トップインタビュー
通信建設業界の「DX」+「AX」でコロナ対応を進める
ワイヤレスの多様化で問われる現場力
株式会社ミライト・ホールディングス 代表取締役社長 中山俊樹 氏
通信建設業界大手のミライトは、「withコロナ」時代を迎えるなか、新たな戦略と体制で事業に臨もうとしている。
中山俊樹社長は、緊急事態宣言以降の働き方改革をさらに進め新しい制度を確立すると共に、5G、ローカル5G、Wi-Fi6、IoTが本格化するなかで、顧客企業の新たな要望に応えるためにもワイヤレス分野に積極的に取り組んでいき、強みの現場力を磨きながら、基盤の通建事業に加え新分野を含むソリューション事業を大きく伸ばしていきたいと述べる。
コロナの前には戻らない
――コロナ禍で働き方も変わったと思います。
中山 基本的に「8割在宅」という指示を出しています。しかし、私どもは現場を軸にしていますから、工事事務所もしくは技術センターで働いている社員は在宅勤務は難しいわけで、全体としては6割5分前後という感じです。6月、7月の緊急事態宣言以降は、出社せざるを得ないメンバーは時差出勤やマイカー通勤で三密を避け、だいたい5割の出社率で、それが今も続いています。
――現在の状況をどうとらえていますか。
中山 一定の感染リスクというのはずっと残るでしょうから、コロナと共生した状態で仕事をするという状態が、少なくとも1年や2年は続くでしょう。基本的に「コロナ前に戻る」という選択肢はないだろう、「コロナ後」という選択肢も当面はないだろうと思っています。コロナを前提とした働き方にどうやって変えていくか、それは事業の中身そのものもそうですし、私たちの収益の柱をどう組み立て直すかという課題だと思っています。
――コロナ対策という点では、テレワーク、時差出勤、マイカー通勤など具体策が定着し始め、これからどう新しい事業戦略を展開していくかという局面ですね。
中山 スライドAは、社内で使っている「コロナ対策と仕事の両立」の考えを示したものです。今は「フェーズ1」にいると思っています。
いろいろな働き方を、事業本部ごととかスタッフ部門も含めて試行しています。あるところは分散型でやり、あるところは在宅を中心にしてやり、あるところは完全に会社に来ないのをベースにし、また会社に来たとしてもフリーアドレスで本人の座席は置かないというパターンで、新しい働き方に移行しています。就業規則も含めて制度を直していかなければならないので、いろいろ試行しながら下半期に向けて準備をしているところです。
もう一つの取り組みは、「withコロナの時代」で私たちの事業そのものの取り組みの変化ということです。
コロナ禍のなかで、社会やビジネス、家庭生活が変わりつつあるわけですが、ICTの分野はそれに対して貢献できることが非常に多いと思います。市場が変わりつつある、新しいニーズが生まれている、それにどうやって対応し、そこできちんと仕事をつくっていけるのかということが問われていると思います。逆にいうと、お客様に役立っていけるのか、バリューを提供できるのかということが、非常にポイントだと思っています。
そういう観点で、既存分野の効率化ということ、そして新しい分野で新たに仕事をつくっていくということ、これを今、準備しているわけです。
――ミライトは、現場系の仕事が重要で、ここを構造改革していくということになりますね。
中山 そうです。コロナ前から取り組んできていますが、私たちは現場を持っているという強みがあるのですが、他方で現場を持っていることがコストの足かせになったり、また現場業務をどうやって効率化するかというのは、すごく大きなテーマになるわけです。
現場の事務作業の効率化という点では、建設業界は図面のやりとりから契約書のやりとりまで紙だらけの世界なので、契約書自体を簡素化し電子化するなどかなりのピッチで進めています。一般の業界と同様にパソコンやスマートフォンで処理できるような状態にする必要があります。世の中では当たり前のことが、建設業界ではできていないことが結構あるのです。
最大の現場力というと人材なのですが、建設業界は有効求人倍率が6倍を超えている状況で、根本的な人手不足の問題があります。そこで、単に人を増やそうということではなく、人はいないという前提で仕事の仕方を変えないとダメなのです。仕事の工夫です。
例えば基地局は、ドコモでも25年以上経っていますからドンドン塗装が劣化するわけです。塗装劣化の検査は槌で叩きながら浮き上がっているところを探すんですが、そのためには足場を組まなきゃいけない。仮足場じゃなくて本格足場を組む。すると、本鉄塔の種類にもよるのですが、極端なケースだと鉄塔を新設するのと同じぐらいコストが掛かるのです。少なくとも新設の半分ぐらいコストが掛かるんです。
まして、高所作業になるから塗装屋さんがなかなかいらっしゃらないんです。技術も熟練が要りますから。そこをどうするか。今はドローンでの点検を相当増やしています。ドローンを使って写真点検しAIで塗装劣化の診断をする取り組みを進めています。
また、基地局の周りに簡易なエレベーターを付け、それを上るようにすると、足場を組むよりはるかにコストが安いし、フルハーネスを着て上る必要がない。熟練工さんじゃなくても、場合によっては高齢の方でも、普通の塗装の技術があればできることが分かりました。そうすると労働力も確保できるし、単価も下がるわけです。
こうした、現場の作業をいかに効率化するかという工夫は、デジタルというよりもアナログだと思いますが、それを積極的に進めています。
――デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが、今、求められていますが、いわばアナログによるトランスフォーメーションですね。
中山 私の造語ですが、社内ではDXに対する言葉として「AX(アナログトランスフォーメーション)」と言っているんです。デジタルの方は技術を使って仕事を楽にする。アナログの方は知恵を使って仕事を楽にする。余計な仕事を減らしたり事務所を統合したりという昔ながらですけど、まだまだそういう余地もたくさんあるのです。
多様化する「アクセスワイヤレス」
――5G、ローカル5G、Wi-Fi 6、IoT、ドローン、AI。いろいろなテクノロジーが一斉に出始めて、これをどう活用するかということが問われています。
中山 5Gはまだ導入時期であって、ハードルがいろいろあります。スタートがコロナと同じだったので、その影響があり、設計業務、基地局のコンサルの業務がなかなか前に進んでない。どのキャリアさんも出だしはスロースタートという感じです。もちろん5Gは中期的には大きなインパクトを持った技術ですし、我々も大いに期待しています。
ポイントは、通信のネットワークがどんどんフロントエンドに来ているということ、それから多様化しているということではないでしょうか。アクセスの価値化と多様化がキーワードだと思います。
多様化という意味では、5Gだけじゃなくて、ローカル5Gもありますし、Wi-Fi 6があります。LPWAもあり、LoRAWANありSigfoxあり、いろいろな無線の技術、無線の活用方法がたくさん増えてきています。今までは4Gなどに限られていたかもしれませんが、選択肢がすごく増えている。
例えば、小さい情報を送るんだったらLoRAWANで十分だ、LPWAで十分だ。画像を送ろうと思えば普通の画像だったら4Gでも大丈夫。だけど、高密度というか高精細な人の顔を認識して認証までしようとしたり、農業の葉っぱにどのくらいの虫、いもち病が付いているのかを認識しようとしたら、5Gに上げたりWi-Fi 6に上げていく。そういう無線の組み合わせを、どうやって現場で作っていくか、エリアを構築していくか。まさに最適な無線を導入し活用する、もっと言えば無線だけじゃなくて、ここは有線でいいよねという話もあるでしょう。
この無線技術とか、バックホールの技術とか、MECも含めると、アクセスがすごくバラエティになり多様化しています。お客様が農業なら農業、工場なら工場、学校なら学校、オフィスならオフィスという、現場の状況に応じて室内・室外も含めて、無線をどうやって組み合わせていくか、それに有線のなかにどうやって置いていくのか、MECの処理も含めて、どうやって配置をしていくのかということがすごく価値化してきています。
そこをどうやってつかまえていくか、それには現場力がキーになると思うのです。そして、そういう仕事は我々の役割だと思うのです。
――アクセスの多様化のなかで、やはり現場こそがキーになり、その役割が大きいと。
中山 工場の中でどういう電波を使い、どういう無線エリアを作っていったらいいのかを現場が分かっていないといけません。私どもとパートナーさんが現場に入って、工場の中を見させてもらって、どういう無線を作っていったらいいか、ここはデジタルの何キロバイトの情報をやりとりするので、ここはLPWAでいいねとか、ここはカメラが必要だから普段は4Gで見ておき、5Gにも切り替えられるようにするとか、おおむねWi-Fiで見ておいていざとなったら5Gに上げるとか、そういう無線を組み合わせる感覚というのは現場に強く求められます。
――今、特にローカル5Gを含めてワイヤレスへの期待と混乱が起きていると聞きます。ユーザーは、ニュースで聞いている5Gと現場のローカル5Gが違うというのでとまどいが発生していると。
中山 それは、おっしゃる通りだと思います。これは前職にいたときも5Gが神格化され、オールマイティの技術のようにとらえられていることには懸念を持っていました。5Gは決して万能ではなく、4Gの次に来る技術にすぎないという面があります。しかも、まだネットワーク作りが始まったばかりなのです。誤解は修正をしていかないといけないでしょうね。それ一つですべて出来るというオールマイティの技術ではないわけですから。
そこでも、現場力が本当のキーになってくると思います。5Gも絶対的ではなく、1つの技術にすぎないので、あるところは5Gでやり、あるところはWi-Fi 6でやり、あるところはLoRAWANでやりという、組み合わせをどう作っていけるかだと思います。これの現場感覚が大事だと思います。そういう技術者をどうやって育てるかということが、とても大切な課題になっていくと思っています。
中期経営計画でソリューション事業を強化
――御社の事業の状況と主な取り組みについて教えてください。
中山 ミライトの事業の基軸はキャリア事業です。通信建設の分野で、NTTはじめ固定系、移動系併せて売上全体の60%弱です。ファイバーの引込みや基地局建設などです。
そして、ICTソリューション事業が30%弱。PBX、LAN・WAN、Wi-Fi、IoT、カメラソリューション、ホテルソリューションなどです。
もう1つは環境・社会で15%、これはビルの電気設備、空調設備、道路設備、道路の照明、最近では再生エネルギーなどです。
これがミライトの全体像なんですが、今後はキャリア事業は残念ながらそんなに増えないで、だいたい平衡じわじわと微減していく状況です。そこで、ICTの領域、環境・社会の領域を、どう育てていくかというのが最大のポイントとなります。
――中期経営計画で、そうして成長戦略を出されているわけですね。
中山 スライドBが、中期経営計画です。今から10年前ぐらいは7割が通建業務(通信建設業務)だったのですが、それを2019年度(昨年)の決算値でいうと、さっき申し上げたように通信建設が57%、それ以外のところが43%となっています。我々はそこをソリューション事業とくくって呼んでいますので、さっきのICTと、それから環境・社会事業です。これに、IoTと5G、エネルギー、EMS(Energy Management System)、スマートシティにつながるスマート土木を加えて、何とか2022年度までに五分五分までに持っていきたいというのが、今の事業戦略ですね。
スライドの赤い領域をどれだけ増やせるかです。青い領域は比率は減っていますけど、絶対額はそんなに極端に減っているわけじゃないんです。相対的に赤い領域の比率をどれだけ増やしていくかというのが、我々の3~4年の事業戦略の核心ですね。
――通建業界では、「脱キャリア」「民営のソリューション事業強化」という言葉が、ずっといわれてきましたけど、いよいよそれを実態のあるものにしていくというのが今の基本戦略になるわけですね。
中山 私は「脱」じゃなくて「超通建」です。キャリアさんからいただいている仕事がベースにはなっているので、とても「脱」とは申し上げられないです。大切なベースロードなんですけど、それを「超えて」いかないといけないということですね。そういう意味では「超通建」という感じなんです。
――そうしますと、ICT、社会、環境のソリューション事業は「withコロナ」の中で効率的に伸ばしていく。そして、新しい要素としてIoT、5G、エネルギー、スマート土木、こちらの固まりをどう伸ばしていくかというのがポイントになるわけですね。
中山 そうです。市場がコロナ前とはだいぶ変わってきていますから、コロナ時代というか、コロナと共生しながらのIoTであり5Gでありスマートシティでありエネルギーでありなわけですから、そこをどうやって伸ばしていくかという課題になると思います。
――この事業戦略を進めていくための取り組みのポイントはどこなんでしょうか。
中山 現場力が最大のテーマになると思います。そして、我々の培ってきた技術という意味では、通信技術、電気技術という基盤があるわけですが、さらにMECが登場しているように、ネットワークのソフトウェア化・仮想化が進んでいますから、ソフトウェア技術がますます必要になってきています。
もう1つは、事業構造がキャリアさん相手のビジネスから一般市場相手のビジネスに変化していますから、マーケティング力、営業力の強化、ブランド力も必要になってきます。これも、大きな課題ですね。
Wi-Bizの新たな取り組みへの期待
――無線LANビジネス推進連絡会も、単なるWi-Fiから、テレワークも、GIGAスクールもそうであるように社会的に非常にこなれてきていますから、それをベースにしながら、新しいLPWA、ローカル5Gも含めて、ユーザー企業さんに最適なものを提供していくことを推進する団体に飛躍していく段階に入っています。
中山 以前は一時、モバイルとWi-Fiは、何かライバルというか、敵対する技術みたいなニュアンスがありましたけど、これからは本当に適材適所で、どうやって組み合わせられるかということだと思うのです。いいところを引き出しながら、それぞれの無線の良さを提供して、まさに自営ネットワークと公衆を組み合わせて、お客さんが最適なソリューションを得る時代だと思います。
多様な無線技術、さらに固定技術のなかで、この場所には何がベストなんだろうという基準とかスタンダードみたいなこと、1つの目安を教科書というか、そういったものをWi-Bizさんを含めて業界団体的なところでご提示をいただくと指標としてありがたい。そんなことをリードしていただくことを期待しています。
北條 ローカル5Gの案が出た時に、お客様のなかに「ローカル5Gが出たらWi-Fiはなくなるのではないですか」という話になってきました。お客様はニュースに大きく出ていることしか見ていませんからね。それで、無線LANビジネス推進連絡会はWi-Fiの団体ですが、ただWi-Fiだけをやっていてはお客様の理解を深めてもらうことができないと考えたわけです。いろいろな方式をどう組み合わせてやるかというのが最大のポイントになるので、当然、一つ一つの方式の中身を知らなければ優劣は説明できませんし、適材適所を説明できないので、そういう領域に踏み込むことにしました。
Wi-Fiの知識だけが深くてもローカル5Gを知らなければ、あるいは他のいろいろな方式も知らなくては、弱点も長所も分からないということになるので、Wi-Bizとしてもいろいろな方式の特徴をしっかりとつかんで、こういう場所はこういう方式がいいですよとか、こういう場所はこの組み合わせがいいですよと言えるようにしたいと取り組みを始めています。
私の出身はNTTBPですが、会社としても、今、申し上げたようなことをきちんと整理していかないといけない。たぶん他の会社もみんなそうだと思うんですね。無線のことをよく知っている無線系の会社は、それだけの知識をどうやって集めてきて、どういう適材適所で使うのかというのが、おそらくそれ自体がノウハウになって、ひょっとして差別化要素になるのではないかというのが。
Wi-BizはWi-Fiで始まった団体ですが、そういう時代の変化のなかで、新しい取り組みを始めているところです。
中山 それは私たちの期待感のど真ん中のところだと思います。お客様のなかには、Wi-Fiなのか、ローカル5Gなのか、4Gで十分なのか、旧来のWiMAXなのか、それともWi-Fi 6なのかということをすごく勉強されている方が沢山いらっしゃる。私たちは、そこの最適化、見える化ということをずいぶん意識しています。無線の見える化を実現し、お客様が手に取るように分かるようにしないと、なかなか前に進めません。そういうことも含めて、Wi-Bizさんと一緒にビジネスを前に進めていければ嬉しいです。
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