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トップインタビュー
株式会社東陽テクニカ
代表取締役 社長 高野 俊也 氏
先端の技術革新で社会貢献を目指す
6G、スペースICTに注力していく

 

東陽テクニカは昨年10月、中期経営計画とともにSDGsへの取り組みを発表しました。「“はかる”技術で未来を創る」という企業理念に基づき、自社開発にも取り組んでいます。高野俊也社長に、今年の戦略と主な事業の取り組みについて伺いました。

 

 

コロナ禍とDXの取り組み

――今年は世界的にもコロナが収束に向かい経済が活性化するのではないかと期待されていたわけですが、ウクライナ侵略戦争が始まり、資源危機なども起きている状況です。情報通信分野はグローバルに見ても非常に好調というか、技術が進歩しております。現状をどう見ておられますか。

高野 新型コロナウイルスの感染拡大による事業への影響については、半導体や電子部品不足による製品の納期遅れ、生産現場での感染拡大による稼働停止など、それほど大きくはないもののありました。昨年の売上は、計画に対して1割ほど未達となりました。
コロナ禍におけるリモートワークは、弊社も取り入れておりまして、幸いにも通信関係のお客様はリモートでの対応に非常に長けていらっしゃるので、影響を受けにくかったと考えています。
受注に関しては堅調が続き、受注残高が増加している状況です。コロナの感染拡大も徐々に収まり、経済的には影響の少ない方向に向かうのではないかと期待しています。
一方で、ロシア・ウクライナ間の対立は新たな問題と捉えています。弊社では、多くはありませんがロシア製品を扱っており、他国の製品も含め、ロシア製部品が主となっている製品は販売の中止を決めました。事業への影響は若干ですが、あると想定しています。

――通信業界のお客様が多いですね。

高野 通信市場では、音声・映像データやVPNで通信量がますます増加していますので、通信インフラの担保という点で試験機需要は引き続き堅調です。
一般企業でもコロナ感染の拡大を機に通信ネットワークを見直す際に、回線速度の増強だけでなくセキュリティを重要視する動きが進んでいます。弊社自体も幹線ネットワークを見直しました。
リモート会議が集中しても通信速度を落とさないことが重要です。こうした動きがDX推進を加速させており、弊社のビジネスに好機となっています。

「脱炭素社会の推進」を中期経営計画の事業戦略の一つに

――今年の事業戦略について教えて下さい。

高野 昨年11月に、中期経営計画「TY2024」(22年9月期~24年9月期)を発表しました。

 

 

事業戦略として大きく5つのテーマを掲げております。特にSDGsへの貢献も意識し、「脱炭素社会の推進」を一番に掲げています。そして「高速通信環境の実現」「リカーリングビジネス」「技術開発投資の継続」「M&Aによる事業拡大」を挙げています。
「脱炭素社会の推進」に関わる話では、弊社は物性/エネルギー分野という、主に二次電池の開発支援を進める事業を手掛けています。今はリチウムイオン電池が一般的ですが、次に来るものとして全固体電池などがあり、そうした次世代電池の評価用装置に注力しています。こういった開発への支援を通して脱炭素に貢献していきたいと考えています。
「リカーリングビジネス」では、単なるモノ売りに留まらず、サブスクリプションやコンサルティングなど循環的に行われるビジネスを拡充していくことを目指しています。
また、弊社は創業当時から海外計測器の輸入販売を行なっておりますが、近年は自社製品のビジネス拡大に力を入れています。「技術開発投資の継続」を事業戦略の一つにし、オープンイノベーションを推進し、継続的な自社開発に注力していきます。
さらに「M&Aによる事業拡大」も確実に成し遂げたいと考えています。

 

 

――SDGsへの取り組みでは、脱炭素や地球環境の保全に貢献する内容で優先課題を出されていますね。

高野 弊社のビジネスは、もともと技術革新による社会貢献や安全な環境づくりを目指していましたので、SDGsについては事業として行なっていたことを改めて明文化したという認識です。企業理念の一つに「“はかる”技術で未来を創る」を掲げており、はかる技術のリーディングカンパニーとして、豊かな社会、人と地球に優しい環境創りに貢献することを掲げています。

――技術革新で社会貢献という姿勢は一貫しているわけですね。

高野 SDGs優先課題の1つに、高速通信環境の実現などによる「安心・安全で豊かな暮らしの実現」も掲げています。通信は次々に新しい方式が出てきますし、高速化も必要です。皆さんがネットワークを使う中で、安定した通信の実現は極めて重要になってきます。通信自体が生活の必需品、水や電気などと同じぐらい人が生活していく上で必要なものだと捉え、社会インフラ発展のために貢献していくという考えです。

最先端技術で仕事をする

――ここが事業の一番の柱になっているのですね。

高野 事業は、「機械制御/振動騒音」、「物性/エネルギー」、「EMC/大型アンテナ」、「海洋/特機」など8つのセグメントに分類して展開していますが、「情報通信」は一番大きな事業です。

 

 

「情報通信」の中では、自社開発にも力を入れており、一例として「SYNESIS」という通信対応のパケットキャプチャ装置があります。こちらは複数の特許も日米で取得しており、最高200Gbpsまで一切のパケットロスなしでキャプチャできるのは、この装置が唯一だと自負しています。国内だけではなく海外でも実績が出ています。

 

 

――今年の重点ポイントはどこになりますか。

高野 今期の計画は売上260億円という数字になっており、その一番大きな事業が「情報通信」で60億円程度です。
キーワードとしては「5G」、「DX」と「脱炭素」です。当然投資もその観点で注力していきます。

 

 

弊社は、通信事業者の方々の技術革新をさまざまな計測技術でサポートしDXを推進します。ネットワーク全体をいかに安心・安全に使っていただけるか、それをいかに測って評価できるかということが重要だと考えています。
弊社のビジネスは、試験評価するための計測によって、常に最先端技術に関わっています。

各業界における技術の最先端でお客様を支援していくビジネスなので、通信方式などについても、普及前の過程で携わっています。Wi-Fiも今でいうとWi-Fi6で評価装置を提案しています。5Gにおいては、基地局開発に必要な負荷試験や性能試験用の測定器を提供し、商用サービス開始前の段階で支援しています。

ローカル5Gは新分野の開拓で広がる

――その5Gもそうですが、モバイル/ワイヤレス市場は、5G、ローカル5G、Wi-Fi 6/6E、LPWA、802.11ahと、非常に目覚ましく進歩しているわけです。こうした動きと今後の展開については、どのように見ていらっしゃいますか。

高野 技術が進歩するところに弊社のビジネスがあるので、技術革新にこそ弊社の存在価値があると考えています。幸いにも昨今技術革新が非常に活発に行われていますので、当社の役割は重大だと思っています。
情報通信の分野は規格が変わるごとに新しい技術が次々と市場に出ています。弊社はお客様にタイムリーに試験機を提供し、お客様が十分な試験を行って安心・安全な機器・インフラを提供できるようにすること、それが使命だと思っています。
5Gについては、今は商用サービスが始まりましたので、弊社のビジネスはトラブルシューティングのフェーズになってきます。5Gの無線通信からフロントホール、その先にはコアネットワークがありますが、ここの有線のネットワークもさらに増強されてきており、今は400Gの技術が使われております。単に無線通信部分の試験機を提供するだけではなくて、その先のコアネットワーク、有線ネットワークも見据えた複合提案を意識して、お客様と一緒に仕事をさせていただいています。
ローカル5Gは、世の中に出始めてはいますが、まだ普及フェーズには至っていない状況です。エンタープライズといわれる一般企業のお客様が基地局免許を取って自社でアンテナを立てるようになるまでには、もう少し時間が掛かると見込んでいます。弊社では、アンテナ設置におけるシミュレーション―どれくらい電波が広がっているか、正しく届いているか、をはかるシミュレーションツールやモニターツールも提供しています。ローカル5Gの普及を目指し、貢献していきたいと考えております。

――4G・5Gは通信事業者が相手ですけれど、ローカル5Gの場合は企業とか自治体とかがお客になります。これはビジネスとしては新しい側面がありますね。

高野 企業システムを構築するインテグレータと組むというのが1つのアプローチです。パートナーと一緒にビジネスをしていくことも重要なアプローチかなと考えています。あまり従来のビジネスモデルにはないような動き方になるかもしれません。
ローカル5Gの市場はまだ予測するのが難しく、爆発的に普及するための準備段階ではないかというのが私の印象です。アメリカのような国土が広いところでは、ローカル5G・プライベート5Gは非常に有効な手段だと思います。全土をカバーするのはキャリアの仕事であり、ポイントを絞ってカバーしていくのは自社の仕事というように、役割分担がはっきりしていると感じています。
他方、日本の場合はインフラでほとんどの通信エリアをカバーできてしまうと思います。すでにWi-Fiという良いプレーヤーがありますから、ローカル5Gの広がりはお客様の用途開発次第と考えています。

――ローカル5Gが出た当時はWi-Fi陣営としては少し身構えるところがあったと思います。今は逆にローカル5Gはどの分野を得意として伸びていくのだろうかという捉え方です。当初、高い高いといわれたローカル5Gの基地局コストは大分下がってきていますが、5Gのエリアカバーは進みますので、Wi-Fiでは難しいミッションクリティカルのものが、どれだけ需要として盛り上がってくるのか注視しているという見方も出ています。

高野 今、Wi-Fiが安心して使えている状況で、しかも高速化も進んでいます。ですから、ローカル5Gのアプリケーションとしては、スマートファクトリとか工場の自動化に絡んだところが有望なユースケースかと考えています。ただ、海外と日本ではファクトリの広さに大きな違いがあります。海外は膨大な広さのファクトリがある一方、日本はむしろミッションクリティカルなものを中心に今後広がってくるのではないかと期待しています。

――これからのWi-Fiビジネスの見通しをお聞かせ下さい。

高野 Wi-Fiについて私たちが貢献しなければいけないのは、最新規格に適合したテスターをお客様に提供することだと思っています。今、重要なパートナーはアメリカのスパイレント・コミュニケーションズという会社です。情報通信の部門で、「Spirent TestCenter」という6Eに対応した試験機を提供しています。お客様に「Spirent TestCenter」を使っていただき、安心してネットワーク機器を提供していただければ、私たちにとって一番嬉しいことです。
6Eには大きな可能性を感じています。すでにWi-Fi6がありますが、6Eになることで十分な周波数帯域が確保され、期待されるパフォーマンスが発揮できれば、求められる大抵のことは実現可能になるというイメージです。6Eには大変期待しているところです。

――Wi-Fi6/6Eに加え、「Wi-Fi HaLow」という802.11ahのIoT、LPWA向けの新しい規格がいよいよ始まる予定です。

高野 IoTはセンサー・デバイスを含めていろいろ注目されていますが、まずは市場が立ち上がる必要があります。私たち試験器を提供する立場からすると、まだもう少し先かと想定しています。IoTデバイスは膨大な数になりますから、コストが一番の問題だと思っています。試験器にどれだけの投資をしていただけるかが課題と捉えており、リカーリングサービスの形での提供も考えていかなければいけないと思っております。

スペースICTに取り組む

――最先端技術といえば、5Gの次の「6G」に取り組んでおられますね。

高野 「Beyond 5G」があって次に「6G」になっていくと思いますが、モバイル全般として、Open RANへの取り組みが始まっており、コンソーシアムなども立ち上がっています。このようなオープン仕様化が進む中で、相互接続試験は重要であると考えておりますし、次世代の研究開発には貢献したいという強い思いがあります。また、NTTの「IOWN構想」にも貢献できたらと考えています。
「スペースICT」には、これから注力したいと思っています。「スペースICT推進フォーラム」においても、2つあるサブコミッティの1つ、5G/Beyond 5Gの技術分科会に弊社の情報通信事業セグメントのメンバーが参加させていただいています。もう1つの光通信の技術分科会にも別セグメントのメンバーが参加させていただいています。光通信といっても有線ではなく、地上から衛星に飛ばす光のことで、弊社は50年近くパラボラ型の大型アンテナを扱っている経験と実績があります。今までは無線が多かった中、最近は光にも注力しており、スペースICTの構想においても弊社の強みを活かせると思います。

――衛星通信、宇宙通信が次のテーマとして注目されており、「スペースICT」これから重要になりますね。

高野 そう思います。2つある分科会ともに参加していますが、トータルで弊社独自の提案ができるのではないかと期待しています。

社会貢献を進めるWi-Bizに

――Wi-BizはWi-Fiから始まったわけですが、Wi-Fiの発展とともに、現在はプライベートワイヤレスネットワーク推進の観点から、Wi-Fi以外、ローカル5GやIoTも含めて新しい取り組みを進めています。

高野 Wi-Fiがこれだけ広く使われているということ自体が本当に素晴らしいことだなと思っています。これからさらにさまざまなワイヤレスネットワークが推進されていくとなると、日本の産業を支える大きな要が増え、その取り組みは戦略的に進めていただきたいと思いますし、弊社もご協力できるところがあれば、惜しみなくご協力させていただきます。
直接会社の利益にならなくとも社会貢献として携われることがあれば、ぜひ申し付けください。

 


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