イベント報告
「厚労省 補助金説明会」開催、病室Wi-Fi整備へ
企画・運用委員会
7月7日、「厚生労働省 補助金説明会」が企画・運用委員会の主催でビーマップを配信拠点にオンラインで開催されました。
厚生労働省の「令和3年度新型コロナウイルス感染症拡大防止・医療提供体制確保支援補助金」事業により、病室の無線LAN(Wi-Fi)環境整備の費用が支給されることを受けてのものです。
補助金申請の締切が9月30日に迫るなか、利用を促進するために厚生労働省・上野直也様から趣旨についてご説明いただきました。
それに先立ち、病室に患者用のWi-Fiを整備する意義を「#病室WiFi協議会」のフリーアナウンサーの笠井信輔様に語っていただきました。当日は病院関係者を含む約200名の方が参加し、また質疑応答も活発に行われ、補助金への関心が高いことがうかがわれました。
北條会長が挨拶
司会進行は松村直哉事務局長が務め、北條博史会長の挨拶からスタートしました。
Wi-Biz主催の説明会に初めて参加される方も多いことから、Wi-Bizの概要について説明した上で、Wi-Biz会員企業が進めてきた通信環境改善の取り組みを紹介しました。
病院へのWi-Fi導入は当初医療機器との電波干渉が懸念されていましたが、最近はそうした問題が解消されつつあります。しかし、「病院Wi-Fi」と「病室Wi-Fi」は異なります。電子カルテの利用や職員の連絡用に「病院Wi-Fi」が整備されても、患者に対しての「病室Wi-Fi」の開放は進んでいないのが現状です。
さらに新型コロナウイルス感染症の影響で、コロナ罹患者だけではなく他の病気やけがで入院している患者にも面会することができません。「コロナ感染者の中には家族と連絡が取れないまま不幸にもお亡くなりになる方がおり、こうした事態を改善するために病室に患者用Wi-Fiを設置したい」と、北條会長は力を込めました。
そして患者用Wi-Fiの整備に対しての補助金支給に当たっては、フリーアナウンサー・笠井信輔様が中心メンバーとして活動する「#病室Wi-Fi協議会」の貢献が大きかったと謝辞を述べました。
笠井様が特別講演「患者Wi-Fiのない病院に未来はあるか?」
笠井信輔氏はフリーアナウンサーに転身した2020年に血液のがんである悪性リンパ腫のステージ4と診断され、入院生活を余儀なくされました。4カ月半の入院と治療の末、完全寛解されました。しかしその入院生活はコロナウイルス下と重なり、孤独を強いられました。この経験から、8人の仲間と「#病室WiFi協議会」を設立し、病院で患者が利用できるWi-Fiの必要性を訴える活動を始められました。
笠井氏の入院当初の1カ月間は「友人たちがお見舞いに来て病室はにぎやかだった。病状はつらかったが大きな励みになった」と振り返りますが、そこにコロナウイルスの拡大が襲い、そこから3カ月半の入院期間中は誰もお見舞いに来られない状況となってしまいました。「入院患者の孤独は体験した人にしかわからない。私は本当に苦痛だった」とその3カ月半がいかに苦しい時間であったかを笠井氏は語ります。その苦境を救ってくれたのがインターネット環境でした。ブログやSNSへの投稿、YouTubeの視聴、原稿執筆など、インターネットを利用することにより入院生活を乗り越えました。ただし、笠井氏が入院した病院はWi-Fiが使用禁止。笠井氏は自身のスマホの契約を使用して通信を行ったため、月8000円から1万円に上る追加料金が発生してしまいました。当時の笠井氏は「病院とはそういうもの」と考え、病院に対してWi-Fiの使用を訴えることはまったくしなかったそうです。
入院生活を終えると、笠井氏はがんに関する講演やチャリティ活動を始めました。その中で、自分と同様に入院中に「Wi-Fiを使えなくて困った」経験を持つ人が多くいることがわかりました。「病室でWi-Fiが使えないのはおかしいと訴えることには意味がある」と考えた笠井氏は、患者団体関係者、大学教員、国連職員らの8人の仲間とともに今年1月に「#病室WiFi協議会」を設立しました。協議会が国務大臣に陳情したり厚労省で記者会見を開いたりなどの精力的な活動によって、設立後わずか3カ月後の4月14日に厚労省からWi-Fiへの補助金を認める文書が発表されました。「病室の中で孤立しているコロナ下の患者をいち早く救わなければならないということを厚労省の職員が考えてくれたと思う」と笠井氏は感謝を述べました。
総務省の外郭団体である電波環境協議会が5月に発表した調査によると、全国の病院で無線LAN(Wi-Fi)を導入している病院は約9割を数えるものの、そのうち約75%が施設職員のインターネット接続用であり、患者や来訪者が利用できるのは約3割に留まっています。しかも、「実はこの3割にもまやかしがある」と笠井氏は指摘。患者用のWi-Fiは個室でしか提供していない病院がかなりあることがわかっているとのこと。さらには、1日5万円がかかる特別室の患者だけにWi-Fiのパスワードを教えている病院もあったといい、「非常にナンセンスな料金体系だ」と批判の目を向けます。Wi-Fi環境を必要としているのはお金がない大部屋の患者であると笠井氏は訴えます。
同協議会とNPO法人キャンサーネットジャパン、筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクトが入院治療をした患者とその家族を対象にWi-Fi利用実態把握のためにアンケート調査を実施しました。594人の回答のうち、病院のWi-Fiを利用できたのは4割以下に留まり、6割以上が自分のギガ(回線契約)を使っていたことがわかりました。インターネットが使用できなかった人のうちの4割が利用を我慢していたと答えています。「『治療費もかかっているのにこれ以上費用をかけることをお願いできない』と黙って我慢し、孤立したまま病院で過ごしていた。こうした人を救わないといけない」と笠井氏は主張しました。また、病室でのインターネットの使用目的で最多となったのが家族や親しい人とのコミュニケーション(26.5%)、それに病気や治療以外の情報検索(25.1%)、病気や治療の情報収集(20.7%)が続きます。ゲームや映画・音楽鑑賞など娯楽目的は20.3%に留まり、「Wi-Fiは娯楽目的という考え方はとっくに昔のもの」と笠井氏は入院患者にWi-Fiが必要とされている実情を解説しました。
そうした患者からの要求があるにも関わらず、病室へのWi-Fi整備が進まないのはなぜか。理由のひとつに、安全面とコスト面への懸念があると見られます。笠井氏は、医療関係者がベンダーの「電子カルテシステムと病室用Wi-Fiのインターネット回線が干渉・混線する」との説明を鵜呑みにして導入を断念するケースがあることを紹介。しかしこれは大きな誤解です。笠井氏によると、ベンダーの発言には本音が隠されている場合が少なくないといいます。ベンダーの本音は「本当は(病室用Wi-Fiの導入が)できる方法はあるが、もし万が一電子カルテに何か起きたらいやだから」というもの。電子カルテと並存して病室Wi-Fiが導入できることは今回補助金が予算化されたことでも明らかであり、これは安全面への「国のお墨付き」といえます。「仮に業者から『できない』と言われてもあきらめないでほしい」「そこであきらめるのは、『交通事故に遭いたくなければ車に乗らなければいい』という考えに近い」と笠井氏は病院関係者に呼びかけます。
具体的な導入事例として、アクセスポイントを共用して電子カルテと病室Wi-Fiで異なるチャネルを使用する方法や、新規にインターネット回線を引いてアクセスポイントを新設する方法が紹介されました。前者であれば従来のシステムや機器をそのまま利用できるため工事は不要で費用はほとんどかからないケースがあります。後者では工事費・機器費など数百万円以上かかる場合がありますが、「そこに補助金を活用してほしい」と訴えました。
病院が患者用Wi-Fi導入に及び腰になるのは、導入しても病院の収益増に繋がらないと考える病院関係者が多いのも事実でした。しかし、「入院して苦労した経験のある人は次はWi-Fiの使える病院を選ぶ」と笠井氏は話します。笠井氏は「今後コロナの時代が長く続くので、病室Wi-Fiの完備による経営効果は2年後か5年後には必ず現れる」と予測を披露。「その時になってから設置を考えてもおそらく遅いのでは」と警鐘を鳴らします。大手Wi-Fi事業者によると、今の病院のWi-Fiの事情は10年前のホテル業界によく似ているとのこと。当時、Wi-Fi整備による宿泊客増に懐疑的なホテルも多かったですが、現在Wi-Fi完備は当たり前になり、Wi-Fi環境のないホテルは選ばれづらくなりました。同様のことが5年後の病院にも起こるだろうと笠井氏は予想します。「予算がついている今、病院関係者の方にはぜひ病室Wi-Fi整備を決断してほしい」と訴え、講演を締めくくりました。
厚労省上野様が補助金趣旨を説明
厚生労働省から医政局医療経営支援課の上野直也氏(医療法人支援室医業経営専門官)を招き、補助金の趣旨説明をいただきました。
この「令和3年度新型コロナウイルス感染症拡大防止・医療提供体制確保支援補助金」事業は、新型コロナの感染が急速に拡大する中で、医療機関や薬局等に対して院内等での感染拡大を防ぎながら地域で求められる医療が提供できるよう、緊急的臨時的対応として感染拡大防止等の支援を行うものです。補助の対象となる費用は幅広く、「入院患者のオンライン面会等のためのWi-Fi環境整備等に要する費用」も対象になると明示されています。
補助の対象となるのは9月30日までに完了した事業であり、国に対する申請書の提出期限も9月30日(当日消印有効)となっています。詳細は厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17941.html )をご確認ください。
7社からプレゼンテーション
説明会の最後に、病院向けにWi-Fi製品を提供するWi-Biz加盟社7社からプレゼンテーションが行われました。
プレゼンテーション企業(発表順)
・株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス
・日本ヒューレット・パッカード合同会社
・シスコシステムズ合同会社
・ディーリンクジャパン株式会社
・株式会社フルノシステムズ
・富士通株式会社
・株式会社ビーマップ
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