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トップインタビュー
ブロードバンドの品質測定手法の確立に取り組む
新しいトラフィック需要にWi-Fiの役割が大きい

総務省総合基盤通信局電気通信事業部データ通信課長
 梅村 研 氏

 

 

総務省データ通信課は、電気通信事業のデータ通信分野を管轄しており、新型コロナウイルス感染症の拡大のなかで、新しい課題に向き合い、様々な取り組みを進めています。
北條会長とともに、梅村課長に、ブロードバンド通信の現状と課題、特にインターネットトラフィックの動向変化と品質測定の取り組みについて伺いました。
課長は、Wi-Fiの最新動向、Wi-Bizの新たな役割についても期待を述べられました。

大きく変化するデータトラフィック

――コロナ禍によって、社会と環境が大きく変わってきています。通信行政についても、いろいろな新しい課題が出てきていると思います。

梅村課長 総務省データ通信課は、これまで電気通信事業の届出・監督、インターネットのIPアドレスやドメイン等の資源管理に関する取組、ネットワークの中立性の確保などを中心に行ってきました。
そういった中で、例えば電気通信事業者の監督の関係では、昨今の電気通信市場のグローバル化に対応して、外国法人に対する規律の実効性を担保する観点から域外適用に係る電気通信事業法改正が令和2年度に行われまして、この4月から施行されるなど、さまざま動きがあります。
さらに、最近ではご指摘のとおり、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、インターネットの利用が増大している中で、トラフィック全体の混雑についてどのように対処していくべきかといったことが、新たな政策課題として上がってきているという状況です。

――今、ビジネスにおいてもテレワークが非常に課題になっていまして、コロナ禍で都心のオフィスはあまり人が居ない。ただ、郊外、宅内には非常に多くの人がいてトラフィックが激しく動いているという大きな変化が起きてきています。

梅村 そうですね。マクロ的なデータで申しますと、私どもは2004年から年2回、インターネット、特に固定系ブロードバンドサービスのインターネットのトラフィックを定期的に把握してきていますが、ここ数年は概ね年間2割から4割のペースで増加をしてきています。

――年間で。かなり増加していますね。

梅村 それが2020年5月の集計では、前年同月比で57.4%の増加となっています。これは緊急事態宣言が出されていた時期と重なるわけですけれども、在宅時間が増加したことなどによって大幅に増加したと思われます。
その後の11月の集計でも、前年同月比56.7%の増加となり、同じく大幅に増加した状態が続いています。
利用者の観点から見ますと、昨年の3月から5月にかけて動画視聴は、有料のものも無料のものも共に利用が10%程度増加している状況です。
また、テレワークも、これは3月から5月で利用率が25.3%から55.9%と急激に伸びています。
加えて、最近ではオンラインのゲームやオンラインのライブ等も普及しており、特にゲームのソフトウェアのアップデートのトラフィックがインターネット全体に大きな影響を与えている事例も見られています。
「インターネットトラヒック研究会」では、報告書(案)をとりまとめ、4月6日から意見募集を行っていますが、その中で、昨年、人気ゲームのアップデートが月2回程度インターネット全体のトラフィックに大きな影響を与えていたという分析をしています。また、今年の3月16日に実施された、あるオンラインゲームのアップデートについては、配信開始後、通常に比べて2割程度トラフィック量が増加した時間帯があったことや、配信開始から9時間にわたってインターネット全体のトラフィック増加に寄与していたことも紹介しています。
さらに、オンラインライブも非常に増えてきています。昨年11月3日に国民的スーパーアイドルである嵐のオンラインライブがありましたが、その際には直前の休日と比べて10%程度トラフィックが増加していたというデータも紹介しています。
このように、個別のイベントによってインターネットのトラフィックが大きな影響を受けるということが今後も増え、これが重なったりすることもあり得るという状況を想定すると、今後、様々な側面から急増するトラフィックへの対策を行っていく必要があると考えています。

 

――大変びっくりするデータというか、想像を超えたデータが出ていますね。そうした新しい現象、新しいトラフィック需要に対して、どういう対策を打っていくのか、取り組みを教えてください。

梅村 まずは、昨年4月に、「CONECT(インターネットトラヒック流通効率化検討協議会)」という通信事業者とコンテンツ事業者などのレイヤーを超えた技術的な協力体制を設けたところです。このCONECTの場でインターネットのトラフィックの可視化を含めて状況を共有していくという取り組みが非常に大事になってくると考えております。
インターネットトラフィックの増加に対しては通信事業者がしっかり設備投資をして対応することはもちろん重要ですが、一方でコンテンツ事業者などとの連携・協調して対応することも大切です。事前にイベントトラフィックが増加することを通信事業者が把握できれば、例えば、経路制御等の取り組みを事前に行うことができるため、CONECTのような技術的な協力体制はより一層重要になっていると考えています。
CONECTの協力体制に、より多くの関係主体も関与いただくような形でさらに進めていくことが必要と思っております。
併せて、大規模なトラフィックを生ずるような人気ゲームのアップデートやオンラインライブなど、突発的なイベントトラフィックの対応に向け、この種の情報を事前に共有する仕組みを早急に構築していくことが必要だと考えております。
この点はまさに「インターネットトラヒック研究会」での報告書(案)に盛り込まれたところでございまして、今後、報告書が固まれば、それを受けて、私どもでどういう取り組みをするかを考えていきたいと思っています。

――業界を超えて連携するということで、新しいトラフィックの出現に対して、事前に情報共有をして、ならすというか、うまく配分するというのか、コントロールするというような取り組みかが必要かなと思うんです。それと、IXの設備とか、インターネットの設備自体のキャパという点でいえば問題はないんでしようか。

梅村 通信事業者はこれまでも大変な努力をされていて、ピーク時間帯のトラフィックに十分に耐えられるように予測もしながら設備の設計・投資をしてきていると認識しています。こういった通信事業者の取り組みは引き続き大切だと思っております。それに加えて、ご指摘のように、トラフィックを生み出す側の主体との連携が今後一層必要になってくるのではないかと考えるところです。

――若者がテレビを見なくなって動画とかネット、SNSにシフトして需要が変わってきているといわれています。そこに、コロナでテレワークが発生し、さらにオンラインコンテンツの視聴、ゲームとか、トラフィックの中身が急激に変わってきていて、大きな転換期が来ている。しかもコロナでそれがさらに加速するという側面があるかと思います。行政としては大きな変化点、潮流の変化という認識をしているでしょうか。

梅村 これまでのICT利活用普及のトレンドに加え、新型コロナウィルスの状況の影響もあり、「新たな日常」におけるインターネットの利用やそれへの依存は大きく変化したと認識しています。インターネットのトラフィックは、大きな影響を受けているので、その状況は今後、細かく見ていくことが大事だと思っています。このため、これまで年2回集計していたトラフィック調査以外に、最近はCONECTのウェブサイトで毎月のトラフィック状況を参加事業者から取りまとめて公表しています。

また、イベントトラフィックについてはCONECTとともに、どのような影響があったのかを注視するようにしています。「インターネットトラヒック研究会」の報告書(案)にも記載しておりますが、昨年の12月31日には、嵐の活動休止前最後のコンサートも含め多くのライブ配信が予定され、実施されました。当日は、昼から夕方までのトラフィックが非常に多かったのですが18時頃にはトラフィックがだいぶ落ちました。その後、20時から嵐のオンラインライブが始まって、20%程度インターネット全体のトラフィックが伸びている状況がうかがえました。トラフィック全体のベースが下がっていたこともあって、ピーク時のトラフィックは直前の日曜日よりも減少し、大きな問題には至りませんでした。こういう個別のイベントでトラフィックに大きな影響を与えるようなものについては、CONECT等において今後も注視していくことが大事だと思っています。

このような突発的なトラヒックの急増といった課題のほか、東京・大阪にIX(インターネットの相互接続点)が集中しており、トラフィックも東京・大阪に集中するといった、インターネットの構造自体の課題もございます。
北海道内で他のISPにアクセスするときにも、東京のIXを経由するというネットワーク上の非効率が存在しています。仮に大きな災害が東京で起きた時、東京と直接関係ないエリアでもインターネットにおいては影響を受けてしまうということになりますので、トラフィックの地域分散も重要な課題になってきています。

 

インターネットの経路としての宅内Wi-Fi

――インターネットといいますと、動画にしても、宅内では光回線を引いてたいていWi-Fiで見ているというのが大きな動向です。たぶんトラフィックで見ればモバイルのトラフィック以上にWi-Fiのトラフィックが非常に大きいかと思うんですけれども、宅内Wi-Fiにつきましては、課題としてはどういうことなのでしょうか。

梅村 インターネットが遅い等と言われる時に、その経路上のどこに課題があるのかというと、原因はいろいろなことが考えられます。宅内の環境では、無線LANの機器間の距離、電波干渉といったものがインターネットのスピードに影響を与えている可能性が指摘されているところです。
「インターネットトラヒック研究会」などでも報告がありますが、宅内のインターネットの通信品質について、有線で直接つないでいる場合と、Wi-Fiで経由の場合を比較したときに、有線の速度測定結果のほうが無線(Wi-Fi)に対して高くなっている実態も見えてきています。総務省としてもWi-Fi利用におけるボトルネック解消に向けてさまざまな周知が必要かと思っています。

――ということはWi-Fiルータが古いということですかね。

梅村 そういう問題もあると思います。

北條 Wi-Fi 2.4GHz帯と5GHz帯があって、2.4GHz帯が電子レンジとかと共用になっています。かなり混信が多いので、その周波数で通信されている方はかなり厳しいのかなと思います。ちょうどこれからWi-Fi 6と呼ばれる機器が出てきますので、買い替えいただくと、ずいぶんと良くなるかなと思います。

梅村 そうですね。事業者あるいは業界団体において、古い機器を利用した場合の問題点も含めた啓発活動とか、相談体制を設けていただくことが大事になってくると思います。

北條 無線だけじゃなくて有線のところも、時間帯によっては厳しくなる時間帯がありまして、そういった時間帯ですと有線でも厳しいときもあります。ベストエフォートなので仕方のないところもかもしれませんけれども、このあたりも改善されると使い勝手は良くなるのかなとも思います。

梅村 加えて、集合住宅での構内配線の問題などもあると認識しております。光の構内配線が引けないなどの場合、どういう対応策をとることができるか、モデルケースの整理・周知をしていくことも大事だと考えています。

――マンションの場合は、光が入っていない場合、モバイルルータを使ったり、スマートフォンをテザリングで使うとか、データ通信料が非常に高く付いてしまい、企業でテレワークを導入する際に苦慮していましたね。

梅村 そうでしょうね。昨年の緊急事態宣言時に、学生向けには、携帯事業者による通信容量の追加の無償化という取り組みもありましたが、企業ではご指摘のようなご苦労があったのかと思います。

固定ブロードバンドサービスの品質測定手法の確立

――日本はブロードバンド先進国ですので、職場、家庭、学校、地域において、光とWi-Fiを潤沢に使用できるようにすることが、重要な取り組みだと思います。そのブロードバンドの品質測定で新しい取り組みをされているとお聞きしましたがどのようなことを実施しているのでしょうか。

梅村 新たな日常において重要性が高まる固定ブロードバンドの通信品質は、アクセス回線事業者、ISP、あるいは宅内の環境、集合住宅の環境、様々な要因が影響するということもありまして、未だ公正・中立かつ効率的な品質測定手法は確立されていないところです。
一方で、総務省で把握している固定ブロードバンドサービスに係る苦情相談のうち、表示などから想定していた品質に比べて実際の通信品質が悪いというような苦情相談も増加している傾向にございます。
こういったことから、利用者によるサービス内容の理解の向上を図るということ、また、しっかりとした通信品質が利用者に伝わることで、通信事業者の競争ひいては持続的な設備投資が確保されるよう、固定ブロードバンドサービスの品質測定手法を確立することが必要だと考えています。
このため、昨年12月から、「電気通信市場検証会議 ネットワーク中立性に関するワーキンググループ」の下に、「固定ブロードバンドサービスの品質測定手法の確立に関するサブワーキンググループ」を設け、検討を進めているところです。

――これは、例えばスピードが何メガとか何十メガということを、ちゃんと消費者に分かるようにするということですか。

梅村 そのようなイメージです。品質測定手法を確立することで、例えば、実効速度として、どの程度が期待できるのかということを、利用者側で契約時等に把握できるようにするということが肝要だと思っております。

――これは固定ブロードバンドですか。例えばUQさんや沖縄セルラー会社が、モバイルWi-Fiルータでデータ通信だけの機器を売っています。それは入らないんですか。

梅村 固定ブロードバンド回線・サービスです。モバイルのWi-Fiルータは、現時点では視野に入れていません。なお、主要携帯電話事業者のLTEサービスについては、既に実効速度の測定手法を確立して、その情報を利用者に提供しています。
固定ブロードバンドの方が公正・中立的かつ効率的な品質測定手法の確立に当たっては難しい面が多くありますので、上述したサブワーキンググループにおいて事業者あるいは有識者の意見を聞きながら整理していくところです。
地域差、宅内環境の違い、時間帯・曜日の違い等をどのように捉えるか、そしてそれを踏まえた計測の実証を今年度に行い、それを受けて来年3月をメドに固めていきたいと思っております。

――集合住宅なんかですと非常に表示が難しいですよね。時間帯にもよりますし。

梅村 そうですね。そのため、そのような影響をどうやって排除するかということも含め、品質測定手法を検討していきたいと思っています。

北條 そういうときの評価項目は、通信速度とかはあると思いますが、音声通話アプリケーションですと遅延がばらつくと音が乱れたりするとか、VODで動画コンテンツを見たりする人は画面が止まると許さないということもあります。どういう評価の視点を持ってくるのかは結構難しいと思いますが。

梅村 「固定ブロードバンドサービスの品質測定手法の確立に関するサブワーキンググループ」で整理した基本的な方向性においては、「測定項目」については、上り下りの実効速度に加えて、遅延、パケットロス、ジッタも含める方向となっています。

――ブロードバンドの品質測定手法を明確にするということは、日本としては初めての取り組みですね。

梅村 初めての取組です。インターネットの品質を持続的に保っていくには、事業者間の競争環境の確保や通信事業者のネットワークへの持続的な設備投資が重要です。そして利用者が通信サービスの品質も含めてしっかり理解した上で通信サービスを選択、享受できるということが極めて重要だと考えています。

Wi-Bizへの新たな期待

――Wi-Bizは無線LANのサービス事業者、Wi-Fi機器メーカー、SI、インテグレータなどで、Wi-Fiの普及促進に取り組んでいるのですが、今後Wi-Fi、Wi-Bizの役割について、ご期待や要望などがありましたら、お願いします。

梅村 無線LANビジネス推進連絡会は、総務省の無線LANビジネス研究会の報告書の提言を受けて、無線LANに関する企業・団体など多様な関係者が無線LANをめぐる諸課題に自主的に取り組む場として設置されたということで、大変重要な役割を担っていただいていると認識しております。
2015年に設立されて、その後、2019年には一般社団法人化もされて、Wi-Fi普及推進などに長い間、貢献いただいておりまして、その貢献に大変感謝しております。これまで取り組んでいただいておりますWi-Fiのセキュリティに係る周知・啓発や、災害時の通信手段となる00000JAPANなど、Wi-Fi普及の推進に引き続きご尽力いただければ幸いと考えているところです。
これに加えまして、伺うところでは、ローカル5Gなど、公衆サービスだけではカバーできない様々な分野で、さらに底上げを図っていかれるということで、新たなワイヤレスネットワークの普及が円滑に進むように、これからも関係者間における情報交換や一般ユーザへの技術の紹介など、周知・啓発などの取り組みを積極的に進めていっていただけると大変ありがたいと思っております。

北條 今、おっしゃられたようにWi-Fiは品質という面ではベストエフォートで、ややお客様に戸惑いをさせてしまうようなところもありますが、安く好きなだけ使えるというメリットがあるというのを生かしながら、これまで進めてきたわけですけれども、ローカル5Gだとか新たなIoTの方式だとか、いろいろなものが出てきていますので、無線LANに限らず広く無線をインターネットトラフィックにどうやってつないでいくかというところを中心に、これから進めていきたいと思いますので、生みの親であるデータ通信課様には引き続きいろいろとご協力をお願いしたいと思っております。今日はありがとうございました。


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