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トップインタビュー
楽天モバイル 執行役員 副CTO
モバイルネットワーク本部 本部長 竹下 紘 氏
初の完全仮想化プラットフォームによるモバイル事業に手応え
00000JAPAN運用で社会貢献を果たしたい
楽天モバイルは携帯キャリア事業に参入し、本格サービス提供開始から3年8カ月で、契約数が500万回線を突破した(2023年8月28日)。同社の執行役員 副CTOでモバイルネットワーク本部の本部長を務める竹下紘氏に、モバイル事業の現状と今後の取組みを尋ねました。
500万回線を達成し上昇気流へ
–携帯キャリア事業に参入し、本格サービス提供を開始して3年8カ月となります。現段階での手応えについて、お願いいたします。
竹下 三木谷が、「Rakuten Optimism 2023」や「2023年度第2四半期決算説明会」でも話していますように、モバイル事業は上昇気流にあると考えています。昨年、新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表し、1年無料キャンペーンや1GB/月未満は無料というところから有料サービスへと舵を切ったことで一時的に解約率が上がった時期もありましたが、今は下がってきています。計画から大幅な前倒しに成功している楽天回線エリアの拡大が進み、それに伴う先行投資による赤字も継続的に縮減しています。また日本全国の通信エリアで高速データ通信が無制限となる新プラン「Rakuten最強プラン」の発表もあり、契約数も上昇基調にあります。
引き続きコスト削減と契約数増の2軸で、2023年後半から2024年に向けてさらに加速させていくことが、今、会社としての重点戦略になっています。
–今の契約数の状況は、「0円ユーザ」からチェンジし第2段階に入って、順調に伸びているということですが、世間的にはもう少し伸びてもいいのではないかという期待があるかとも思います。
竹下 500万回線まで到達しましたが、ここをさらに伸ばしていかなければならないと認識しています。現在、ネットワークの最適化に取り組んでおり、プロモーションやマーケティングを抑制している面もあります。今後、新たな施策・キャンペーン等をマーケティングのチームとも連携しながら考え、アナウンスするタイミング等も熟考し、ベストな方法で契約数を取りに行くことを考えています。
(注)楽天モバイルは2023年8月28日(月)に |
竹下 またKDDI様との新ローミング契約に伴い、パートナー回線(国内)も含めて高速データ通信を無制限とした「Rakuten最強プラン」は多くのユーザ様から好評をいただいています。加入していただいた後の満足度上昇に加え、解約率もそれに伴ってだいぶ下がってきています。まずは他社と比べられるくらいの水準までは来ています。今後さらなる認知度向上と新規獲得に向けたアクションにおいて、このわかりやすいワンプラン、また料金プラン内容は貢献していくのかなと思っています。
–エリア展開の方ですが、一時期ずいぶん苦労されましたが、今はKDDIとのローミングもそうですが、エリアは最後の九十何パーセントというところまで来ているわけですね。
竹下 楽天回線エリアの4G人口カバー率は98.7%(2023年6月末時点)まで来ています。KDDI様のローミングエリアを合わせて99.9%となっています。「Rakuten最強プラン」では、このローミングエリアでの高速データ通信の上限(5GB/月)を撤廃しました。楽天回線エリアである98.7%では、自社回線ということで、快適性には特にこだわってチューニングしています。
–通信品質という点では特にクレームはないという感じですか。「品質はいいほうだ」という話もありますが。
竹下 第三者レポートでは、グローバル分析会社「Opensignal社」の「携帯キャリア3社と楽天モバイル・エクスペリエンス・レポート」など、評価をいただいているレポートも出てきています。あとは、以前の「つながらない」という評判のところを、いかに今現在の通信品質が向上してきている実態を訴求しながら、ユーザの認知を変えていくということが、マーケティング上の一番の課題だと思っています。技術面においても、たゆまぬ品質改善に向けた努力を行っていますので、なるべくお客様に改善している通信品質の実情を知ってもらえるよう、全社一丸で訴求していきたいと考えています。
–5Gについては余り知られていませんが、楽天の5Gの取り組みは今、どういう段階ですか。
竹下 置局面においては、2024年3月が認定開設計画の最終年ということもあり、そのラストスパートに向けてどんどん進めています。また5Gを活用した新しいユースケース創出に向けた取り組みでは、楽天の強みでもあるグループ内のアセット活用や、パートナー企業様との協業により、これまでに多くの実証実験を行っています。例えば、ヴィッセル神戸のホームスタジアムでは、神戸市内を飛行するドローンの遠隔操縦を行う「ドローン遠隔旅行」の実証実験、VPS(Visual Positioning System)、AR技術を活用した新しい観戦体験の創出に向けた実証実験、それ以外にも数年間はコロナ禍だったこともあり、会場周辺の混雑緩和対策、離れた場所にいる選手とファンがリアルタイムでコミュニケーションを図る実証実験など、5Gの特性を生かした取り組みを行ってきました。
–5Gに自信のあるエリアはどこですか。
竹下 大阪、兵庫は特長があると考えています。5Gが届くエリアにいれば4Gと5Gを組み合わせてNon Stand Alone構成で、両方を使って安定した通信ができるという形になります。5Gのパワーに制限があるかどうかなのですが、例えば、東京においては出力を下げて運用しなければいけない場合、1基地局当たりのカバレッジが小さくなります。大阪や兵庫など干渉調整が不要な都道府県においては、そういう制限がないので、5Gの強みを存分に生かせていると思います。
–他キャリアは既存の4Gの周波数に5Gを入れてやっていますが。
竹下 現状、我々は行っていません。全国で基盤になる周波数帯が1.7GHz帯の20MHz幅、今は1波が基本ベースになっています。我々としては5Gに転換する対象がないこともありますが、1.7GHz帯を4G、3.7GHz帯とミリ波(28GHz帯)を5Gというシンプルなデプロイメントにしています。
社会的貢献と楽天グループの価値向上
–事業収益という点では、今は設備投資等が先行しておりまだ黒字転換が実現できていない状況です。この局面からどう乗り越えていくかという段階ですね。
竹下 黒字化に向けては、収益を向上させる、およびコストを削減するという、この2軸がありますので、どちらの軸においても色々な施策を計画・実行しています。
–楽天グループの中でいうと、モバイル事業は立ち上がったばかりで赤字続き、逆に他の事業セグメントは好調です。送客や売上という点でモバイル事業が貢献しているという評価なのですか。
竹下 楽天モバイルに加入したユーザにおいては、加入後に楽天市場や楽天トラベルなど、エコシステム内の利用サービス数および利用率が増加傾向にあり、モバイル未契約のユーザと比べると明確な差が出てきています。
–楽天グループへの貢献の指標がありましたね。
竹下 利用サービス数とか、売り上げへの貢献の数値は発表しています。
–楽天モバイルはまだ始まったばかりで事業が厳しいという見方もありますが、三木谷会長は単に楽天グループの価値向上だけではなく、社会貢献ということをいつも言っていますね。
竹下 「携帯市場の民主化」を掲げ、高いとされている日本のスマホ料金の引き下げが参入目的でもあります。また現状、モバイル事業が正念場という世間の評判もありますが、社内は悲観的ではありません。決算説明会でもある通り黒字化はしていませんが、楽天の参入意図や取り組みを知ってもらうにつれ、応援してくれる方もさらに増え、契約数を増やしてくことに社員は強い意志を持って取り組んでいます。少し時間はかかると思いますが、必ず成功できると確信しています。我々の参入によってすでにマーケット状況が変化したこと、スマホ料金面でも国民の皆様の生活に寄与できている点も社員の強い意志につながっていると考えています。
–これからの取り組みで、今後の重点ポイントは何ですか。
竹下 認知度の向上です。「Rakuten最強プラン」を発表し、ローミングエリアでの高速データ通信制限を撤廃して無制限、かつ分かりやすいワンプランということで、土台は整ってきたのかなと思っています。カバレッジに対する印象のところは、ユーザの感覚値が実際の改善からは遅れて付いてくることが、過去のソフトバンクさんのプラチナバンドのときもあったように思います。リアルタイムで付いてくるというよりは、遅れて付いてくるというところは、我々も理解していますので、そこをいかに早くキャッチアップして、「安いだけじゃなくて、ちゃんとつながるようになっている」というところを、多くの人に理解してもらった上で、契約数を増やしていくか、今後のポイントはそこになると考えています。
仮想化プラットフォームをさらに進める
–楽天が携帯事業に参入した時、三木谷会長が「他社とは違う、全く新しいテクノロジーで事業を始める」ということで注目を集め、社会的にもインパクトを与えました。それの現状と今後の展開について。
竹下 エンドツーエンドの完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークを構築し、大規模商用モバイルネットワークとしてサービスインしたのは当社が初めてです。仮想化プラットフォームについては、私も入社当時から関わっていましたが、世間では半信半疑な中、すごい力を入れてゼロから構築しました。いろいろな困難もありましたが、他社と遜色ないネットワークを運用することができています。この点では楽天モバイルとして業界に対する一定のメッセージ性は出せたと考えています。
今後、仮想化技術は避けて通れないと考えておりますので、我々に続いて、いろいろな事業者がこの道を進んでいくことになるはずで、そういった中で業界リーダーとしてのポジションは取れたのかなと思っています。
この路線を引き続き走っていくためには、クラウドプラットフォーム自体の進化はもちろんとして、仮想化の中でもVNF(仮想化ネットワーク機能)から、コンテナ化したより進化した仮想化プラットフォームへ、VNFからCNF(コンテナ化したネットワーク機能)への移行も機を見て進めていきます。CNFプラットフォームは、通信プラットフォーム事業として楽天シンフォニーが提供する自社製プラットフォームがあります。自社製プラットフォームに自社製のアプリケーションを載せて、なるべく内製で技術力を高めていく点が、他社とは違う切り口になっているのかなと思います。
–移動通信ネットワークを、RAN(無線アクセスネットワーク)と、CN(コアネットワーク)に分けると、無線のところはまだ基地局を建設中ですが、コアのところは4Gとしてサービスをしているわけですから一応仕上がっているわけですよね。今後はどのように進化する予定ですか。
竹下 コアネットワークに関しては仕上がっています。コアネットワークの機能としてソフトウェアがありますが、それが今はVM(Virtual Machine)と呼ばれるプラットフォームの上で動いているものがVNFです。そのプラットフォーム自体がコンテナプラットフォームに変わって、アプリケーションもコンテナ対応のアプリケーションに載せ替えていく。一口に仮想化ネットワークといっても、中身は全く別物で、いかにサービスダウンなくシームレスに進化させていくかがポイントです。仮想化ネットワークを運用する上でどの事業者も「VNFからCNFへ」は注目していると思います。我々としては、VNFのときはリーダーポジションだったと思いますが、そこから遅れを取らないように、かつ技術的な先進性をアピールしていくことも優先事項だと考えています。
–今後さらにコンテナのところも仮想化していくという取り組みに入ってきているということですね。
竹下 そうです。
–もう1つOpen RANは、5Gの世界かと思っているのですが。
竹下 楽天モバイルは、4GからOpen RANになっています。4Gは2018年4月に周波数の割当てをいただきました。当時は今と比べOpen RANの土壌が整ってない中での展開でした。しかし将来的なOpen RAN全対応を見越して、当時はノキア社製の無線機と、今で言う楽天シンフォニーのベースバンドのソフトウェアを、インターフェース変換をした上でOpen RAN対応、Open RANプロファイル対応という形で4Gも展開してきました。
–Open RANは4Gのそこからやっているのですか。
竹下 はい。すでに4Gからやっています。4Gも無線機とベースバンドの分離、あとOpen RAN製品も当然違うベンダーの装置を接続していることになりますので、そこもOpen RAN対応と言えます。4GのときからVNFかつOpen RAN対応で、複数ベンダーの無線機とベースバンド装置を接続する構成で、全国32万セクター以上に展開しています。
–仮想化プラットフォームで携帯事業に参入することで、ネットワーク構築費用が下がる、携帯料金も下げることが可能、社会貢献できるという非常に大きなビジョンがあったわけです。非常に安くコアネットワークが出来るはずなのに、ネットワーク構築に膨大な予算が掛かっていて、黒字化の時期を延ばしています。それはなぜですか。
竹下 基地局開設の前倒しの影響が大きいと考えます。総務省に提出し認定された開設計画上の基地局数よりも、日本は品質重視の国なのでかなりを上積みして設置している点、また4G人口カバー率の96%到達時期についても、2026年としていましたが、約4年前倒しで到達しているように、急ピッチにエリア展開をしてきました。
それに加えて、5G(Sub6、ミリ波)についても並行して進めてきました。5Gだけでもかなり局数を開設してきた点、どちらも前倒しのコスト増が要因になっています。ただ、これもOpen RANや仮想化ネットワークができたから、現状の増加分で済んだという側面もあります。これが既存の伝統的なネットワークだったら、このコスト、このスピードでは開設出来なかった可能性もあると考えています。
–コアでのNFV技術、クラウド技術は他社にはない先進的なもので順調にいっているということと、さらにOpen RANも含めてこれも先駆けて取り組んでいるということですね。
竹下 楽天シンフォニーは契約が順調に進み、実際のネットワーク構築まで進んでいるプロジェクトが複数あります。契約に基づいて粛々とやっています。特にOpen RANはグローバルマーケットで高い評価を受けており、着実に進めています。
–法人市場ですが、どういう取り組みを行っていますか。
竹下 楽天モバイルは、今年2023年1月から法人プランも本格提供開始しました。これからは法人契約の獲得とコンシューマの獲得を併せて進めていきます。
法人契約についても、まずは我々のモバイルネットワークを使っていただくことを大きな目的にしていますので、スマートフォンを中心に販売していきます。我々の強みは、楽天エコシステムを構築するときに培った顧客とのパートナーシップがあります。各サービスにおける取引先へのセールスから、料金や品質に関する口コミが広がってくれば、そこはコンシューマ同様に伸ばしていけるのかなという期待を持っています。
–法人ソリューションということWi-FiやIoTなど、またローカル5Gはやっているところとやっていないところがありますが。
竹下 その点は今後の注力分野になると思います。Wi-Fiは公衆Wi-Fiサービスという形では行っていません。また、ローカル5G等をやるにしても5G Stand Aloneのサービスをどうするのかなど、建付けやビジネス面での優先度を考慮しながら将来の戦略を考えていきます。
–これからの楽天モバイルの取り組みはどういう方向なのでしょうか。
竹下 我々には国内No.1キャリアになるという大きな目標があります。個人・法人ビジネスともに契約数を伸ばしていくことはもちろん、黒字化に向けては業務の効率化を図りコスト削減にも力をいれていきます。また我々はIT企業としての矜持もありますので、最新技術の活用やその進化についてはどのキャリアにも負けないようにしたいと考えています。楽天モバイルの将来について乞うご期待というところです。
社会インフラとしてのWi-Fi、00000JAPANで貢献を
北條 楽天モバイルは、昨年Wi-Bizの会員になっていただきました。災害時のWi-Fiということで00000JAPANを展開しておりましたが、災害時ではなくて通信障害のときにも発動していくことになりました。
他の会社は基本的にモバイル以外に公衆Wi-Fiを持っています。ドコモのd Wi-Fi、au Wi-Fi等からも00000JAPANを吹いたり、もちろん臨時に00000JAPANを持っていったりすることもあります。Wi-Fiサービスをモバイルと連携させてやる考えはないでしょうか。
竹下 我々は後発事業者ということもあり、4Gの成熟期から5Gの導入期でのビジネスの立ち上げでしたので、他社の3Gの後半のときのようにWi-Fiにトラフィックをオフロードしないとセルラー網が使えないという状況ではなかったので、直近の必要性を加味した上で、現状はそういう計画がないことは事実です。
一方で端末の普及度を考えると、社会インフラの1つであることは当然認識しています。またWi-Fiのトレンドを全く追っていないかというと、もちろんそうではありません。最新のWi-Fi6技術が我々が提供する最新型のフェムトセルに搭載しておりますし、5G技術をアンライセンスバンドで使う技術も出てきています。そういう動向を把握しながら、どういう展開をすることが、社会基盤の1つとして貢献できるのか、常日ごろ感度を高くして見ております。今後、現状の我々の00000JAPAN運用以外にも貢献できることがあれば、ぜひともとは考えています。
–Wi-Bizの役割について、今後の取組みへの期待をお願いいたします。
竹下 00000JAPANはかなり認知度も上がってきたと思いますので、楽天モバイルとしても最大限の貢献をしていきたいと思っています。Wi-Fi自体が立派な社会インフラの1つです。引き続きユーザに対する周知活動、新技術も含めて進化していってもらいたいなと思いますし、その中で楽天モバイルもビジネスとして取り組む分野があれば、ぜひ積極的に入っていきたいと思います。4キャリアを繋ぐこと、また取りまとめる役割を持っていらっしゃるWi-Biz様に、引き続き業界の発展に貢献していただけると、非常にありがたいなと思っています。
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