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トップインタビュー
株式会社ビーマップ 代表取締役社長
杉野 文則 氏
システム販売で終わらず顧客課題と向き合う
Wi-Fiビジネスモデルの新たな可能性

今年25周年を迎えたビーマップの杉野文則社長に、創業以来のWi-Fiを中心としたビジネスの変化を振り返っていただき、併せて今後のワイヤレスビジネスの方向を尋ねました。

 

 

コンテンツビジネスを手掛ける

–創業から25周年を迎えられました。

杉野 1998年創業で、もともとは鉄道と通信とPHSが中心でした。PHSは位置情報サービス「いまどこサービス」というものです。それと鉄道の乗り継ぎソフト「えきねっと」をやって、また写メールの「@写メール」を作らせていただいて、その後はPHSが衰退していく中で、Wi-FiをNTTが本格的にビジネスするということで、そのときにご一緒させてもらっていました。
NTTはWi-Fiの設備事業ですが、うちはその上の配信サービスをずっとやっていました。当時、NTTは「無線LAN俱楽部」をやっていたのですが、当初は会員が増えずにコンテンツの配信も厳しいという時代がずっとありました。その時は、鉄道事業がちょうど弊社の稼ぎ頭になっていましたので続けられました。

 

 

–鉄道事業は、どういうものですか。

杉野 「えきねっと」です。それが好調だったので、無線の方は赤字でしたがWi-Fiコンテンツ配信の事業を一生懸命にやっていました。そして、セブン-イレブンが無線LANを入れたころからそれが増えてきました。
当時、セブン-イレブンが最初に無線LANを入れるときに、お店に集客をしたいということで、無線LANでつないでもらえば人気のAKB48の壁紙がもらえるとか、「ラブプラス」という恋愛ゲームができるとか、そういったものがあって、集客ツールで使ったんですよね。それで、他のコンビニとか、いろいろなところがWi-Fiの導入に踏み切りました。

 

 

その後、月末になってくると「ギガが足りない」という「ギガ難民」の人たちがお店に来るようになって大変、流行りました。そうこうするうちにインバウンドが始まって、「インバウンドで無線がたくさん必要だ。Wi-Fiを入れなきゃいけない」ということで津々浦々に広がり、弊社としてもWi-Fiが先ほどの鉄道事業より大きくなってきました。それが、これまで大きな流れです。

–セブン-イレブンへのWi-Fiコンテンツ提供がターニングポイントだったのですね。

杉野 そうです。コンテンツ事業が大きくなったのは、セブン-イレブンの集客にWi-Fiで「ラブプラス」というゲームだとか、任天堂の「どうぶつの森」のアイテムをもらえるというようなネタをたくさん考えなければいけなかったんです。その手の集客手法が当たったので、凄く評価をいただいたのです。
それはうちがシステムだけを売っているのではなくて、お客様が求めているものに応えようとし、「新しいところですが、そこをやってみよう」と思って取り組んでいるうちに、だんだん大きくなってきて、それが大きな事業になってきたということだと思います。

–顧客が求めるものに応えるため、新たに開発に取り組むなかで、事業の方向が見えてきたわけですね。

杉野 そうですね。ここ2年ぐらい、コロナでWi-Fiを使わなくなってきてしまっています。どこの飲食店も、どこの流通も、コロナで落ち込みが激しく、売上が落ち、投資意欲が下がってしまい、Wi-Fi需要も落ちていっています。そういった中で、我々も原点に戻るべきだと思って、顧客企業の集客の取り組みに力を入れていたら、集客だけはうまく行き始めました。コロナで全く人が動かなかった時期に、我々はいろいろ工夫をして人を動かすことが出来ていたのです。
それで、今は、セブン-イレブンにしても、どこの流通にしても、人を動かすということを今は一番望んでいるんだなということで、そちらの仕事を今は増やしています。

 

 

コロナ禍で新しい取り組み

–コロナ禍で人が動かなくなってしまい、在宅勤務で人が外に出てこないという状況の中で、原点に立ち返ってどのように集客に取り組んだのですか。

杉野 スーパーはコロナ禍で販促が一気に止まってしまいました。店舗内で物を焼いて「どうですか?」と試食で渡したりする、そういった接触型の販促が、ここ3年くらいなくなってしまった。あと、新聞の購読が減ってきてチラシが効かなくなり、消費者に対して伝達する手段がなくなっています。そうしたなかで、弊社が強いコンテンツ/アイドルや声優などを使ってソーシャル上で盛り上げて、お店に行って当該商品を買うと景品がもらえる、そういうデジタル的な仕組みです。従来型の販促から一気にデジタル化していくわけです。そうしたイベントもデジタルでSNS越しでやったりする取り組みを手掛けています。

–それは、新しいマーケティング手法ですね。

杉野 今、スーパーのベルクから「手伝ってくれ」と言われて、お手伝いしています。ここ3年間、スーパーでは一番伸びています。その実績で、また別のスーパーでもやらせていただいたり、セブン-イレブンでもやらせてもらったり、ウエルシアでも展開させていただいています。

 

 

–デジタルマーケティングという範疇ですか。

杉野 デジタルマーケティングというより、僕らは「Media to Mobile to Store」と命名しています。そういったものを今は中心にやっています。僕らはもともと無線の仕事をしているので、無線にまた戻ってくるのです。集客するところから始まって、そこからもともとの無線LANの事業がどんどん広がったのです。ITツールを使ってWi-Fiとかビーコンとか、そういったものをうまく使いながら新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。

 

 

無線LANの新たなビジネス展開を

–無線LANは当初はインターネット接続やコネクティビティなどで広がり、今や個人も、ホームでも、企業でも自由に使うようになっています。無線LAN業界の大きなテーマはマネタイゼーションです。無線LANを使ってどう企業の売り上げを伸ばすのか、無線LANのマネタイズをどう進めるのかということが、ずっと言われています。なかなかその良い突破口がなかったというか、試行錯誤が続いているかと思います。

杉野 私たちは、たまたまお客さんから求められているものをやっていたら、そうなったという感じです。
コロナが明けて海外に行く機会が増えたのですが、無線LANについて大きくビジネスが変わっているなと思っています。例えばアメリカで飛行場に行って、無線LANをつなぐと遅いスピードになっていてこれでもいいとなるとそのまま繋がりますが、速いスピードにするためにはアプリをダウンロードしなければいけないとか、VISAの動画とかを見なければいけない仕組みになっています。
ホテルに泊まっても遅いままでもいいけど、速いものはお金を払わないとだめとかになっています。日本の場合は、そこの設備を持っている人に負担してもらっていますが、海外はそういった発想ではないです。無線LANはもともと無料で始まったので、だからビジネスのやり方を考えないといけないのかなと思っています。先ほどの販促と絡めると、例えばお店に来てくれるだけでメリットがあるからお店が払ってくれるということもあると思いますが、何かしらのお金の取り方を工夫しなければだめだと思います。

–空港に行って、ホテルに行って、スーパーに行って、要するにお客がある接点に行って、そこで快適に過ごそうと思うと自然に行動する中で金が落ちるようになっている。顧客にとっては快適な方向に進むなかで自然にビジネスが流れているという仕掛けですね。

杉野 そうですね。例えばテレビを見ていても日本の場合は地上波は基本無料ですね。でも、海外に行ったら本当に面白いものはPay Per Viewで、例えばボクシングの試合だとしたら1000円とか500円払って見るものなんです。そうすると、そのお金が何億、何十億というお金になるので、ボクシングの勝った方には凄い賞金が払われるとか。野球も日本ほど球場には人がいないですが、しっかりとマネジメントをしてもうかる仕組みを考えています。日本は中途半端に潤っているので、かえってプレイヤーの給料もそんなに上げられないし、球団もそこまでもうからないみたいになっていると思います。ビジネスモデルを変えないとだめだと思います。

–ビジネスモデルとは結局は金の取り方だから、消費者の赴く方向でうまく金が使えて、しかも不快感を覚えないでむしろ快適になっていくという、そのやり方の問題ですね。

杉野 僕は今、販促をやっていて、そのノウハウをWi-Fiの事業にうまく混ぜてビジネスにしようと思っています。うちは最近、会社で「もっと人を面白く動かす」みたいなことをテーマでやっているんですけど、まさにそんな感じです。

 

 

–ビジネスの場が鉄道、無線ですが、放送もされていましたね。

杉野 放送業界の仕事もやっていましたが、今は業界が下り坂ということと、あと業界のガードが堅くてやりにくいと思っています。以前、「めざましテレビ」のお手伝いをして、数十万人を集客することをやっていたのですが、テレビの影響力は凄く大きいけど、自由度がない。「あれをしたい、これをしたらいい」と言っても「あれはだめ、これはだめ」といわれ、なかなか新しいチャレンジをやらせてもらえないことが続きました。
しかし、今や、ソーシャルをうまく使えば同じことができてしまう。立ち上がりはテレビが早いですけど落ちるのも早い。ソーシャルは立ち上がりは遅いけど、ずっと続くので影響力はこちらのほうが大きいんじゃないかな。また、コントロールできますし、誰も邪魔する人がいないので、凄く成果が上げやすいと思っています。

販売ではなく顧客の課題に向き合う

–鉄道とか前段をベースにして、コンテンツ、集客、そこをずっとされてきて、25周年を振り返ってみて変化はどうですか。

杉野 会社を立ち上げたころの事業は1つもやっていませんから日々変化です。毎日、自分でどうなっていくのかと楽しみながら生きています。
この間、eスポーツのシステムを納入したんですけど、おまけでコンテンツを差し上げるというお話をしました。要は、弊社はシステムを納めて、そこでおしまいではないということです。むしろ、そこから始まって、お客とともにお金を稼がないといけません。だけど、普通のシステム会社はそこで終わってしまう。そこが大きく違うのではないかと考えています。

–通常、SIerの仕事は企業に最適のシステムなり、ソフトウエアなりを納めることが仕事で、そこで終わりですね。

杉野 だけど、うちは「そこの集客もうちがやりましょうか」と最初はおまけでやっていたんです。セブン-イレブンさんがそうですけど、別にそこでお金をもらってなかったので、「集客もうちが考えますよ」ということで集客をお手伝いしたら、こちらのほうが受けが良かったり、「こういうふうに作ってあげたほうがいいんだろうな」とか、お客さんとして最終的に望んでいるところまでうちが考えてサポートできるのは、うちが他のシステム会社と違うところかなと思います。

 

 

-やり方がまだ未開拓でよく分からないところを、既存とはまた異なった手法でやってみましょうとか、考えてみましょうという、そこが独自性のような気がします。

杉野 最初はセブン-イレブンに言われて仕方なしに集客したというところからスタートしましたが、今は逆にうちのカラーになっています。前はおまけでやっていた。今もたまにおまけでやるんですけど、しっかり仕事にしています。開発したやり方で集客します。例えば「この期間で50万ほど人を呼びましょう」といったら50万人を呼ぶための仕掛けをきちんと考えて、その対価はちゃんと貰います。失敗してももらえるんですけど、今は失敗はしないです。集客に関しては誰にも負けないです。

–顧客名簿があるわけではないですね。

杉野 既存のマーケティングのように顧客名簿にDMを打つということではないです。顧客企業の名簿を頼りにしているわけではないです。強いコンテンツ、例えば声優とか、ミュージシャンとか、プロレスラーとか、この人だったらこれぐらい集客できそうとか、だいたい計算するんです。ソーシャル上のフォロワーとか、インスタとか、そういったものから人気が上り調子で来ているところは人が一番興味を持つところなので、そんな旬な人たちを使いながら、これぐらい集められそうだなということを仕掛けていき、行きたくなるようなストーリーを作り、ソーシャル上に構築していく、そうしてあげれば、人は動くんですよね。

–デジタルマーケティング事業なのですが。そこで、例えばタレントさんとか呼べるコンテンツとSNSの力、ソーシャルメディアをどう使っていくかという点でいうと、名簿にDMを送るわけではなくて、新しく開拓するわけですね。

杉野 顧客企業が「こういうお客様が欲しい」と言えば、「そのお客様だったら、こういうコンテンツだろうな」とうちがアレンジして、もともとのフォロワーにいる人たちを使いながら開拓していくということになります。

–ある企業があって、そのBにはCがいて、そのお客様に対して、企業と商品を分析してふさわしいCを集客なり誘客なりするという事業ですね。BtBtCでいえば、最初のBとしてBに納めたら終わりではなく、Bと一緒にCの開拓に向けて一緒に取り組んでいくという仕事ですね。そこでは総合力、コンテンツ力、タレント力、ストーリー力、ソーシャルメディアの使い方、そこが事業ですね。

杉野 うちはシステムをやっていて、コンテンツもやっていて、キャスティングもやっていて、ソーシャルもやっていて、1社でこれだけやっている会社はあまりない。電通ぐらい大きいものはあるかもしれませんけど、個々の企業の事業のレベルに合わせて地道に取り組んでいるところは多分、そんなにないと思います。
お客さんはそれを入れることが目的ではなくて、それで集客したいとか、仕事が便利になっていくようにしたいとか、思うわけじゃないですか。うちは最終的な目的のところからスタートを最初にし始めているので。それを本当に皆さんがやり始めないと変わらないですよね。いまだに「物を売って、それでおしまい」という人たちが多いけど、「最終的にこれがしたいんだったら、これが必要だよ。こうすれば使えますよ」とやれればいいかなと。

 

 

無線の進化とビジネスの発展

–25年前、主戦場はPHSだった。次にWi-Fiが登場し、そこで活躍した。ワイヤレスの技術変化とビジネスの展開については、いかがでしょうか。

杉野 ずっと技術は追いかけています。技術が変わると、やはりやり方も変わってくるので。ただ、通信の手段は何でもいいと思っています。今はWi-Fi 6もあるし、ローカル5Gもあるし、11ahもあるし、課題解決のために最適なものを顧客のために選ぶ力が大事だと思います。
例えば、うちは最近、アパートのWi-Fiに力を入れているんですけど、まだ2割ぐらいらしいです。

–アパートのWi-Fi装備率のことですか。

杉野 マンションはWi-Fiはどんどん入ってきていますが、アパートはなかなか進んでいません。若い人たちはWi-Fiが入ってなかったら、そこに入居しないという感じになっています。一方で、お年寄りがアパートに住みたくても入らないという事情もあるんです。亡くなられたら困るので、そもそもお年寄りを入居させないという。そういった中で、これからどんどん高齢化社会になって来ます。そこで、Wi-Fiを入れると同時に、安否確認を含めてやれるような仕組みを作っています。最近は、人が動いているか動いていないかまですぐ分かるようになっているので、そういうシステムはすぐ作れます。そういった形でお年寄りの入居が出来るようなお手伝いをやっていきたい。
この技術だからこうなるというのではなく、こういう状況ならこの通信をこのように使うと便利だという考えが大事だと思うのです。
今、Terragraphという60GHzで1キロぐらい飛ぶ無線を扱っています。

 

 

–長距離無線LANですか。

杉野 そうです。例えば一般のアパートだと普通のマンションより効率が悪くなるのです。光回線を引いて4世帯とか6世帯で分配しても、1世帯当たり高く付いてしまいます。その点、この長距離無線だと、同じ大家さんだったら1カ所に入れたら全部、バケツリレー方式で、高速で飛ばすことができます。アンライセンスで出来ます。それで、随分、安くできるようになります。技術オリエンティッドというよりも、「この技術はこっちに使えるな」「こうした事情があるところでこれが使える」という、ユーザーオリエンティッドな目線ですね。

–Wi-Fi、ローカル5G、11ah、LPWAなど、プライベートワイヤレスネットワークビジネスを進めるにはそういう考えですね。

杉野 無線技術に個別に興味があるというより、ユーザのそれぞれのシチュエーションで解につながるものを推進していくということです。もちろん、11ahも積極的に前向きに検討を進めています。ワイヤレスネットワークは弊社の本業です、まさにつなぐ仕事ですから。

社会に役立つ仕事をWi-Bizで

–Wi-Fiは創立10周年を迎えて、新たな役割、今後への期待について、お話をお願いします。

杉野 Wi-Bizが設立された時から会員企業としてやらせていただいています。私個人としては、00000JAPANの企画・運用委員長をやらせていただきました。初めての災害発動も私が担当でした。今は00000JAPANは普通に浸透しています。社会的に根付くようになりましたね。これだけ普及しているんだからこそ、いろいろなことができるんだろうなと思っているんですよね。ただ、あまり財源がないので、みんな手弁当でされているんですけど、何とか財源をうまく確保して、業界がまとまって、いろいろなことを00000JAPANに続くようなことが、できたらいいなと思っています。

 

 

日ごろは仕事の面ではライバル関係かもしれないけれど、00000JAPANみたいに一緒にやっていくことによって、これからも社会の役に立つ、面白いことができそうだという気がしているので、そこに期待しています。
病室Wi-Fiも、笠井さんの話を聞き、記事を見て、業界団体として支援しないわけにいかないなと連絡させてもらったんです。病院でも2割3割しかまだ入ってない状況だから、そういったところもWi-Bizで、皆さんで協力して困っている人たちに支援できたらと思います。

 


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