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事業戦略を聞く
アイテック阪急阪神株式会社
阪急阪神グループのDX推進へWi-Fi事業に取り組む
地域に根差すワイヤレスネットワークを構築

都市創造事業本部事業開発部部長  平児玉 功 氏
都市創造事業本部第1営業部長  安野 賢治 氏

アイテック阪急阪神は、関西で鉄道をはじめ不動産・エンタテインメントなど幅広く事業を展開する阪急阪神ホールディングスグループの中で情報通信を担う事業会社です。
無線通信の分野では、DXプロジェクトに取り組むグループの戦略をうけて「HH cross Wi-Fi」のシステム運営を推進することで、地域に根差し、沿線住民に密着したサービスの提供を行っています。
今回は同社の事業戦略と最新の取り組みについて、平児玉事業開発部部長、安野営業部長にお聞きました。

 

左から平児玉事業開発部部長、安野営業部長

 

6コア事業の「情報通信」を担当

—-はじめに、グループの概要と事業領域について、教えてください。

安野 「阪急阪神ホールディングス」は、鉄道をはじめオフィス・商業施設などの不動産から阪神タイガース・宝塚劇場などエンタテインメントまで多岐にわたる分野で事業を展開しています。それらグループの事業を「都市交通」「不動産」「エンタテインメント」「情報・通信」「旅行」「国際輸送」の6つの領域に区分したコア事業体制のもとそれぞれが事業の推進にあたっており、当社は、そのうちの情報・通信コアに属する情報サービス事業を分担している会社となります。

 

 

 

—グループの中での御社の役割は何ですか。

安野 アイテック阪急阪神は1969年の創業(1987年の設立)で、株主は、阪神電気鉄道、三菱電機、阪急阪神ホールディングスの3社です。鉄道グループの中で発足した当社は、鉄道の電気・通信に関連して、乗降客の利便性或いは駅務、乗務をサポートするためのシステム、ソリューション(旅客案内や列車運行管理システム等)を提供しているほか、ビル・不動産分野では、ビルの中央監視設備や、複数ビルを遠隔から一括管理できる「群管理システム」の開発・提供を行うなど、前述のグループ各事業の運営サポートの役割を担っています。

 

 

 

—「マルチベンダー型システムインテグレータ」ということですが、今はどういう領域をカバーしているのでしょうか。

平児玉 下図で概略を示していますが、「交通システム」を軸にしながら、「エンタープライズソリューション」「インターネットソリューション」「医療システム」「ビルシステム」「地域BWA・あんしんサービス」「ネットワークインフラソリューション」まで、幅広く各分野をカバーしています。

 

 

 

—「親会社のICTをサポートする子会社」という領域を超えた幅広い事業展開ですね。

安野 もともとは鉄道グループのIT事業会社ではありますが、その鉄道やビル・不動産事業を開発フィールドとして、それぞれの事業のオペレーションに深く精通し、真に必要とされるものを構築できるところが強みであると考えています。そこで培ったノウハウは、グループ会社の中だけで閉じず、広くグループ外へと展開していく方針のもと、外販を推進しています。実はグループ外の売上高はグループのそれより多いのです。

「スマートビルソリューション」と「地域BWA・あんしんサービス」

–「スマートビルソリューション」はどういう取り組みですか。

平児玉 スマートビルシステムは、様々な機能を有したシステムを目指していますが、わかりやすい例を挙げるとすれば、ビル会社に対して複数ビルを1カ所で見ていこうという仕組みです。グループの鉄道もビル・不動産もまた日本のどの企業も省力化・省人化・効率化が1つの大きなテーマです。ビルはそれぞれ防災センターを持って人が常駐しています。鉄道もそうですが、24時間365日管理しています。当然、「少ない人数、少ない個所で管理できないか」となるわけですから集約して、「複数ビル一括管理システム」ということになります。センターですべての状態が分からないといけません、そこで力を発揮するのが、我々が得意とする、無線通信の力とIoT、それを通じて送られてくる画像、熱源、空調などのデータ、信号、そういったものを統合ネットワークとクラウドで見て、異常が起これば駆けつけるという状態をつくるわけです。

–「地域BWA・あんしんサービス」、これは自治体向けですね。

平児玉 BWA (Broadband Wireless Access)は、阪急阪神グループでは力を入れてやっていて、沿線の中ではほぼほぼそのエリアは形成できてきています。また、BWAのネットワークを街中、市全体に引くという意味では、伊丹市などは積極的にネットワークの敷設から準備をしていただいています。
BWAでどのようなサービスとして利用いただくかというと、その1つは防犯カメラを入れて地域の安心、そこから見守りのサービスを提供することです。これからは、市民が必要とするサービスも人が少なくなってくる中で変化が出てくるでしょう。自治体と連携を取りながら、無線通信ネットワークをさらに有効性を高めていくためにどうすればいいかというところも、大切なポイントとして取り組んでいます。

–鉄道沿線での活用は重要ですね。

平児玉 京都と梅田間の自治体、私どもの沿線の自治体の方々は、ほぼ地域BWAの免許をグループで持っています。運輸のインフラは鉄道を持っていますが、通信のインフラと両方を持つことによる相乗効果で、街づくりで通信インフラが生かされていくと思います。
実は、私どもアイテック阪急阪神は、通信インフラの整備を通して街づくりに貢献することを目的として、東京都の足立区、杉並区、埼玉県の上尾市、春日部市、草加市、神奈川県で藤沢市、茅ケ崎市の7つの自治体で地域BWAの免許を取得しています。ソリューションとしては、関西地区でやっているような防犯カメラだとか、一部公衆Wi-Fiのシステム、災害用のデジタルサイネージなどを納めさせていただいています。
アイテック阪急阪神だけでもBWAの基地局を300以上持っています、阪急阪神グループで持っている基地局数は2500を超えています。

「DXプロジェクト」を支えるWi-Fi事業

–Wi-Fi事業も展開されていると思いますが。

安野 先ほどの図には書かれていないのですが、地域BWAにとどまらず、Wi-Fiそのものの事業を展開しています。用途は主としてキャリアと阪急阪神ホールディングスのサービスとしてお使いいただいています。
その中で阪急阪神グループでは、「HH cross会員」向けのサービスとして、一部の鉄道車両や駅・商業施設・ホテルなど、沿線を中心に無料Wi-Fiサービス「HH cross Wi-Fi」を展開しています。

 

 

 

梅田駅をはじめ主要各駅並びに商業施設などに、アクセスポイント数でいえば約1400あり、沿線にお住いの方或いは沿線外から梅田駅等へお越しいただく方などの来街者や、訪日外国人の方々へ向けて、そしてもう1つは、鉄道の駅係員の方などオペレーションに活用いただく、業務利用でのサービス提供です。
さらに、いざ災害が起これば「00000JAPAN」を開設して、必要な情報の収集が可能な環境を整えられるよう準備をしています。そのようなWi-Fiの活用の仕方ですね。

 

 

阪急阪神ホールディングの取り組みは、単なるWi-Fiサービスではなく、「阪急阪神DXプロジェクト」として位置づけられており、その中軸に位置づけられています。

DXプロジェクトには、4つの取り組み方針として、次のようにうたわれています。

当社グループでは、提供する様々なサービスの顧客情報に横串を指す形でグループ共通ID「HH cross ID」の供用を2021年8月に開始しました。

今後、さらにHH cross会員の拡大を図り、本IDを通じて得たデータを蓄積・分析していきます(1.お客様を「知る」取組)。

また、スマホアプリ等のデジタルツールの活用により情報発信力を向上させ、お客様とのつながりを強化すること(2.お客様に「伝える」取組)で、より満足度の高いサービスを提供できるようにしていきます。

さらに、無料Wi-Fi サービスやメタバース、動画配信プラットフォームなどのデジタルインフラを整備すること(3.お客様が「デジタル時代の利便性」を最大限享受できる取組)で、より利便性の高い新たなサービスを提供していきます。

そして、こうした取組を通じて蓄積・分析したデータを活用して、コンテンツをさらに磨き上げるとともに、新たな魅力ある商品の開発やサービスの改善につなげていきます(4.当社グループの強みであるコンテンツを磨き上げる取組)。

このように、上記の4つの取組を有機的に結び付けて実行していくことで、お客様の利便性の向上や新商品の開発・サービスの改善を図り、好循環を実現してまいります。

 

–阪急阪神ホールディングのDX推進の取り組みの中軸にWi-Fi事業が位置づけられ、アイテック阪急阪神がそのシステム構築を推進しているわけですね。

11ahで獣害対策の地域実証実験

–最近の取り組みを教えてください。

安野 総務省の地域デジタル基盤活用推進事業に応募し、Wi-Fi HaLowとカメラ画像を活用した地域課題の解決に向けて、島根県雲南市において獣害被害削減の実証実験を行いました。
・獣害被害を抑制するための罠や檻等の管理作業の省力化
・害獣の捕獲率向上による被害の軽減
・AIで自動検出した害獣出没情報の住民への情報共有
といった点を主な目的として、当社が代表機関となり、島根県雲南市、特定非営利活動法人おっちラボ、サイレックス・テクノロジー(株)、(株)GAUSSの5者で、島根県雲南市三刀屋町飯石地区で実証に取り組みました。
実証の概要ですが、中山間地域では、獣害防止策として罠や檻、防護柵等の設備設置が行われていますが、人員不足や高齢化のためそれらの設備の管理が十分に行き届かず、結果、獣害被害が拡大してしまうという問題があります。また、獣害被害といっても、農作物を荒らされるということだけでなく、最近ではテレビのニュースなどで頻繁に報じられますが、クマやサルによる人への被害、しかも人命にかかわることもあってとても危険です。
そこで、Wi-Fi HaLowの特長である、免許不要で必要なところにネットワークエリアを構築できる、しかもエリア内の通信料は上手く使うと不要で、画像・映像も送ることができるといったところが活かせるのではないかと考え、Wi-Fi HaLowとカメラを接続して使用することとしました。

 

 

 

–主にイノシシ対策ですか。

安野 イノシシの出没頭数は確かに多いですが、害獣全般を対象としています。今回の実証実験は、2023年12月から今年の年明け(1月)に、雪も降るとても寒い時期ではありましたが、約1カ月間行いました。
場所は雲南市の三刀屋町飯石地区というところです。雲南市と地域の自主組織(自治会に近い)の方々と話し合いを重ね、まずは、捕獲のための檻の監視(=状態の把握)を行うこととしました。捕獲のために設置した檻は、必ず見回りを行わなければならないのですが、人手が不足する、高齢者が多い山合の地域では、見回りにも相当の労力を要するため、自ずと設置できる檻の数も限られてしまいます。もし、それが離れた一つの場所から、画像で一覧的に見ることができれば、見回りの手間の大きな削減に繋がると考えたからです。

そこで、Wi-Fi HaLowの特徴の一つである免許不要で必要なエリアにネットワークを形成できるということと、一方で「10%Duty」という制限を、逆にうまく活用して運用する方法として、檻の画像の定時配信という形をとることとしました。これで毎時00分の写真(例:13:00の画像、14:00の画像・・・)が送られてきますから、もし檻に動物がかかっている画像を確認すれば、予め捕獲の準備をして出かけていけますし、檻の中のエサだけ取られていればそれを補充することができます。さらには、数日間動物が近寄った気配(足跡など)がなければ、その檻を移設するということも判断できるようになります。最終的には、檻の設置の増が捕獲頭数を増やすということへ繋がることが期待できます。

次に、無線通信を使ってせっかくカメラで撮るのですから、AIで検出した画像からクマ、サル、イノシシなどの種別を判定して出没情報を住民にお伝えしていくことにも取り組みました。1カ月という限られた期間ではAIの習熟そのものに不十分さはありましたが、手応えは感じ取ることができました。

もう一つ、これはWi-Fi HaLowというよりWi-Fiにも言えることで、上手く使うとネットワーク内のやりとりは通信料がかからないということもあって、今回の実証は、実装を考えたときに課題となるランニングコストという点でも、それを抑えることができて、持続可能な形を作れるのではないかと思います。

今回の取り組みでは、地域の方々から「これは非常に有効だね」という評価をいただきつつも、同時に実装へ向けた様々な課題や指摘もたくさんお示しいただきました。その数は、この獣害被害というものが、地域の方々が口を揃えて仰る「最大の課題である一方、解決がとても難しい課題」であると強く感じていることの現れでありますし、また、同様の課題感を持つ自治体はたくさんあると思われますから、無線通信NWとカメラ画像、解析から生まれるソリューションをより有効に使っていけるものに仕上げていきたいなと思いを新たにしています。

Wi-Bizに期待するもの

–Wi-Bizの役割と活動について、どういうことを期待されていますか。

安野 Wi-Bizに参加していると自分たちの取り組みに関連した様々な活動が見えてくると感じています。Wi-Bizでは様々な実証事業などのユースケースが集まってきて、それぞれのケースで求められるデバイスはどういったものか、また、屋内外対応、ホッピングなど機能面はどうかだとか、いろいろなことがあると思うのですが、そういった部分を補っていける。Wi-Bizに参加されている企業の皆様の力をお借りできると、業界全体の活性化にもつながっていくでしょうし、会員間の連携を通じて無線通信ネットワークの価値そのものを高めていくことができるのではないかと考えています。
また、獣害対策ということでいえば、確かに大事な対策なのですが、これをやったからといって新たな収益があがるというものではないため、これを持続的に運営していくには、乗り越えるべき課題が多々あります。そういったことも皆様とお話しできる場、ご相談できる場であると、とてもありがたく思っています。そこから見えてくるものは、これから先、いろいろな課題に対して有効に働くのではないかと思います。

顧客企業に即した「ローカル通信」

–今後、事業をどのように推進していきますか。

平児玉 私どもは「都市創造事業本部」というところですので、安心・安全をキーワードにして事業を広げていきたいと思っています。インフラを持っているSIerは案外いそうでいません。ですので、私たちは地域BWA、Wi-Fiなどの無線、またsXGPもシステム構築できる形にしていますので、それらの「ローカル通信」をうまく組み合わせて、お客様の利用用途、運用を考えたシステムを導入していきたいと思います。
「ローカル5G」の本格普及はまだこれからですが、その功績は、ローカル通信、「プライベートネットワーク」というものに、みんなの意識を持ってきたことではないかと思います。

安野 無線通信ネットワークには様々な種別と特性がありますので、お客様のお話しを伺う中で適切に選択してデバイスをつなげていくことでソリューションが出来上がるわけですが、さらにもう一歩お客様の運営を考えた独自性の高いソリューション提案を行っていきたい。今はまだ見えていないものについても、どんどん開発・提案していくのがアイテック阪急阪神であるという自負で積極的に進めていけたらなと思っています。


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