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岐阜県富加町が防災Wi-Fiを整備し
00000JAPANを二度発動した経験から

富加町役場総務課企画係主任
森 勝也氏

 

2月9日、総務省主催の「今後の公衆無線LAN(Wi-Fi)の整備・利活用に向けた自治体向けオンラインセミナー」が開催され、「公衆無線LAN優良導入事例」として岐阜県富加町役場総務課企画係主任の森勝也氏の講演が行われました。講演の抄録を掲載します。

 

私は、富加町役場の総務課の企画係というところに所属しております。
富加町では平成30年から令和元年度の2年度にかけて「防災Wi-Fi」を整備しまして、実際に整備しただけではなくて、令和元年度と令和2年度(本年度)に1回ずつ「00000JAPAN」を発動する機会が実際にありました。
本日は、防災Wi-Fiの導入から実際に00000JAPANを発動するに至るまでの経験をお話しさせていただければと思います。

濃尾平野の小さい町での取り組み

岐阜県の中で中央部の南部にある小さい町が富加町でございます。下に愛知県がありまして、名古屋から車で1時間20分ぐらいの場所にあります。この一帯は濃尾平野というところで、富加町は北の端っこになります。北に行くと山がちになっていきますが、平野部でこれだけ小さい町というところがポイントになってきます。
富加町は日本最古の戸籍「半布里戸籍」ゆかりの町でございます。江戸時代から続く酒蔵に松井屋酒造がありまして、地酒とか、イチゴの栽培もやっています。岐阜県は「美濃娘」と「濃姫」という2つあるのですが、富加町は「濃姫」という品種のイチゴの栽培が盛んです。

 

 

人口はおよそ5,700人で、岐阜県では下から4番目ぐらいに小さい町です。面積は4キロ四方ぐらい、16km²のすごく小さい町です。財政力指数は0.49と決して高くはないんですが、防災Wi-Fiを入れたときの財政力指数が0.45でしたので、ここ2~3年でちょっと上がりました。予算規模は30億円で、県下最下位レベルの予算規模ですけれども、町がコンパクトなので、予算もコンパクトになっています。
職員数が76人、保育士も含めた人数なので、町長部局の職員は50人しかいないという本当に小規模な自治体です。富加町60周年を記念して作られたゆるキャラですが、日本最古の戸籍の半布里戸籍にちなんだ「とみぱん」というキャラクターがおります。

「観光Wi-Fi」を整備から着手

防災Wi-Fiを導入するに至った背景をご紹介させていただきます。平成30年度に防災Wi-Fiを入れる前に、平成28年度から「観光Wi-Fi」を整備しておりました。富加町の観光情報アプリをWi-Fiで使えますというフリースポットで、このWi-Fiを使って観光情報を見てもらうというようなシステムになっております。鉄道の富加駅や、富加町の歴史を紹介する富加町郷土資料館などでWi-Fiが使えるような環境を整備いたしました。

 

 

そして、やはり何といっても近年、豪雨や台風による避難所開設の機会が増えたことが一番の背景です。例年、避難所の開設は、だいたい1年に1回あるかないかぐらいですけれども、導入の前年の平成29年は、避難所を開設する機会も多く、また災害対策本部を設置するような被害が多かったのです。そういったことが背景にあります。

 

 

当時、避難所の開設もまだ慣れていなかったので、避難所の運営が終わった後に反省会をしたんですけれども、避難者の方からは避難所での情報収集というご意見をいただくことがありました。公民館にテレビがなかったので、避難した方から「今、いったいどうなっているか、情報が得られない」というような意見があがったり、「河川の水位の上昇や氾濫等の情報が分からない」というような意見が出ました。
ここにはテレビを導入する処置を取ったのですが、富加町の河川の水位の情報や氾濫等の情報はテレビを導入したら分かるのかということが課題となってきました。
今ですとインターネットや防災アプリなどを見ると、河川の水位の情報とかもすごく詳しく出てきたりしますので、テレビ以外の情報の整備が要るのではないかなという課題意識を持つようになりました。

総務省の説明会がきっかけ

さて、防災Wi-Fiのきっかけなんですけれども、総務省の方が防災Wi-Fiについて説明していただける機会があり、それに参加したことが大きな機会になりました。何か新しい情報収集の手段がいるのではないかという課題意識がある中で、説明会の内容を当時の担当者が役場の中に持って帰りまして、部内で協議した結果、やっぱり防災Wi-Fiはいるよねという結論になりました。
しかしながら財源確保が非常に大事になってきまして、富加町は財政力指数が当時は0.45ぐらいですので、公衆無線LAN環境整備事業補助金で事業費の2分の1が補助されるというところを、予算要求時にヒアリングで説明させていただいて、見事無事、予算獲得となりました。
そうした形で予算要求は通ったんですが、Wi-Fi整備の当初予算を組んだ後に、議会での質問でWi-Fi整備の必要性について質問がありましたので、その時のことをご紹介させていただきます。
携帯電話の4Gだとエリアが広く取れるがWi-Fiはエリアが限られるのに、Wi-Fi整備を町として推進していく意義は何なんですかという質問がありました。議会の答弁では、「携帯電話は一般的にはユーザーは容量が限られているプランで契約しています。その点、誰でも無料で使える公衆Wi-Fiの整備は意義があります」というお答えをしております。あと、「今は情報収集ツールとしてはスマートフォンやタブレットです」という点や、「熊本地震では一部地域において通信事業者の電波が止まってしまったので、フリーWi-Fiへのアクセスは平時と比較して増えた」ということも議会の質問で答弁させていただきました。

指定避難場所に設置

では、導入いたしましたWi-Fi設備について説明します。導入箇所ですが、富加町は町が小さいので、指定避難所となっている公共施設には全てWi-Fiを導入させていただきました。先ほど2か年で導入したと説明しましたが、子育て支援拠点施設だけが土砂災害警戒区域の見直しのため30年はやめて令和元年度に整備したという経緯があります。あと、小学校・中学校は体育館だけ整備してあるような形で、教室とかは別の補助金で対応するような形になります。

 

 

富加町の既設のネットワークについてです。平野部の平坦な町だと申しましたが、各拠点の見通しが利くので、全て富加町の役場と無線でつながっています。真ん中に富加町役場があり、各拠点、公民館、小学校、子育て支援拠点施設は全て1回、役場の電算室を通って、そこから外部へ通信が通っていく形となっております。
システムの構成図としては、これは子育て支援拠点施設ですけれども、拠点から役場に飛ぶという通信システムは、すでに既設でありましたので、今回、防災Wi-Fiの導入ということで整備させていただいたものは、庁舎の電算室の中に認証サーバを入れること、各拠点においてはアクセスポイントを付けるだけという、非常にシンプルな導入となりました。

 

 

防災Wi-Fiを入れて、避難所を開設する機会が増えたといっても、1年で多くて4回くらいが想定されるので、平時に使わないのはもったいと、平常時は職員および各施設の利用者がWi-Fiを利用できるようにしております。職員用のSSIDと一般用のSSIDの2つに分かれておりまして、職員用はパスワードがかけてあって一般の方は使えませんとなっております。一般用はSNSやメールを用いた認証と60分の使用時間の制限があるといった仕様になっております。
平常時、来庁者の方、施設の利用者の方に、ぜひとも使っていただきたいということで、接続の仕方の手順や、iPhoneの場合はここを押してください、Androidの場合はここを押してくださいねというようなことを、各施設の壁や掲示板に掲示させていただいております。これで施設利用者への使用を促している状態でございます。

 

 

平常時はそういう運営ですが、いざ災害が発生したときには災害用統一SSIDである「00000JAPAN」に切り替えを行います。平常時のSSIDは「tomika-bousai」ですが、00000JAPANを発動した時はこのSSIDは消え、00000JAPANに変わります。平常時と災害時を比較すると、平常時はメールやSNS認証があったり、60分の時間制限があるんですが、00000JAPANを発動したときはメールやSNSの認証がなく、時間制限もないので、どなたでも使っていただけるようになっております。

 

 

発動方法ですが、00000JAPAN発動時には特にサーバとかに触らなくてもいいような方法を採用しました。ドアの鍵のような「Wi-Fiモードセレクタ」をガチャッとひねるだけで発動するシステムとなっております。災害は24時間いつでも発生するものですので、発動の仕方、サーバの操作の仕方を忘れたといって、例えば夜中や土日の深夜などに業者さんの対応は難しいので、職員が簡単に発動できるような仕組みを導入したわけです。
富加町のような小さい自治体には、専任の情報システム担当みたいな人はいないんです。何せ50人しかいないので兼務また兼務です。この3年間で2人、担当が変わっているので、スキルもばらばらなんです。職員のスキルに依存しないようなシステムを導入することは大事と思います。

いざ発動してみて

実際に00000JAPANを発動した経験を紹介させていただきます。富加町では、00000JAPANの発動基準は避難所が開設された時としています。これのみです。「ガイドライン」としては災害発生後72時間以内に発動となっていますが、シンプルな運用を取ったということです。
いざ災害が発生し、災害対策本部でみんなが情報収集とか、すごく慌ただしく動いている時に、発動の基準となるいろいろな情報を集められますか。やはり「避難所が開設された時」と決めておくと、情報を収集して判断するというステップは考えなくてもいいので、富加町はシンプルな運用をしております。

 

 

発動の1回目は令和元年8月、台風10号の時です。台風の暴風警戒域の東の端っこが富加町を通るか通らないかという時でした。その前の平成30年7月豪雨は特に被害がひどかったので、その経験から早めの避難所開設判断をしたのです。
台風が来るか来ないかという状況だったんですけれども、役場が閉まる前に17時には自主避難所を開設するという方針を決め、併せて00000JAPANを発動するという運用をしました。結果は自主避難者が1名だけで、台風も西日本にそれていきまして、大きな被害はなかったのですが、良い訓練になりました。
ここで大事だったと思ったことは、00000JAPANの「発動マニュアル」が、きちんと整備されていたことです。シンプルな運用、開放自体も鍵をひねるだけで簡単なのですが、さらに念押しでマニュアルに分かりやすく書いてあるということで、躊躇なくスムーズに発動することができたのです。
公衆無線LANの補助金の実績報告にも、マニュアルを出してくださいとなっているのですが、実運用上、とても大事だと思います。A4の紙1枚で、数行の文章と保守業者さんの電話番号が書いてあるぐらいの簡潔なマニュアルなのですが、これでスムーズに発動をすることができました。
無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)に富加町は参加しておりますので、00000JAPANを発動したらメーリングリストに展開してくださいということになっています。それによって、Wi-Bizに加盟している団体にも連絡がいって、「富加町が発動したんだな。じゃあ、うちも発動するかどうかを考えようか」という情報共有にもなりますし、Webページにも掲載されて、報道関係の方が見に来たりするということで、情報発信もできたかなと思っております。

2回目の発動の教訓から

2回目の発動は、今年度(令和2年)7月豪雨のときです。岐阜県内でかなりの被災がありまして、下呂市では国道が崩れてしまうとか、非常に大きな被害がございました。岐阜県では人的被害も出てしまい、大雨特別警報が発令されるなど、非常に大きな災害となりました。幸いにも富加町には大雨特別警報が発令されなかったものの、災害対策本部が設置される事態となりました。夜中の3時に大雨警報が発令され、8時10分には避難勧告、8時半には災害対策本部が設置されました。

 

 

この2回目では、実は反省点がありまして、夜中の3時に警報が発令されて、6時半に自主避難所を開設しています。そこですぐに00000JAPANを発動しているはずですが、実際には12時半まで空いてしまいました。原因は、単純に抜けていたということです。夜中から朝にかけて災害対策本部設置のどたばたとかで、気が回らなかったということです。
1回目の時は、17時に自主避難所ができると分かっていたので、スムーズにできたのですが、2回目は残念ながらうまくいかなかったというのが反省点です。ですが、ホームページでの自主避難所を開設しましたというお知らせやLINE配信、メール配信はきちんと直後にできていますので、00000JAPANの発動もホームページに載せる、メールを送ることと一緒のレベルで、ワンセットですよと考えていくことが大事かなという反省があります。
幸いにも富加町に大きな被害はなく、避難者は6名でございました。発動時のログを保守業者に見ていただいたんですけれども、発動時には接続数が増加しました。平常時は一日300接続ぐらいだったものが、発動時は一日500接続ぐらいになりました。利用接続が大幅に増えましたので、職員含め利用のニーズがあったのかなと思います。
ただ、避難した方は6名ですので、200接続も増えたのは避難された方だけではなくて職員も使っていたからではないかと思います。実際に職員から「00000JAPANを発動したね」とか、「これはタップして接続していいんでしょう」とか、そういうレスポンスがありましたので、実際に職員も避難所に行くわけで、職員にも使ってもらえるということは大きいかなと思います。

2回目の発動のときもWi-Bizにメールで情報を展開したのですが、Wi-Bizは2020年4月から「Lアラート」の発報という運用を始めていまして、私は知らなくて普通にいつも通りのつもりでメーリングリストに展開したんですけれども、Lアラートが実は発報されていました。

 

 

富加町からは直接Lアラートを発報するという運用をしておりませんので、富加町からはWi-Bizにメールにて連絡しますと、Wi-BizのWebページに掲載され、2020年4月からはLアラートを発報する仕組みです。
さらに、各携帯電話会社、各通信事業者は独自に00000JAPANを発動していますので、Lアラート上の00000JAPAN関連の情報を抽出してWi-Bizが専用のWebサイトに取りまとめて公表しています。報道関係の方とかがこのページを見れば、全てのLアラート上の00000JAPANの発動状況がここにまとめられていますので、参考にされているということでございます。

今後の課題について

これからの富加町の課題としては00000JAPANの認知度向上です。住民の方に知っていただかないといけない。00000JAPANの運用を始めたときに、広報誌のカラーの裏表紙のところを使ってデカデカと周知させていただいたんですけれども、やっぱり一度だけでは足りないと思っています。その後、広報誌で2回ぐらい防災特集をする機会があったんですけれども、00000JAPANのことを一言も触れられていないという残念な状況でしたので、定期的に広報誌とかでお知らせしたいということや、コミュニティFM、地域のローカルの富加町の番組とかで住民の方に呼び掛けていきたいなと思っております。

 

 

富加町では避難所を開設したら、そこでは誰でもWi-Fiが使えるんだということを住民の方に認識していただきたい、浸透したいというところです。今は避難所に行くのを躊躇される方とかもいて、家で在宅避難をされるような方もいると思うんですけれども、例えば通信に障害が起きてなかなかつながらない、家族への緊急連絡が取れない、どうしようという時に、富加町の避難所に行けば通信手段が確保できるかもしれない、そういったことを住民の方が思い出していただけるような状況にしていきたいと思っております。


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