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趣味と仕事
「久米島」名称の由来と将来を考えて

一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)
副会長兼専務理事 立石 聡明

「久米島」と聞いて場所がどこだかお分かりになりますでしょうか。久米島は沖縄にありますが、それほど有名な観光地ではないのでご存じない方が多いかもしれません。
「久米島」という名称から、「まあどこかの小島?」と思われる方が多いのではないでしょうか。その通り、久米島は沖縄の小さな島の一つです。人口は8000人ほどで、面積は64㎢弱。自動車であれば、ゆっくり一周しても一時間かからない島です。位置的には沖縄本島の那覇からほぼ真西に約100キロのところに浮かぶ小島で、歴史は古く、遣隋使、遣唐使の時代には中国へ向かう最後の島であったようです。
私が最初にこの島を訪れてからもう20年余りになりますが、私にとっては最も落ち着く島です。またJAIPAの集まりでも幾度となく開催地となっている島であり、アンケートでは最も評判のいい島でもあります。

 

 

 

遙か沖合まで遠浅の穏やかな海が広がるイーフビーチ

 

日本全体でみると人口減少が止まらず過疎化が深刻なダメージを地域に与えておりますが、その中でも珍しく人口が増えているのは沖縄県です。ところが、久米島は人口が減少している島の一つです。昭和30年頃の1万7000人程をピークに人口減少は続き、今では当時の半分以下に。プロ野球のキャンプなどもありますが、観光客も石垣島や宮古島に比べれば少なく、その点で苦労している島です。しかし、その分ゆったりと落ち着ける島でもあります。この2年程は新型コロナ感染症の影響で、更に観光客は激減、島の経済にも大きな影を落としました。
さて何故私が、久米島のことを書いているか、なのですが。以前、こちらのメルマガにも書かせていただきましたが、元々自然や生き物が大好きで、地元徳島で20年以上、干潟の保護活動に関わってきました。その活動の一環で、現在は吉野川の広大な干潟をラムサール条約登録湿地にしようという活動を開始しました。ところが、久米島には2008年にラムサール条約登録湿地として登録されたエリアがあり非常に羨ましく思っておりました。ラムサール条約登録湿地とは、元々渡り鳥が飛来する湿地、羽根を休め栄養を補給する場所を世界的に守っていこうという目的で保護されているエリア、のことで、世界遺産指定地域ほど有名ではありませんが、世界中のバードウォッチャーが訪れてもおかしくないエリアなのです。しかし、久米島にその登録湿地があることは、日本国内でもあまり知られていないばかりか、地元の人もあまりご存じありません。

一昨年(2020年)久米島でJAIPAのフォーラムを開催しました。新型コロナウイルス感染症で開催が危ぶまれましたが、運良く日本全体の感染者数も減少している時期で、現地参加者の人数制限はしたものの、感染者を出すことなく無事終えることが出来ました。その際、島の方々と話をしていると、やはり観光産業を中心に島の経済が相当落ち込んでいると言うことでした。この島の良さを知っている人は、観光地があるなしにかかわらずやって来ますが(私もその一人ですが)、かといって、余りに大勢の観光客が押し寄せて、島の経済は潤っても、本来の島の良さをなくしてしまっては、継続的な島の維持は非常に難しくなります。その意味においては、観光客が激増し、中長期的な将来を考えることなく忙殺されていた日本の観光地にとって、パンデミックは一旦落ち着いて考えるいい機会を与えてくれたのではないでしょうか?
さて、このラムサール条約登録湿地の話を久米島の観光協会の方と話をしているうちに、これをトリガーに新しい観光の在り方はないのか?という議論になりました。新しくはないかもしれないけれど、継続的に島に訪れる人をたくさんでなくていいから集められないか、と。“New”ではなく”Alternative“かもしれません。

島の課題解決と共に、島への訪問者も増やそう!

他所者の私が思う島の課題は、赤土の流出です。島の畑は殆どサトウキビ畑です。サトウキビのような植物は、土壌の酸性土が強いほど甘みが増します。なので、ここの土地はサトウキビ栽培に適しているのですが、台風などの大雨でこの赤土が海に流れ出ます。赤土は粒度が非常に小さいためなかなか沈まず海まで流れ出ます。海水に流れ出ると沈みやすくなるのですが、そこが問題で、沈むとサンゴの巣穴に入り込み、やがてサンゴを死滅させる原因の一つになります。多くの訪問者は美しいサンゴが見たくてやってきているのに、そのサンゴが死滅しているというのは大問題です。ただでさえ地球温暖化で海水温が上がりサンゴに元気がありません。最近は随分減少している台風の襲来も海の生物にとっては禍となっています。(台風が海水を攪拌することで、水面近くの水温が下がる。) この状況が続けば、白砂で有名な「はての浜」もやがては消えてなくなります。
よってサトウキビ畑を少しでも田んぼに変えられないか?特に無農薬の田んぼは渡り鳥の餌が豊富にいます。兵庫県豊岡のコウノトリの話は有名ですのでご存じの方も多いと思いますが、そのコウノトリが徳島の鳴門まで飛来し、5,6年前から鳴門でも営巣しています。せっかく営巣しているコウノトリを育てようと、地元の農家が、周辺の田んぼをどんどん有機栽培や無農薬栽培へと移行させています。
この循環が久米島でも出来れば、赤土の流出が減少し、サンゴが元気を取り戻す事が出来る。そうなれば更に海はきれいになります。また、田んぼで餌が増えることによりオーストラリアあたりから飛んでくる渡り鳥たちが増える。その渡り鳥を見るためにバードウォッチャーが世界中からやってくる。なんて、そう簡単にうまくいくとは思えませんが、ラムサール条約登録湿地という天然資源を活かさない手はないと思いました。
そこで、観光協会事務局長にこの話をしたところ「久米島と漢字で書くぐらい、実はこの島は米作りが盛んな島だった」と教えてくれました。それまで、考えてもなかったのですが、言われてみればそうです。実際、第二次世界大戦終結後、沖縄に駐留していた米軍兵が、余りに美しい島の田んぼの風景を写真に撮り続け、後に写真集を出すほどだったそうです。

 

 

はての浜:イーフビーチの沖合にあるサンゴ砂の砂州で、東洋一美しいとも言われています。船でしか行くことが出来ませんが、真っ白な砂にエメラルドグリーンに輝く波打ち際は、本当にきれいな風景を作り出しています。写真ではわかりにくいですが、左上からやや右斜め下へ緩やかなカーブを描いている白い砂浜がそれになります。
写真左の島はオーハ島という島で、その向こう側の海はウミガメの休憩場所と言われる浅瀬(礁湖)がはての浜まで続いています。

 

 

 

久米島の田んぼ再生は島内外の人に「田植え体験」としてお手伝い頂く!その一月後には美しい「田園風景」が広がり始める。その田んぼが大雨の時には、流れ出る赤土を受け止めてくれる。そして収穫の時期には「稲刈り体験」を体験してもらう。
こういった流れ全体が、世界で唯一、久米島にしか生息していない「クメジマボタル」を守ること、また海のサンゴ等の生物を守っていることを実感してもらう「原体験」にできないだろうか?

 

この話をきっかけに、ラムサール条約登録湿地を起点にしたポスト・コロナあるいはウィズ・コロナを考えた観光を考えるようになりました。感染症の専門家の中には、今後はこのようなパンデミックが5年から10年に一度発生する可能性があると警告する者もいます。そうなるとこれまでと同じ考えでは成り立たないことは明白です。
次の大きな課題の一つは、地元の人がラムサール条約登録湿地の事をあまり知らないことです。かといって大人を説得するのはどこの地域においても難しいものです。そこで、まずは純粋な子供たちに知ってもらう。BEGINの「島人の宝」にあるように島の良さをまず知ってもらおう、それが将来的な糧となる、宝となる。時代がSDGsを叫んでいることもあり、これにちなんだESD(Education for Sustainable Development)を取り入れていこう。生き物を探す目は、どんなに偉い学者先生でも子どもの目には適いません。私自身、生き物観察会をお手伝いに行く度、感心させられます。そのためだけではないですが「ラムサール・ネットワーク日本」の関係者にも協力して頂く事になりました。
子供たちが久米島の良さに気づき、その感想や意見を親に話します。それを聞いた親御さんたちはわれわれが語るよりも遙かに大きな関心を持って聞いてくれます。それには少し時間がかかるかもしれませんが、非常に重要なことで、継続するためには必要なプロセスだと考えています。
子供たちが元気に活動している地域は、自ずとお年寄りも元気になっていきます。そうすることで地域が活性化していきます。経済だけの問題ではありません。孔子曰く、「近説遠来」のごとく、そこに棲んでいる人々が活気づいた生活をしていれば、自ずと遠くからたくさんの人がやってくるものだと思います。
これからの地域を考えるには、この辺の視点も重要ではないかと思います。

最後に久米島での企みの概要を。(この通りうまくいくとは思ってはいませんが…)

  • 島の子供たちと生物調査(地元の再発見、ESD)
  • 赤土の流出を防ぐために、サトウキビ畑を田んぼへ移行(できれば下流から)
  • 田植えを体験として一般に開放(観光)
  • 田んぼを守る木々の植樹(三線の材料・木のオーナー制)
  • 有機農法、無農薬栽培で田んぼの生物が増加、多様化し飛来する渡り鳥が増加
  • 田んぼで出できた米は、有機米、無農薬米として販売あるいは泡盛に!
  • 赤土の流出減少で名産のモズクの生育向上、クメジマボタルやサンゴの保護に。
  • これらを地元の子供たちや観光客らと体験し共有することで“久米島愛”を醸成

一過性ではない観光の実現へ向けてこんなことを考えています。

地域の歴史や伝統、自然環境にあったものでなければ、何事においても継続的な活用は難しいと思います。それらを利用することで伝統や文化も継承され、その生活を育んできた自然環境も守られると思います。
実際にサトウキビ畑を田んぼへ移行するまでにはもう少し時間がかかりそうですが、まずは島の子供たちと生物観察を春から始めようと計画中です。
新型コロナウイルスの感染が治まりましたら、是非一度、人も気候も穏やかな久米島に足を運んで頂けたらと思います。

*昨年、地元徳島で有機農法による米づくりを少しお手伝いしました。収穫量は少し少なかったものの、非常においしい米が出来上がり、なんと3日間で完売しました!これらの経験からも米づくりがうまくいく可能性は高いと考えています。

 


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