お知らせ
IEEE 802.11ah規格の国内利用開始に向け
電波監理審議会から答申
802.11ah推進協議会の取り組みの報告と推進の決意
802.11ah推進協議会 副会長 鷹取泰司
1.はじめに
新しいIoT向け無線LAN規格であるIEEE 802.11ahの国内利用に向け、2022年7月15日に電波監理審議会からの答申が出され、920MHz帯での利用が開始されようとしています。本記事では、制度化に向けて実施してきた802.11ah推進協議会の活動をご紹介させていただきます。
2.電波監理審議会からの答申までの経緯
2018年末に802.11ah推進協議会が発足したあと、電波産業会(ARIB)での検討等の制度化に向けた準備を進めました。その後は以下のように進められました。
2021年6月28日 「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 920MHz帯電子タグシステム等作業班」での検討を開始
2021年12月14日 「920MHz帯電子タグシステム等作業班」で委員会報告(案)が承認
2021年12月14日~12月24日(メール審議) 「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会」で委員会報告(案)が承認
2022年1月21日~2月21日までパブリックコメントの募集
2022年3月4日~3月11日(メール審議) 「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会」で報告書を承認
2022年3月22日 情報通信審議会 情報通信技術分科会(第162回)で答申案を承認。「920MHz帯小電力無線システムの広帯域化に係る技術的条件」情報通信審議会からの一部答申。
2022年5月24日~6月22日 「920MHz帯の小電力無線システムの広帯域化に係る無線設備規則の一部を改正する省令案等」について、意見募集を実施
2022年7月15日 電波監理審議会からの答申
3.802.11ah推進協議会での取り組み
802.11ahの国内利用に向けた制度化を進めるためには、(1)十分な市場が期待できること、(2)同じ周波数帯を使う他の無線システムと共存できること、(3)制度化のタイミングが商用機の展開時期と整合していること、の3つの条件がクリアされる必要がありました。さらに、802.11ahの実機の特性と現行制度の比較を行い、(4)現行制度の何を変更すればよいかを具体化していくこと、も必要となります。以下では、これらの4点について、詳述します。
(1)802.11ahの市場の明確化への取り組み
802.11ah推進協議会では2019年5月に実験試験局を使った実証実験を開始し、イベントホール、住宅、オフィス、ショッピングモールなどの屋内環境、都市部や農業用地等の様々なルーラル環境での測定評価を継続的に実施しました。802.11ahの基本性能を把握するだけでなく、一次産業、二次産業、三次産業などでの利用シーンを具体化し、さらに将来にわたっての商用展開規模の試算を行い、十分な市場が期待できることを明らかにしました。
(2)他の無線システムとの共存の検討
920MHz帯はすでにLPWA等の多数の無線システムが運用されている周波数帯です。802.11ah推進協議会ではこれらの無線システムと同じ場所に802.11ahが設置された場合に、どのような特性になるかの計算機シミュレーション評価を実施しました。評価結果については、電波産業会(ARIB)などの場において、現在920MHz帯を利用されている各種無線システムの関係者の方に対して、既存システムとの共存が可能である共用検討結果が得られていることをご理解いただくためのご説明を実施しました。その後、2021年6月からは「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 920MHz帯電子タグシステム等作業班」に協議会メンバがオブザーバとして参加し、需要予測や想定アプリケーションを基にした共用検討結果や現在の920MHz帯の運用状況に関する測定結果等を入力し議論を重ねた結果、共存が可能であるとの結論が得られました。
(3)商用機の展開時期の調査
IEEEにおいて802.11ahの標準化が完了し規格が公開されたのは2017年で、その後試作機レベルのものは登場していましたが、Wi-Fi 5やWi-Fi 6の無線LANチップの展開などの影響もあり、本格展開には時間がかかっていました。2021年11月にWi-Fi AllianceにおいてWi-Fi HaLowというブランド名で認証が開始されることがアナウンスされました。これによりWi-Fi認証を取得した機器において異なるベンダのAPと端末の接続が保証されることになり、商用展開に向けた条件がそろった形になりました。802.11ah推進協議会ではこのような802.11ah周辺の動向を適宜調査し、展開に向けて準備状況に関する情報収集を行ってまいりました。現在、802.11ahのチップを提供するベンダも複数社となり、今後はさらに多様な802.11ahが展開されていくことが期待されます。
(4)802.11ahの国内利用に向けた制度の具体化
802.11ahの仕様に記載されている内容のみでは、現行の国内制度との対応が明確になっていません。802.11ah推進協議会では802.11ah準拠で量産可能な無線モジュールを入手し、各種測定評価を実施しました。その結果、現行の国内制度のほとんどを遵守することが可能であり、主な変更点は周波数帯域幅の拡大のみであることが分かりました。すでに現行規則でも、200KHzの帯域を5チャネルまとめて1MHz帯域伝送を行うことが可能となっていましたが、802.11ahの特長を活かすためには4MHz帯域伝送を実現する必要があったため、20チャネルをまとめて4MHz帯域伝送を行う案について検討を進め、この案が妥当であるとの結論を得ました。
以上のように、802.11ah推進協議会は、IEEE 802.11ahの市場の明確化、他システムとの共存の検討、商用展開時期の調査、制度の具体化の検討により、国内利用開始に大きく貢献してまいりました。
5.最後に
いよいよIoT向けの無線LANである802.11ahの国内利用が開始されます。802.11ahを利用した新たなIoT向けソリューションにより、多様な日本発のデジタルトランスフォーメーションが創出されていくことを期待しています。
また、802.11ahにおいては、845-860MHz帯や930-940MHz帯での新たな展開に向けた具体的な検討も開始されています。さらなる802.11ahの市場拡大に向け、今後も様々な取り組みを推進していきたいと考えておりますので、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。
参考
[1] 「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 920MHz帯電子タグシステム等作業班」のホームページ
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/idou/920mhz.html
[2] 「920MHz帯小電力無線システムの広帯域化に係る技術的条件」-情報通信審議会からの一部答申- 令和4年3月22日
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000540.html
[3] 電監審答申の報道資料無線設備規則の一部を改正する省令案等に対する意見募集の結果及び電波監理審議会からの答申 -920MHz帯の小電力無線システムの広帯域化等に係る制度整備- 令和4年7月15日
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000553.html
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