海外情報
米国ミリ波5Gの現状から分かったWi-Fiの将来展望
岩本賢二
米国では日本よりも先にミリ波5Gの導入が開始されていましたが、その現状がどうなっているのか、米国の調査会社OpenSignal社が調査報告を公表しました。
ミリ波5Gは5Gとは別サービス
米国の大手3キャリアは5Gサービスの中でミリ波を利用するものを敢えて別のサービス名で呼んでいます。理由は、ミリ波は高帯域の高速通信を提供する反面、距離が飛ばないのでカバレッジに制限があるため公衆Wi-Fiのようなスポットでのサービス提供となっているためです。
具体的には以下のような名称が付いています。
ミリ波5Gサービスの各社の名称
・AT&T 「5GPlus(5G+)」
・Verizon 「5G Ultra Wideband(5G UWB)」
・T-Mobile 「Ultra Capacity 5G」
つまり、3キャリアが5Gと呼ぶサービスとは別の名前で、ミリ波のサービスが行われているのです。
当初は5Gと言えばミリ波でした。10Gbpsと言われる超高速通信を前面に打ち出した広告戦略で話題になっていたわけですが、いつの間にかそれほど高速でもないミッドバンド帯のサービスにすり替えられて、ミリ波5Gはスポット的に提供される別サービス名となってしまっています。
それを裏付ける具体的なデータが次の「米国でのミリ波5G平均接続時間率」です。
つまり、ミリ波5Gサービスは1%も利用されていないという状況なのです。国土の広い米国ではミリ波によるアクセスサービスはもともと向いておらず、5Gサービス開始当初はミリ波5Gは固定無線局サービス(日本での「置くだけWi-Fi」に似たサービス)として提供が開始されました。
当連絡会の有識者によるメルマガや意見交換会では5Gが開始される随分前から、「アクセスサービスとしてミリ波利用は難しく、固定局利用が多いのではないか」という指摘をしていましたが、実際その通りになっています。
ミリ波5Gのスピードの実態
では、このミリ波5Gに接続して、一体どれくらいの通信速度が得られているかというデータが、次の「米国におけるミリ波5G平均通信速度」です。
当初言われていた10Gbpsという通信速度はどこへ行ってしまったのでしょうか………。
既存のLTEよりも高速ですが、10Gbpsにはほど遠いという状況です。特にAT&TやT-Mobileは5Gというには遅すぎる数値となっています。
この理由はAT&Tはミリ波の中でも低帯域部分しか利用していない、さらにT-Mobileは600MHz帯域や2.5GHz帯域を主力サービスとしておりミリ波には力を入れていないためです。一方Verizonは最初からミリ波に重点を置いていたため、他の2キャリアを大きく引き離す結果となっていますが、それでも当初言われていた5Gの速度からはほど遠い数値となっています。
日本の5Gも多くが「Sub-6(3.7GHzや4.5GHzなどのミッドバンド帯域)」が利用されていて、ミリ波(28GHz)が使われているエリアは一部のスポットに限定されています。
Wi-Fiの位置と見通し
では米国でのミリ波5G、Sub-6の5G、4G、Wi-Fi等を比較した通信速度はどうなっているのでしょうか?
OpenSignalでは以下のデータも公表しています。
上の図で分かるとおり、確かにミリ波5Gは高速ですが、当初謳われた10Gbpsには程遠い値となっており、一般的に5Gと思って利用されているSub-6の5Gは4Gの倍程度の速さしか出ていないことが分かります。それどころか家庭や職場で利用されているWi-Fi(上図ではOther Wifi)の方が一般的に5Gとして利用されているSub6の5Gより高速だということが分かります。
今後ミリ波5Gも技術革新が続けば、当初の10Gbpsに近いサービス提供が実現するかも知れませんが、その前にWi-Fi6(IEEE802.11ax)は6GHz帯が世界的に追加割り当てされWi-Fi6Eとなり、その先のWi-Fi7へと拡張されていく予定です。そのためいつまで経っても「一般的に利用できる最高速無線アクセスサービスはWi-Fiである」と言えそうです。
参考:
https://www.opensignal.com/2021/04/28/quantifying-the-mmwave-5g-experience-in-the-us
https://www.opensignal.com/2021/03/31/mmwave-5g-is-almost-thirty-times-faster-than-public-wifi-but-with-similar-reach
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら