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国際標準化って何? 「careful collaboration」の経験から

802.11ah推進協議会アドバイザー(元総務省情報通信政策局長)
竹田義行

G3ファクシミリの国際標準化

皆さん、「IEEE」というとWi-Fi の国際標準化機関である「802.11委員会」をすぐ思い出しますね。
IEEEは米国に本部を置く電気・情報工学分野の学術研究団体(学会)で各種の活動をしており、「IEEEマイルストーン」という、電気・電子・情報技術やその関連分野の歴史的偉業に対して行う顕彰活動もしています。
日本では、富士山レーダー、新幹線、ハイビジョン、カーナビゲーションシステム等、直近のインバータエアコンまで39件が受賞しています。

*Milestone受賞一覧 https://ieee-jp.org/activity/jchc/milestone_jusho.html

その中で2012年に「G3ファクシミリの国際標準化」が国際標準化では唯一受賞しています。写真は、日本での受賞祝賀会で撮ったマイルストーンです。マイルストーンの文中に、「NTTとKDDIのcareful collaborationにより」とあるのに注目して下さい。

 

時間が遡りますが、G3ファクシミリの国際標準化は「ITU/CCITT」において1970年代から検討が開始され、その中核技術である二次元符号化方式は、日本からKDD研究所山崎氏の発案であるRAC方式とNTT通信研究所山田氏の発案であるEDIC方式が提案されました。
しかし国際標準とするためには日本統一案を提案する必要があり、両者のcollaboration
により「READ方式」を新たに提案することとなりました。ファクシミリ伝送時間(すなわち圧縮度)を評価するためのテストドキュメントが数種類定められており、実はテストドキュメントの全てについてREAD方式が優れていたわけではありませんでした。READはRACからRとA、EDICからEとDの2文字ずつが採られサンドイッチになっています。まさにcareful collaborationです。

CCITT/SG14ジュネーブ会合

CCITTにおけるG3の標準化が山場を迎え、二次元符号化方式の勧告化に向けた議論が1978年12月にSG14ジュネーブ会合で行われ、私は日本政府の一員として初めての海外出張、国際会議デビューをしました。
会議は白熱し、毎日深夜まで続きました。英、仏、西の同時通訳が付くのですが、通訳の勤務時間終了となると全員英語のみの発言となります。
英語を母国語としない方々の英語を聞くのは日本人の私にとって少しは語学コンプレックスの癒やしにはなりました。
当時、欧米を含めファクシミリのシェアは日本企業が高く、特に米国は標準化を遅らせたいという意図が明らかでした。この会合では、残念ながらREAD方式の勧告化には至らず、英国人Pugh議長の決断で、READ方式はReference Modeとして継続審議となりました。日本代表団には通信機械工業会の企業が参加していましたが、リコーはリコーヨーロッパとして英国から参加しており、生産拠点である英国に少なからず影響をもっていたのではと思いました。寺村副議長(KDD)の寄与にも触れておきます。

CCITT/SG14京都会合

方式の提案はAT&T、IBM等からもありましたが、IBMの方式はREAD方式に類似しており、次回SG14会合で統合したModified READ方式として勧告化されます。会合でのIBM提案はIBMフランスとなっており、フランス人がプレゼンをすると思いきや、アメリカ人女性が説明をはじめ、AT&TとIBMの米国内での関係も複雑なのだと感じました。
1979年12月、CCITT/SG14京都会合でModified READ方式は、参加者のcollaboration
により晴れて勧告に含まれ、G3ファクシミリは国際標準化が成立し、その後、日本企業による世界市場の席巻とファクシミリの世界的普及が実現しました。

※詳細な経緯は日本発明協会のイノベーション100選を参照
http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_detail.php?eid=00063&age=stable-growth&page=keii

Wi-Biz会員の皆様のcareful collaborationにより、Wi-Fi の発展と普及が一層進むことを期待しております。

●竹田義行様 略歴
1974年郵政省入省、総務省総合通信基盤局電波部長、情報通信政策局長を歴任し2006年退官。その後、早稲田大学大学院客員教授、NTTドコモ常務執行役員、情報通信振興会理事長等を歴任。

 

 


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