ローカル5G技術講座
第2回「5Gとローカル5Gの周波数割り当て」
企画・運用委員会 松村直哉
第1回「どう使いこなすか?5Gとローカル5Gの可能性」の記事はこちらから
前回の「技術情報」で、電波は限られた資源であり、効率的に使うための取り組みが行われていることに触れました。今回は、Sub6やミリ波帯といった「周波帯域」や10MHz、100MHz幅といった「帯域幅」の重要性に触れた上で、「周波数割り当て」について解説したいと思います。
帯域幅が広いほど高速伝送には有利
5Gとローカル5Gは現状のLTEで利用されていない新たな周波数帯が利用できること、またその周波数が3GHz帯から5GHz帯、更に28GHz帯とマイクロ波からミリ波を使うことが大きな特徴と言えると思います。
このマイクロ波からミリ波を使うことで、占有できる帯域幅が増え、伝送容量が上がるというメリットが出てきます。
この伝送容量と帯域幅の関係については「シャノンの定理」によって明らかにされています。シャノンの定理は
C = BW log(1+SNR) ・・・ シャノンの定理
で表されます。この時Cは伝送容量、BWは帯域幅、SNRはSN比です。従って伝送容量(C)は帯域幅(BW)が広くなることで高速伝送が実現できることがわかります。
今回、新たに割り当てられた5Gやローカル5Gの周波数は100MHz幅以上が割り当てられており、これまでの5MHz幅~20MHz幅程度だったLTEなどの1GHz帯前後の周波数割り当てから大幅に増えていることがわかります。
具体的なところで比較してみると5Gにおいて4.7GHz帯では「100MHz幅」、28G帯では「400MHz幅」を確保しています。しかしながら900MHz帯では前述のように5MHz幅~20MHz となっています。一例として2019年12月5日に総務省の報道資料として「900MHz帯を私用する新たな無線利用に係る調査」(以下のURLを参照ください)で公開されている資料の中に900MHz帯の割り当てを表した以下の図があります。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000411.html
図を見てわかるように数メガから15MHz単位で細かく割り当てられていることがわかります。
周波数が低いほうが伝搬損失に対して有利
それではなぜ、900MHz帯はこのように密な割り当てとなっているのでしょうか?
周波数が高くなればそれだけ、帯域幅が取れ、高速伝送に向いています。しかし、電波が伝搬するときの損失は波長が短くなる高周波では大きくなり、電波をより遠くに飛ばすためには損失が小さい低い周波数が有利となるからです。
900MHz帯はプラチナバンドと呼ばれるように伝搬損失が抑えられ、同じ電力で電波を出力した場合、数GHz帯を使う電波より遠くまで飛ばせることができるわけです。高価なバンド、プラチナバンドと呼ばれる所以です。
周波数と伝搬損失と距離の関係については以下のドコモジャーナルの記事に「伝搬損失距離特性」というグラフがあるので参照してください。
周波数は0.81GHz、2.2GHz、4.7GHz、26.4GHz、37.1GHzにおける距離と伝搬損失についてグラフに記されています。0.81MHzと2.2GHzで10dB程度、0.81GHzと26.4GHzで30dB近くの伝搬損失の差があることがわかります。
同じ伝搬損失の値(例えば80dB)で見た時の距離は0.81GHzは約180mに対し、2.2GHzは約90m、伝搬損失の値(例えば100dB)で見た距離は0.81GHzは約900mに対し、26.4GHzは約90mとなっています。
この結果から感覚的に見通しであれば28GHz帯は900MHz帯に対して同じ電力だと距離が10分の1程度になることがわかると思います。(あくまで伝搬損失を使った目安であり、実際の通信できる距離とは異なります。)
28GHzのようなミリ波帯は帯域幅が広くとれ高速伝送に向いています。但し、周波数が高くなると伝搬損失が大きくなるため、伝送距離が短くなる、という特徴があるわけです。
4G(LTE)の周波数割り当て
次に4Gの周波数割り当てについて解説します。現状、携帯電話事業者に割り当てられている4G用周波数を総務省の資料「平成30年度 携帯電話・全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果及び評価結果の概要」から見ることができます。(詳細は以下のURLから参照してください。)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000572034.pdf
700MHzから3.5GHzまでの周波数帯を使っており携帯事業者合計で770MHzとなっています。5Gの28GHz帯では一つの事業者に400MHz割り当てられていることを考えると、いかに5Gが高速伝送を可能としているかがわかります。
5Gとローカル5Gの周波数割り当て
次に携帯事業者に割り当てられた5Gの帯域を見てみます。総務省の資料「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局開設計画の認定」の中に割り当てのまとめとして以下の図が掲載されています。(詳細は以下のURLを参照してください。)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000613734.pdf
3.7GHz帯、4.7GHz帯でNTTドコモは計200MHz、KDDIも200MHz、楽天モバイルとソフトバンクはそれぞれ100MHz。28GHz帯は4事業者それぞれ400MHz幅が割り当てられています。
3.7GHz帯、4.5GHz帯で「600MHz」、28GHz帯で「1600MHz」と、合計する「2200MHz」となり、前述したLTEと比較すると約3倍の帯域幅が割り当てられていることがわかります。
ローカル5Gの周波数割り当てについては総務省の「ローカル5G検討作業班 報告書 概要(案)」に割り当ての結果として以下の図が掲載されています。(詳細は以下のURLを参照してください。)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000688562.pdf
4.5GHz帯で4.6GHzから4.8GHzの200MHz幅、さらに4.8GHzから4.9GHzの100MHz幅が割り当てられています。28GHzについては既に制度化済みの100MHz幅と追加で800MHzが割り当てられる予定です。
公共業務用システムや衛星事業者との調整があり全ての帯域が使えるかは未確定ですが、合計すると「1200MH」幅の利用が可能となります。
まとめると、携帯事業者のLTE:770MHz幅、携帯事業者の5G:2200MHz幅、ローカル5Gの帯域:1200MHz幅となります。LTEと比較し、ミリ波帯と呼ばれる28GHz帯の利用により大幅に利用できる帯域が増えたことがわかります。
少し余談ですが、制度化はこれからとなっていますが、6GHz帯を利用するWi-Fi6Eはなんと1200MHzを利用することが前提となっています。LTEや5Gと比較しても見劣りしない、帯域幅だと思います。詳細は以下の6月号技術情報の記事を参照して下さい。
https://www.wlan-business.org/archives/28590
今回は5Gとローカル5Gの周波数割り当てについて解説してきました。ミリ波を使う5Gをより使いやすくするためには損失が大きいミリ波をいかにして遠くに効率的にかつ安定的に飛ばすか?が普及の鍵になってくると思います。
また、高速伝送のメリットを最大限に生かすためには、クラウドからデバイスまでのトータルでのアーキテクチャの最適化が必要となってくると思います。
ミリ波を効率的に使うビームフォーミングやMassive MIMO、MECやエッジコンピューテングといったネットワークのアーキテクチャについては次回以降での解説としたいと思います。
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