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技術情報
「MWC2021」、Qualcommの5Gオンラインブース紹介

松村 直哉

6月28日~7月1日、スペインのバルセロナで「Mobile World Congress 2021」が開かれました。今回はバーチャル(オンライン)と対面のハイブリッド開催でした。その中でバーチャル参加のQualcommブースで、最新の5G技術のデモ動画が公開されたので、紹介したいと思います。
https://www.qualcomm.com/news/onq/2021/06/27/demonstrating-advanced-5g-innovations

ダイナミックTDDオペレーション技術

まず、1つ目は、サンディエゴで実施されている5Gデモ「MWC 2021: Qualcomm Demos Enhanced Wide-area 5G OTA Testbeds」の紹介です。
このシステムは5G NRを利用し、SA(スタンドアロン)システムで、かつ100MHz帯域幅、3.5GHz帯を利用したものになります。
https://www.youtube.com/watch?v=dTEah2hpt5k&list=PLADNcabi-P9ZbhXUkF-wlj9Hf1WzuaF-u
これまではTDDの同期システムで、ダウンリンク、アップリンクをテストしてきましたが、今回はより柔軟な制御ができるサブバンドの半二重方式を採用したダイナミックTDDオペレーション技術のデモを実施しています。

 

 

上図はこれまでのTDDの構成で、2つのgNode B1とgNode B2により、通信が行われているもので、Dはダウンリンク、Uはアップリンクです。TDDの部分を抽出・拡大すると、次の写真のようになります。
0.5msのスロットにダウンリンクが3回連続したのちにアップリンクのスロットになるパターン(DDDU)を使っています。

 

 

TDDなので当然、2つのgNode の間で干渉を防ぐため、DDDUのパターンは完全に基地局間で同期した通信をしています。

サブバンドを半二重で利用した場合が、次の画像になります。
二つのgNode BはDDDUのタイミング(ダウンリンクが3回、アップリンクが1回)で送受信していましたが、サブバンドを利用することで、左側のgNodeB1が最初のスロットでダウンリンク、2つ目のスロットでサブバンドによりアップリンク(緑色のスロット)を利用しています。

 

 

2番目のスロットのサブバンドでD(gNodeB2が利用)とU(gNodeB1が利用)を分けることで、2つのgNodeB間の干渉を避け、かつ、ダウンリンクで受信したデータへのアップリンクへの瞬時のレスポンスが可能となり、遅延を最小限に抑えることが可能となります。
これによりさまざまなスロットを利用することができトラフィックのニーズに対して柔軟な通信路の提供が可能となります。
3.5GHz帯は北米ではCBRS(Citizens Broadband Radio Service)を3.55G~3.70GHzで利用しており、オークションによってキャリア以外でも利用できる周波数となっています。今回のデモではこちらを5Gデモとして利用しているようです。

ビーム制御にAIを使った予測システム

2つ目の動画は28GHzのRRH(Remote Radio Head)を使ったデモ「MWC 2021: Qualcomm 5G mmWave OTA network」の紹介です。
こちらは28GHzのビーム制御にAIを使った予測システムを採用することで、ビーム制御の予測精度を上げ、より効率的な通信路を確保するというものです(本動画の4:10くらいから始まります)。
予測のグラフと結果のグラフが近似しており、予測精度が高く効率的なビーム制御ができていることを示しています。
ミリ波を効率的に使うためにはAIによる予測システムを駆使する必要があるようです。
https://www.youtube.com/watch?v=XWj__m4uGgE

 

 

ミリ波を展開するための取り組み

3つ目の動画はQualcommが5G技術の進化だけではなく、ミリ波を商業的に成功させるための取り組みについてです。
「MWC 2021: Advancing the 5G Technology Evolution with mmWave」
課題の一つが最も効率的なネットワークトポロジーに到達させることであり、これには3つのステップがあると紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=oEQNQM6dvLk

1)最初のステップはミリ波を展開する場所を絞ったうえでGoogle やAppleなどの既存の3Dマップデータを元にデジタルツインを作成することです。
最近、GoogleやAppleのマップは3D化が進んでおりこれらのデータを利用してミリ波の基地局を展開する場所の地形や建物をデジタル化(デジタルツイン:現実とデジタル化された同一形状のものが2つ)する取り組みです。

 

 

2)次のステップはデジタル化されたエリアデータをAIに取り込んで、ミリ波展開に向けた時に影響がある物体を認識し、モデリングしていくという作業です。この動画では東京の街が例に挙げられています。

 

 

街をデジタル化する場合、ミリ波に一番影響のある建物をデジタル化、その次に樹木や電柱、その他、路上に設置される公共物などをマップからAIによって認識し、モデリングしていきます。ミリ波を展開するエリアをデジタル化することで、どこに基地局を設置することで効率的に展開できるか、などを事前に検討することができます。

 

 

3)そして、このAIとともにデジタル化されたデータに既存の基地局データを加え、ミリ波と既存のネットワークをトータル的に展開するという取り組みです。この取り組みはミリ波だけではなく7GHz帯での取り組みにも活用できると述べています。

以上、3つの動画を紹介しましたが、このほかにも工場IoTや安全運転を目指した検証などの動画が紹介されています。
半導体ベンダーであるQualcommがこのような基地局と端末を合わせた展開デモを本社のあるサンディエゴで実施し、その展開の中で見つかった課題を半導体レベルへフィードバックするという取り組みが進むことで東京の街での5Gの利便性が向上することを期待したいと思います。


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