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ローカル5G技術講座 Ⅱ 第1回 市場状況
高精細映像伝送に強いニーズ
パブリック5GやWi-Fiとは異なる用途

リックテレコム テレコミュニケーション編集部 坪田 弘樹 氏

昨年好評をいただいたローカル5G技術講座をうけて、「ローカル5G技術講座 Ⅱ」のシリーズを始めます。第1回は、ローカル5G市場の全体を俯瞰するため、株式会社リックテレコムのテレコミュニケーション編集部、坪田 弘樹 記者に全体動向と今後の見通しについてお聞きしました。

 

 

現場の映像を見て遠隔で制御したりAIで解析

――現在のローカル5G市場の全体動向、これからの見通しを聞きたいと思います。まず、ユーザー動向について、企業や自治体などローカル5Gの利用動向を教えてください。現状は、実証実験の段階から本格的な導入が始まった段階なのでしょうか。

坪田 本格的な利用ということをどう位置付けるかにもよりますが、商用利用は、本当にまだまだの状況だと思います。「商用利用します」というニュースも幾つかは出てきていますけど、ほとんどは実証実験、トライアルの状況です。
理由としては、まずコストが非常に高いことです。2021年の状況でいえば、導入の入口で数千万円掛かる。最小構成でも2000万円ぐらいです。これが初期の機器代プラス免許申請を含めたものです。申請の前にきちんと電波環境をシミュレーションしたり、導入する機器のスペックも調べないといけませんので、さらにいろいろなコストが掛かかります。
別の理由として、ローカル5Gについてちゃんと理解していないユーザーが多いこともあります。ローカル5Gの導入支援事業者に聞くと、ユーザーが考えているユースケースが、そもそもローカル5Gを使う必然性があるのか、Wi-Fiの方がいいのではないか、ということもよくあるそうです。IoTが始まったときも、5Gが始まったときも、なかなか離陸しなかったということがあったと思いますが、それと同じような状況なのかなと思っています。

――導入が始まっているものには、どういう利用目的、どういうタイプの事例が多いのでしょうか。

坪田 ローカル5Gの免許を取得した事業者は、2021年9月時点で60者です。製造業/メーカー、大学/研究機関、国/地方公共団体、地域通信事業者/SIer、ケーブルテレビ事業者、その他に分類できますが、やっぱり一番多いのは製造業です。

 

 

ローカル5Gの利用目的をユースケースから見ると主に2つで、工場内の有線ネットワークを無線化したい、要は生産ラインをフリーライン化したいというのが1つです。
もう1つは、現場の映像を遠隔で見て制御したり、映像をアップロードしてAIで解析したりすることです。生産ラインの無線化とカメラ映像のアップロード・解析、この2つが圧倒的に多いと思います。

映像伝送に活用したいというニーズは製造業以外でもありまして、これもローカル5Gの有望なユースケースになり得ると思っています。例えば放送業界や医療業界など、映像伝送が絶対に途切れてはいけないとか、超低遅延が要求されるとか、かなり高精細な映像を使うとかのニーズです。
NTT東日本は農業での活用にも取り組んでいます。農産物の色・形・質感がはっきりと分かるような高精細映像を遠隔地に飛ばして、ベテランの人がリモートから営農指導を行うという使い方です。医療もそうです。高精細映像を伝送したい、映像を絶対に遅延しないで活用する、この使い方は業界を問わず、あるのではないかと思います。

――よく5Gの3大特徴といわれますが、「超高速」「低遅延」を使った高精細映像伝送と遠隔コントロール、これはローカル5Gでも非常に実用性が高いのではないかと、皆さん思っているということですね。

 

坪田 そうですね。遠隔コントロールも、現場の機器制御も、有力な活用方法ですが、映像のアップロードというのは本当にいろいろな切り口があると思っています。5Gの特徴のうち、超高速と低遅延の2つをどう生かすかというところがポイントになるのではないかと思っています。

 

それ以外のユースケースとしては、ローカル5Gを使ったインターネット接続サービスも有望だと思います。
先ほどの免許所得者の分類で、製造業の次に多いのがケーブルテレビ事業者です。目指しているのは、ローカル5Gを使ってコンシューマあるいは法人向けにインターネット接続サービスを提供するという方向性だと思っています。
例えば、ソニーワイヤレスコミュニケーションズが春から「NURO Wireless 5G」という名前で、集合住宅向けにインターネット接続サービスを始めますが、これは、ローカル5Gの通信機能を持つホームルータを加入者宅に置いてもらって、そこを光回線ではなくてローカル5GでつなぐというFWAサービスです。ドコモの「home 5G」と同じタイプのサービスです。

――ケーブルテレビ事業者は同軸ケーブルによるサービスからBWAを活用してサービス提供する動きがあったと思いますが、そこにローカル5Gを使う構想ですね。

坪田 そうです。ただ、これは制約があります。ローカル5Gは基本的に「自社土地利用」つまり自分の土地に限られるので、ケーブルテレビ事業者等が広域にサービスを提供しようとすると、移動体向けのサービスは現状ではできないんです。端末が固定されていないとだめなのです。「他者土地利用」の場合は移動体向けにはできないのです。ホームルーターのような端末を固定して置いて、この家とか、法人だったらこのオフィスとかにサービスを提供することは可能です。今のところは、そういう使い方です。

――ローカル5Gでスマートフォン向けのサービスをやろうとすると、法令を変える必要が出てくるわけですね。

坪田 総務省は、今のBWAのように移動体に対して広く広域にローカル5Gでサービスできるようにしようという検討をしています。これを「広域利用」と呼びます。
ケーブルテレビ事業者が一番やって欲しいのは、それだと思います。ただ、ケーブルテレビ事業者以外のローカル5Gをやりたい人は反対するはずですし、移動通信キャリアも賛成ではないでしょう。あちこちにローカル5Gの電波が飛ぶことになり、電波干渉が発生する可能性が高まるので、利害関係がはっきり分かれてしまうのではないでしょうか。「自社土地利用」で自社工場だけでローカル5Gをやるという人は困るということで、実現には壁があるのではないかなと思います。

――「ローカル5G」ではなくて、「ワイドエリア5G」になってしまいますね。

坪田 BWAやWiMAXなどに近いものを目指している人たちもいるでしょうが、そこまで必要としない人も多いでしょう。移動通信キャリアも、広域利用はやって欲しくないというのが正直なところだと思いますから、ユースケースが花開くとしたらFWAだと思います。光回線の代替として固定通信に使うというのはありだと思いますし、実際に愛知県の「ひまわりワイヤレス」というところも、それをやろうとしています。

クラウド型のローカル5Gが主流になる

――ローカル5Gの導入形態は、どういう状況でしょうか。

坪田 ローカル5Gの基地局設備はオンサイトに置きますが、コアネットワークの機能は全てクラウドに置いて利用する形態が増えています。
ローカル5Gのシステム構成を示したのが、この図です。左端が「端末」で、スマートフォン、監視カメラ、工場の機械などです。ネットワーク側は「基地局」設備と「コアネットワーク」設備に分かれます。コアネットワークの部分はオンプレミスサーバーで施設内に置くこともできますし、クラウド型でSaaSのように使うこともできます。

 

 

このコアネットワークは、クラウド型が多くなってきており、これが主流になるのではないかと思っています。今日、企業の業務アプリケーションも結構SaaS型になっていて、企業内で運用されるサーバーはどんどん少なくなっています。その流れの中で、ローカル5Gのコアネットワークを動かすために自社内にサーバーを入れて運用するかというと、企業はしたくないでしょう。ローカル5Gのコア機能はクラウドになっていくだろうと思っています。
コアネットワークをSaaS型で提供するサービスは、ノキア、NEC、富士通もやり始めており、今後も増えてくると思います。AWSやAzureも始めていますし、他のクラウド事業者も本当にローカル5Gの市場が大きくなるのであれば、対応するはずです。

――具体的な動きを教えて下さい。

坪田 NTT東日本の井上社長が1月の「ソリューションフォーラム」の基調講演で「ギガらく5Gを始める」「ローカル5Gを月額30万円から使えるようにする」と発表しました。コアはクラウド型でNTT東日本が提供、基地局はどこかとパートナーを組んで貸すというモデルになるはずです。思い切ったサービス提供だと考えます。

 

 

この方式ですと、誰でも、ローカル5Gのコア機能を提供するSaaSサービスができます。どこかのベンダーが作っているコアネットワークのソフトウェアを、AWSとかAzureに載っければ、誰でもできるわけです。たとえば、NECは自前でコアネットワークのソフトウェアを作っているので、NECのクラウドからサービス提供することもできますし、SIerがNECの5Gコアを仕入れてAWS上に置いて動かし、企業に「コアネットワークのSaaSはいかがですか」と提供することも可能です。

――ローカル5Gのプラットフォームを持っているNTT東日本やNECなど主要ベンダーがいて、そのサービスをSIが企業ユーザーに売っていくというSaaS型サービスになるということですか。

坪田 もちろん、ローカル5Gはワイヤレスシステムなので技術サポートが必要ですから、無線の知識と技術があるSIerなどに限られると思います。例えば、ケーブルテレビ事業者の団体がコアネットワークを買ってAWSで動かし、SIerのサポートを得ながら配下のケーブルテレビ事業者にSaaS型でコア機能を提供するというモデルも可能になるでしょう。

ビジネススキームは、普通のSaaSと同じです。しかも、コア機能の提供だけなら無線免許も不要です。免許はユーザーが自分で取るものなので。

――すると、ローカル5GビジネスはNSAタイプで千万円オーダーで基地局とコアネットワークをつくるという初期的なものから、一気にクラウド型、SaaS型の汎用サービスに移る方向が見えてきたということですね。NTT東日本の「ギガらくWi-Fi」とあまり変わらないことになるのではないかと。

坪田 ユーザー企業は無線免許を取らないといけないので、Wi-Fiほど簡単ではないですが、基地局を調達して、それとつながるコア機能のSaaSのサービスを契約し、端末を調達すれば、できてしまう形になります。NECは初期500万円からできる形にしています。

――ユーザーは用途に応じてローカル5GとWi-Fiのどちらを選ぶか、みたいな感じになるのでしょうか。

坪田 ローカル5GはクラウドWi-Fiほど安く簡単にはいかない面があります。無線免許を取って、陸上無線技士を置いて、他の事業者と干渉が起こらないように無線環境をきちんと管理していく必要があるので、Wi-Fiとは扱い方も難易度も違います。ですが、だいぶ手が出せるようにはなってきたかなと思います。
「手軽に」売り歩けるようなものになるかは、先ほど言った免許取得などの条件がありますから、それほど簡単ではないと思いますが、総務省やベンダーが目指しているのは、そういうところではないかと思います。将来的に、例えば3年先とかには本当に簡単にしていこうということは、どの事業者も考えていると思います。

――そうすると、これまでのSAタイプかNSAタイプかという方式選択のような論議はもう終わるということですか。

坪田 これからは、SA方式が主流です。BWAを持っているケーブルテレビ事業者はNSAがあり得ると思いますが、BWAを持たない企業や自治体が今からLTEのアンカーを作るかといったら、それはないと思います。製品もどんどん出てきますから、SAで十分です。

――コアネットワークではオンプレが基本的になくなるということは、ローカル5Gにおいてハード価格の低廉化は当初、高価格が普及の足枷と危惧されたときほどは意味がなくなりますか。

坪田 基地局は絶対にハードウェアが必要なので、その価格低下はローカル5Gの普及には必要なことです。図のように、子局(RU)は無線を吹くところで、親局(DU/CU)は無線を制御する部分ですが、これはローカルに置かないといけません。

――基地局の低廉化はどれぐらい進んでいますか。

坪田 NECが、基地局とコアのワンセットで498万円と発表し、衝撃を与えました。ミソは、基地局の低廉化です。
今までの基地局は、RUとDU/CUが分かれていたのですが、それを一体化したタイプの基地局を作りました。そうするとハードウェア的には安くなりますし、置き場所も1カ所で良くなりますし、子局と親局をつなぐ配線もいらなくなるので、工事費も安くなります。2つに分かれていたものが1つになることで、設置も運用も簡単になるわけです。DU/CUはサーバソフトウェアなので、無線を吹く基地局の筐体の中にサーバソフトウェアを突っ込んで動かしているという形になります。
一体型の基地局と、クラウド型5Gコアの1年ライセンスの組み合わせで498万円。それに、電波を吹いているか、干渉していないか、障害は起こっていないかを監視・運用するマネージドサービスも含めて798万円となります。これは最小構成の価格ですが、今まで2000万円からと言っていたものに比べると、一気に下がりました。
NTT東日本もこの5月から、月額30万円からの低料金でローカル5Gシステム一式を利用できる「ギガらく5G」を始めます。導入前の事前準備・免許申請から構築、運用保守まで含めたパッケージで提供します。ここまでいくと、企業ユーザーはかなり手を出しやすくなるのではないでしょうか。

ローカル5Gの普及を促す新たな取り組み

――総務省は、今、どういう取り組みをしているのですか。

坪田 1つは、先ほど述べた「広域利用」の取り組みです。当初は、ローカル5Gの制度自体を2025年に見直すときに考えましょうと言っていたのですが、ケーブルテレビ事業者等からの要望が強いので、前倒しして検討しようという流れになっています。
サブ6帯のうち一部が屋外利用できるので、その帯域だけを取り出して広域利用できるようにしようという案などが検討されています。サブ6帯は3分の1だけ屋外利用できて、3分の2は屋内しか使えません。その屋外利用できる帯域だけを広域利用できるようにして、他の事業者との干渉を防ごうという方向性は出てきています。

2つ目は税制です。移動通信キャリアとローカル5Gの免許人を対象にした促進税制が2020年度に、2年間の時限措置でスタートしました。5G設備への投資分を法人税から税額控除するというものと、ローカル5Gだけは固定資産税も優遇するというものです。2021年度末で終わる予定だったのですが、昨年末の税制改正で延長されました。

 

 

ローカル5Gをやる人は、これを使えば税制的には優遇されます。ローカル5Gの方が優遇されていて、全国キャリアに比べたら控除率も高い。控除率は来年度、再来年度、その次とだんだん減っていきますが、全国キャリアに比べるとローカル5G事業者の控除率は高く据え置かれていますし、ローカル5Gの固定資産税の優遇措置も延長されているので、総務省は是が非でもローカル5Gをうまく離陸させたいというのが、よく表れているなと思います。

――総務省はローカル5Gへの取り組みは積極的ですね。

坪田 3つ目は「準同期」の導入です。
先ほどユースケースとして映像伝送が重要だということを話しましたが、ローカル5Gはキャリア5Gと異なり、上り通信を画像伝送に使うニーズが極めて強いのです。公衆網の5Gは、下りが7、上りが2の比率です。しかし、ローカル5Gでは映像をダウンロードするのではなく、映像をアップロードすることに使いたいので、逆に上りを7、下りを2くらいにしたいという要望が強いのです。
例えばこれが製造業で映像伝送を使うときの例で、作業員が手元で作業している様子を撮影した映像をAIに解析させて、これは手順が間違っているとか、ここは入れ物が違うとかというのを判定させたりしています。

 

画像出典:オムロン記者説明会

 

まったく異なる業界でも、SNSの草分けで有名なミクシィが、競輪とオートレースの動画配信・ベッティングサービスをやられていて、その映像伝送にローカル5Gを商用利用し始めました。上り通信を映像伝送に使いたいというのが、ローカル5Gの使いみちのポイントです。

 

 

――上り下りの帯域の割り付けの変更の技術ですね。

坪田 図を見ていただくと、「同期TDD」とはつまり、キャリアの5Gと同じタイミングで上り・下り通信を使う形態です。Dが下り、Uが上りです。ローカル5Gも基本的にはこれに合わせないといけなかったのですが、これを変更できる準同期が2020年末の制度改正から可能になりました。左の赤枠の部分で、上下比率1:1ぐらいができるようになっています。
上り方向の大容量通信のニーズが強いため、Uをもっと多くできるパターンを今、総務省が追加しようとして検証しています。これができるようになると、映像伝送におけるローカル5Gのメリットがさらに大きくなります。

この準同期TDDを認めたのは日本が最初で、これはすごく画期的なことだそうです。総務省が実施している令和3年度の開発実証において、準同期TDDの2や3を検証しています。

――スタジアムの多地点カメラとか、農業現場とか、いろいろな実証実験でもアップリンクを高くする現場ニーズは強いようですね。

坪田 下りの大容量通信はキャリアの5GやWi-Fiでもできます。上りに思いっきり使いたいというのがローカル5Gの有望な使い方になると思います。

海外での主な状況

――海外状況について、注目すべき動きがあれば教えて下さい。

坪田 海外では、ローカル5Gではなく「プライベート5G」が正式名称です。制度がきちんとできている日本が先頭を走っているといってよい状況です。
韓国が昨年、似たような制度を解禁しましたが、正直うまくいっていないようです。キャリアがあまりいい顔をしないというのが大きな要因のようです。
日本以外で進んでいるのはアメリカとドイツです。ドイツは主に自動車メーカーが自社工場でプライベート5Gを使っていますが、そのほとんどはドイツテレコムなり移動通信キャリアがバックアップをしています。プライベート5Gといっても、ネットワークを構築して基地局を打っているのはキャリアです。
日本ではソフトバンクが、企業ごとに専用の5Gネットワークを仮想的に作って提供する「プライベート5G」を始める予定です。日本の他のキャリアも同様のサービスをやるはずなので、そうした使い方が広がるでしょう。アメリカでもAT&Tが、自動車メーカーのフォードの工場にプライベート5Gを入れたということなので、キャリアがバックアップしてプライベートな5Gを構築する例が増えてくるだろうと思います。

そのほか、類似する制度としてアメリカのCBRS(Citizens Broadband Radio Service、市民ブロードバンド無線サービス)があります。海軍レーダー等が使用している3.5GHz帯を商業利用と共用可能な帯域として新たに配分したもので、プライベートLTE/5G網の構築に利用することができます。非免許周波数帯を使ってローカル5Gのようなことをするというもので、AWSが、これを利用して企業がプライベートネットワークを構築・運用できるようにする「AWS Private 5G」を始めました。AWSの管理画面上で、「この場所で、これぐらいの容量、こういう構成で」と入力すると、数日後にセットアップ済みの基地局とサーバが手元に届いて、それでプライベート5Gが使えるというサービスです。AzureやGoogleも追随するでしょう。
ヨーロッパでは、まだ情報が少なくて細かいところまで分からないのですが、ドイツとフランスの政府がタッグを組んで、ローカル5Gのプロジェクトを始めました。両政府が共同で1770万ユーロの資金を拠出するそうなので、それなりに大きなプロジェクトなのかなと思います。

――ローカル5Gの登場で、Wi-Fiが使われなくなるのではないかという意見が聞かれます。

坪田 ローカル5GとWi-Fi 6はどちらが良いのかみたいな比較をよくされますが、それは違うかなと思っています。ローカル5Gと比べるべきはパブリック5Gだと思っています。
まず、Wi-Fiとローカル5Gは非免許帯域と免許帯域なので、まったく違います。Wi-Fiはそもそも免許は要らないし簡単に機器が手に入ります。それでいて、すごく高速な通信ができます。他方、ローカル5Gは免許周波数帯で絶対に落とせないシステム向けで、安くても数百万円掛かります。使いどころも違ってくるでしょうから、そもそも比較するのがおかしいのです。
むしろ、使い分けの関係でしょう。例えば、同じ工場内でもローカル5GとWi-Fiが共存することはありだと思います。ユースケースによって使い分ける、あるいは組み合わせて使うべきものだと思います。
以前、神戸大学病院で、遠隔手術ロボットの実証を取材しました。遠隔地から5Gを介して手術を行うもので、NTTドコモと組んでパブリック5Gで実証していました。その医師は、「ローカル5Gは大学病院のような大きいところなら入れられる。しかし、このシステムはそういう大病院だけが利用できるのでは意味がないんだ」とおっしゃっていました。「日本全国のどんな病院でも、これができないといけない」ということです。その意味でローカル5Gなのかパブリック5Gなのかというのは、使える人が限られるローカル5Gと、あまねくいろいろな人が使えるパブリック5Gとの用途を見極めていくことだと思います。公共性が高く、どこでも使える5Gなのか、自分専用で最適のシステムを構築できるのかとの違いだと思うのです。
パブリック5Gも、ローカル5Gも、Wi-Fiもそれぞれ適した用途が違います。ですから、ローカル5Gが普及してもWi-Fiが不要になることはあり得ません。

 


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