ローカル5G技術講座Ⅱ 第5回 メーカーの取り組み
ソリューション解決は現場にある
マルチな無線ネットワークでお客様のDXを推進
パナソニック コネクト株式会社 現場ソリューションカンパニー
現場ネットワーク事業本部 プロダクト部部長 千秋 賢一 氏
本年4月、パナソニックグループの持株会社制への移行に伴い、パナソニック コネクト株式会社が発足しました。早くからローカル5Gに取り組んできた同社は、昨年2月「現場マルチネットワークサービス」構想を発表し、お客様の現場プロセスを改革するソリューションを進め、DXを推進する取り組みを進めています。現場ソリューションカンパニーの現場ネットワーク事業本部プロダクト部の千秋 賢一部長に、ローカル5Gを含めた事業戦略を聞きました。
新会社パナソニック コネクトがスタート
千秋 本年4月1日に国内4法人を統合するかたちで「パナソニック コネクト」という新たな法人としてスタートしました。私ども「現場ソリューションカンパニー」は旧パナソニック システムソリューションズ ジャパンが母体になっており、先進技術を搭載した製品やIoTソリューションなど、パナソニックの商品群をコアに、システム・運用・ソリューションサービスまでワンストップで提供する社内カンパニーです。
私どものパーパスは「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」です。図の左側のテクノロジー、エッジデバイス、ソフトウェア、コンサルティング、サービスで、右側にありますサプライチェーン、公共サービス、生活インフラ、エンターテインメントなどのそれぞれの「現場」を改革するソリューションをお客様とともに作っていくというところです。
そういう活動を通じて地球/社会のサステナビリティや生活者のウェルビーイングを実現していくというところを表現させていただいています。
–「現場ソリューションカンパニー」はどういうミッションなのですか。
千秋 現場ソリューションカンパニーの戦略についてですが、これまで営業、SEがお客様の現場に入り込んで経営課題を解決するソリューションを提供してきました。そうした受託中心から「リカーリング型ビジネス」への転換のため、事業モデルの拡大、ソリューション事業に適した形での制度・仕組みを整え、4つの事業部門を中心に事業活動させていただいております。
そのなかで、成長事業を目指す現場ソリューションカンパニーのネットワーク技術も1つのコア技術として、物を造る・運ぶ・売るというサプライチェーンの各領域のデータとプラットフォームをつなぐ役割を果たしていくという位置付けです。
エッジデバイスを含むEND to ENDのサービスを提供
–現場ネットワーク事業本部の具体的な取り組みについて、教えてください。
千秋 現場マルチネットワークサービスとはどういうものか、事業モデルについて説明させていただきます。
従来のネットワーク事業は、例えば防災無線・道路無線といった業界ごとに垂直統合かつ専用のシステムを作ってきたという歴史がありました。ネットワークを含む各階層のソリューション部分をモデル化することによって、パートナー企業の皆様とともに連携して広く展開していきます。従来からパブリック領域が中心だったネットワークの技術を活用して、お客様とのWin-Winの協業関係で大きく事業領域の拡大を図っていきたいというのが基本の考えです。
次は事業戦略についてです。
ここでは、3つのポイントがありますので、順番に説明させていただきます。
まず1つは、「エッジデバイスを含むEND to ENDのサービスを提供する」ということです。私どもの強みは、ネットワーク、ソフトウェア、エッジデバイスまでEND to ENDでサービスを提供できる基盤を持っているという点です。ネットワークだけではなくて現場に適用するような堅牢型のエッジデバイスや、サポート体制、さらに現場で培ってきた現場に寄り添うようなソフトウェア、ソリューション、そういうものを持っている、蓄積しているところが強みと捉えています。
その一例となりますが、下記の図はDaigasグループ様の事例を示したものです。
Daigas様は大きく泉北と姫路の2つの製造事業所で、自営ネットワークをお持ちです。そこを更新するにあたってWi-Fiの整備を検討されていました。LNGという可燃性ガスを扱うところですので、どうしても防爆エリアには防爆機器を設置しなければいけないという課題がありました。
Wi-Fiのような小さなセルで広大なエリアを整備しようとすると、どうしても多くの防爆機器を設置しなければならなく、防爆機器そのものの整備は機器代も高いですが、非常に時間も掛かるため、費用が高額となります。そこで、安価に防爆エリア外からエリアを形成するような、プライベートLTEを我々が提案させていただくことによって、採択をいただきました。最初、泉北はプライベートLTE、BWAを入れさせていただきました。しかし、お使いになっていく中で、BWAだと現場の状況を映像で送りたいのだが、アップリンクが遅いという課題が出てきました。そこで、ローカル5Gを導入したいということになり、姫路はローカル5Gを整備しました。
–防爆対応が必要なうえでローカル5Gをどう活用しましたか。
千秋 Wi-Fiで整備しようとすると、どうしても防爆機器が必要になってしまいます。電波が飛ばないので、防爆エリアの中に置いていかなければいけません。1個1個、たくさん防爆機器入れないといけなくなります。その点、ローカル5Gだと基地局の数が少なくなります。防爆エリアの外から広域にエリアをつくることができるわけです。
このケースは、防爆エリアの観点で、経済的にローカル5GとかLTEを選ぶというのは特殊な貴重な事例ではないかと思います。
さらに、アップリンクが太いというのもローカル5Gの特徴です。プラントでは、Daigas様にお聞きしていても、現場には人のノウハウ・経験が必要な作業が多く、その辺のスマート化というところで、監視カメラ映像を用いた遠隔のデジタル点検や、現場の作業の高度化を図りたいというニーズもあったのです。
–ここでの、ローカル5Gの主な用途は画像伝送になるわけですね。
千秋 画像伝送以外にも音声・プラントの計測値なども使用しています。運用が正式に5Gについては始まっていないのですが、特に監視カメラ映像とか、アップリンクのところを強化して、デジタル点検から始まって遠隔指導や遠隔立会など、いろいろなところの業務改善につなげていきたいというような要望をお聞きしています。
マルチな無線ネットワークの活用でデータ連携を実現
千秋 図に示していますように、「マルチな無線ネットワークの活用でデータ連携を実現。マルチアクセス制御で敷地内インフラの構築を可能にします」としています。
次の図は、そのユースケースの物流の事例ですが、わかりやすい物流の現場を表しています。これを見ていただいたら、仕分け、在庫管理、物の搬入、搬送、さまざまな業務が物流の現場ではございます。そして、ネットワークの要件は、さまざまな用途に分けられると思います。
一般に事務用途ではすでにWi-Fiを導入されている例も大変多くございますが、動きのあるAGV、フォークリフト、倉庫内を動き回るロボットなどにまで共用すると事務用途にも悪影響を及ぼすことがあります。また、遠隔操作をやろうとすると低遅延が必要になってくる場合もございます。そこで、5Gの必要性が出て参ります。
また、品番管理などで全ての物品をネットワークで監視しようと、モバイルネットワーク上のエッジデバイスに全部付けていこうとすると、それだけで投資金額が莫大なものになってしまいます。そうなるとLPWAを利用してタグみたいなものを使った、安いもので管理していただかなければいけない用途になります。
用途ごとにネットワーク要件が大きく異なってくる中で、例えば5Gで全部網羅しますかというと現実的ではありません。そこで、図にありますように、用途に合わせて、Wi-Fi、ローカル5G、LPWA、自営BWA、sXGPなどいろいろなネットワークを適材適所に組み合わせることになり、しかもそれぞれ独立したネットワークの管理にするのではなく、1つのコアネットワーク上で統合管理していくことが重要となります。
用途に合わせたネットワークの選定と運用管理の必要性を、物流の現場で表現した図になります。
–マルチな無線ネットワークの商品ラインアップとしてはどのようなものがありますか。
千秋 次の図に、「プライベートLTEシステム」「ローカル5Gシステム」「Wi-Fiアクセスポイント」の3つに整理しています。
プライベートLTEについてはBWAの2.5GHz帯とsXGPです。sXGPも現場で運用されています。ローカル5Gについてはサブ6のSAタイプで事業を始めさせていただいています。端末については5Gのゲートウェイ、あとLet’s noteについてもサブ6帯 SAに対応した商品を発売させていただいています。Wi-Fiは従来からWINDIOシリーズということで商品にさせていただいていますが、Wi-Fi 6については今年度発売予定です。
続いて、下記の図は、「sXGP」についてポイントを整理しています。
1つは高セキュアのネットワークです。SIM認証を使っていますので、セキュア性が高いです。スマートフォンで業務を一元化ができますので、コストダウンにつながります。当然スマートフォンになることによって、今まで音声でしか使えなかったものが、用途が広がり利便性が上がってきます。
スマートフォンを公衆に切り替えることによって、構内でしか使えなかったものが構外でも使えるようになります。今後キャリア/MVNOと連携することによって、今まで制限された通話エリアだったのが外に行っても使えるようにもなります。
–この場合、SIMは二枚使うわけですか。
千秋 いろいろなやり方がありますが、デュアルSIMタイプのスマートフォンだったら自営用と公衆用と2つ挿すことになります。もう1つはコアネットワークを独自に持たせ、認証機能を連携させることによって、外で使う時も一つのSIMで使えるようにできます。
スマートフォンで利便性が向上した業務が、社外でも同様に使えるようにすることができます。
–商品ラインアップの中には、Let’s noteも入っていますね。
千秋 FVシリーズでは5Gとローカル5Gに対応した機種がございます。アンテナの技術も携帯電話事業をやっていたときの技術が活かされています。Let’s noteは堅牢性や軽量さなど、そういうところが評価されますけど、アンテナ技術もパナソニックのノウハウが入っています。
ローカル5G構築についてのポイント
–ローカル5Gの構築について、御社はどういう方向性なのですか。
千秋 我々としては、SA型の採用と、マルチアクセスの提供がポイントの一つになると考えています。上の図でいうと通常はgNodeBでのローカル5Gがありますけれども、マルチアクセスというインターフェースを作ることによって3GPP以外のWi-Fi等のネットワークインフラ機器も5Gコアで統合管理していきましょうという考えです。
–マルチアクセスの機能はハード的にはハブみたいになるわけですか。
千秋 そうですね。図のように、5Gのコアネットワークに実装した機能で、各ネットワークを収容する内部インターフェースに接続して利用可能としています。ハードウェア的には汎用サーバのイメージで捉えていただければ良いと思います。
ローカル5Gにおける映像伝送の役割とその技術
–こうしたマルチネットワークをどう活用するのかという話になりますね。
千秋 まさにそうです。今までがネットワーク機器の話です。もう1つのポイントは、高精細な映像伝送です。5Gでは高精細映像を扱えるようになります。しかし、その時、伝送路区間の遅延と、無線回線で起きる帯域変動による映像品質の問題を起こすことが想定されます。これをうまく制御するということが大事な技術になるのです。
5Gになると非常に広い帯域を扱わなければいけないということ、そしてさらにそこの変動が激しく、どう追従していくかが重要です。また、遠隔の操作という話になると、テレビ会議でいうと数百ミリsecぐらいの遅延があっても、ほぼ違和感のないような会話ができるのですが、実際に映像を見ながら遠隔で操作しようとすると、人のまばたきぐらいでの低遅延性を実現しないと、なかなかB to B用途では使えないという課題がありました。そこで、AV-QoSという技術で対応できるようにしています。これは大きなポイントです。
–これはコーデックの中にあるんですか。
千秋 コーデックを制御するQoSです。帯域推定をして、無線帯域の変動に追従して、リアルタイムで映像レートを適用変化させる。回線が劣悪だったときにはレートを絞って、最大限に無線回線の変動に追従した形で、なめらかな映像を違和感なく送る技術です。
ネットワークの状況をよく見ながら、最適化します。AV-QoS技術は当社の独自技術で、いろいろなところでの実証評価はすでに実施しています。
オンサイト・リモートのサポート体制でお客様の現場のDXを支援
–現場マルチネットワークサービスの事業戦略を見てきましたが、3番目になりますね。
千秋 最後に当社が3つ目のポイントとしているサポート体制です。「オンサイト・リモート体制でお客様の現場のDXを支援」します。
特徴としてはネットワーク設計と無線エリア設計です。我々は垂直統合型のシステムをやってきたことがあって、この辺の知見・ノウハウを新たに構築するのではなくて、すでにファンクションとして有しています。また、無線システムシミュレーターでは、従来の一般的なシミュレーターでは電波伝搬強度を地図上に見せていきますが、たとえば高層ビルが立ち並ぶようなところでも、単純に電波伝搬強度がこの地形でどのように伝搬しますかという、もう少し細かく踏み込んだところまでシミュレートできるのがパナソニック独自の技術で、これは通信キャリア様と実証を重ねながらやってきた蓄積がございますので、このような提案も可能です。
—導入サポート、構築サポートに続いて、次は運用サポートですね。
千秋 そうです。リモート監視、保守を示しています。これは昨年10月にNOC(Network Operations Center)を独自に我々自身も設置しました。我々でオペレーションをお預かりできます。
我々自身が提供したシステムを幅広く監視しています。弊社は全国のオンサイトの拠点もございます。どうしてもオンサイト対応しなければいけないような機器の故障であったり交換作業であったり、そういうものはサポート体制を使いながら、とにかくインフラ機器の停止している期間を極力短く復旧させるため、導入後の見守りもサポートさせていただいています。
—3つの事業戦略を受けて、それを進めるために横浜にラボを創設されていますね。
千秋 ローカル5Gの実験局免許を取って、いろいろなネットワークを実証・検証し体感できるような環境を佐江戸事業場にご用意しています。先ほど説明したAV-QoSを体感いただいたり、お客さん自身がお持ちになっている機器やソリューションを持ち込んでいただき、一緒にソリューションなど、お客様への価値を生み出す場として展開しています。
昨年度来100社近くのお客様にご来社・ご活用いただいている状況です。
1週間ぐらい詰めて来られているようなお客さんも中にはいらっしゃいました。このような環境を準備して、お客様・パートナー様と共創するような環境として活用させていただいています。
本日は当社の現場マルチネットワークサービスの戦略「①END to ENDのサービス提供 ②Wi-Fi等を含めたマルチなネットワークのデータ連携と映像伝送技術の追求 ③サポートサービスでお客様業務DXを支援」の3つを紹介させて頂きました。
今後、ローカル5Gの普及に向けましては、コスト工夫の他、ローカル5Gならではのアプリケーションやサービスを拡充する事、そしてそれらがお客様の経営課題の解決に繋がるまでやり切る事が重要と考えています。ただ、これは当社だけでできる事ではありません。政府、業界としての施策やパートナー企業様との共同取組みを持って実現して行きたいと考えております。最後にWi-Bizを始め関係企業の皆様には是非とも普及に向けたご指導を引続き賜りますようお願い申し上げます。
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