トップインタビュー
Wi-Fiのマネタイズ化に取り組む
顧客の本業に貢献するDXを推進
株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス
代表取締役 向吉 智樹 氏
KDDI系のWi-Fi専業事業者ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)の新社長に就任された向吉智樹氏に抱負を語っていただきました。一年以上も続くコロナ禍のなかで、心身の健康を保つことがお客様に良いサービスを提供できる基盤であると強調し、コンシューマ、法人の両方で事業を推進していく決意を述べました。特にWi-Fi有料サービス「ギガぞう」のチャレンジはさらに推進していくとともに、中堅中小企業のDX推進をサポートしていくと述べました。
心身の健康を保つことが前提
――コロナ禍で緊急事態宣言が続いています。社長に就任されて、社員の皆さんには、どういうメッセージを発せられましたか。
向吉 4月の連休前に、その機会があったのですが、事業とか業務を遂行する上でもまず一番に、心身の健康に気を付けなさいと訴えました。
心と身体の健康があってこその、ビジネスというかお仕事になるので、そこはコロナへの感染対策と、それに限らずどんな状況であっても、自分をしっかり管理をして、きっちり明日を見据えて仕事をしましょうというメッセージを出させてもらいました。
――コロナが長引いていますから、心身の健康というのは、ビジネスの基盤、大前提になりますね。今は、在宅比率はどれぐらいですか。
向吉 オフィスへの出社率は大体2割ぐらいだと思います。私も、週によって2回または3回くらいのこともあります。オフィス内の感染対策もしていますが、規模の小さい会社ですので、万一の影響も考えて、社員には積極的に在宅勤務を活用してもらっています。
――新社長としては、毎日、社員の方と顔を合わせられないというのは、会社の掌握にもどかしい面がありますね。
向吉 前職のKDDIでは、会社自体が大きいので同じ事業部でも仕事の接点がなかったりすると意外と全然会わなくなったりしますが、弊社Wi2ではいろいろな部門の人が普通に身近にいる感じがするので、いろいろな人と風通し良く話ができそうだとは思っています。ただ、全員集まって、という機会が持てないので、もどかしい気持ちはあります。
「ギガぞう」をさらに推進していく
――現在、コロナ禍の異常事態のなかですが、Wi-Fi業界は、5Gが始まり、ローカル5Gも開始されました。Wi-Fi 6への移行を公衆サービス向けでも、法人向け、エリアオーナー向けもどんどん実装をやっていかなければいけない。Wi-Fiの11ahというIoT向けの新規格の実用化が迫っている。大きな意味で1つの転換点を迎えているといわれています。
向吉 いろいろな意味でワイヤレスが注目され、Wi-Fiが期待されている時代だと思います。弊社も含めて通信事業者として構築してきたWi-Fiネットワークがインフラとして大きな財産だと思っていて、そのインフラをベースにどうやって新たな価値を出していくのかというところが問われていると思います。
無線の規格としては、以前は、モバイルの3G/4GとオフロードWi-Fiという2本立てのイメージがありましたが、今は異なる周波数帯域やさまざまな規格・特性がある無線を、いろいろ選択できるようになってきていると思います。しかし、世の中の人からすれば、どんな規格のワイヤレスであれ、簡単で安心で安全なものを使いたいということだと思いますので、LPWAだとか5Gだとかいうことなく、ユーザ目線でシンプルに利便性を追求していくべきではないかなと考えています。ただ、弊社は、KDDIグループの中でWi-Fi専業になっているので、複数の無線を組み合わせたシームレスなサービスの提供では本体など社外ともうまく連携していかないといけないと思っています。
新たな価値の提供の面では、いくつかの法人のお客様との部分的な取り組みですが、Wi-Fiで得た情報を使ったDX推進のアイデアに対するトライアルもやっています。法人・コンシューマともに、そういう価値創造の取り組みをしっかり伸ばしていきたいなと思っています。
――法人とコンシューマと両方を進めるわけですね。コンシューマ向けと法人向けは、ネットワーク基盤は一緒ですけど、お客は違いますから、それぞれパワーがいるというか、それぞれ商品・サービスを考えていかなければいけないという難しさが事業としてあります。
向吉 私どもは両方やっていきます。弊社のこれからの中期的な事業展望でいうと2本柱だと思っています。コンシューマビジネスについては、どうしてもスケールを生かしたいということもあるので、au/KDDIと無線の技術や固定のネットワークなどを融合、バンドルして、顧客価値を高める形でビジネスを伸ばしていきたいと思っています。
ユーザーには「Wi-Fiはセキュリティが………」というイメージが強いですが、たとえばテレワークの環境下でも、我々はオープンなWi-Fiからセキュアな環境を提供する「ギガぞう」というサービスを持っています。
KDDIのライフデザイン的な商材とか、コロナ禍でのキャッシュレスの決済ツールに「ギガぞう」の送客のアプリを組み込ませたりして、我々のセキュアなサービスである「ギガぞう」と連動していただくことにチャレンジしていきたいと思っています。
まだ(赴任してから)1~2カ月なので何とも言えないのですけど、ユーザーにその良さが浸透していないように思うので、是非、こちらのプロモーションというか、お客さんに知ってもらう機会をもっと強めていきたいと思っています。
――法人の方も進めていく。
向吉 もう1つは、店舗系や交通系のビジネスの方たちに「オリジナルWi-Fi(エリアオーナーWi-Fi)」を提供していくということです。これ自体はずっとやってきていることなのですが、さっき述べました企業のDX推進と絡めていかないといけないと思っています。
――どの企業もそれぞれのDX推進が喫緊の課題となっています。それをサポートしていくということですね。
向吉 今、盛んにDXが言われています。しかし、そんなにすごい突拍子もない高等技術を使うということではなくて、単純にデータを吸い上げて、それをどう加工して活用するかというということが本質だと思っています。ですので、そのデータ活用のヒントは実はすべて全てお客様側というか、現場にあると思っています。もちろん、業界によって異なるのですが、分かりやすい例で言えば、送客に効果があったなど、お客様の本業にどう貢献していくのかというところがポイントだと思います。
それ以外のところでも、どんな効果を生むかということを、お客様ご自身と同じ立場に立って考えていかないといけません。そこはアイデア勝負なので、今は実証実験とかの位置付けでいろいろやらせてもらっていますけど、最後はどこも一緒でマネタイズの問題になります。
本業にどう貢献できているかということを、お客様と同じ目線に立って考え、現場でのデータ活用ということをお客様に理解してもらえれば、クリアにできるケースも沢山出てくるのではないかと思っています。
――そこはまさに、Wi-Fi業界の大きな課題でマネタイズというところで、各社ともいろいろ工夫をされ、トライされています。法人向けの注力ですね。
向吉 2本立てでしっかり伸ばしていきたいなと思っています。大手の企業は、コロナ禍が長期化して1年以上経つなかで、職場の環境やVPN対応などネットワークに改めて取り組んでいます。ただ、中堅から小規模の企業は、なかなかテレワークの環境ができていないのです。そこで、物々しく構えなくても、例えば私たちの「ギガぞう」みたいなものに加入いただければ、セキュアな環境である程度できます。そういうところは、ユーザーさんに周知というか認知し理解してもらっていきたいと思っています。そういうところはチャレンジングではありますけど、こういう環境だからこそ逆にうまく生かしたいなと思っています。
――御社は早くから、有料の「ギガぞう」にトライされ、新しい道を開拓しようとしています。
向吉 飛び道具というか秘策みたいなものはなくて、お客様が求めるものを実直に提供し、その良さを知っていただくという努力を続けていかないといけないと思っています。「ギガぞう」はまだ認知を伸ばす余地がありますので、日々のサービス品質の改善とともにそういったことに努めていきたいと思っています。
Wi-Fiの実力をもっと分かってもらう
――Wi-Fi事業が転換期というか、変身していく時期に入っています。ヒアリングとか調査をやってみるとWi-Fiがどうしようとしているのか余りメッセージが伝わっていないことが分かってきました。我々は一生懸命やっているんだけど、その動きがモバイルほどには伝わっていないという状況があると思います。
Wi-Bizとしても、もう一度、我々の目指している方向あるいは取り組んでいること、たとえばセキュリティも含めて、もうちょっと分かってもらう努力をしなければいけないのではないかということが提起されています。
北條会長 我々はモバイル大手のような広告費を使うことは当然できないんですけど、そう言っていても始まらないので、やれることはどんどんやっていこうと思います。
たとえば「Wi-Fiといっても、ローカル5Gがあれば、要らなくなるじゃないの?」というようなお客さんがいることは事実と聞いているので、それは本当に誤解なので、きちんと説明していきたいと思います。
メールマガジンに何回か載せていますけど、座談会を開いてローカル5GとWi-Fiはどういうメリット・デメリットがあるの?ということを、みんなで議論をして、それを掲載したりしています。無線LANビジネス推進連絡会という名前だからといって無線LANだけにこだわっていると足元をすくわれる可能性もあるということで、きちんとユーザー最適の観点で解説することをやっています。こういうことは、もっていろいろ取り組んで啓蒙していきたいと思います。
向吉 Wi-Fi 6は高速化ということだけ見たら、ユーザー体感で5Gとどれぐらい違うの?というレベルまで来ていると思います。対応する端末の種類といっていても、ずっとWi-Fiで来ていますので、まったくそん色ないと思います。用途によっては、Wi-Fi6と5Gとの違いは周波数帯域の特性による違いくらいということも言えるところもあると思います。でも、なかなかそれがまだ伝わっていないと思います。
――総務省もモバイルキャリアも5Gやローカル5Gをメリットばかり言い過ぎているので、本当は現段階ではエリアも全然実力が伴っていないのに、非常に何でもできるイメージが広がっています。しかし、実際にはローカル5Gを今現在、すぐ作れと言われれば、それは実用に耐えないわけです。それに対して、現在のWi-Fi 6の実力からいえば圧倒的に優位だしコスト比較から見れば問題にもならないという現実があるんだけど、世間がそう思ってくれていないという、そこが非常に悔しいところなんですね。
もちろん、ローカル5Gがもっとこなれてきて機器も下がってくれば状況は違いますが、今現在、直ちに工場なり学校なりで構築したときには、Wi-Fi 6が、あるいはWi-Fiが、ローカル5Gに勝てないということは全然ない。
向吉 そうですね。そこは同じ考えですね。何かWi-Fiがチープなネットワークという概念が皆さんのなかにこびり付いているところがあると思うのです。それを何とかしないと!というところはあって、これは1社だけの力では難しいので、是非、皆さまと一緒に取り組んでいきたいと思うのです。
――そこは金を使って宣伝というよりは、言い続けていくというか、あるいはファクトを出していくという、物量に負けないで真実を言い続けるという、あるいは例証を絶えず示し続けていくということが大事で、発信塔としてWi-Bizがちゃんとやって、そこにキャリア、メーカー、SIがちゃんとまとまっているという陣形がとても大事ではないかと思います。
Wi-Bizの役割は大きい
――4月以降、Wi2としては、今年はどういう戦略目標で進められますか。
向吉 「ギガぞう」はとてもいいサービスだなと思っているので、引き続き利用者数を増やしていくことに取り組んでいきたいと思います。先ほどお話しした認知の拡大など、まだまだやれる余地があるので、より多くの方にWi-Fiを便利に使っていただけるようにしたいと思います。また、コロナで非常に厳しい環境下ではありますが、Wi-Fiが使えるエリアの拡大もまだニーズがありますので、引き続きしっかりやっていきたいと思っています。
また、それらをやっていくうえで、KDDIグループをはじめとした社外との連携を強化したいと考えています。auのライフデザインサービスであったり、グループ各社やパートナー様の商材と当社のアセットを組み合わせて、そういう人たちのお客様にもWi-Fiを使っていただきたいと思います。ここでもお互いの本業貢献の視点で、お客様への価値の提供から認知、販売推進まで協力して進めていきたいと思います。
北條 またまだWi-Fiが無いところはもちろんありますが、最近はモバイルキャリアのオフロード需要が一段落してAP数は微増状況です。このような状況の中、どういうふうに稼いでいくのかがポイントだと思います。公衆Wi-Fiがこれからどのように位置していくのか、使い方や利用の仕方、どういうビジネス拡大していくのかということが問われていて、それは業種的に深堀していく段階です。
向吉 まさに、そうですね。業種ごとに顧客に密接して、「知恵を絞って頑張る」ということですね。
――Wi2はずっとWi-Biz創設以来、リーダーとして引っ張ってこられました。今後、Wi-Bizがどういう役割を果たしていったらいいのか、どう進めていったらいいのか、お願いします。
向吉 参加企業は商売ではライバルの関係になる方々もいらっしゃいますが、メーカーさんやベンダーさんを含めてWi-Fiに関係する皆さんが一堂に会する大変貴重な場だと思っています。00000JAPANもそうですし、行政とか社会からの要請に対しても、Wi-Fiの健全な発展のためという大義のもとで、一緒になって議論できることはとても意義があると思います。引き続き、皆さんとWi-Fiの健全な発展のために議論できるような場として、弊社も少しでもお役に立てるようにと考えています。
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