミッドバンドの割り当てが進められることになっており、近いうちに5G速度が他の7か国と同等以上の性能が出せるようになるかもしれません。しかしその頃には、すでに6GHz帯の中の1.2GHzという広大な帯域幅がアンライセンスバンドと設定されているため、さらに高速な6GHzのWi-Fi(Wi-Fi6Eという)が登場し、それと比較することになるため、やっぱりWi-Fiが速いということになりそうです。しかし米国のキャリアでは5GのネットワークとWi-Fiを通信会社が融合して使う事が広く提唱されているため、そもそもどちらが速いかということにはあまり興味がないようです。これは、開放された6GHz帯はアンライセンスバンドとして通信会社も5G統合サービスの一環で利用が可能となるためです。6GHzの開放は携帯事業者にとってもメリットなので、日本でも是非進めてほしいです。

参照:

https://www.fiercewireless.com/regulatory/wi-fi-community-fetes-historic-fcc-decision-6-ghz

https://www.opensignal.com/2020/05/06/5g-download-speed-is-now-faster-than-wifi-in-seven-leading-5g-countries


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