活動報告
第5回セミナー
「中国の5G、ローカル5G、Wi-Fiの現状と今後」を開催
企画・運用委員会
1月26日、企画・運用委員会主催の第5回のセミナーを開催しました。前回に引き続きオンライン形式(Zoomを利用)で、実施しました。
ご講演者である華 金玲氏と小林顧問とのご縁があって本講演が実施できる運びとなり、会の冒頭には、小林顧問より開会のご挨拶をいただきました。インターネット記事くらいでしか知りえる機会のない、中国における5G、ローカル5G、Wi-Fiのワイヤレス事情について、今回ご講演いただけるということで非常に有益なことであり、楽しみである旨、ご挨拶がありました。
華 金玲氏は、慶応義塾大学・総合政策部で非常勤講師として、中国移動体通信の政策研究等進められており、今回は「中国の5G、ローカル5G、 Wi-Fiの現状と今後」と題して、先進的な中国の5GやWi-Fiをはじめとする最新のテクノロジーや、政策事情、Covid-19への対応など、分かりやすくご講演いただきました。
講演の概要は、以下の内容となります。ご参照下さい。
【写真①】
① 中国5Gの現状
急速に発展する中国の携帯電話市場と5G市場
中国における携帯電話の利用者であるが、2019年度末の時点で約16億ユーザー、うち5G利用者数は2.5億ユーザー(携帯電話市場で約15.7%)となっている。中国の5G政策は2013年から始まっており、2019年6月には5Gのライセンスが通信事業者4社に認可され、2019年11月には5Gサービスがスタートした。さらに2020年に入り、コロナ、すなわちCOVID-19対策としての5Gが注目され、地方への5G政策にも急速に活用されることとなった。2018年では重点地域からNWの整備が始まり、2019年には50の都市、そして2020年には全国の主要都市(293の都市)にまで広くカバレッジすることとなった。(日本的な感覚で言えば、都内、神奈川県横浜市、藤沢市、海老名市といった中核地方都市くらいの感覚、とのこと)
5G利用周波数
中国では3つの大きい通信事業者がサービスしているが、このうち中国聯通(China Unicom)は利用者数を発表していない。中国移動(Chine Mobile)の5G利用者数は中国電信(China Telecom)の約2倍の利用者数となっている。携帯電話市場全体では、中国移動が全体の6割程度を占め、次いで、中国電信、中国聯通となっている。ただ、5Gの利用者割合では中国電信がやや上(約25%、中国移動が約18%)となっている。
5G端末事情
2020年間5G携帯電話の出荷量は1.63億台、携帯電話市場台数の5割を超える割合になっている。5Gニューモデルは累計218機種出ており、年間端末全体でも47%を占める割合である。最も人気のあるのは、華為である。端末売り場は、家族連れで楽しめるようなスペースとなっている様子がわかる(北京市2019年12月の様子)。
【写真②】
5G料金・サービス
2020年6月8日より、三大通信事業者は6.18商戦ということで大きなプロモーションを打ち、利用量・料金の大幅な改定をしている。中国における、パケット料金の推移と消費で見ると、1GBあたり、およそ約75円程度で、個人の場合は80元(1,280円)以下、5Gの場合は120元(1,920円)以下程度が、中国人の常識的な額である。
基地局・サービスエリア
2020年開通した5G基地局が71.8万であり、中国移動と中国聯通の共同建設は33万基、中国移動が1社のみで38.8万基である。中国のGDPは2020年4Qでは+6.5%となっており(Covid-19で2020年1Qはマイナス)、そのような中、通信事業者は5Gに前年比9.9%増の設備投資を実施している。なお、2021年目標は60万基である。
北京市2020年5月における5Gサービスエリアでは、ほぼ全域で使える状況である。
【写真③】
一方、広州市・深圳市における実証実験のデータにおいて、5G基地局の電力は4Gの 3-4倍の電力となったと発表があり、論争を巻き起こした。全人代でも大きく取り上げられ、改善が必要であるとの論調になり、電気料金の引き下げ等、多くの施策が出ている状況となっている。
主要都市5Gカバレッジとサービスの特徴
北京市、上海市、天津市、深圳市、杭州市、武漢市といった主要都市ではすべて5Gが利用できる状況にあることがわかる。
【写真④】
5Gの基本料金は4Gより高いが、パケット料金は4Gと比べて割安のため、4Gの基本料金プラン+5Gパケットパックの組合せが一番選ばれやすい。
中国では主に3つの利用者パターンに分かれている。1つは、「料金節約型」とも言うべき、4G端末+5G料金プランのタイプ。また、「端末先行型」とも言うべき、5G端末+ 4G基本料金プランのタイプ。最後に、「消費志向型」とも言うべき、5G端末+5G料金プランのタイプである。中国ではデュアル端末が人気のため、SIMカードが2つあり、Networkも端末で選択できることが可能となっている。
②中国ローカル5Gの現状 概況
中国のローカル5Gは、もちろん実施される方向で進んでいるように思われるが、ローカル5Gの用語自体は統一されておらず、いろいろな言い方がされているような状況である。(5G専用ネットワーク、垂直産業、企業内部ネットワーク、工業インターネット、など。)
周波数は未だ制度化されているわけではないが、特に先進的な広東省は国へ要請もしている状況である。主な申請(2020年3月27日)は以下の通りとなっている。
1.8G帯域→交通、空港、港、AI工場等
1.4G帯域→政府業務オンライン
5.9-7.1G帯域→政府業務、公安、危機管理、電力網、高速道路、主要機器製造、サイエンスパーク等
2020年11月3日に、「工業Internetモデルプロジェクト」の申請が開始され、105社からの申請がなされた。5G応用では、IoT、工業インターネット、IoV (Internet of Vehicles)が最大のソリューションになると工業情報化部の部長の発言もあった。
5G+工業インターネットPJ成果展覧会
2020年11月に、5G+工業インターネット成果展覧会が武漢市で行われた。2020年に武漢が全世界的に知られるようになったことから、あえて中国の5G関連の発信も武漢から行うという政策的な思惑があってのことと想像されるが、EVや5G+工場、ドローン等様々な発表がされた。北京大学のヤン教授(元・工業情報化部の部長)によれば、5Gの端末について携帯電話だけではなく、テスラの車も5Gの端末の一つである、と明言されている。
5Gユースケース
ブルーミングカップと呼ばれる5Gユースケースコンテストが2018-2020年の3ヵ年で行われている。コンテスト応募者割合では、いずれも通信事業者がもっと高く、2020年度では70%を超えている。AI、Bigdata、エッジコンピューティング、クラウド、バーチャル専用ネットワーク(ローカル5G)が上位トップ5となる。特に特徴的なのが、2020年応募件数の31%が既に商業化しており、53%が既に開発済みから商業化に向けた試運転の段階にあることがわかる。
③ 中国Wi-Fiの現状 概況
COVID-19の影響を受けて、2月以降、デジタル化が急速に発展してきており、Wi-Fiも例外ではない。2013年から成長し、2020年以降、5GやFree Wi-Fi Hotspotも多く見られるようになっている。政府関連、病院、また、移動中のバスの中など、様々な場所での利用が可能となってきている。
商業Wi-Fiには、サービスを提供している事業者別でみると、飲食店が最も多い(31.7%)。次いで、生活に密接した場所(27%)となっている。この密接した場所というのは、学生で言えば学校、あるいはサラリーマンで言えば、企業のようなイメージをしてもらえればと。利益構造は、6割が広告による収入となっている。次いで、接続機器、サービスと続いている。
次に、Mobile internetアクセスの概況であるが、2014年に、3G+Wi-Fiが約4割であったものが、2018年では顕著に伸びていて9割までになっている。あらゆる産業で使われるようになっているといえる。
3大通信事業者の発表による、ギガビット時代
中国移動が2020年5月17日発表し、5Gパートナー大会にて「ギガビット時代」を発表。具体的には、2020年6月よりWi-Fi6関連機器を集中調達、2020年9月にWi-Fi6時代に突入。2020年年末には2000万世帯向けにサービスを開発し、Wi-Fi6ユーザー500万人を目標。
中国電信も5月17日に、「ブロードバンド+5G+ギガビットWi-Fi6」を起動したと発表した。特に、上海電信は高速鉄道、デパート、植物園等の公共エリアにてWi-Fi6サービスを開通することを発表している。
中国聯通も同日に新聞記者会見を行い、「3ギガビット時代に突入」を宣言した。Wi-Fi6関連端末製品を全面的に導入し、家庭内ギガビット業務を迅速に。
5Gとの関係で言うと、5Gは主に屋外、Wi-Fiは空間が限られている屋内といった捉え方をされていると言えます。
実際のWi-Fi6利用シーンと5Gとの関係
2020年3月6日、深圳市において、中国国内で最初の5G + WIFI6補完通信型として、地下鉄駅内、あるいは工場内ソリューションの実証実験がなされています。機器メーカは華為、通信事業者は中国聯通でした。
また、深圳市の友人のレポートによれば、深圳市政府が公衆Wi-Fiを提供しており、SMS登録で1週間使える。しかしながら、使える場所は市役所、区役所と限られていて、まだまだ使い物にならないようである。これはどこの都市でも変わらないのではないか。
深圳市の5Gの実情では、市中心部の高速道路を100kmぐらいで走行中であっても、5Gの電波とハンドオーバーは問題なくつながり、速度も早い。ただ、地下などにいくと4G回線に落ちており、その時間が長いようだ。
IoT・IoE時代ではWi-Fi6と5Gは相互に補い合う関係とされている。主としてWi-Fi6は屋内、5Gは屋外とされているが、Wi-Fi6 技術の導入が5Gネットワーク建設の商業化を推進することにもなると思われる。付け加えると、市場予測においても、2020年度からWi-Fi6の機器が伸びていくと予測されている。なお、本市場の最大手はやはりここでも、華為である(16.8%)。
5G発展の背景とCOVID-19における5Gの応用
どうして、中国において5Gが一気に広がったのか。それはやはりCOVID-19の影響が非常に大きかったと言える。本来の政府計画では、2020年に商用化の予定であったが、韓国、米国での相次ぐ商用化、そしてCOVID-19で大きく取り上げられ、俄然注目されてきたというのが背景としてある。
例えば、武漢市のロックダウンがあり、10日間で一気に病院を建設したが、Onlineで建設現場を見ることができるという事例が、中国では一番注目されたのではないだろうか。また、病院のCT自動検査などが導入されている(上海の病院では93%が自動検査で行われている、とのこと)。
活躍したシステム例でいうと、通信車、ドローン、消毒検温、ヘルメット、隔離施設での物流、配膳、配送のロボット、QRコードを用いたシステムが挙げられます。特にQRコード活用のシステムは、もともとアリペイに搭載されているシステムだったが、1週間の開発を経たこのシステムを、全国の国民が利用している状況である。3色(緑、黄、赤)のコード表示されるもので、緑色だと通行OK、黄色はNG、赤色は隔離、といった利用のされ方をしている。
また、移動型PCR検査車(5G回線付き)といった使い方もされています。これは1日2万人のPCR検査が可能で、データは即時にリアルタイムに反映、分析されるといった使い方をされています。
【写真⑤】
ライブコマースも注目される使い方である。人の移動が制限されて、直接的な対面による商売が制限される中、5Gを利用したライブコマースで、地方都市での特産品をTmall(天猫)などのオンライン市場でやり取りされる、そのような世界に急速に変わりつつある。中国では、その他にも、5Gのインフラをベースに、養豚場や鉱山、農業、といった分野で活用がされている。
質疑応答
Q:5G/ローカル5Gについて、サブ6が基本的に使われているようだが、ミリ波は使われているのか?
A:まだ発表がされているわけではないが、実用化直前のようであり、チップの開発もできているようだ(4月)。端末開発も出来てきており、商用化に向けて1年以内といったところでは。
Q:通信キャリアとの契約なしにWi-Fiだけでインターネット利用するユーザーがいますか?どれくらいの比率ですか?
A:家にいるときは、家のブロードバンドでの契約、家以外でサービスプロバイダーと契約するケースがある。パーセンテージはよくわからない。
Q:Wi-Fi6Eは中国ではどこまで進んでいるのか。どういった状況なのか?
A:市場に出ている機器は6Eに対応していくというケースが多いと想定される。
Q:日本では、5.9GHz帯とかはETCで利用される周波数帯であるが、中国でも6GHz帯周辺は自動車等での周波数利用というイメージか?
A:周波数の制定制度が非常に慎重に扱われていて、断言する回答が難しい。
Q:EVシェアが中国では非常に高いが、自動運転の実用化に向けてはどのくらい進んでいるものか?
A:大連市では、無人でのEV Carが来るので体験的に利用してみないか、と自治体が募集していることがありました。また、テスラが値下げされて、オンラインでパンクするくらいのオーダが入っていると聞いている。中国の大都市では、車のナンバーを取るのに、非常にお金がかかる(クルマの2,3倍)という状況がある。EVのほうだと国から補助金も出るし、個人的にもテスラが欲しい(笑)。
Q:家庭内におけるWi-Fiの普及率は?
A:中国人の感覚だと、パケット代は非常に高く感じられ、パケットを使わない志向が高い。外に出ていると、まずWi-Fiを探す、また、ショッピングモール、商業施設でのWi-Fi利用が当たり前という感じである。10人中10人がWi-Fi使うといってよい。
また、中国ではオンラインゲームが非常に発達していて、特に若者の利用が盛んである。
Q:Wi-Fi普及度の中国と日本の違いはどう感じますか。
A:中国では、ホテル、飲食店、モールほとんどであるイメージ。一方で、日本では、Wi-Fi使えるところは少ないという感じを受ける。ストレスなく中国では利用できるイメージ。
Q:中国と日本のWi-Fiの何年くらいの違いがあると感じられますか。
A:単純な何年前という比べ方ではないと思うが、少なくとも5年くらい前?の感覚でしょうか。キャリア、ベンダからの発展、主導で来ている日本と、新しいものを使いたい中国という違いがある気がする。
Q:アプリ内課金、広告といったビジネスの仕組みがWi-Fi市場(利用)の中に入っていける環境が中国にあるという理解でよいか。
A:その通りでいいと思う。回線についてはキャリア、コンテンツについては、サービスプロバイダーとすみわけて、ビジネス構造もできているのではないか。
Q:COVID-19におけるQRコード活用はどのような仕組みなのか。
A:中国人は大体、ウィーチャットペイ、アリペイを使っているが、そのQRコードの仕組みを使っている。バックデータとしては、キャリアのGPS等のデータを利用している。これは過去の移動履歴(時間的な位置情報)などを利用している。
公共の乗り物などを利用するとき、必ず、QRコードをスキャンする必要があるのだが、このコードが黄色、赤色になることがある。これは、感染者がいてその時間・場所の接触状況でコードの色が変わるものである。例えば、ロックダウン環境下では、みんな赤になるし、接触状況があれば黄色に変わるといったイメージである。(黄色になると、当時では14日間に加え、さらに7日間を追加した、計21日間は黄色いまま)
Q:Wi-Fi6でもできる気がするがなぜ5Gなのか?
A:5Gである技術的理由は薄いと思う。5Gなのはイノベーションというか、使い方が先に来ているから、ではないか。
Q:中国における5Gのコストはどれくらいの価格感なのか?
A:中国では、キャリア5Gが先に発展して、ローカル5Gという流れだが、日本では、キャリア5Gが発展する前からローカル5Gを聞く。そこの流れの違いによる、装置の低廉化が中国のほうでは効いている、という感じを受ける。
Q:デジタルに乗り遅れた人、デジタルデバイドの取り組みはどうなっているか?
A:社会的な問題である。バス、電車に乗れる・乗れないという問題に直結してしまう。年配の方は乗れない、また、子供などは保護者と一緒に乗るということをしないといけない。国も把握している。電子的な仕組みが発達しつつも、入場証提示で乗れる仕組みも出来るよう、改善等進んでいるところである。
講演を終わって
今回の配信は前回同様、Zoomを利用しましたが、日頃から慣れていらっしゃるのか、華氏の講演も始まるとスムーズに進んでいた感じがしました。中国のワイヤレス事情を聞き、中国のほうが5年先に進んでいるという事情を聞いて、改めて衝撃を覚えるとともに、昨年のCOVID-19による社会変容が至る所に現れているのだということを改めて感じました。
実際の華氏の講演の様子
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