ローカル5G技術講座Ⅱ 第6回 特別座談会
ローカル5Gの活用法を
「プライベートワイヤレスネットワーク」のワイドで考える
出席
株式会社フルノシステムズ 藤井 慎 様
日本ヒューレット・パッカード合同会社 山田 雅之 様
シスコシステムズ合同会社 前原 朋実 様
東日本電信電話株式会社 渡辺 憲一 様
(一社)無線LANビジネス推進連絡会 北條 博史 会長
松村 直哉 事務局長
本講座の最終回として、無線LANビジネス推進連絡会、802.11ah推進協議会編の『プライベートワイヤレスネットワーク入門』の執筆者・取材協力者にお集まりいただき、ローカル5Gの活用法を「プライベートワイヤレスネットワーク」のワイドで考える座談会を開きました。
「802.11ah、Wi-Fi 6E、ローカル5Gの普及の現段階と今後の展望」をサブテーマとし、11ah、Wi-Fi 6E、ローカル5Gの順番で検討し、最後にプライベートワイヤレスネットワーク全体の活用法について議論しました。市場の現状に踏まえて、数々の貴重な意見が提起されました。
802.11の実用化と普及の見通し
–1番目として、先般、実用化が決まったばかりの802.11ahから始めたいと思います。フルノシステムズの藤井様から「802.11ahの実用化と普及の見通し」ということでお話しいただきます。
株式会社フルノシステムズ マーケティング本部 企画室
藤井 慎 様
藤井 私は802.11ah推進協議会の運営委員を務めています。出身企業は株式会社フルノシステムズで、Wi-Fiのアクセスポイント等を製造・販売している会社です。
802.11ah推進協議会では2018年11月から11ahの実用化に向けて活動してきました。9月5日に国内で11ahが使用できるための省令が告示され、ようやく法的には整いました。これから商品が出てくれば、Wi-Fiのカテゴリですので、どなたでも自由に導入して通信環境を構築していけます。
時期を同じくして6GHz帯も電波法が整備されました。これまで2.4GHzと5GHzの周波数帯を使っていたWi-Fiにさらに920MHz帯と6GHz帯が加わりました。
6GHzが加わることで、これまでの帯域が2倍程度に拡張されましたので混雑が緩和され、たくさんアクセスポイントを導入するようなケースでより快適に使えるような環境が整えられました。
11ahで使う920МHz帯は、通常のWi-Fiが50mないし100m程度の到達距離のところが、環境にもよりますが1km程度届く、これによりWi-Fiでできることがグンと広がってくると思っています。
手軽につかえるWi-Fiが両方向の周波数に広がりましたので、これまで以上にさまざまな用途に普及してゆくだろうと思っています。
11ahの実用性の面について、802.11ah推進協議会では自治体や企業と連携しながら一次産業の現場や工場、住宅などで実証実験を進めてきました。すでにIoTの無線通信規格としてさまざまなLPWAが利用されていますが、今回の省令で通信帯域が4МHzまで広がったことにより、11ahが使えるようになりIoT通信としても高速化が実現され、これまで通信はセンサーのデータ、主にテキストベースの軽量なコンテンツの伝送に限られていたのが、映像まで広がっていくことで、遠隔監視用途にどんどん採用されてゆくだろうな、という可能性をとても感じています。
DXという意味では、様々な仕事で省力化が叫ばれていますが、監視・見守りのため、これまで現地に見に行かなければいけなかったものが、11ahを使ってカメラをつないでリモートからみることができるようになります。行かなくても済むという省力化が、さまざまな分野で役立つと考えています。最初は自治体での防災などの地域課題解決に使われはじめ、つづいて民間企業に導入され、従来のLPWAでは帯域やシステム構築で課題をかかえていたインテグレータが11ahで解決できていったり、最終的には個人宅のセキュリティカメラなどのコンシューマ用途まで広く利用されるときが、遠くからずやってくるだろうと期待しています。改めまして、これからの11ahも含めWi-Fiの世界の広がりを感じています。
国内の機器メーカーは、今、認証手続きも進めているので、間もなく製品が出てくる予定です。弊社も一刻も早く11ah対応製品をリリースして皆様の課題解決にお役に立てれば、と考えています。
–ありがとうございます。実用化が決まり、今後大いに普及が始まっていく勢いのある局面だということがよく分かりました。
北條 11ahは、IEEEでは少し前に標準化されていましたが、すぐには広がらず、少し遅れて広がってきました。日本では、かねてより推進活動を進めて、いろいろなトライアルを経て現在に至っています。
対応機器については、ご説明のあったフルノシステムズが日本国内のベンダーとしては、初めて実用化ということになると思います。802.11ah自体はアメリカ等で使えるようになっていますので、そういった製品を日本の認証を取り直して販売がスタートするのではないかと思っています。
IoT市場そのものがなかなかビジネスとして広がっていっていないというところもありますが、11ahはその起爆剤として、誰もが気軽に使えるIoT機器ということでアンライセンスで自由に設置できるという点が、これまでのLoRaやSigfoxになかった利点として世の中に普及していくのではと思っています。
もう1点、新たな周波数を800МHzに割り当てるという話も総務省で検討していますので、周波数帯域が増えてくれば、いろいろな利用形態が広がってくるのではないかと思います。
チップベンダーとしては、大きなメーカーはまだ11ahをサポートしていない状態ですが、日本を中心として11ahの利用実績が広まり、そういったところが作るようになってもらえれば、1桁2桁、大きな数が普及できるようなところにいけるのではないかと思っています。
–先般、メガチップス社が11ahの半導体工場を作るという海外ニュースが出ていましたが、その見出しは「飛ぶWi-Fi」ということでした。これまでとは格段に距離の出るWi-Fiの登場ということで注目されています。先ほど藤井さんがおっしゃったように、画像伝送に使えるIoTということやこれまでになく長距離を飛ぶWi-Fiということでの802.11ahの可能性で、期待が大きいと思います。
山田 私は屋外無線LANを11bの頃から構築してきておりますが、通信エリアや通信距離の要望に応えるためにアンテナ選定には苦労してきました。構築時によく求められたのは「1~2Mbps程度で通信できればよい」というものでした。屋外環境では、速度が多少遅くても安定して広範囲に通信できる無線LANが求められていたものと思います。
11ahはWi-Fiというカテゴリになりましたので、誰でも使えます。まだまだデバイスには搭載されていない状況ですが、WiFiとして広く認識されて、多くのデバイスに搭載されていけば、より使いやすいものになっていくものと私も考えています。
日本ヒューレット・パッカード合同会社
Aruba事業統括本部 プリセールスSE
山田 雅之 様
–802.11ahはLPWAのこれまでの弱点を補うだけではなく、画像を中心に一気に活用領域を広げ、飛ぶWi-Fiとしても強い可能性を持って、Wi-Fiファミリーを一挙に拡大していくというインパクトを持ったものではないかということで、とても期待されるということだと思います。
Wi-Fi 6EのインパクトとWi-Fi市場の展望
–2番目は、これも実用化が決まったばかりのWi-Fi6Eについて、シスコシステムズの前原様から「Wi-Fi 6EのインパクトとWi-Fi市場の展望」ということで提起をお願いします。
シスコシステムズ合同会社
APJCエンタープライズネットワーキング事業
シニアプロダクトマネージャー
前原 朋実 様
前原Wi-Fiの最大のメリットは、安いことと誰でも構築できるところです。それを引き継ぎながら、Wi-Fi6でOFDMAやMU-MIMOの技術が入ってきて、多数同時通信ができるようになって、もともとWi-Fiはキャパシティには強みがありましたが、そこがより強化されました。
6と6Eで使っている技術は細かいところは違いますが、基本はほぼ一緒です。6Eで何がよくなったかいうと、Wi-Fiが非常に普及し混雑してきて2.4GHzと5GHzだけだとそろそろ限界という中で、新しい周波数帯を得ることができたことです。その分、チャネル数が増えたので、どのチャネルを使うのかという選択肢が増えて設計しやすくなりました。
あと6GHz帯は、他のシステムと共用しているところはありますが、DFSのように干渉をうかがいながら使わなければいけないということがなく、クリーンな周波数帯なので使い勝手がとても良くなります。
Wi-Fiは誰でも使えるが故に干渉のことをもの凄く気を付けなければいけないのですが、干渉に関しての負担が少し和らぐという意味で、6Eはもの凄く期待できると思います。日本はまだ下の周波数帯だけなのですが、上の周波数帯もさらに開放されればWi-Fi 7や次に向けてスループットの増加という部分で今後も期待されます。
最近はあまり聞きませんが、「Wi-Fiか5Gか」という議論はもうやめた方がいいと思っています。お互いに、それぞれに特徴があって、いいところがあって、それぞれに使い道があるので、そこをうまく使っていこうと考えていけたらなと考えています。
–Wi-Fi6Eの特徴と活用の展望の整理、ありがとうございました。ローカル5Gとの比較論はまさにその通りですね。
山田 前原さんの意見とだいたい同じですが、Wi-Fiを利用されるユーザーの皆様はスループットが向上することは非常に嬉しいのではないかと思っています。インターネットのアップリンクがどうしても限界がありますが、6GHzという新しい周波数が利用できるようになり、企業内ではより快適な通信ができるようになるものと思います。Wi-Fi6Eになって、2.4GHz、5GHz、6GHzといった3つの周波数を使えるようになります。
今までは「2.4GHzと5GHzとで同じSSIDを出力し、なるべく安定した5GHzを使いましょう。」というように使われるのがほとんどですが、今後は「2.4GHzがIoT、5GHzがゲストWi-Fi、6GHzが本当に重要な業務用の利用」というようなWi-Fiの使い方も変わってくるのではないかと思います。
–6Eは圧倒的な帯域幅で、圧倒的なスピードが特徴です。昔、Wi-Fiは当時の携帯電話、モバイル通信と比べて圧倒的なブロードバンドの優位で広がったわけですが、この度のWi-Fi 6Eは四の五の言わせないで圧倒的な帯域と高速性で自由に使ってもらうという、Wi-Fi本来の良さを全面的に開放したところがあります。前原さんの指摘されたWi-Fiとローカル5Gのスペックの違いをみみっちく言いあうのではなく、それぞれの持っている本来の特徴を生かしていくという基本に立ち返り、論議するという地平に立ったかなという気がしますね。
藤井 山田さんの言われた3つの周波数帯の使い分け、2.4GHzはIoT、5GHzはゲスト、6GHzは業務用というような、用途の区分けはよい考え方だと思います。今までは2.4GHzというと、混雑し易く少し使い勝手が悪い面もありました。IoT専門にする運用方法をとれば、2.4GHzは5GHzとくらべ飛びはいいですし、消費電力も抑えやすいのであらためて魅力がでてくると思います。
ローカル5Gの現段階と今後の展開
–では、3番目にいきまして「ローカル5Gの現段階と今後の展開」ということでNTT東日本の渡辺様から提起をお願いします。
東日本電信電話株式会社
経営企画部 中期経営戦略推進室 無線ビジネス推進PT
ビジネス開発本部 第三部門 IoTサービス推進担当
渡辺 憲一 様
渡辺 ローカル5Gの現状と今後についてお話しさせていただきます。私的には苦節3年という感じですが、免許制度が始まって以来、前原さんのお話にもあった通り、Wi-Fiと比べ続け、そして説明に窮するということをこの3年間やってきました。弊社だけでなく、NECや富士通、ローカル5Gに関わる他のメーカーも含めて、みんなで努力をして金額を一水準下げる方向感が、昨年の年末から今年にかけて実現しつつあるのかなと思っています。そのインパクトで、ポジティブに捉えていただくケースも増えてきたと思っています。大手の企業では「自社のロケーションで試してみたい」というお声掛けは間違いなく増えている状況にあると思っています。
自社のロケーションで電波が吹ける状況になってきたことは、物事が進む上での良い方向感なのかなと思っています。
また、3月に発表し、5月から「ギガらく5G」ということでローカル5Gのプロダクトを提供させていただいており、さまざまなお話もいただける状況になってきたかなと思っています。ここにきて、従来とは異なる金額感のなかで、ベーシックな映像伝送を安定して送信する、それをできるならば業務に使うことができるという評価が増えています。来訪客の方の通信等に左右されずに業務用の映像伝送をローカル5Gで行い、さらにそれをAIに絡めて使うというのが最初に出ているケースだと思っています。
他方で少しずつ増えているのは、AGV(無線搬送車)の遠隔制御であったり、ドローンの映像伝送であったり、「何らかのロボティクスやメカトロニクスとの連携時に使う無線としてローカル5Gを使いたい」というようなお話もだいぶ増えてきています。弊社は成田空港で自動運転の遠隔監視の実証をやらせていただいており、自動運転車両の領域も、そうした文脈の1つなのかなと思っています。ここは時間がかかるかなと思っていますが、この領域を立ち上げていくことが、最終的にローカル5Gのマーケットを広げることにつながっていくと思うので、そこは我々も時計の針を進めていくように頑張っていきたいと思っています。
今後の展望という点では、大企業の動きが活発になってきている一方で、「すでに1回ローカル5Gを入れてみたんだけど、なかなか思うような性能が出ないので、リプレースも含めて検討したいんだけど」というご相談も増えてきました。プロダクトあるいは基地局のような物品がもう少しこなれていく状況をつくり出していく必要性はあると思っています。
「ギガらく5G」をトリガーに多くの製造業を中心とした企業ユーザーとのお話をやっていますが、一つ一つの企業の状況に合わせて適切に5Gのエリア設計をし、また安定して使うことを実現するというのは、凄く骨の折れる営みであると考えています。思った以上に現地環境のバリエーションが多かったり、壁がなかったところにできたり、逆に壁があったところが急になくなっていたり、電波の環境が逐次変わっていく、思った以上に変化に富んでいます。何が来ても合わせていけるようなノウハウを我々としても蓄積したいと思っていますし、その辺の対応レベルを上げていくことは関係するプレイヤーの皆さん全員の課題になっていくのかなと感じています。
–非常に実戦的なお話しで、ローカル5Gの可能性と現局面がよくつかめたと思います。ありがとうございました。
前原 ローカル5GもWi-Fiもやっている会社としての目線になりますが、渡辺さんがおっしゃったように、AGV、自動運転、映像は、おそらく5Gが適している場合が多いかなと思っています。「Wi-Fiと5Gはどう分けるの?」というときに、いつも「規格がどうだの、スループットがどうだの、距離がどうだの」という話になってしまいますが、それよりローカル5Gは今までWi-Fiでは怖くて有線でしか使えなかったようなシステム、あるいは今までネットワークにつながっていなかったものをつないでいくものがローカル5Gだと思います。有線で使われているところには、Wi-Fiはアンライセンスバンドであるが故にSLAが担保できないので、どうしても怖くて使えないということがあります。そういうところに、ローカル5Gは入っていけるかなと思います。あとは車の自動運転みたいな、より高速で動くようなものも、Wi-Fiのローミングなどを考えたら5Gかなと考えています。無線(ワイヤレス)の世界をより広げるものがローカル5Gだと考えています。いつも「Wi-Fiと5Gを比べるのは違う」というのは、そういうところからです。
北條 当初はミリ波の28GHz帯対応が出ていましたが、今は「ギガらく5G」も他のローカル5Gメーカーもサブ6の周波数を使ったものがメインだと思います。今後もその方向が続くと思っていいのか、「28GHzも今、頑張ってやっているから、もう少ししたら素晴らしいものが出てくるんだ」ということか、そのあたりはいかがでしょうか。
渡辺 5Gとしてカタログスペック的に語られるのは、例えば映画のダウンロードが3秒でとか、1msec以下の低遅延ですとかですが、そういったものに対応していこうとするとサブ6ではそうはいかないのも事実です。ゆくゆくは、ある程度の広さをサブ6でカバーしながら、スポット的にどうしても必要なところにミリ波を使うような形態も、徐々に製造業を中心として出てくるし、出てきてほしいなと思っています。ただ、メーカー各社ともミリ波はまだそこまで動いていない状況だと思うので、少し時間はかかるのではないかと思っています。
山田 5Gの特徴の低遅延(低レイテンシ)はとても羨ましく思っています。Wi-Fiで工事の無人化施工ということを以前行ったことがあります。いわゆる重機の遠隔操作になります。重機のオペレータが遠隔操作で苦労していたのは映像と操縦が一致しないことです。操縦は速くて映像が遅いとか、そういったところで重機を動かすことは凄く大変そうでした。これからロボット系がどんどん出てくると思いますが、ローカル5Gでそこをクリアできるようになるととても素晴らしいものになるのではないかと思っています。
渡辺 調子のいいときの最高速度でいったら当然Wi-Fiが速いです。5Gは超高速や超低遅延と言いますが、それは免許に守られていて安定して、そこそこのスピードがしっかり出続けるところが、ローカル5Gの一番のメリットだと思っています。サブ6はスピードの面で、5Gとして期待するレベルからすると少し足りないかなという部分は半分ありながらも、これまでキャリアが使っていた無線方式をプライベートで使うという営みが、日本において初めてきたのがローカル5Gだと思うので、まずはそういう電波で業務に必要な通信を、いついかなるときも一定の品質で使うことができるという、たぶんそういうところが肝なのかなと思っています。
企業ユーザーも、その認識をお持ちの方もだいぶ増えてきていると思うので、そこそこの通信を安定して使えるローカル5Gと、大量のデータを扱いたいときのWi-Fiとの組み合わせと、その辺をベストミックスで模索したような動きが、より鮮明になってくるのではないかと思っています。我々も当初からA or Bという話では全くないと思っていますので、うまい組み合わせで企業の一番望ましい形が実現できればいいのかなと思っています。
プライベートワイヤレスネットワークの活用法
–ローカル5Gはセキュアというか品質・安定ということで守られた電波として良さを出していくということですね。では、今の論議とも関係しますが、最後に「プライベートワイヤレスネットワークの活用法」ということで、北條会長からお願いします。
(一社)無線LANビジネス推進連絡会 北條 博史 会長
北條 このテーマはWi-BizとAHPCで発刊した『プライベートワイヤレスネットワーク入門』のテーマでもあります。本書の最後の章「ワイヤレスネットワークの選択基準」において執筆した書いた時点での優劣を記載しています。残念ながらこのときは、ローカル5Gは28GHzしかなく、非常に高価な値段の製品しか出ていませんでしたので、結論からいうと「ローカル5Gはもう少し値段が下がってから議論をしようね」みたいな感じになりました。ただ、方式自体は、ローカル5Gのメリットのある適用領域があるので、それをうまく使っていくことがいいかと思います。サブ6の製品がメインで出てきて、NTT東日本がサブスクタイプのサービスをちょうどいい価格帯で出されたので、いよいよこれから広がっていくと思います。
ローカル5Gのメリットというと、3つのポイントがありますが、現段階で3つのメリットを最大限に生かす装置はまだありません。28GHzを使わないと超高速は使えないし、超低遅延も実際に低遅延のモードでローカル5Gを動かしてやり取りをするのは、まだあまりやられていないのではないかと思います。超多端末は言わずもがな誰もやっていません。これには少々時間がかかると思っています。仮にそういうものが全部具備された段階で、最新の通信方式としての802.11ah、Wi-Fi 6E、ローカル5Gを比較したときに、適材適所で使うこいうことでいいのですが、重要なことは周波数だと思います。どこの周波数を使うか、これが一番のポイントになると思うのです。
キャリア5Gを見てみるとキャリアの周波数が全部使えるので、用途に合わせて周波数を分けてくると思います。IoTをやるときに28GHzを使う人はいないと思います。キャリアのIoTはプラチナバンドの800МHz・900МHzを使うだろうし、メインの通信は1G、2G、3GHz帯で、超高速はミリ波を使う、そういう分け方をしてくるのではないかと思います。いろいろな制限がある中で、ローカル5Gを使うところ、Wi-Fi 6を使うところ、11ahを使うところを、適材適所に選んでいくことが大事です。重要なことは、1つの方式で全部をカバーするという考え方を諦めると、凄く楽になると思います。本当に信頼性が必要なのはシステムの全部ということはないはずなので、「ここだけはこれにしよう。そこ以外は安いものにしよう」とか、「自由に選択できるようにしよう」とか、そういういろいろな取捨選択ができるようなものが必要なのだと思います。そのためには周波数の特徴を知りつつ、方式の特徴も知りながら選んでいくことをやっていかなければいけません。Wi-Bizでは今後もそういうところに焦点を当てて、会員向けに情報提供をして皆さんに活用していただければと考えています。
松村 本講座での取材で、パナソニック コネクトのユーザーである大阪ガスのプラントで発火性のあるガスを扱うため防爆対応の無線が必要ということで、Wi-Fiだと近距離のため、防爆の高価なアクセスポイントが必要になりますが、ローカル5Gだと防爆エリア外にサブ6のRUを高所に設置して対応しているというお話を伺いました。ユーザー毎の環境に適した無線ネットワークが必要なのだと痛感しました。
また、パナソニック コネクトはローカル5Gで映像関係にかなり力を入れていて、なかでもアップリンクに帯域を寄せられるローカル5Gの特徴がユーザー企業に好評だと強調されていました。その映像にプラスAIでビジネスを展開していく方向だと伺いました。
同じく、講座の取材で、富士通はローカル5Gでいろいろな会社とアライアンスを組んでいてクラウドタイプの場合、MicrosoftのAzureのエッジを使ったり、利用できるデバイスも増えてきていてローカル5G対応のスマートフォンも2号機という発表がありました。徐々に体制が整い、デバイスも増えてきているので、市場もだんだんと立ち上がってくるのかなと思っています。
映像に関しては、11ahとWi-Fiとローカル5Gとあって、まさに企業のニーズにおいて適材適所なシステムが選ばれるところだと思います。藤井さんが指摘されたように、映像が多少粗くても遠隔の見守りや監視で使う場合は11ahだし、AIを組んで高精細なものからいろいろなものを検出するという場合はローカル5Gだし、手頃にできて多少品質が悪い場合もあるけれども、いろいろとソリューションが選べる点ではWi-Fiだしということになります。まさに適材適所ということが、映像だと非常に分かりやすいのではないかと思います。
(一社)無線LANビジネス推進連絡会 松村 直哉 事務局長
渡辺 ローカル5Gの免許制度が始まって3年たつと言いながらも、まだまだ内々のところがあることも事実ですし、端末ももう少しバリエーションが増えていってほしいなとも思っています。ようやく普通の企業で、国の助成金に依存せずに、導入していただける状況ができつつあるので、ここからいろいろなことが加速度的に進んでいくことを期待していきたいと思っています。
無線の特徴に合った活用がユーザーの最大メリット
–最後に、お一人ずつコメントをいただきたいと思います。
藤井 無線方式にはそれぞれ特徴があって、コストも当然違います。強みが出せる用途に入れて、3つの無線の規格をうまく組み合わせながら、社会に貢献できるようなことができたらいいなと、改めて感じました。
前原 北條会長が述べられたように、1つですべてを賄うことは非現実的であり、それぞれの特徴を生かすことですね。今日の3つ以外に、さらにBLEとかいろいろな電波方式が入ってくると思います。ただ、後ろでつながるネットワーク、後ろの有線、制御部分、管理・監視の部分は、たぶん統合していかなければいけません。なぜならコロナになって、会社だけではなくて自宅で働いたり、いろいろな場所で働くようになっているからです。IT管理者すら自宅からシステムを監視する時代に入ってきています。「どのシステムにも、どこからでも入れるように」というニーズの機運が高まってきているので、「無線の部分は別だから」といって、それぞれWi-Fi用・5G用と別々に作ってしまうとコストがもったいないし、1つのシステムとして考えていく。その中に「ローカル5Gが仲間入りしました。ahが仲間入りしました」という認識で、企業向けは進められたらいいなと思います。
松村 その点は、パナソニックコネクトも統合管理ということを強調していました。まさに、ユーザーのベネフィットのためにも、「マルチデバイス・マルチネットワークで統合管理」というお話をされていました。それは、企業ユーザーの求めているところですね。
前原 弊社も同じように言っています。要はユーザーの使い勝手、最大メリットは何かということでしょうね。
山田 11ahにせよ、Wi-Fi 6Eにせよ、ローカル5Gにせよ、周波数の特徴を生かして利用することがやはりポイントだと思います。次に出てくるWi-Fi7ではMBO(Multi Band Operation)というものがあり、2.4GHz/5GHz/6GHzを束ねて使いましょうというコンセプトです。WiFiだけではなくて、ゆくゆくは、いろいろな規格を束ねて利用できるような技術が出てくることを期待したいです。
渡辺 藤井さんから地域の課題解決にいろいろな無線を使っていくお話があったかと思います。我々もNTTの地域会社として地方創生や地域課題と向き合う中で、どこも人手不足で、DXやロボットなどでいろいろなことを埋めていかないと、なかなか日本の先行きが厳しいというところもあります。そういう話をしていると「それを実現するための手段として何らかの無線を組み合わせて使う」という話が必ず出てきます。地域課題の解決推進のためのキーポイントが無線なのかなと思っています。
ここに来てソリューション的に扱える無線のラインナップが、ローカル5Gもそうですし、11ahもそうですが、幅広に広がっていっていることはある種必然だと思っています。そういう営みを適切に組み合わせながら、日本の地域課題を解決する活動を皆さんと一緒にやっていければと思っています。適切な無線の組み合わせの設計をしていく、選んでいくという営みは、ますます重要性が増していくと思うので、引き続き皆さんと連携しながらやらせていただければと思っています。
北條 貴重なご意見をいただいて、Wi-Bizとしてはこれをまたフィードバックして、今後の取り組みに生かしたいと思います。無線は、最後はチップベンダーの動向が極めて重要となります。Wi-Fiがこれだけ広がったのは、AtherosをQualcommが買い取って、最初はマルチチップに、そしてワンチップ化して誰でも自由に使えるようになったことが大きなことだと思います。11ahも、Wi-Fi6Eも、ローカル5Gも、チップベンダーが魅力を感じてくれるように、これから1つずつ丁寧に広げていくことが重要なのだろうなと思います。あって便利なものは必ず生き残りますから、そこを目標に頑張っていきたいと思います。
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