イベント報告 第13回技術セミナー
「Wi-Fi最新動向」をテーマにオンライン開催
技術・調査委員会 塚本 潤
1月22日、第13回目となる技術セミナーを「Wi-Fi 最新動向」をテーマに開催しました。前回に続き、講演の登壇者やスタッフも、自宅・会社などそれぞれの場所から参加するオンライン開催でしたが、140名を超える多くの方の参加登録を頂き、盛況に終えることができました。
会長挨拶
司会は技術・調査委員会の小松直人委員長が務め、冒頭に北條博史会長から挨拶がありました。
昨年は新型コロナの影響で人々の生活が大きく変化し、多くの企業がテレワークを導入し、Wi-Fiもなくてはならないものになったと述べました。テレワークで仕事の効率が上がった人がいる一方、従来型の業務がテレワークではうまく進められない人もいる。ニューノーマルな働き方を実現するためWi-Bizでも取り組んでいくと強調されました。
昨年は5Gが始まり、ローカル5G活用の取り組みが広まっている。Wi-FiもWi-Fi Hallowや国内外での6GHz帯利用など新しい動きがあった。多様な無線方式をどう活用するかが課題であると提起されました。
無線LANの性能試験TR-398とは
講演は最初に、アリオン株式会社のスーパーバイザー 田中慶様が登壇し、「無線LANの性能試験TR-398とは」と題しお話しいただきました
まずアリオンの会社紹介で、主にロゴ認証試験サービスを提供しており、Wi-Fi、Bluetoothなどの無線企画やHDMIなどの有線規格を試験しており、Broadband Forum(BBF)よりTR-398のテストラボとして認定されているという説明がありました。
その後、TR-398について、試験対象はAPで性能を測定する試験であること、①無線能力、②通信速度、③空間的な均一性、④電波の公平な利用、⑤接続能力、⑥安定性/堅牢性がキーワードであると述べました。TR-398試験とWi-Fi試験を比較し、TR-398は規格団体への加入が不要であること、認証制度や認証ロゴがないことが違いを述べました。その後、APとSTAを2m離して設置する等の基本の試験構成やマルチチャンバー式の計測器を紹介しました。
最後に、全11項目(必須10項目)の試験項目について説明しました。入力電波強度を下げていき受信可能なレベルを測定するReceiver Sensitivity Test(Optional)、32台のSTAと同時に接続・通信ができることを確認するMaximum Connection Test、最大通信速度を測定するMaximum Throughput Test、電波の使用時間が公平になっていることを測定するAirtime Fairness Test、通信距離と速度の関係を測定するRange Versus Rate Test、指向性を測定するSpatial consistency test、複数のSTAが複数の距離にある場合の通信速度を測定するMultiple STAs Performance Test、接続/切断処理を行っても既存の接続に影響がないことを確認するMultiple Association/Disassociation Stability Test、MU-MIMOが動作しているときの性能を測定するDownlink MU-MIMO Performance Test、24時間の動作を確認するLong Term Stability Test、別のWi-Fiネットワークが存在している場合の動作を確認するAP Coexistence Testを、順に紹介しました。
無線LANブロードキャスト IEEE802.11bcの概要と期待
次にコーデンテクノインフォ株式会社の代表取締役、眞野浩様に登壇いただき、「無線LANブロードキャストIEEE802.11bcの概要と期待」と題し講演していただきました。
はじめにIEEE-SAにおける標準化の基礎について説明があり、標準化の成功とは、市場形成をリードしブルーオーシャンを作ることであり、802.11は世界で最も成功した標準化であると述べました。標準化は新しい市場を喚起するものであり、狭いパイを分け合うよりも、より大きな市場を生み出すことで大きなパイを分け合うのが目的であると強調しました。
続いて、IEEE-SAにおける標準化の基礎について説明があり、IEEEのポリシーとして誰でも参加できることと透明性を大事にしていることを述べました。さらにIEEE-SAにおける標準作成の流れについて紹介しました。
そして、IEEE802.11bcについての紹介があり、無線LANで放送を行う理由として無線はそもそも放送向きであり、ブロードキャストの仕組みが既にあり、免許が不要であることを挙げました。さらにユニキャストに比べたブロードキャストのメリットとして、トラフィックがユーザ数に関わらず一定であることを述べました。ダウンリンクだけでなくアップリンクの送信も可能であることを示し、スタジアムライブストリーミングなどのユースケースを紹介しました。デバイスやコンテンツ等の想定しているシステムの説明があり、提案中の認証方式を紹介しました。
MAC認証や位置情報が使えなくなる!?Private MACアドレス説明と影響について
最後に「MAC認証や位置情報が使えなくなる!?Private MACアドレス説明と影響について」と題し、シスコシステムズ合同会社シニアプロダクトマネージャ//Wi-Biz技術調査委員会副委員長の前原朋実様が講演しました。
はじめにiOSを取り上げ、iOS14からは実際のMAC アドレスではなく、デフォルトでランダムに選択された Private MACアドレスを使い通信を行うように変更されることを説明しました。続いて、Private MAC採用に至った経緯として、位置情報を取得されていることに気づいていない一般利用者の認識とプライバシーを守りたいデバイスメーカーの意見を説明しました。日本におけるこれまでのMACアドレスを利用したWi-Fi位置情報の扱いとして、個人情報に準じた形として取り扱うことが適切とされていることと、システム側とユーザ側の対応を紹介しました。各OSのPrivate MACの対応状況をまとめ、iOS14やAndroid10,11ではデフォルト有効であることを示し、様々な製品/機能が影響を受けることを説明しました。各製品/機能におけるワークアラウンド方法を紹介し、ビジネスのためにプライバシーを犠牲にするべきではなく、他の技術を使うことで解決できることもあると強調しました。最後にプライバシー配慮はグローバル単位のトレンドであり、Private MACもその一環であるとまとめました。
QAセッション
講演中にとどいた質問に対し、登壇者が回答する「QAセッション」を実施しました。司会は技術・調査委員会本橋副委員長が担当しました。
「無線LANの性能試験TR-398とは」
Q 表にでないものも含めて、市場製品の何%くらいが、TR-398を取得されているのか?
A 正確な数字は回答できないが、相当数が取得している。
Q どの業界の方がこの試験を利用されているのか?やはり機器開発ベンダーが多いのか?
サービス提供者や利用者からもあるのか?
A 主に機器ベンダーが受験している。
Q Broadband ForumはWi-Fi Allianceと連携しているのか?
A 団体間の関係は把握していないが、交流はしていると思う。
Qベンチマーク結果を公表しているか?
A 公表はしていない。
「無線LANブロードキャストIEEE802.11bcの概要と期待」
Q 無線区間のブロードキャストだけではなく、コンテンツ配信元から有線ネットワークのブロードキャスト、マルチキャストの対応が必要か?
A APが対応していればよい。APがマルチキャストフレームに返還する。
Q ユースケースはすごく魅力的ですが、標準化を進める上で一番ご苦労されていることは何か?
A 名前を憶えてもらったり、意見が通ったりするまでに時間がかかる点
日本人が増えているのは良いが、メーカーの人が少ないのでチップを触れないのが悲しい。
Q 802.11bbとしてWi-Fiの規格化を進めているとどこかで拝見したことがあるが、こちらについて現在標準化は行われていないのか?
A 802.11bbは、現在WGでドラフト作成中である。
「MAC認証や位置情報が使えなくなる!?Private MACアドレス説明と影響について」
Q MACアドレス認証などは今でも結構使われており、リソースプールの枯渇など影響が大きいと感じた。広くアナウンス行うような取り組みはあるか?
A .各APメーカーが周知している。ユーザが急に繋がらなくなって問い合わせが来ている。
Q MACアドレスの頭から2番目がA.2,6,A,Eであっても、PrivateMACでない可能性もあるか?
A 2番目にA.2,6,A,Eが来るOUIはないのでPrivate MACと考えて問題ない。
Q Apple、Google、Microsoftの各社のOSでは、Private MACになっている認識だが、既に影響は出ているか?特に困ったことがあれば、共有いただきたい。
A 大きな影響は見えていない。キャプティブポータルの状態遷移でMACアドレスを使っていて、認証画面が2回出たりするトラブルが起きた。
Q 調達仕様で未だにMAC認証が書かれることがあるが、どのようにユーザに啓蒙すればよいか?
A 総務省がMACアドレス認証を企業向けでは使わないようにアナウンスしているので紹介するとよい。
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