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トップインタビュー
NECプラットフォームズ株式会社
代表取締役 執行役員社長 福田 公彦 氏
コロナ禍で働き方改革/DXがさらに進む
Wi-Fi 6/6Eには高い期待

NECプラットフォームズ株式会社は、NECグループのなかでネットワーク製品開発・生産の中核を担っています。福田公彦社長に、今年の戦略と主な事業の取り組みについて伺いました。

 

 

 

加速する企業の働き方改革

――今年は新型コロナ感染症との闘いが3年目になるわけですけれども、コロナ禍のなかでどういう変化が起きているのでしょうか。

福田 今、私たちは複雑に重なり合った環境にあると思います。もともとは地球規模での持続可能な社会の構築に向けたSDGsへの取り組みが要求される中、少子高齢化や労働力不足といった課題の解決に向けて、デジタル技術を駆使した「働き方改革」が社会の変化のベースにありました。これに新型コロナ感染症流行というかつてない事態が発生し、ライフスタイル・ワークスタイルといった社会的な形態が急速かつ大きな変曲点を迎えたというのが、現在の状況だと思っています。これらの結果として「コミュニケーション」に対する需要が大きく加速しました。
市場においては、各社が一斉にテレワークを導入し、自宅がオフィスと化すという大きな社会的変化があって、企業のネットワークは拡充を要し、スマートフォンやPCに加え、家庭用ルータなどの通信機器も需要増となりました。
通信キャリアもこれにより通信需要が増大し、また特に5Gに切り替わるタイミングでもあったことから、一斉にデータ通信の大容量化が進みました。またIoTのような新しい動きにより、通信に対する多様化も一気に進んでいます。
現在は、そうした、通信環境の大きな変化の真っただ中にいるということだと思います。

――御社も、コロナ禍の中で自社の働き方改革を進めていかなければいけないし、同時に社会から求められるものに応えていかなければいけない、その両面で、いろいろ取り組みをされたわけですね。

福田 一つは社内の取り組みです。当社BCPに則り、様々な観点から新型コロナ対策を打ったわけですが、スタッフ系、開発系、営業系はテレワークへの移行を徹底しました。スタッフ系に至っては出社率2~3割を実現しました。工場の生産系のようにテレワークが困難な職種もあるわけですが、全社平均でテレワーク率5割ほどに持っていきました。

――生産系の工場は難しかったのではないでしょうか。

福田 工場においても、生産技術や調達などオンラインでできる業務もありますので、可能な限りテレワークとしましたが、製造ラインは無理ですので、生産系全体で出社率は8割ぐらいです。
2020年の5月頃からこのような体制に移行することができました。これは、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて前年から一斉テレワークの予行練習をやっていたことが大きいです。
当初、パソコン、タブレット、スマートフォンが全社均一には揃わないという時期もありましたが、急遽手配をかけて、思った以上にスムーズに全社規模でのテレワークに移行できたと思います。
白石、米沢、福島、那須、掛川、甲府、大月の各工場における生産革新業務も、従来はオンサイト型でやっていたのですが、全てテレワークに切り替えました。当初は戸惑いもありましたが、繰り返すうちにテレワークでの運用がうまくなってきました。
今はテレワークという働き方が会社全体に定着したと感じています。

――社内の取り組みはとてもスムーズに行ったのですね。

福田 もう一つは、お客様に必要な通信機器やサービスという形でプラットフォームを提供することです。お客様のテレワークに適したソリューションを提供し、お客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくという社外に向けた取り組みになります。
テレワークでオフィスが分散化した状況が社会的にありますので、その中でいかに効率的な働き方ができるかがお客様の課題になっています。
ここに来て、時代の変化のベースとなった「働き方改革」が再び浮上してきて、「ウィズコロナの環境における働き方改革」というところに、お客様が投資を始めてきています。
そのニーズに応え、お客様に最適なソリューションを提供するために、当社もこの取り組みをさらに推進していきたいと考えています。

クラウド化でのネットワーク管理

――御社はオフィスのネットワーク機器とそのソリューションを主軸にずっと事業展開しておられますが、最近の取り組みを教えて下さい。

福田 ここ数年、分散したオフィス、ネットワークを、クラウドで一元管理したいという企業のお客様からのニーズが顕著になっています。働き方改革のなかで、テレワークの動きが一段と進んだことも要因の一つだと思います。
そのような要求に、当社では、クラウド上でネットワーク機器を一元管理し、リモートで簡単に機器管理が可能な「NetMeister(ネットマイスター)」というサービスを提供しています。あらゆるものがネットワークにつながる時代ですので、その機器管理は大変煩雑なものになりますが、機器やバージョンの管理、設定変更までをリモートで簡単に行えるので、お客様のネットワーク活用を支援することが可能となります。

また、昨今、5G、ローカル5G、LPWA、Wi-Fi、Wi-Fi 6といったさまざまな通信手段がありますので、当社が持つ製品群や技術と、お客様との共創により、それらを組み合わせて最適なネットワーク環境を構築することを目指しています。

 

 

――御社は通信系では、企業内のPBXやビジネスホン系をずっとやってきて、オフィス系機器では高いシェアを持っているわけですが、この間のユーザの変化というか、新しい要望はどういう点でしょうか。

福田 これまでは会社のオフィスで、外線がかかってきて電話を取る、あるいは内線電話で話すというようなコミュニケーションが普通だったわけですが、リアルオフィスには誰もおらず、外出先・自宅・サテライトオフィスなどに分散した社員があたかも一緒にいるようなバーチャルオフィスを、ネットワークで実現することが求められています。
外線電話を自宅に転送したり、自分のスマートフォンで内線通話するなど、音声コミュニケーションに対する要求はどんどん変わっていますので、PBX・ビジネスホン自体もこれに合わせて進化しています。さまざまなオフィス用のクラウドサービスがあるので、それらと連携することで、さらに働きやすいコミュニケーション環境にすることができると考えています。

モバイル/ワイヤレスは多様化が進む

――5G、ローカル5G、Wi-Fi 6、LPWAなど、モバイル・ワイヤレスとそのソリューションは新しい技術が登場し、新しい様々なニーズも高まっていると思います。どのように見ていらっしゃるでしょうか。

福田 モバイル/ワイヤレスは多様化が進むだろうと思っています。
例えばホームであれば当然ながらWi-Fiを中心に強化され、今の最新規格のWi-Fi 6ではメッシュ通信での通信エリア拡大ができるようになっています。近いうちにWi-Fi 6では6GHz帯への拡張も予定されていて、市場はさらに活性化していくと思います。

――Wi-Fi 6Eですね。

福田 6GHz帯の周波数が空いていることとチャネル数が多いことにより、家庭内のネットワーク機器がもっとサクサクつながるようになるでしょう。最近の家庭は、いろいろなものがネットワークにつながり始めていて、接続台数が一昔前と比べ1桁増えているそうです。4人家族の家庭なら、ゆうに10台ぐらいつながっているのではないでしょうか。そうなると、意外に家庭内のネットワークが混んでいて、接続デバイスがチャネルを取り合っているという状況もありますね。

モバイル系は4Gから5Gに移行していきます。同様に今1Gbpsの速度を持つ光回線アクセス系も10Gbpsへの移行が進んでおり、ネットワークの大容量化が現実となってきています。今後は全てのデバイスをストレスなくネットワークにつなげていくところがポイントになってきます。そこで、Wi-Fi 6のメッシュ機能を使って、自宅のすべてのエリアをカバーするということが重要となってきます。

また、倉庫や工場などで従来のWi-Fiでは電波の届きにくいエリアがある場合には、Wi-Fiのメッシュで広げる以外にも、ローカル5Gのような異なる方法でエリア全体をカバーするというやり方もあります。

 

 

――御社はローカル5Gにも積極的に取り組まれていますね。

福田 甲府工場でローカル5Gの実証をやっており、来年度からは商用で本格的に運用する計画です。甲府では、生産ラインから映像を飛ばし、現場で起きていることを遠隔から確認する実験を行っています。また、複数のAGV(無人搬送車)を遠隔で制御する実験も進めています。今まではラインで異常が発生すると、回転灯が回ってリーダーが現場に駆けつけていたのですが、これからは複数の拠点に専門家が常駐しなくても、現場の映像をリモートでリアルタイムに確認しながら現場に指示を出すということも可能になり、大幅な効率化が実現できます。
Wi-Fi 6Eの方も、総務省の実証実験に参加させていただいており、国産ベンダーとして確認作業を進めています。今後、6GHz帯の認可が下りれば、速やかに対応する機器を提供していきたいと考えています。

北條 海外ベンダーは、アメリカで6GHzは開放されているので装置を作っていて、日本でオープンになったら、ファームの入れ替えで使えるようにしているようです。海外メーカーはWi-Fi 6Eを中心にやっていこうという考えのようです。
ただ、日本の場合、既存の帯域を使っている人たちの抵抗が強くて、アメリカのように1.2GHz幅を開放するというのは当初は難しいということで、下側の500MHz幅を開放する方向で進んでいると聞いております。Wi-Bizの技術・調査委員会のメンバーが、その検討作業で一生懸命やっている状況です。

福田 Wi-Bizが中心となって、日本でもWi-Fi 6Eをより有効に活用できるよう推進していただきたいと思います。

「セキュア生産」を推進する

――御社の今年の戦略的な方向と、主な取り組みを教えてください。

福田 今年は、世の中の通信に対する期待値が増え、さらに多様化が進むという中で、働き方改革、デジタルトランスフォーメーションを喫緊の課題とされているお客様が増えていることを現場でも感じていますので、それに応えてソリューションの強化を進めていきます。
もう一つ、今、力を入れているのが「セキュリティ」です。通信に関して、セキュリティの問題は非常に重要ですので、パートナー企業とのタイアップも含めてネットワークセキュリティの強化・推進を進めています。
ものづくりの領域で当社が実践しているのは「セキュア生産」という形です。

 

 

――「セキュア生産」とはどういうコンセプトですか。

福田 調達から製造、物流まで一貫したセキュアな生産体制を構築することです。守られた情報に基づいて正しく物をつくる、物流を管理する、サイバー攻撃を受けた場合にすぐに復旧する体制を確立しておくということです。考え方としては米国のNIST SP 800-171という要件をベースにした当社独自のセキュリティポリシーを用いたものづくりに取り組んでいます。

また、ネットワーク全般にも言えることですが、オフィス環境が大きく変化した中でネットワーク環境を管理することが、お客様にとって大きな命題となってきています。セキュリティが喫緊の課題となる中で、先ほど述べましたように、我々はソリューションとして、クラウド型ネットワーク統合管理サービス「NetMeister」をお客様に提案しています。ウィズコロナ、アフターコロナ時代のセキュアなネットワーク管理という形を推奨していきたいと考えています。
製品のものづくりの過程から、製品がお客様に渡ったあとの運用、ネットワーク管理までを、いかにトータルでサポートできるかということを、私たちは真剣に考えています。

働き方改革/DXに向けた動きは続く

――今後のネットワーク業界におけるビジネス展望はいかがでしょうか。

福田 さらに大きく伸びていく方向にあると考えています。背景にある働き方改革、デジタルトランスフォーメーションは、今後どんどん進んでいくと思いますし、私たちはまだ入口に立ったところで、市場として大きな変化はむしろこれから。デマンドとしては非常に強い状態が続いていくでしょう。特に通信に対するニーズは、歴史的な社会変化のバックボーンにあたるところですから、お客様もまず強化すべきポイントの1つとして感じられているので、そこに対する投資は旺盛だろうと思っています。

――通信系各社も、第三四半期が発表されていますが、企業のDX需要が非常に高くて、積極的な投資が増えているということが特徴のようですから、コロナ禍での新しい時代の始まりのなかで、もう1度ネットワークを見直していくという動きは続くのでしょうね。

福田 そうだと思います。ひと昔前と違って難しいのは、単に手段だけの提供をするのではなく、全体を見渡したソリューションという形で提案する必要があるということです。通信を太くした・速くした・セキュアにしたことが、お客様のベネフィット、ないし働き方改革、DXにいかにつながるのかということを指し示して、提案していくことを心掛けなくてはなりません。

――これまでは、働き方改革にしても、コロナ対応として必死に取り組んできたわけですが、これからは迫られた対応というのではなく、次の成長に向けた戦略のなかで、より積極的な取り組みを行っていかなくてはならないという局面に入っているということですね。

業界が一つになって推進していく必要

――Wi-Bizは2013年からですから今年9年ぐらいです。ずっとWi-Fiを中心に業界を引っ張ってきたと思うのですが、最近はローカル5Gも含めてプライベートワイヤレスネットワークをトータルでやっていくところに来ています。

福田 業界としてまとまって進んでいくためには、Wi-Bizのような組織体がないとうまく機能しないので、ここはぜひ私たちも参加させていただいて、一緒に頑張っていきたいと思います。企業と行政が一体となってやらないと動かないことがありますので、そこはぜひWi-Bizに期待したいです。
例えば「00000JAPAN」がありますが、共通のSSIDで一斉に各社の機器が応答するということは、Wi-Bizならではの動きです。まずは日本の社会に向けて、あるべき方向を提示し、官民一体となって進めたいですね。共通にすべきところはたくさんあるので、そこはWi-Bizの場に参加企業が集い、協力してやっていければと思っています。そういう点で、Wi-Bizへは大きな期待を持っています。

 


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