ビジネス情報
コロナ禍でワイヤレスが新しいフェーズに入っている
一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会 顧問 小林忠男
今日は「山の日」の祝日で、本来ならば夏休み真っ盛りで日本中の人が、熱中症に気をつけながら家族そろっての海水浴や、久しぶりの帰省を楽しんでいるのですが、新型コロナウィルスの第2波が到来し収束の兆しが全く見通せません。
Wi-Bizメールマガジンの読者の方々には、とにかく感染しないように、どうぞくれぐれもお気を付けください。
外出自粛で家にいる時間が大幅に増えたために新聞を読む時間が増え、インターネットで興味あることをいろいろ検索しています。今回は、新型コロナウィルス下での生活の中で興味を感じた情報をいくつかご紹介したいと思います。
1 新たな勤務形態の拡大によりワイヤレス需要はますます増大
新型コロナウィルスによって不要不急の外出自粛が求められ、在宅勤務、リモートワーク、遠隔授業が一気に全国に拡がりました。
この時、自宅や外出先でのテレワークに使うパソコン、タブレット、スマートフォンをインターネットに接続することが必要になりますが、ほとんどの場合はパソコンやタブレット、スマートフォンに搭載されたワイヤレス機能を使って最寄りのアクセスポイントにつなげることになります。半分以上は、家や外出先のWi-Fiアクセスポイントにつながっていると思います。
家に光回線が来ていない場合や、外出先でWi-Fiアクセスポイントがない場合は、Wi-Fiモバイルルーターが活躍します。パソコン等の端末とWi-FiモバイルルーターとはWi-Fiで接続され、Wi-FiモバイルルーターとネットワークはLTEでつながります。ネット環境のない家庭に自治体がWi-Fiモバイルルーターを貸与し、その購入費に147億円を計上しています。
コロナ下にあって、ワイヤレスはますます重要な役割を果たすことになり、これから始まる5G、ローカル5G、802.11ax、ahを含めてワイヤレスの需要は高まっていくことは間違いないと思います。
2 光回線とWi-Fiの組み合わせでスマホ料金の節約
ある大手モバイルキャリア特約店のチラシには、
「安定したWi-Fi環境は、パソコンのみならず、スマホやテレビでの動画視聴、在宅勤務でのオンライン会議、在宅学習などで今や生活になくてはならないインフラとなっています。………データ量を消費する大きな要因はズバリ、「映像」コンテンツです。例えば、AmazonプライムビデオをiPhone経由で視聴した場合、最高画質で1時間5.8GBも消費してしまいます。一方、ニュースサイトなどWebページの閲覧であれば、(1ページあたり150KBとして計算)1GBで約6、600ページも見れます。つまり自宅でひかりの使い放題のWi-Fiで動画を視聴すれば大容量のデータプランを契約しなくても済むことになります。ひかり+Wi-Fiプランが通信費節約にはおススメです!」
とあります。
とても分かり易い「ひかり+Wi-Fi」の特長の説明だと思います。携帯電話は端末ごとにキャリアとの回線契約が必要ですが、光の回線料は定額で、光の先のWi-Fiアクセスポイントには基本的に、スマホもタブレットもパソコンもテレビもセンサーもオーディオ機器も何台も接続可能です。
Wi-Fiを知っている人には当たり前のことですが、Wi-Fi業界やWi-BizはこのようなWi-Fiの特長を粘り強く何度も色々な形でPRすることがWi-Fiの普及拡大につながると思います。
もう一つ、大手CATV会社のチラシには、
「日本初の技術搭載のメッシュWi-Fiがあれば、①家族がネットを使う時間帯の動画のフリーズも、AIによる自動最適化で快適 ②電子レンジを使うたびに電波干渉を起こしていたが、3つの周波数帯域(2.4GHz+5GHz+5GHz)の自動切換えにより高速かつ安定した通信を可能に。Wi-Fiの死角ゼロへ!」
とあります。
AIによる自動最適化って本当かなと思いますが、最新の流行り言葉を使って消費者心理にうまく訴えていると思います。
大手のモバイルキャリアや大手Wi-FiベンダーよりWi-Fiの特長をうまく伝えていると思いませんか。
どちらにしてもWi-Fiはますます家庭に浸透していくと思います。
3「電波争い」の時代
読売新聞に「気流」という読者からの投書欄があります。
主婦の方の面白い投書を見つけましたのでご紹介します。
「オンライン飲み会である参加者が話し始めると、会話が途切れ途切れになり、画面がフリーズしてしまうことが度々発生。原因は、別の部屋にいる、その参加者の家族がYouTubeで演歌を聴いていて、「電波の取り合い」が起こっていたらしい。無線LANは、一度につながる端末が多いと通信速度が遅くなることがある。別の参加者は、そうならないようにオンライン飲み会の時は外出してもらったという。昔、子供の頃は各家庭でテレビの「チャンネル争い」があったが、今は「電波争い」の時代に変わったようだ」
タイトルが目に入って、新しい周波数のキャリアによる電波獲得合戦について読者がコメントするのかと思って読んでみたら、家庭で家族が電波を取り合っているという内容でした。
Wi-Fiもこんな時代になったんだというのが最初の感想でした。
家で老若男女がWi-Fiを使うことが当たり前の時代になってきましたが、新しく購入したスマートフォンをWi-Fiのアクセスポイントにつなげることは誰にでも出来ることではありません。
Wi-Fiしか搭載していないタブレットを家から持ち出して電車の中でインターネットにつなげようと思ったらつながらない。何故つながらないと悩み私に尋ねる、私の女房のようなユーザーもいるのが現状です。
Wi-Fiは無料のはずなのに、Wi-Fiモバイルルーターは何故有料なのかと質問されたこともあります。
スマートフォンもテレビもラジオも全て電波でネットワークにつながっています。しかし、電波は見ることが出来ません。ローカル5GやWi-Fiで使う周波数帯は何GHzで、その使用帯域は何MHzと聞かれて即答できる人は少ないと思います。
一方、多くの人たちが普通にワイヤレスを使い、主婦の方が電波争いを感じる時代になりました。
ワイヤレスに関連する業界は、多くの人たちがワイヤレスの本質、基本を理解できる取組み努力が必要ではないでしょうか。
4 プライベートワイヤレスネットワークの増加
5G、ローカル5Gの記事が沢山掲載されています。日本の5Gは国際的に出遅れてしまったので、NTTがNECに600億円を出資しHUAWEIに負けない5G設備の共同開発を進め海外に販売する、またKDDIとソフトバンクが5G基地局共同整備の新会社を設立しました。
また、5Gで後塵を拝したので6Gの国際競争で先手を打つために政府戦略案を作成し巻き返しを図ろうとしています。
東京都が都庁の前に、ローカル5GとWi-Fiの電波を発射するスマートポールを設置し、運用を開始しました。NTT東日本もローカル5Gのオープンラボを公開し、農場や工場に導入した場合の効果の検証を進める予定です。
コロナ禍もあって盛り上がりに日本の5Gは欠けていますが、インフラの整備が進み、端末もGoogleが秋に500ドル以下のスマホ販売、Appleもようやく5G対応のスマホ投入の噂がありますので、本格的な5G時代は秋以降に始まるかもしれません。
ローカル5Gもいろいろなソリューションビジネスの提案、実験が行われていてこれからが楽しみです。
ローカル5Gは5Gの先進的技術を使って工場や農場や医療や建設現場等でWi-Fiでは出来ないワイヤレスネットワークを誰でもが構築することが出来ます。
ローカル5Gの最大の本質は、これまでキャリアが電波を占有して構築してきたワイヤレスネットワークを誰でもが電波を共有して、自分の所有する構内にプライベートなワイヤレスネットワークを構築することが出来るということだと、私は以前から考えています。
全ての産業分野において、オーナーの目的に合ったワイヤレスネットワークを自ら構築することが出来るようになります。
この視点から考えると、ローカル5GはWi-Fiと極めて親和性が高いものです。
キャリアが電波を占有して構築する5Gのネットワークと、誰でもが電波を共有して構築するWi-Fiとローカル5Gのネットワークがシームレスにつながり個別ではなく全体最適のワイヤレスネットワークが実現すれば、すべての家庭、企業に加えて全ての産業にワイヤレスネットワークが実現するのではないでしょうか。
最後になりますが、5G関連の記事は沢山ありますが、Wi-Fiの記事は本当に少ないです。
既に書きましたようにコロナ下で多くの人がモバイル以上にWi-Fiをつかっているのに、国の「ビヨンド5G」戦略の中にもほとんどWi-Fiの記述はありません。
温暖化が進む中でこれからの電力を考える時に、水力や原子力、石油・石炭火力そして太陽光や風力などの再生可能エネルギーをどのように確保するかという議論がされていますが、ますます需要が増大し5GとWi-Fiのワイヤレスシステムがなければ生活できない世の中であるのに、Wi-Fiはいつもモバイルの下、おまけみたいにあつかわれているような気がしてなりません。
私の僻みかもしれませんが、全体最適を目指して、パブリックとプライベートのワイヤレスネットワークの全体最適を目指してこれからのネットワークをどう作るか考えないと6G時代において世界の最先端を走ることは出来ないと思います。
最後に。
民間企業では高額の物品調達をする場合には、その目的、費用対効果、調達仕様書、業者選定、物品検査、お客様への納品という手順でオープンかつ公正に行います。
検査は厳しく、不良が発生した場合の責任は品物を製造した企業ではなく、調達した企業にすべての責任があります。
新型コロナウィルスによって行われた国の施策の、アベノマスクやGoToトラベルのやり方を見ると、やるべきことが正しく行われているのか、何か生じた場合の責任を理解しているのかと不思議になります。
普通の企業では当たり前のプロセスが極めていい加減に行われているのではと思わざるを得ません。
最初の外出自粛が終わって、やれやれと安堵したら専門家が心配していた通りの感染者の増加が始まりました。
全ての国民がどうしたらと日々不安に思いながら生活している中で、東京都と政府の言うことが食い違っている、責任の押し付け合いをしているように見える。
そんな中で見つけた新聞広告をご紹介して、今日は終わりに。
「最後は勝つ。上がダメでも市民で勝つ。
コロナの戦いは続いている。この国の強さは市民にある。
行動する一人ひとりこそが偉い。リーダーシップなど期待する方がバカ。
自分で考え、自分で動け。
課題を乗り越えるのは、いつだって最前線の人間だ。
暮らし方で働き方で遊び方で、さあ、今日も元気に戦おう。宝島社」
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