活動報告
自治体訪問 第1回
埼玉県秩父郡小鹿野町の歴史とWi-Fiへの取り組み
渉外広報委員会 森田基康
今回から、渉外広報委員会のマーケット活動で訪問する各自治体の、それぞれの風土や歴史、観光、物産、行政の取り組みなどを掲載していきます。不定期となりますが、主に情報部門や政策部門の方々に伺ったICT化をはじめ様々な取り組みとその背景をご紹介する予定です。第一回は埼玉県秩父郡小鹿野町です。
小鹿野町の歴史
小鹿野町は埼玉県西部にある町で、街の北部以外は秩父市に囲まれています。群馬県の南部の神流町とも隣接して、長閑な町になります。
町の歴史を紐解くと明治2年、上小鹿野村から小鹿野町となり、その後の隣接町村との合併を繰り返し、直近では平成17年(2005年)に両神村との合併を最後に、現在の小鹿野町となっています。
両神庁舎前にある「両神村閉村記念碑」
小鹿野町の自然と観光
小鹿野町は埼玉県西部5市町の秩父地域(秩父市、小鹿野町、皆野町、横瀬町、長瀞町)といわれるところに属していて、なんと埼玉県全体面積の約1/4をこの5市町が占めています。埼玉県民である筆者も初めて知り、以外と知られていない事実でもあります。
そのこともあって自然が豊富で埼玉県の森林面積の約120,000haの内、この4市町で74800haとなり、埼玉県内の森林の6割を占めています。
小鹿野町だけで見ても、面積約17100haに対して82%相当の14000haが森林になり、数値で表現してもなかなか分かりませんが、とにかく山間部含めて森林自然が多い地区となります。
出典:一般財団法人秩父地域地場産業振興センター ホームページ
町役場の建て替え計画
小鹿野町の庁舎は本庁舎である小鹿野町庁舎、両神庁舎があり、それ以外に教育委員会や保健福祉センター、文化センター(社会教育課)等の行政機能が分散されている。
小鹿野町庁舎建て替えに当っては、遡ること5年前の平成28年(2016年)庁舎検討委員会が発足し、基本理念である「町民の安心安全の拠点として、利用しやすく小鹿野町らしい庁舎」を実現するため、5つの基本方針で建て替え計画を策定しました。
令和3年度予算で現在の小鹿野町庁舎解体工事と新庁舎建設工事費を計上して、本年4月に現在の本庁舎を解体しその機能を両神庁舎等に分散させ、解体後跡地に新庁舎建て替え工事を進めている真っただ中となり、令和4年度中に新庁舎完成を目指しているところとなります。
【5つの基本方針】
① 安心安全な町民のための庁舎
② 町民サービスの向上を目指した庁舎
③ ふるさとの個性を活かした小鹿野町の活性化に繋がる庁舎
④ まちづくりと環境に調和した庁舎
⑤ ICTとフレキシビリティ対応を考慮した経済的で合理的な庁舎
この基本方針で注目した点は①と➂と➄になります。
①小鹿野町は山間部の自治体となり、地震や台風等の自然災害発生時における町民の安心安全確保が必要なことから、新庁舎は高い耐震性と災害対策本部機能を持たせた施設に生まれ変わります。
➂の新庁舎は自治体の庁舎としては珍しく2階建て木造建築にするとのことで、その建築に利用する木造については、山間部の自治体ならではの取組みを実施していて小鹿野産木材を利用しています。これは国内の食材需給問題で取り上げられる「地産地消」に近い考え方にも通じます。
➄のICT環境はりデジタル庁の立ち上げに伴う昨今のDX化への取組みに通じるところとなりますが、庁内のLGWANにおける職員のフレキシブルなインフラ整備やICT化環境の整備を進める取組みとなります。
出典:小鹿野町役場ホームページ「小鹿野町新庁舎整備事業 基本設計(案)概要書」
※基本設計概要書の全体は以下URL
https://www.town.ogano.lg.jp/cms/wp-content/uploads/2020/09/kihonnsekkeianngaiyousyo.pdf
新庁舎で町民向けWi-Fi環境整備へ
小鹿野町のICT環境整備についてLGWAN環境以外の部分にもう少し触れておきましょう。
今回訪問時に色々とお話をさせてもらった経緯が、新庁舎における町民に対してのWi-Fi環境整備になります。自治体が提供する住民や観光客向けに提供する公衆無線LANの場合、一般的にはキャリアサービスを利用するケースが少なくないですが、それらのサービス利用含めインターネット回線やネットワーク環境、セキュリティや運用管理等に対して検討を重ねています。
1)無線LANのセキュテリィ(暗号化)
2)利用者の認証方法
3)利用方法や制限
4)インターネット回線と庁内LAN
5)災害発生時のWi-Fi利用(避難者へのWi-Fi環境の解放)
6)管理システムの環境構築と導入したWi-Fi環境の運用管理
暗号化と認証については一般的に利用されている技術の採用となり、WPA3やSNS認証とメール認証の組合せとなりますが、その認証の運用をどのような内容で実施して行くのかがポイントとなります。
町民にとって使い勝手の良いWi-Fiによるインターネット接続サービスをどのように運用するのか検討をして、1回あたりの接続時間、1日当たりの接続回数、一度認証した際の再認証するまでの間隔(日数)をどう設定するのかの検討等、他の自治体の運用事例を踏まえて小鹿野町として運用ルールをこれから決定して行きます。
また今回の本庁舎は2階建て庁舎で、利用者から見て窓口等全般で遮蔽物の少ないオープンな行政窓口の設計が施されているので、Wi-Fiを導入する観点だと非常に電波伝搬特性が良い環境になると思われますが、各階のどのエリアで町民の方々がWi-Fiに接続するのか、職員の方々がLGWANインターネット接続とは別にこのWi-Fiサービスを利用する場合を想定して、執務エリア含めたエリア設計をする必要があるなどの検討も進めています。
構築したWi-Fi環境の運用管理
管理運用面全般に対しては、キャリアサービス含めて検討をしていますが、現段階では運用面や今後のWi-Fiサービスの拡張等を考慮して、公設公営とクラウドサービス等の併用システムで進んで行くものと思われます。
管理面については当初本庁舎内に設置したWi-Fi環境のみとなるが、次の段階で町内各施設のWi-Fi環境の整備拡張に備えて、管理や運用が可能な仕組みをコスト面含めて検討を進めています。
合わせ設置したWi-Fiにて障害が発生した際、いち早く原因切り分けを行うためのアクセスポイントの死活監視やアクセスポイント毎の接続端末の情報等、アクセスポイントの状態を視覚的に見ることができる管理監視機能、Wi-Fi通信のトラフィック負荷状態等が簡便にみられる仕組み等、Wi-Fiサービス月次や四半期ごとの利用者統計等の資料作成がしやすい管理機能等、自治体情報担当部門として必要な機能に絞り込んでシステムの選定を進めています。
イベントなどでのサービスと運用
Wi-Fiのセキュテリィ面の強化する運用で施設の開庁時間や曜日等に合わせたWi-FiサービスのON/OFFの運用等も視野に入れた検討を進めています。
また地域性もありますが、自治体として季節ごとのお祭りやイベント等を実施する場合、このイベントに合わせたWi-Fiサービス(ESSID、暗号化、認証設定)を通常のESSIDとは別に設けて、イベント期間中のみサービスを提供する運用等も検討を進めています。同様に民間事業者や地元の有志が自治体施設を借りてイベントを実施する場合もこれに該当します。
これは平時のESSIDとは別にサービス提供する仕組みとなりますが、ESSIDを分けて提供することでイベント独自のWi-Fiサービス利用者統計を取得することも可能となり、Wi-Fi環境の提供だけではなくその効果測定も視野に入れた検討になります。
今後のWi-Fi環境の拡充
今回新庁舎の建て替えにおけるWi-Fi環境整備を中心に検討を進めていますが、町内には公立学校含めた複数の町内施設が避難所になっています。本庁舎の整備をスタートに現在本庁舎機能を担っている両神庁舎や町内の福祉センター、文化センター、総合センター等もあり、町民の平時利用含めた災害発生時のWi-Fiサービス環境の整備拡張を進めることになります。
本庁舎建て替えに伴い現在本庁舎機能の一部を担っている両神庁舎
災害時の避難所Wi-Fi環境整備
新庁舎は、先に記したように災害対策本部機能を持たせる施設となります。そのことから災害発生時の避難所拠点ではありませんが、町内の防災拠点である避難所、避難場所等における災害時のフリーWi-Fiの環境提供をどのように実施をするのか等に対しても後回しにせず、防災拠点におけるWi-Fi環境整備も含めて今回のWi-Fi環境整備の検討を進めています。
防災拠点のWi-Fi環境整備の検討ポイントとしては、災害用統一SSID「00000JAPAN」の採用をするか、また平時と有事の際のWi-Fiの切換え運用を公設公営設置した場合、最も簡便な方法で誰でも切換えが出来るシステムにする事が上げられます。
訪問を実施して
筆者はよく自治体に訪問して情報部門の方々とお会いする機会がありますが、Wi-Fiのセキュリティで一番強固なのは、必要時以外は電波サービスを止めることですと説明をしているので、今回小鹿野町様の情報部門の方々とお会いして会話をした際、この検討は非常に良い取組みであると感じました。
自治体における市民向けや観光向けのWi-Fiサービスの普及率は高いと思いますが、まだまだ地方の中小規模の自治体においては整備が進んでいないところが多く残っています。
特に自然環境が多い自治体様においては、山間部や河川の自然があり景観としては非常に良いと思われますが、その反面自然が多いことで地震による山間部の斜面の崩れもあり、数年に一度にはなりますが豪雪による交通網の遮断による物資供給が出来ない災害、また毎年のようにテレビで報道される台風やゲリラ豪雨による河川の氾濫による家屋の浸水や道路冠水による地域交通網への災害等もあります。
小鹿野町様におかれては来年秋頃を目途に新庁舎の竣工を目指して建設を進めているとのことですが、新庁舎のWi-Fi環境の整備を機に是非防災拠点への避難者含めて避難所運用の職員が利用するWi-Fi環境の整備を進めて行って欲しいです。
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