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「AHPC×Wi-Biz企画・運営委員会合同セミナー」講演抄録

スマートシティ・地域づくりにおける
IEEE 802.11ahへの期待

802.11ah推進協議会 運営委員
株式会社NTTアグリテクノロジー
代表取締役社長 酒井 大雅 氏

様々な利用シーンで期待されるah

今日は、2つの観点でお話したいと思います。1つは、私はah推進協議会のマーケティングタスクグループのメンバーですので、今年度は「ah商用化元年」ということで、会員の力を総動員して、ahを活用してビジネスにつなげていきたいと思っております。
もう1つは、私はNTTアグリテクノロジーというNTTグループ初の一次産業での、専業会社を営んでおります。「事業会社の社長の立場として」というところです。
一次産業というと、フィールド的にもキャリアのネットワークがどうしても届かないとか、電気が備わっていないとか、担い手不足だとか、いろいろな課題感があります。そのなかで、IoT、ICT活用することは非常に重要になっており、ユースケースに寄り添うプライベートネットワークが非常に重要になってくると考えております。ahの活用がないと自分たちの事業競争力や価値提供の範囲が落ちるのではないかというぐらいの危機意識を持って、我々としてはahを見ていきたいなと思っております。
今日のタイトルですが、昨今、スーパーシティとかスマートシティという言葉が踊っていますけれども、財力がある一部の地域、一部の人だけが享受できるというものであってはいけないと思います。地方都市を含む、いろいろな地域でこういった取り組みをするにあたって、ahは非常に強力な武器になるのではないかと思っております。

まず、マーケティングタスクグループの活動目的ですが、ここに書いてある通りです。国内の利用実現に向けて非常に重要なユースケースを明らかにしていく。それに紐付く形で、いろいろなメーカーさんであるとか関係産業団体を仲間に入れていくことを、しっかりやっていくタスクグループです。

さて、「ahとは何か」ですが、ここに書いてあるように、いくつかのシーンで非常に大きい価値の提供ができるものと思っております。これからいくつか個別のユースケースのお話をさせていただきますが、「あれ?これって個別の話ではなくてスマートシティにつながるよね、スマートファクトリーにつながるよね」、そんな発想に至っていただけるかなと思っております。それだけ非常にパワーを持っている、期待ができるものがahではないかと実感しているところです。

ここから、具体的な事例を幾つかご紹介していきます。
加賀市における露地栽培のナシの圃場での取り組みです。約30ヘクタール以上で、東京ドーム10個分相当の広大な農地です。今は非常に大規模な面積を持つ農地が増えてきております。農地ですので、電気もありません。課題が多いところで、どういったプライベートネットワークを活用できるかということは、非常に重要だと思います。

こうした屋外の広大なフィールドにおいて、農業でahを活用する効果をまとめております。これまでの課題は、人手を使って広大なエリアの植物の生育状況などを確認する作業が発生しておりました。しかし、高齢化、担い手不足により効率化が求められております。携帯電話を使えばいいじゃないか、既存のLPWAを使えばいいじゃないかというと、実は幾つかの課題が生じていたという実情がございます。
そういったところに、ちょうどいい具合というんでしょうか、周波数と帯域において懐の広い無線としてahが課題解決を実現しているのです。

次は木更津市とのプロジェクトです。これは山間エリアにあたります。日本は大半が中山間エリアだといわれております。ここでのユースケースとしては、鳥獣対策なんですが、実は猟をするにあたっても、猟師の方も人手不足がございます。もう1つ罠も法律や条例があってルールのもとに管理をしながらやらなくてはいけないので、猟師の方も1人当たりが所掌できる罠の数も少なくなってしまうのです。見て回れる罠の数が限られてしまうんです。そういったこともあって、鳥獣対策の遅れになってしまうところを、ahで解決したという事例です。

これは、そういうところの課題と成果をまとめたものです。上半分にこれまでの課題を、下半分にどう解決につながったのかということを整理しています。檻が閉まったか開いたかというセンシングは、これまでのLPWAでもできたのです。ただ、今回、重要だと猟師の方から言われたのは、「捕らえた獲物がどれぐらいの大きさなのか分かるのは非常に重要だ」ということです。例えば仕留めに行く道具は何を持っていくのか、ジビエ加工するときに加工場に事前にどういう連絡をするのか、新鮮なうちに運ばなくてはいけないので、全然違うものが来ると結局、使い物にならなくなってしまうんですね。そういった意味で、何らかの形で映像があると非常にありがたいということです。ただ、携帯電話だと非常にお金が掛かってしまう。そもそもエリアでない。また既存のLPWAではそんなことはできない。できたにしてもIPカメラを使えるものではない。いろいろな課題感があったところを吸収したのがahだったというところです。

こちらは、水産の例で、小田原市での取り組みです。
映像をご覧いただければと思います。水中の模様を約2k離れたところに送信をするところです。高精細映像ではないですが網の中に、どんな種類の魚がどれぐらいいるのかということは十分に分かります。沿岸部は携帯電話の電波の谷間といいますか、なかなか届かないところですが、それをこうした新しいテクノロジーで解決していこうということです。こちらのフル映像はAHPCのホームページに載っていますので、ぜひご覧ください。

次は、いろいろなチャレンジをしている自治体として有名ですが北海道の岩見沢市の取り組みになります。非常に農業が盛んな地域で農業ユースケースにもつなげるんですが、全面的に出したテーマは防災です。雪解けで小規模河川の水路等に水が集中する時期がございまして、それを監視したい。ただ、非常に広大なので、センサーを沢山付けようと思うと、SIMでやると契約数が沢山要るし、電源の問題とかいろいろございました。そういったところにahを活用したという事例です。

それを整理した図がこちらです。これまでの課題は、今、申し上げた通りです。その下に、ahを活用して「地域のスマートシティ化」を実現した効果を書いています。まず切り口としては防災です。自治体の本来業務である防災、地域に必ず必要である防災、それをきっかけにこういったインフラを設置した。ただ、地元の基幹産業である農業にも同じインフラを使えるということで、「1インフラ・マルチユース」を志向して取り組みが始まっているところです。非常に地に足のついた、地元の課題、地元の基幹産業に着目したリアルティあるスマートシティ化ではないかと思っています。

ahによるスマートシティの可能性

ここから少しスマートシティの可能性についてお示ししたいと思います。私自身は農業の事業会社を営んでおりますので、その切り口から入らせていただきます。農業というのは、どこの地域においても非常に重要な基幹産業です。日本の地域・地方、どこに行っても必ず大切にしなければいけない産業といわれております。ただ、農業の状況を申し上げると、「ここ30年で農業従事者は半減」となっています。日本の人口減少の何倍もの速度で従事者が減っている。一方で、従事者の平均年齢が67歳ぐらいなんですね。都市圏は人口は増えて、地方圏が減っている。そうしたなかで、地方の経済基盤の大きな1つの要素である一次産業をきっかけに、ahを活用した課題解決、町づくりが進むのではないかというような期待を持っているところです。

今、申し上げた通り一次産業を何とかしなければいけないという中で、各地域でいろいろな取り組みが始まっています。その事例の中でも我々の会社でやっている事例を1つ2つご紹介ができればと思います。1つ目は山梨県の山梨市、人口がたかだか3万人程度の典型的な地方都市です。ただ、そういった都市でも、市が投資をして地元の基幹産業である農業、自治体の本来業務である防災対策、加えて福祉、見回りの観点に従来型のLPWAを活用していました。
ただ、従来のLPWAだと、場所によっては農場の映像を見たいということができなかったのです。そこで、Wi-Fiのアクセスポイントも並列で置いているのです。複数のワイヤレスをユースケースごとに組み合わせてやっています。
先ほどご紹介した木更津の例では、既存のLPWAやSIMを組み合わせてやっていたんですが、檻の数をスケールさせていくとなると、SIMだと電波が届かない、掛けるnの契約が必要だ、既存のLPWAだと、そもそも映像の送信が難しいということで、ahの実証に切り替えたという経緯がございます。
そうするとどうでしょう。もしかしたら山梨市も木更津市もahがしっかり世の中でサービス提供できるようになって、かつデバイスが付いてくると、スマートシティを構成する基盤になり得るのではないでしょうか。
先ほど帯に短し襷に長しという言葉を使いましたが、個別のユースケースにチューニングする場合や屋内・オフィス内の利用の場合は、これまでのWi-Fiを使えばいい。ただ、「屋外である程度投資効率を見たときに距離も必要だ。ただ一方で、これまでのLPWAだとなかなか賄えないところもあるんだ」というようなときに非常に有用なものがahかなと思っております。
そういった観点で申し上げると、電波の原則ということで周波数と帯域というような言葉を申し上げましたけれども、ahはスマートシティにマッチすると言っても大げさではない位置付けになるのではないかと思っております。
どこまでいってもミッションクリティカルなものについてはローカル5Gとか、そういったところの出番になると思います。ただ一方、温度を測定するのに別に1秒遅れてもいいよねというシーンはいくらでもあると思います。1時間に1回、映像がポーリングされれば十分だという世界があると思います。そういったところでは、今後MCAの跡地の帯域が使えるようになれば、現状の実証よりもカバー領域が広くなるということで期待をしているところです。

ここに、これまで述べてきました、ahがスマートシティの基盤となる可能性を整理しております。
アグリテクノロジー社はNTT東日本グループになるんですけれども、NTT東日本グループとしてもahにしっかり力を入れていきたいと思っています。自営のプライベートネットワークを使った町づくりという観点を、すでに推し進めているということは新聞に公開されているので、今日もこういった話をお話しさせていただきますが、そういった中でahの持つ特性というものに非常に期待をしているというところです。

これまで通信というと、総務省、経産省が出てくるところだったと思います。アグリテクノロジーの社長という観点で申し上げると、農水省にもいろいろインプットしてきまして、農村の整備事業に自営のプライベートネットワークが必要だということまで反映されてきました。光ファイバーだけではなくてLPWAみたいなものも組み合わせて、農村エリアの振興に役立てていこう。その際には農業だけではなくて、その他の地域活性化、地域課題につながるものに共用することも良しとすることが非常に大きいポイントだと思います。そういった世界にいよいよ来ているということです。

最後になりますが、申し上げてきたことをまとめております。よほどミッションクリティカルなものについてはそれに応じたワイヤレスをチョイスしていくことが必要かと思います。ただ、ahというものは懐が広いといいますか、かなり広範な課題・ユースケースを吸収できるパワーを秘めていると思います。事業会社の立場で言わせていただきますと、事業会社として自分たちがお客様の期待に応えるためにahに対しても非常に期待をしております。デバイスなどがしっかり普及して、価格もリーズナブルになってということが必要になってきます。そこについては皆様のお力を借りるしかないと思っておりますので、ahのビジネスに興味がある、期待している方は、一歩踏み込んでいただいて、こういった世界を一緒に形成していければと思っております。ご清聴ありがとうございました。


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