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第5期定時社員総会 特別講演
活力ある地域社会の実現に向けたデジタル利活用の推進

総務省 情報流通行政局 地域通信振興課長 佐々木 明彦氏

6月11日、一般社団法人無線LANビジネス推進連絡会の第5期定時社員総会が開催され、特別講演に総務省 情報流通行政局 地域通信振興課長 佐々木 明彦氏をお招きし、地域通信振興課で推進している情報通信事業の最新の状況をお話しいただきました。講演内容の要旨を掲載いたします。

 

 

 

総務省地域通信振興課の佐々木と申します。本日は「活力ある地域社会の実現に向けたデジタル利活用の推進」という題名で講演させていただきます。
地域通信振興課は何をしているかと申しますと、情報通信インフラを使った地域社会の生活の質の向上や地場産業の振興などに取り組んでいます。

 

 

去年の12月から「活力ある地域社会の実現に向けて」という懇談会をやっています。
日本あるいは地域社会が抱える課題に対して、どのように情報通信技術を活用して生活の質の向上や地場産業の振興などに取り組むのかを検討しています。その中では、皆様が取り組んでいらっしゃるWi-Fi技術などもうまく取り込んでいけるのではないかという話をしています。そういう観点から本日は我々の取り組みを中心にご説明させていただければと思っています。

 

 

まずは「日本が抱える課題」ということで「4つの3分の1」というふうに掲げています。皆様がご理解されている通り超高齢化とか、いろいろな課題がある中で、足元の事態がこのまま推移すると、日本の社会・経済が抱える課題、地政学リスク・環境リスクがさらに深刻化していくということで、2030年時点で「4つの3分の1」に直面して、身動きが取れなくなる懸念があります。
まず、「超・超高齢化」と書いていますが、総人口の約3分の1を高齢者が占める社会になってしまうということ、さらにはそれを受けて地域の過疎化、医療費の増大、企業の人材不足といった問題がより深刻化していくということで、デジタル技術を活用していくことも含めて、対応する必要が求められていると考えています。
さらには「ゼロ成長経済」ということで、人口減少だけではなく、企業投資とか全要素生産性の伸びが回復しないということになってくると、GDPの成長率も0%前後に低下してしまうということで、他の国と比べても、かなり劣ってきてしまう状況になってくるのではないかと考えています。
さらには「危機の常態化」ということで、これは少し国際的な観点になってきますが、世界の多数派となっている権威主義的な体制が勢いを増してしまう中では民主主義的な国がかなり減ってしまうということで、サプライチェーンリスクも含めて、さまざまな懸念が予想されます。
最後は「持続化の失敗」ということで、先ほど来、出ている自然災害の増加とか、食料需給のバランスも悪くなってくるということで、そういった懸念が予想されます。そういったことが日本全体のトレンドとして考えられると思っています。

 

 

それを踏まえて地域社会の課題はどうなのかということを考えています。特に先ほど来申し上げている「人口減少・少子高齢化」は一番大きな問題なのだろうと思っています。生産年齢人口の減少、都市部への人口流出、就業機会の減少というような話が、皆様もよく実感されていらっしゃるところだと思っています。
さらには「経済構造の変化」といったところで、観光庁の方からの発言もありましたが、インバウンド需要の増加ということで、オーバーツーリズムの対応をどのようにすればいいかという話もありますし、そもそも人口減少していく中で、地域産業の衰退、消費の減少という足元の産業をどのように支えていくかといったところがあるかと思います。
さらには、これまでのお話に出ている「インフラの老朽化」に加えて「自然災害のリスクの増大」といったところで、Wi-Bizでは「00000JAPAN」の対応をいただいていますが、自然災害の激甚化に対して情報通信技術をいかに活用していくかというところも含めて、課題を抱えているという状況かと思っています。

 

 

今、申し上げた地域社会の課題をバックデータとしてご説明させていただきます。例えば人口減少・少子高齢化の中でというと、地域別の生産年齢人口の割合を見ると東京圏は伸長する一方で、三大都市圏以外の地域が減少しているという状況が見て取れます。

 

 

また、経済構造の変化、こちらはなかなか数値として出しにくいところはありますが、生産拠点の事業縮小や海外移転が続いていくことで、製造業や建設業を中心に雇用が減少しているということで、少し古いデータになっていますが、例えばここに書いてある通り、製造業や建設業などは少し減ってきているのに対して、医療や福祉などは少し比率が増えています。ここには書いていませんが、地方公共団体のような減らないところも雇用は維持されていきます。少子高齢化を受けて地域産業を支える雇用が減ってきていることが現状であると思います。

 

 

さらにインフラの老朽化・自然災害リスクの増大といったところで、こちらは言うまでもないことですが、自然災害の激甚化で、地震・豪雨等の災害が増えてきているということで、従来の想定を超えた対応が急務になってきていると思います。

 

 

こうした課題を3つ、今、掲げましたが、人口減少・少子高齢化、経済構造の変化、インフラの老朽化・自然災害の増大に対して、デジタル技術をいかに活用していくかといったことで、「労働生産性の向上」「産業の高度化・合理化」を進めることで、地域が抱える課題を解決することが期待されています。
ここにいくつか要因として挙げていますが、いろいろな要因によってデジタル技術の実装まで至っていないのではないかといった問題意識を持ちました。そのため去年の12月から総務省の情報流通行政局の私たちがいる課を中心にして、地域におけるデジタル技術の実装をいかに進めるかといった懇談会を執り行っています。4つほど下に掲げています。
「デジタル技術の活用が地域課題解決に結び付かない要因」ということで1つ目、ここに掲げていますが、利用者端末までをつなぐ利用環境が整っていない。本日参加している総合通信基盤局でもインフラ整備をしていますが、実際に地域において、例えば居住地域ではないところの、例えば農業をやっている場所だったら田んぼなど、そういった人が住んでいないところにおいても、いかに通信技術を使いながら環境を整えるかといったところの課題があると思っています。
デジタル技術の実装を支える、例えばローカル5GやWi-Fiなどの技術を使った地域のデジタル基盤が、整備されていないのではないかといった課題認識を持っています。さらに下に書いていますが、インフラもこれまで光ファイバを中心に整備されていますが、耐用年数が経過してしまって老朽化が進行しているという課題があるのではないかといったことを仮説として挙げています。
また、本日は説明を省かせていただきますが、デジタル化を支える人材がいないとか定着していないのではないか、都市圏に集中してしまっているのではないかといった課題もあると思っています。人材やインフラがない中で、どのように進めていくのかといったところで、技術やソリューションがあっても地域課題の洗い出しができていないのではないかとか、関係者間の連携ができていないので、うまくビジネスとして自走できていないのではないかといった課題認識のもと、これまで12月から現在に至るまで懇談会において議論をしています。

 

 

この画面は、この議論を行う上での前提となったものです。「地域社会におけるDXの現状と課題」というタイトルにしています。デジタル田園都市国家構想の中に主要なKPIということで、デジタル実装に取り組む自治体の数を2024年度までに1000団体、あるいは2027年度までに1500団体というふうに掲げて、「デジタルの力で、いかに地方の個性を生かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図るか」ということを掲げています。
実際に取り組んでいる数は下に書いてある通り784団体と増えていますが、私たち総務省が地方自治体にアンケートを取った中で出てきた課題認識は、中段にある通りデジタル実装にあたり通信インフラの課題があると答えた自治体は3~4割程度が通信インフラに課題があるということで、例えば光ファイバなどについて課題がある自治体が8.5%、あるいは5G、ローカル5G、LTE、Wi-Fi、LPWAなどの無線に関して課題があると答えた自治体は23.6%、さらには通信速度が遅い・安定しないなど、それに共通するようなことにおいては10%で、通信インフラに課題のある自治体がかなり多いことが我々のアンケートで分かりました。
デジタル技術の活用に取り組んだ自治体という中で約半数、784団体が「ある」と答えていますが、1500団体が答えている中での半数ですので、まだまだ地方公共団体はデジタル技術の活用事例が少ないことも浮き彫りになりました。
その背景は、右下に書いてありますが、課題としては予算を1番・2番目に挙げているところが多いです。それ以外に人材が足りない、情報が足りていない、推進する体制ができていないといった自治体さんが多くありました。

 

 

このため総務省では令和5年度から「地域デジタル基盤活用推進事業」ということで掲げて、予算事業を行っています。特に今年度は令和5年度の補正予算額の47.5億円でやっています。
内容としては、ここに書いている人口減少・少子高齢化が進展し、労働人口が減少する中で、持続可能な地域社会形成のために先進的な技術を使って社会機能の維持・向上をさせることが重要だという認識のもと、「地域社会のDXの計画策定あるいは推進体制構築支援」、さらには2番目の「先進的ソリューション社会実証」、3番目として「地域の通信インフラ整備の補助等の段階に応じた、総合的施策を通じたデジタル実装を推進する」取り組みを行っています。
先ほど申し上げた人材が足りない、計画策定あるいは推進体制がないといったものは、こちらで取り組んでいます。さらには実証事業・補助事業で、ソリューションがあってもどのようにすればいいかが分からないところには、推進体制・計画策定の支援をする中で、実証事業を通じて課題解決できるのではないかというところを支援しています。それを通じて「こういうインフラが必要だ」ということがあれば補助事業で支援するといったスキームで、トータルで支援するということを、これまでやってきています。
特に左側の「計画策定・推進体制構築支援」に関しては、自治体を中心に都道府県の中でデジタルを担当される方に対して、1年間ほどコンサルティング、あるいは3カ月ほどコンサルの方が行っていただいて計画策定の支援をする中で、それぞれの地域の地域課題を深掘りして、「それであれば、こういった無線技術を活用すれば、うまく生産性向上などができるのではないか」ということを提案しています。
さらに先ほど来、申し上げている「実証事業」、こちらは2つほどあります。1つ目は、ローカル5GやWi-Fi、特にWi-Fi HaLowやWi-Fi 6E・7などの先進的無線技術を使った実証事業です。もう1つは、皆さんと直接関係があるかはあれですが、遠隔監視システムなどの安全な自動運転に必要な通信システムの検証です。2つのプログラムをご用意します。特に実証事業に関しては、地方公共団体、地方公共団体に出資する法人・非営利法人あるいは企業・団体などが支援の対象になります。かなり多くの案件がこれまでの間で形成できています。後ほどその内容を少しご紹介できればと思います。現在、一次公募は終了していますが、二次公募は受け付け中です。
「補助事業」についても、通信インフラ、ローカル5GやWi-Fiなどの整備を伴う、デジタル技術による地域課題の取り組みを支援します。こちらも地方公共団体を中心に必要なネットワークを補助しています。こちらも併せて6月26日まで二次公募の受け付けを行っています。

 

 

実際にどのような事業がこれまで行われてきたかといったところで、去年度と今年度の案件一覧として記載しています。
現時点で令和6年度予算に関しての実証の執行状況に関して申しますと、4月ぐらいから募集して、今月に15件採択します。特に15件のうち13件でWi-Fi 6E・7あるいはWi-Fi HaLowを利用しています。農業、交通、医療、防災、いろいろな分野に応じて対応いただいています。高度な速度が出るWi-Fi 6E・7あるいは広範囲に対応するWi-Fi HaLowが、それぞれの案件に応じて取り組まれているという印象を持っています。

 

 

特にこちらの5年度との比較で見ると、令和5年は15件あった中で9件がWi-Fi 6EやWi-Fi HaLowを使っていくもので、同じ件数の中でも特に今年度はWi-Fi 6E・7あるいはWi-Fi HaLowを使うものが増えてきていますし、先ほど申し上げた通り二次公募でこれからまだ募集していきますので、案件が増えていくのではないかと思っています。
6年度の案件は、まだ概要が出てきていないので、去年度のものが中心になってしまいますが、どのような取り組みが行われたかということを資料としてご用意しました。

 

 

 

実際にどのようなものがあったかと申しますと、こちらはWi-Fi HaLowを使ったアンダーパス遠隔監視の実証です。ゲリラ豪雨や線状降水帯などによる急激な水位の上昇を監視するためのシステムです。高岡ケーブルネットワークを中心に、インテックやフルノシステムズなども参画されて取り組まれています。

 

 

また、同じくWi-Fi HaLowを使ったものですが、林業や農業などの対応がいろいろとある中でも、獣の被害の削減を実現するためのシステムで、アイテック阪急阪神が代表機関になって行った事業があります。

 

 

それ以外にも、例えば徳島においては高精細映像の伝送によって、救急医療搬送の高度化を実現するための事業で、町内において2次救急先と3次救急先の映像を共有するために、Wi-Fiやローカル5Gなどを使っている取り組みもありました。

 

 

取り組みの例としては、工場においていかに脱炭素経営を実現していくかといったところで、エネルギー使用量と生産記録をそれぞれ工場の中で使っている機械につなげて、いかに電力やガスを使っているかデータを示していくという取り組みもありました。
このように数多くの取り組みが行われていて、Wi-Fi 6EやWi-Fi HaLowに対する期待が高まっているという状況でした。
私自身も去年度、地方に視察に行って成果報告会などを見て、地方の方々の声として、ローカル5Gも速度が出て大変素晴らしい中で、Wi-Fi HaLowあるいはWi-Fi 6E・7に関しても、先ほどもありましたが、ライセンスがなくても、いろいろと幅広くできることでの期待感を聞く一方で、「Wi-Fi HaLowに関しては思いがけず減衰してしまうところがあるので、実証を通じて学んだものを次につなげられればな」といった声も聞かれました。まだ結論は出ていませんが、実証事業を通じてどのようなことを学んできたか、やりっ放しにならないようにするための視点が必要なので、今後はそういった話を生かしていければなと実証事業を通じて感じました。

 

 

実証事業ではなくて補助事業に関しても少しご紹介できればと思っています。こちらについては、必ずしもWi-Fiは多く使っていませんが、例えばLPWAやBWAを使って、防災、農業、安心・安全、見守りに使っているものが多くあります。5年度に関しても1件か2件、Wi-Fiを使った事業がありますが、BWA等を多く使っています。補助事業のネットワークに関しては、Wi-Fiを使う案件は少ないのですが、ライセンスを使わないで済むといったところで、より今後、増えていければいいのかなと期待してします。

 

 

先ほど来申し上げている「地域デジタル基盤活用推進事業」の実態としては、今、申し上げた通りです。6年度の秋以降、予算要求していくことになるのですが、予算要求していく状況によって変わっていくので、今の時点で申し上げられることは少ないのですが、まずもって省人化・省エネ化に取り組む必要があります。地域の人手不足にいかに対応していくかといったところで、先ほど来申し上げている地域の懇談会の中では、特に非居住地域において、いかにソリューションに応じたネットワークが張れるかといったところを中心に議論を行ってきました。
また、ネットワークを使って、いかに地域の産業や生活の質の向上に資するような取り組みを生み出せるかといったところで、Wi-Fi HaLowやWi-Fi 6Eの無線技術、さらにはAIを使いながら省人化・省エネ化に取り組む必要があるということで、今後ますます地域デジタル基盤活用推進事業に対する期待が高まっていくのではないかと思っています。
一つ一つの地域課題に応じてソリューションを提供しようと思うと、どうしても特定のものになってしまうことがあって、なかなか横展開がしにくいといったことがありました。そのため懇談会の議論の中でも、「SaaSなどの共有モデル、横展開できるようなモデルを導入すべきだ」ということもありましたので、今後、そういったメニューを追加することも考えています。
先ほど申し上げた実証事業の中で、いろいろと学んできたことがありますので、さまざまなチャレンジができるように、事業で失敗してしまったものをそのままにするのではなく、そこから学び取れるように、単なる通信技術の検証にとどまらず、事業が自走化できるように、それぞれの時点において「ここまで達成したら良いよね」というステージごとに管理を行うといった視点、さらにはそれを公表して、いろいろなものに共用していく取り組みを通じて、より事業が自走化できるようにしていくべきだといったことを、今後、地域デジタル基盤活用推進事業の中で取り組んでいきたいと思っています。
あとは推進体制構築や計画策定などがありましたが、ICTベンダーあるいは通信事業者の方だけだと、なかなか地域課題の深掘りはしづらいので、我々もこういった事業を取り組んでいく中で、地方自治体とか、いろいろなステークホルダーを巻き込んでいく必要があるということを訴えています。こちらは皆様の日々の活動等も絡んでくるとは思いますが、より多くの方々を巻き込み、推進体制をつくっていく必要があるのではないかと思っています。我々もいろいろなステークホルダーをどう巻き込んでいくかを訴えていこうと思っています。皆様もこういった案件をつくる上では、いろいろな方々を巻き込んだ案件を形成して、より社会実装につながるようなものに取り組んでいっていただければと思っています。

結びになりますが、我々は地域社会をいかに活性化させるかといった中で、インフラ整備やソリューションに取り組んでいくといったところで、「地域社会DX」と名付けていますが、ポータルサイト「地域社会DXのトビラ」というものを設けています。こちらにいろいろな情報を今後もアップしていきますので、ぜひこちらをご覧いただいて、我々総務省における予算事業あるいは施策に関して、ご関心・ご興味を持っていただいて、いろいろと皆様の日々のビジネスに活用いただければと思っています。

 

 


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