ローカル5G技術講座
第1回「どう使いこなすか?5Gとローカル5Gの可能性」
企画・運用委員会 松村直哉
通信の世界で2020年は何といっても「5G元年」といえると思います。携帯キャリア各社は5Gのサービスを開始し、テレビコマーシャルでも5Gというキーワードの露出が増えてきています。では実際、5Gによってどのような新しい世界が来るのでしょうか?5Gの特徴と言われている「高速・大容量通信、低遅延、多数接続」といったものはいったいビジネスのどのようなシーンで使われるのでしょうか?
また、公衆ではなく自営(プライベート)で5Gを利用する「ローカル5G」も制度化が始まっています。免許を必要とするライセンスバンドのローカル5Gをどのようなビジネスシーンで利活用していくのでしょうか?
今回の「技術情報」では国内だけではなく北米におけるプライベートLTE利用である「CBRS(Citizens Broadband Radio Service)」にもフォーカスし、日本と北米の周波数政策の違いやその使い方などについて解説していきたいと思います。
新たな周波数割り当てと技術の進化
モバイル通信に欠くことのできない電波は限られた資源であり、有効かつ効率的に使う必要があります。
7月28日に電波の利活用について総務省から「5G等の新たな電波利用ニーズに対応する臨時の電波の利用状況調査の調査結果の公表及び評価結果(案)」に対する意見募集がありました。
2.3GHz帯から、DSRCの5.8GHz帯、さらに40GHz帯までの利用状況を調査した上で、5Gへの追加利用に向けた周波数割り当てなどに対応するものです。
*詳細については以下のHPを参考として下さい。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000366.html
半導体技術の進歩により超高速動作、低消費電力動作が可能となり、例えばOFDMAのサブチャネル毎に分け、各々のチャネルをデジタル変調するといった複雑な信号処理も高速デジタル回路によって実現可能となってきました。これによりギガヘルツ帯における無線局の小型化、低消費電力化が実現されました。
このような半導体の進歩により10年以上前に割り当てられた周波数帯域は現在のテクノロジを利用することで、より効率的な利用が可能となると思います。改めて周波数の利用状況を調査することで、より利便性の高い、通信手段が新たに生まれてくるものと思います。
現在、国内での自営利用のLTE、5Gに関する制度化は、自営BWAの2.5GHzとローカル5GのSub6(4GHz帯)と28GHz帯になります。これまでは地域BWAの2.5GHz帯のみがLTEシステムを使った自営ネットワークとして制度化されてきました。半導体の進歩、さらにソフトウェアのオープン化により、サーバ1台にLTEシステムを動かすためのEPC(Evolved Packet Core)が搭載できるようになりました。
*EPCシステムについては以下のNTT DOCOMOテクニカルジャーナルを参考として下さい。
NTT DOCOMOテクニカルジャーナルより抜粋
EPCシステムはSGW、PGW、MME、HSS、PCRFなどの複数のノードによって構成されています。従来は一つのノードが複数台の専用ハードウェア製品や専用のサーバに搭載、といった大掛かりなものになっていました。しかしながら、ここ数年でEPCの各ノードのソフトウェアがオープン化になるとともに軽量化(サーバの性能アップとともに)されてきたため、手軽にLTEシステムを構築することが可能となってきました。
この半導体の進歩とソフトウェアのオープン化により従来、携帯キャリアでしか使えなかったLTEシステムがエンタープライズシステム市場でも利活用できる価格帯になってきていると思います。これが、昨今の自営BWAやローカル5Gといった制度化が行われてきたことと密接に関連していると思います。
ソフトウェアのオープン化の一例としてOAI (OpenAirInterface) があります。
https://www.openairinterface.org/
OAIは、先に上げたEPCや5Gコアに向けたプロジェクトと無線アクセスネットワーク(RAN)のプロジェクトから構成されます。高速無線部はこれまで専用のハードウェアでしか実現できませんでしたが、汎用サーバの性能向上やFPGAを使った一部高速処理のアクセラレートにより、CU/DUといった無線アクセス装置が汎用ハードウェアとソフトウェアにより実現可能となってきています。
*無線アクセスネットワークについては以下のNTT DOCOMOテクニカルジャーナルを参考として下さい。
専用ハードでしか実現できなかった無線アクセスネットワークはベンダーロックと呼ばれる、ベンダー個別のインタフェースによって動作するため、標準化した共通インタフェースによるマルチベンダー接続を実現することができませんでした。
このRAN部分についてもO-RANと呼ばれる新しい取り組みによって共通インタフェースによるマルチベンダー化が進んでいます。このことも価格を抑える要因となりエンタープライズ市場に適合できる要因になってきたものと思います。
*O-RANについては以下のサイトを参考としてください。
北米における自営、プライベートLTEの状況
では、ここで少し世界に目を向けて、北米における自営、プライベートLTEの状況を見てみましょう。
北米ではCBRS(Citizen Broadband Radio Service)というプライベートLTEの仕組みがFCCにより制度化され、2020年中にサービスが開始される予定です。
*詳細は以下のFCCのHPを参照して下さい。
https://www.fcc.gov/wireless/bureau-divisions/mobility-division/35-ghz-band/35-ghz-band-overview
利用するバンドは3550MHzから3700MHzとなっています。このバンドはTier1と呼ばれる既存のバンド利用者である海軍のレーダーや固定衛星で既に使われているグループです。
Tier2と呼ばれる3550MHz~3650MHz帯域はPriority Access Licenses(PAL)の10MHzが10個のグループで構成されています。
さらにTier3と呼ばれるものがあり、それぞれの干渉についてはSAS(Spectrum Access System)という仕組み(組織)によって管理・運営されます。その一つの組織としてGoogleがあり、以下のHPにて解説されています。
https://www.google.com/get/spectrumdatabase/sas/
詳細については少し長いですが以下のYoutubeの動画(英語ですが)を見て頂けると詳細が解説されているので参考になると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=MzB55qfrzUY
CBRSは当初LTEシステムでの運用を計画していますが、5Gシステムでの利用も当然視野に入っているようです。当初、LTEから5GシステムへのマイグレーションについてはNSA(Non Standalone)が主流になると考えられていました。
*NSAについては以下の総務省資料「新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班における検討状況」の16ページに説明が書かれています。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000538001.pdf
しかしながらNSAは28GHz帯のようにこれまで存在しなかったミリ波(スモールセル)の利用にあたり利便性を上げるような仕組みであり。現状利用しているLTE周波数から5Gにマイグレーションするためには今後、DSS(Dynamic Spectrum Sharing)といった仕組みが主流になると考えられています。
*DSSについては情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会報告(案)の16ページに説明が書かれているので参考として下さい。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000665808.pdf
CBRSの場合、LTEと5G基地局が混在した場合は端末側のCA機能によってもマイグレーションが可能となってくると想定されます。現状、我々が利用しているスマートフォンは複数のLTEバンドを束ねて同時に利用できるCA(Carrier Aggregation)という仕組みが搭載されています。
5Gにも対応したCAはQualcommチップのSnapdragon X60から搭載されている機能で3Gから4G、5Gまでのすべてのバンドを利用できるとともに、CAとDSSに対応しているチップセットになります。X60を採用したデバイスが市場に投入されることで、LTEから5Gへの移行がよりスムーズになると思います。
*Snapdragon X60については以下のQualcommのHPを参照して下さい。
https://www.qualcomm.com/products/snapdragon-x60-5g-modem
日本と北米における電波政策、またLTEから5Gへのマイグレーションを加速するための技術について解説してきました。では、5Gやローカル5Gは、どういった市場で使われることになるのでしょうか?
5G、ローカル5Gのユースケースは何か
プライベートLTEについてはライセンスバンドならではの電波の高出力によるカバレッジの広さを生かした、プラントや工場、港といった広い現場でのニーズがあることはわかってきています。一方で5Gの本来のパフォーマンスをフルに生かしたユースケースはまだ出てきていないと思います。
高速・大容量伝送であれば大量の映像をデジタル化する際に、必要となりそうなことは理解できると思います。また、低遅延といっても光リングネットワークやコアシステムまで含め考えると数ミリ以下の遅延を確保することも非常に難しい取り組みです。しかし、自動運転が実現した際に、低遅延の伝送は必須であることは間違いないでしょう。
多接続と数百万台のデバイスが1台の基地局配下に設置されるアプリケーションはあるでしょうか、などなど、素朴な疑問が沸き出てきます。
3GからLTEに変わったとき、新しい世界が来る、と言われてきました。LTEサービスイン当初、現在の5G同様、様々な可能性について話題となりましたが結局のところAppleのiPhoneが新しい世界を牽引した事実は疑う余地がないところです。
今回、5Gが登場し、9月に5Gに対応したiPhoneが登場したとき、いったいどんな新しいサービスが登場するのでしょうか?可能性の一つとしてAppleのMapがあると思います。最新のアップデートでiPhoneのMapにGoogleで言うところのストリートビュー機能が搭載されました。
*概要は以下のAppleのHPを参照して下さい。
https://www.apple.com/jp/ios/maps/
OSをアップデートしたiPhoneでWi-Bizの事務所がある岩本町を見ると、周辺がデジタル化されています。建物も3D化されています。
右上の双眼鏡のマークをタップすると、以下のような高精細の街並みの写真が見ることができます。
Googleのストリートビューと比較して高精細の画像になっており、拡大すると細部を見ることができます。
Google Mapも同様にストリートビューや3D機能がありますが、今回のAppleが提供したMapのアップデートはさすがAppleといった感じだと思います。
例えば、このデータを使えば5Gスモールセルの置局設計やシミュレーションも非常に簡単になるのではないでしょうか?いえいえ、そんな、当たり前の使い方に留まるはずはありません、今でこそテレビの座を脅かすYoutubeも最初に登場した時は、まったく注目されていなかったと思います。AppleのMapは出たてのYoutubeを連想させるもの、5Gの世界に向けた第一歩、まちがいなし、だと思います。
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