トップインタビュー
Extreme Networks株式会社
社長 内藤 眞 氏
DX推進へクラウド管理型に
Wi-Fi 6Eの普及はスピーディー
ネットワーク機器ベンター、エクストリーム ネットワークス日本法人の社長に、この7月に着任したばかりの内藤眞氏に、今後の事業戦略を尋ねました。内藤氏は長年ソニーに務め海外ビジネスを経験したあと、数多くのIT系企業のトップを務めてきました。そのグローバル経験をもとに、日本のDX推進に取り組みたいと意欲を示しています。内藤氏は、豊富な海外経験のなかで、逆に日本文化の良さを認識し茶道をたしなむと同時に、流鏑馬は一流の腕前で、米ブッシュ大統領来日の折の歓迎行事で見事矢に的中させたという実績も持っているということです。
日本のDXを推進したい
—-内藤社長はこの7月に着任されました。その前も、IT関連企業と聞きました。
内藤 私の仕事歴は前半の20年がソニーで、後半がIT業界です。ソニーではいろいろな分野でやらせてもらいました。その後はアカマイの初代日本社長をスタートに、IBM、Dell、APC、Schneiderなどで、ITの辺を支える感じでソフトウェア、ハードウェア、サービスの仕事をやってきました。ネットワークだけというのは今回が初めてです。ネットワークの進化しているところに身を置いて、わくわくしているところです。
—-エクストリーム ネットワークスに入られた理由は何ですか。
内藤 エクストリームは1996年からスタートし26年目になります。最初は1ギガのスイッチから始まり、開発が得意な会社としてやってきました。グローバルでの売上は約1360億円で従業員は約2600人、NASDAQに上場しています。本社は、ノースカロライナのモリスビルで、開発拠点は西海岸のサンノゼが中心となり、グローバルの様々な都市に拠点があります。
エクストリームに私が入った理由の1つでもありますが、ネットワーク屋から今はクラウドネットワーキングということに着目をして、M&Aを中心に進化しているということで、私も大変興味があって、伸ばしていきたいと思っています。
主だったところだと2016年にZEBRAの無線LAN事業部、2017年にAvaya、Brocadeのデータセンター系スイッチが2018年、最近ですと2019年にクラウドに特化したAerohiveを買収してきました。どんどんクラウドネットワーキングに、技術もビジネスも寄せていっています。
Gartnerのマジッククアドラントの「リーダー」ポジションに4年連続して入っています。また、同じくGartnerのPeer Insightというお客様がベンダーを評価するコンテストではランクがナンバー1になったことを、我々として非常に誇りに思っているところです。
—-エクストリームの事業の重心はどこにありますか。
内藤 今はクラウドネットワーキングに力を入れています。マーケットシェアが大きいのはCiscoのMerakiですが、エクストリームはこの分野で急成長しています。成長率は101%ですから2倍です。Ciscoも伸びていますが11%です。エクストリームは倍々ゲームで伸びてきている感じです。
マーケットシェアは2021年11%・13%だったものが2022年の第2四半期では14%まで伸びてきました。今、一生懸命頑張って伸びてきています。クラウドネットワーキングに注力した形で、テクノロジーをお客様が評価していただいていると思います。
お客様は多岐にわたりますが、これはエンターテインメント、スポーツ業界でのマイルストーンです。大所でいうとアメリカの大リーグ、サッカー、アイスホッケー、アメフトです。それぞれのスタジアムで、Wi-Fiを中心とした、いろいろな形でのネットワークのプロバイダーをやってきて、実績を上げてきました。
アメフトのNFLはとても人気のあるスポーツで、リアルタイムでやり取りするので、バンド技術も含めて、動画の流れる量や問い合わせなど、凄い情報量が流れるところです。干渉とか、いろいろな問題があるスタジアムの中でのWi-Fiプロバイダーとして、NFLの31のスタジアムのうち3分の2の21スタジアムで採用される実績を持っています。
「日本はこの辺をこれからやっていこう」とExtreme Networks CEOのエド・マイヤーコードから言われています。グローバルで見たときにエクストリームのエンターテインメント・アンド・スポーツというところでは、いろいろな調査でエクストリームがかなり上にランクされて、評価をいただいています。
—-日本ではどういう実績なのでしょうか。
これが今の事例で、流通、銀行、薬局、レンタル、次いで学校が結構強くて、塾、高校、教育委員会、そういうところも入っています。あとは輸入車ディーラー、証券、金融にも入っています。ロジスティクスは、ネットワークがないとだめなので、あらゆる産業分野に入っています。
クラウドソリューションにシフト
—-御社の強みはどういうところですか。
我々の強みはクラウド環境でのネットワークソリューションの提供ということです。スイッチ・APなどが基本的な事業の柱ですが、「クラウド環境での管理運用もできるよ」というところに注力していることが今の強みです。
二番目はギガスイッチから始まった技術力、世界最先端のネットワーク技術のエンジニアたちを持っているというベースがあるので、そのDNAを持ったまま開発を中心に持っています。それに加えてAvaya、Brocade、Aerohiveの技術を取り込み、開発陣は盤石なものになり、特許もどんどん増えているというところが強みだと思います。
三番目はサポート部隊を完全に社内化していることです。私はいろいろな会社をやっていましたが、IT系ではサポートを外注化してしまう傾向にあります。しかし、我々の中にテクニカルサポートも正社員で持っています。何かあった場合には、正社員がトラブルシューティングで、すぐに迅速に対応できる体制を持っています。全世界、しっかりと技術陣を社内で持っていて、お客様のトラブルシューティングに対応することが強みではないかと思っています。
—-法人顧客のサポートはどのように進めているのですか。
内藤 お客様が気にしているのは、IT・ネットワークのテクノロジーがどんどんダイナミックに変化していくのに付いていかなければいけないということです。日本は遅れている、それを最先端に持っていこうと、苦労しているのは限られたITスタッフです。IT部門の方たちが苦労しなくてどうできるかということ、ユーザエクスペリエンスを上げること、それが私たちの仕事だと思います。IT部門の方々が実際のネットワーキングの問題でクラウド化していったり、それに伴っていろいろなデバイスがある中でトラブルに遭ってもどうやっていくかということを、そんなに苦労しないような形で提供していこうというのが、基本的なビジネスに対する姿勢です。IT部門の課題を解決してあげたいという思いです。
分かりやすくいうと、この図のように、IT部門には日々問題があります、凄く苦労されています。ITが原因で会社のオペレーションが止まりビジネスが止まってしまったら、会社のお客様に迷惑を掛け、経営的にもインパクトがあるわけです。その苦労をいかに軽減するかを、テクノロジーで我々は解決していこうと考え、ネットワーク、クラウドネットワーキングという切り口での助っ人役になりたいと思っています。
—-法人顧客の課題に、どう解決を進めていくのですか。
内藤 弊社今年度のはじめとなる8月に、ボストンでSales Kickoff Meetingをやりました。CEOのエドが「One Network. One Cloud. One Extreme.」と言っています。無限の広がりを持った法人顧客の皆様へのサポートをしていくのにNetwork・Cloud・ExtremeがOneではないかというコンセプトです。
経営課題でいえば、まず「ユニバーサル」対応です。クラウドでいえばパブリッククラウド、プライベートクラウド、ローカルクラウドがありますが、それぞれセキュリティのレベルが違いますよね。「この3つのプラットフォームをばらばらに使っている方々も、我々はサポートできるようにしようではないか」ということをしています。なおかつ、世界中にPoint of Presenceの21拠点で、それをサポートできる体制を持っています。
二番目の課題の「ユニファイド」とはAIOpsでいろいろな監視、例えばExtremeCloud IQ(XIQ)という監視ツールで、エクストリーム商品以外のもの、あらゆるものが監視できるようにしています。CoPilotとは、それをシミュレーションしたりマネージしたりするときのツールです。Wired and Wireless LAN全てに対応します。それに、IT部隊が使えるようなアプリケーションがあって、これもSaaSベースで提供しているというのが「ユニファイド」です。
三番目は「セキュリティ」です。エクストリームはネットワークベンダーとしてISO27001を取得している唯一の企業で、ISO27001は「アプリ層まで全てセキュリティをしっかり確保しなさい」というものです。そこの部分で我々は最先端をいっていると思います。
以上のことを「お客様に求められる多様な環境に対応」ということでまとめたのが、この図です。「One Network. One Cloud. One Extreme.」です。一番下のOne Networkとは、多様なデバイスを皆さんがお使いになっていますよね。そのデバイスに関しても監視ツールもあるし、実際にそれを包括するので、いろいろなベンダーさんのものが入っていてもOne NetworkでExtremeとしては対応できるようにしていきたい。
One Cloudとは、先ほど言ったようにクラウドが、プライベート、パブリック、オンプレもあるかもしれませんが、それ以外にAWS、Azure、Googleでも、ちゃんと対応できるようなプラットフォームにしています。
One Extremeとは、全部エクストリームの商品を買ってくださいというわけではなく、物理層のところから、それからソフトウェアのところから、クラウド化した形でのいろいろな開発環境も含めて、物を全てエクストリームとしては用意をしています。
IT部門の人たちが苦労しているというのは、ハードウェアだけじゃない、ソフトウェアだけでもない。困っていることは一番上のAnalyticsからIoTまで全てやらなければいけないということで、開発をここに投資しているという意味でOne Extremeということです。もう1つ大事なことはセキュリティのところです。アプリケーションレイヤも含めたところでのセキュリティを確保しなければいけないということで、ISOの27001を取っているのです。GDPRも準拠しています。
—-ワンライセンスとはどういうことですか。
内藤 我々はお客様にライセンスを買っていただいて商売しますが、例えばアクセスポイントのライセンスを持っていて、次に「ルータのところもライセンスでやりたいんだよ」といったときに、別に新規に買わなくてもExtremeのお客様はExtremeが包括するもののライセンスは、1つお買いになったら使っていいんですよという画期的なものなのです。
ビジネスモデル的にも、先ほど言ったOne Extremeに準拠した考え方で、本当だったらライセンスでそれぞれもうけたいところはありますが、IT部門の方の要望が増えていっても「ワンライセンスで全てお使いになってください」というものを導入しています。これは今まであまり業界ではないことだと思います。新しいビジネスモデルとして、ぜひ皆さん、やっていただければなと思っています。プライベートクラウドでもいいし、オンプレでも使えます。
スタジアムソリューションでWi-Fi 6Eを提供
—-Wi-Fiにはどういう取り組みですか。
内藤 こちらはWi-Fi 6E対応APのポートフォリオです。すでにAP4000はリリースしています。日本ではまだ技適が取れていませんが、ワイヤレスジャパンのWi-Bizブースで展示させていただいています。5000シリーズも出てきていまして、屋内用と屋外用も発売予定です。
先ほどのサッカーのマンチェスター・ユナイテッドのところで、Wi-Fi 6対応のものでWi-Fiソリューションプロバイダーとしてやっていますけど、リヴァプールではすでにWi-Fi 6Eに対応したもので行っています。5000シリーズではすでに6Eで提供しています。
あと3000シリーズも廉価版という位置づけで、リリース予定です。Wi-Fi 6Eの普及はスピードが速いと思います。
サプライチェーンに全力を尽くす
—-コロナ、ロシア・ウクライナ戦争、資源、半導体不足など、ビジネスはいろいろな意味で多難な面があるかと思います。今後の見通しについて教えてください。
内藤 2つありまして、まず1つの側面でいうと、コロナになって仕事のスタイルが変わり、ライフスタイルが変わりました。皆さん、リモートでZoomで仕事をされています。仕事にしろ生活にしろ、ネットワークにどんどん頼っていく、IT化が一気に加速されている状況です。そこは、我々が頑張らなければいけないし、貢献しなければいけません。ある意味、ビジネスチャンスであると思っています。それはグローバルにそう思っています。
もう1つの側面は、コロナになって工場がなかなか動かないとか、半導体不足になって基板が高くなり、ロシア・ウクライナ戦争もあってオイルが上がり物不足が深刻化しています。ロジスティクスも運賃が上がるというのは全世界的な事象です。
我々エクストリームは、いかにお客様に迷惑を掛けないように生産して物を届けていくかということを、必死でやっています。全世界のミーティングでもCEOがもの凄くいろいろな対策を打っていて、例えば部品を送ってくれるサプライヤーもいろいろなところに門戸を開き、先に押さえているものは先に買わなければいけないから、そういうこともやっています。
どこかの工場でできたものを、どこかでまとめて品質検査するという場合も、ロジスティクスを簡素化するするために、できるだけ作ったところで品質を保証しながら、お客様のところへの距離を、今まで2~3カ所踏んでいたものを1回で行けるようにしようと、イノベーションを図っています。
あとリエンジニアリングも、例えば基板の設計にしてもハードウェアの設計にしても、いかに部品を共通化するかとか、設計の見直しをして効率化を進めています。これらは地道なことで、どこの会社もやっていると思うんですけど、私もいろいろな会社を経験していますが、エクストリームがもの凄くスピード感を持ってやっていることは間違いないです。
コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争も含めてですが、基本的にはICTの需要が多くなったので、そこは我々が活躍しなければいけない。あとは直近の商売に関しての物をつくって貢献するというのは、今、言ったところです。そこをできる限り他よりも、いろいろな知恵を働かせようという取り組みを進めています。
DX推進の鍵はクラウドソリューション
—-日本企業のDXに向けた取り組みが問われています。日本の企業をどうサポートするのか、あるいはお客さんの需要の変化に対してどのように工夫されているのでしょうか。
内藤 日本はあらゆる意味でデジタル化に遅れています。今、日本企業、それから政府もデジタル庁とか、いろいろとつくっていますが、コンピュータでいえばいまだにメインフレームを使っているようなところもあります。いかにITに変えていくのか、ネットワークもこれだけいろいろなものがあってクラウド化されているのに、いまだにそちら側にシフトしていません。
我々の仕事は、海外の事例も含めて「こんなふうにできるんだよ」「セキュリティもこういう問題があるけれども、ちゃんと使えば大丈夫なんだよ」、「データセンターのデータにしても物理層じゃなくてソフトウェア層でちゃんとプロテクトできるんだよ」というような啓蒙活動を、いろいろな学会やユーザ会なども含めてしっかり進めていかなければいけないなと思っています。
—-事業戦略をクラウド管理型に変えていくという方向ですが、それはユーザー企業がオンプレ型でICT資産を増やすということから、スリム化してクラウド型にして負担を軽減していくという方向ですね。それが同時に日本のDXを推進していく基軸になっていくということですね。
内藤 まさにそうです。今、エクストリームが取り組んでいるものは、デジタルトランスフォーメーション(DX)のところで一番貢献できるのではないか、そして、私もそれがやりたくてエクストリームに入ってきているのです。
—-御社の事業の取り組みの方向性、今年の事業戦略の重点ポイントについて、教えてください。
内藤 地道に先ほどのサプライチェーンの物不足もやらなければいけませんが、多角的な、今、言ったいろいろなアジェンダを全部やっていきたいと思っています。Wi-Fi 6E対応製品もタイムリーに出していきます。
NTTがデジタルツイン コンピューティングを進めていますが、私どももデジタルツイン技術に注力していきたいと思います。サプライチェーンの問題を解決するための1つの方策でもあります。つまり、ハードウェアや、物がなくても、エミュレーションがソフト上でできるのです。
ワイヤレスの進捗にWi-Bizの力が必要
—-ワイヤレス分野についての見通し、今後の展開をどう見ていますか。
内藤 ワイヤレスはキーなので、やっていかないといけないです。しかし、干渉の問題とか、いろいろな問題があります。Wi-Fi 6Eもアメリカでの普及は始まってますが、使える周波数帯が違っているとか、いろいろな問題があるので、政府・総務省ときちんとやっていなければいけません。我々が「アメリカに導入しました」と言っても日本がその対象にならないのは凄く残念なので、政府の推進のお手伝いをしたいと思っています。
また、逆に、我々としては、モバイルネットワークの3G、4G、5Gなどの補完というところは絶対にあると思っています。それによっていかにワイヤレスを強化していくのかというテーマです。
例えばエンターテインメント業界で紹介しましたが、大量のデータをさばかなければいけないので3G、4G、5G だけでは足りません。Wi-Fiがどうしても必要になってきます。そこを強化してお客様にリアルタイム感、ユーザエクスペリエンスを高めるためのソリューションとしてWi-Fiとそのバックにあるワイヤードが出ていくという位置付けで、どんどん開発やサービスサポートを進めていくのです。
—-Wi-Bizは日本でWi-Fiを着地させるために発足して、10年を迎えようとしています。Wi-Bizの役割と期待についてお願いします。
内藤 Wi-Bizが今やろうとされているのは凄く大事な領域なので、我々もその中に入ってしっかりとやっていきたいと思います。いろいろな産業の方々とともに、Wi-Bizをもっと影響力のあるものにするお手伝いをしていきたいと思っています。
Wi-Fi 6Eの認可について、Wi-Bizが取り組んでいることは非常に心強いです。本当に労力が掛かることであり、Wi-Bizという政府ではない機関が積極的にやっているというところに正直驚きました。
世の中への啓蒙活動も含めて、大切なことですので、ぜひ、引き続きお願いいたします。
流鏑馬は、ジョージ・ブッシュ大統領が来日した折、歓迎行事として
明治神宮で開かれ、見事、的中させた腕前。(写真は小田原梅まつりのものです)
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