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トップインタビュー
NTTブロードバンドプラットフォーム株式会社 
代表取締役社長 加藤 成晴 氏
新しいWi-Fiの時代が始まった!
統合ワイヤレスのコーディネーターへ

今年6月、NTTブロードバンドプラットフォーム(BP)の社長に就任した加藤 成晴氏に、ワイヤレス市場の現状と展望、そして今後の事業戦略を訪ねました。

 

 

 

Wi-Fi市場の成長期をけん引

–2002年の創設のころからNTTBPに籍を置かれていました。この度、久しぶりに社長として戻られた形になりますね。

加藤 当時NTT東日本にBP社をつくるプロジェクトがあり、そのメンバーでしたから、そこからですね。NTTBP発足後は、ビジネス企画部長としてやっていました。その後、2010年にNTT東日本に戻り、ビジネス開発本部でやっていました。ビジネス開発本部長の時はポジション的にBP社を所管する立場だったので、BP社の状況はだいたいは知る立場にはいました。

–久しぶりに、戻られてみていかがでしょうか。

加藤 NTTBPの事業そのものに戻るのは8年ぶりです。そのころは公衆Wi-Fi事業が大変な苦労の末、ようやく軌道に乗り、携帯電話とともに「モバイル/ワイヤレス時代」をけん引していた時期といえるでしょう。会社も事業も成長発展段階を進んでいました。

–日本におけるWi-Fi事業が軌道に乗った時期でしたね。

加藤 2002年のBP設立当初は、国内で無線LANサービスが乱立しており、NTTグループでも事業会社ごとに別々のブランドでやっていました。それを、「バックヤードをすべてBPでやりましょう」とインフラ基盤の構築を行う専業会社に転換しました。
そして、流れを変えたのがiPhoneの登場です。ソフトバンクはいち早く、脆弱なW-CDMA をWi-Fiオフロードで補完する路線を打ち出しました。ドコモもまだiPhoneではないですがスマートフォンをどんどん出してきて、W-CDMAがトラフィックで厳しくなるので、「Wi-Fi基地局10万局」の方針を出しました。そこから、Wi-Fi基地局の大増設が始まったわけです。

–NTTBPはWi-Fi専業会社として、Wi-Fi基盤構築の牽引車となったわけですね。

加藤 公衆無線LANサービスを手掛ける事業者が相次ぎ、それぞれ伸びている最中ですから、私たちのプラットフォーム事業も順調に伸びました。経営も安定してきました。
オーナーのフリーWi-Fi事業も始まり、成田・羽田空港をはじめ自社のフリーWi-Fiサービスを始める企業がどんどん増えてきました。顧客サービスのためにコンビニ各社は自社のフリーWi-Fiを提供するのが当たり前となってきたわけです。同様に鉄道、空港、大手飲食店もフリーWi-Fiが普通になってきました。また、インバウンドが始まり、全国で裾野が広がっていきました。Wi-Fiが日本社会に広がり、根付き、利用されるようになった時期です。

–日本におけるWi-Fi事業の興隆期ですね。

加藤 Wi-Fiがまさに日本の新たな通信インフラとして拡充していったわけです。右肩上がりで、事業が成長し、Wi-Fiを活用したさまざまなサービスが始まり、展開していきました。携帯電話のモバイルに対して、もう一つの無線LANのワイヤレスの特徴も生かされ、様々なビジネスに入り込んでいくようになりました。

–2015年ころから、モバイルキャリアも3Gから、帯域幅の大きい4Gに移行が進み、Wi-Fiオフロードの必要性が弱くなりましたね。

加藤 4Gは帯域幅も広く高速ですから、モバイルキャリア内でトラヒックオフロードとしのWi-Fiの比重が下がったと思います。さらに5Gが始まるなかで、モバイルキャリアから見てWi-Fiの役割が変化してきています。
また、Wi-Fiが全国に広がるなかで、事業として見ると小規模になるほど採算は悪くなります。フリーWi-Fiも行きわたると、それを活用してどうWi-Fiのマネタイズ化するのかということが求められるようになってきました。

ワイヤレスへの新しいニーズ

–今や家庭にも職場にもWi-Fiが行きわたり、公衆無線LANもフリーWi-Fiもインフラとして定着してきています。こうしたなかで、次の事業の発展の方向はどこでしょうか。

加藤 実は、オーナーのフリーWi-Fiの要請はまだまだ来るのです。ただ、昔は「外国人の方が街に来るから、お店に来るから、インターネットコネクティビティが必要だ。だから、フリーWi-Fiをやりたいので、作ってください、運用してください」という要請だったのですが、今は違っていて、決済で必要なのです。スマホの決済は、キャッシュレス決済になっています。
もう1つ、大手企業がアプリをどんどん出していて、「そのアプリにポイントを付けます」というマーケティングを行っています。そして、イベントやキャンペーンを土日にやろうという時に、いざ会場に来たら、携帯がつながりにくいことが結構あるのです。
あるエリアのあるゾーンに行っちゃうと、もう携帯はつながりにくい。物産展で、お店が出ているのに、キャッシュレス決済ができないと。「Wi-Fiを付けてください」というご要請がかなり多いのです。

–新しいニーズですね。スマホのアプリポイントは日常生活になっていますが、うまくつながらなくてイライラしているのはよく見かけます。大規模なイベントでは問題ですね。

加藤 そういうお話が凄く多いのです。「この週末だけ欲しいんだよ」とか「このイベントのときだけ欲しいんだよ」というものもかなりあります。
我々は「キャリーバッグWi-Fi」とか「一夜城Wi-Fi」というソリューションを持っていて、一日だけパッとWi-Fiを付け、そこでインターネットコネクティビティを提供できますというものをやっているので、そこの引き合いも多いです。

 

いつでもどこでもWi-Fiスポットに(一夜城Wi-Fi/キャリーバッグWi-Fi)

 

10月に日本国内でトップレベルのモビリティレースがあります。そこも物産を売ったり、お土産を売ったりする場所と、お客さんが観覧する場所に、Wi-Fiを仮設で打ってほしいということで、引き合いをいただいて、毎年やらせてもらっています。こういう案件が日本中にあると思います。そういうものも、以前とは随分違ってきているなと思っています。
ワイヤレス決済だとか企業マーケティングとか、事業の中核に近いところで使われてきています。シンプルなフリーWi-Fiよりも必要性とかご要請が強いのです。ここからも、逆にワイヤレスの浸透が深くなっているということを実感しています。

新しいWi-Fiの時代が始まっている

–それはまさに新しい展開ですね。

加藤 もう1つは、コロナ禍で大学キャンパスには学生がいませんでした。ところが、コロナが明けて急に学生が出てきた。でも、コロナ時のオンライン授業は非常に便利なので引き続き継続されています。ハイブリッドです。そこで、大学構内でオンラインで授業を受けたりするので、大学キャンパス内のWi-Fiがすごく重要なインフラになっています。
ところが、運用担当者に聞くと「実はあんまり調子良くない」とか「苦情が結構ある」という状況です。つながることはつながるけど、スピードが出ないとか、あるいはオンライン授業で1時間つなぎっ放しでぶつぶつ切れちゃうというような品質に対する要請が以前よりも強くなっているのです。
私たちが設置したものではないキャンパスWi-Fiも診断し、処方箋を書く「Wi-Fiドック」のサービスも展開しています。これもニーズがあります。

 

Wi-Fiの課題を解決してくれるサービス(Wi-Fiドック)

 

–それはよく分かります。他の企業でも同様なことは多いのではないですか。

加藤 ある大学で診断をやってみると、やっぱりチャンネルの設計がおかしいことが分かりました。また、パケットキャプチャしたものをうちの技術者が解析したら、あるメーカーのアクセスポイントにバグがあったのです。大学の設備担当者の人が、「これからは任せたい。ちょうど更改なのでお願いしたい」というお話をいただいています。
既存のWi-Fiは一時代前のシステムが多いので、こういう案件は大学だけではなくて病院とか企業の中にもいっぱいあるのではないかということで、Wi-Fiドックをいろいろな方々と一緒に展開していこうかと思っています。

–Wi-Fiは大きな更改期にあたっているので、多くの企業でも困っていると思います。

加藤 今まで我々は、どちらかというと駅や空港など、オープンな場所にアンテナをどんどん付けて、公衆Wi-Fiサービスを展開してきました。実はそれはWi-Fiにとって難しい技術なのです。人はどんどん移動するし、集中して人が来たり、電車が入ってきたり、バスの中でも使えるようにとか、そういうこと難しいところをずっとやってきたノウハウが我々の技術者にあります。それを今度、一般の企業内とか、プライベートなネットワークの中に使っていきたいと思います。そのノウハウで分析し、処方箋を書いて、最新の機器ではこういう形でアップデートできますということをやっていこうと考えています。

–Wi-Fiはこれまでは「モバイルより速く、インターネット接続でき、オープン・自由」ということが売りだったわけですが、今、Wi-Fiは「スピードで負けている、セキュリティは弱い」というイメージがついてしまっています。「古いWi-Fi」から「新しいWi-Fi」に移る時期ではないかと思います。

加藤 私が凄く期待しているのは、Wi-Fi 6Eが出てきていることです。なぜかというと、今までWi-Fiは2.4GHz帯と5GHz帯でやってきたわけですが、2.4GHz帯は共用バンドだし、5GHz帯は衛星と干渉もあったりするし、これでやっていると今のワイヤレスの要請には不十分になりつつあるのです。例えばセキュリティレベルをもっと上げたいとか、ゲストにも使わせたいとか、そういうニーズがあるのです。
そのときに6Eは6GHz帯を使いますということで、例えば6GHz帯は業務用に、またミッションクリティカルな通信は6GHz帯でやります、一般のお客様とかテナントには2.4と5GHz帯を開放しますとか、こういう使い分けができるようになります。セキュリティもWPA3がベースになり、さまざまなセキュリティに対応できるようになります。6Eというものは、私は心待ちにしているのです。続々といい商材が出ているので、凄く期待しています。
今までのWi-Fiで「もう少しここがこうだったらいいのに」というものが、いくつかあったわけですが、それが6Eで改善されている。もちろん7になれば、もっと良くなります。
6Eからの世代は、スーパーWi-Fiみたいにグレードが上がっていくときだと思っています。今ちょうどそこに我々はいるわけで、Wi-Fiドックで「6Eだったら、こういうチャネルの使い分け、周波数の使い分けができる」とか、「セキュリティの使い分けができるよ」という提案ができるので、本当にちょうどいい時期に来ていると思っています。

ワイヤレスのコーディネート力が問われる

–6E・7になると、モバイルに負けているのではなくて、むしろ圧倒的に凌駕する。超高速Wi-Fiがふんだんに使えるという時代が来るので、これは最強ですね。

加藤 ただ、私はローカル5GもNTT東日本でずっとやっていまして、ローカル5Gも11ahもそうだけど、あらゆる無線(ワイヤレス)をコーディネートして、お客さんに提案できるという、その能力が圧倒的に必要になってきていると痛感しています。
ローカル5Gはまだ価格の問題で数が出ていないけれど、ニーズはすごくあるんです。ライセンスバンドで干渉が絶対にない、ミリ波の圧倒的な帯域、それから準同期で上り帯域の確保ですね。

–ローカル5Gの準同期TDDは、モバイルキャリアにはない大きな特徴ですね。

加藤 ローカル5Gの良さは絶対にあるのです。Wi-Fiで同じことができるかというと、それは難しい。ローカル5Gはライセンスバンドだから、干渉というものが一切ないのです。自分専用にライセンスバンドを使えるローカル5Gというのは、特に製造業だとか、ミッションクリティカルな業務には必須だと思います。
だから、Wi-Fiとローカル5Gを一緒に使い分けることがベストミックスであって、そこにさらにahというWi-FiのLPWAといわれ今までできなかったことができるものがある。「遠くに飛ぶけど、そこそこ帯域も確保できて、動画も送れる」というようなもの。この3つがベストミックスされると、あらゆるシーンでワイヤレスを提供できるようになると思うので、このベストミックスを提案できるようにならなきゃいけないというのが、私の今の思いです。

 

ベストミックスなワイヤレスソリューションを提案

 

–それは他社との差別化にもなる。

加藤 BPの営業は営業だけをやっているわけではないんです。営業SE的なこともBPの人間はこなします。人間が少ないから、自分で責任をもってやっていくしかない。私もBPでは営業をやって、システムを自分で絵を描いて、実は開発までやっていたわけです。BPにはそういう伝統があるから、大手企業のお客様もずっとお付き合いさせていただいています。SEの知識のある営業がいるからです。

–Wi-Fiを基軸に、ローカル5Gもahもラインナップの1つとして持って、トータルでベストミックスを提案できる営業SE、そういうカンパニーに磨き上げていくというビジョンですね。

加藤 そうです。例えば中小企業の工場といっても敷地が広いのです。私も何度か行ったことがありますけど、大企業ではなく中小企業といわれる人たちの工場も敷地がとても広いのです。その中にワイヤレスを提供しますといったら、例えば「門に監視カメラがあります。それを管理棟で閲覧したい」と。でも、これはWi-Fiが飛ばないのです、距離があり過ぎるから。これはahです。
でも、管理棟の中で業務をするのに何のワイヤレスかといったら、これはWi-Fiのほうがいいです。ノートパソコンもスマホも、ゲーム機だって何だって、つながるものが多いからです。でも、いざ製造ラインに入ったときに、「検品をするのに人がいないからAI化したいです」となったら、AIを動かすためにカメラが複数台いりますよね。そうなると、24時間、検品ラインを動かさなければいけないので、干渉だとか、そういう面からするとローカル5Gになります。こういうすみ分けが絶対にいるので、これら全部をできないと、お客様に正しいご提案ができないのです。
この22年間で、大手企業とは信頼関係もできているし、「インバウンドで今度、こういう設備ができるから、Wi-Fiを設計してくれない」というお話も来るようになっているので、これからはこれまでの信頼と経験、そして技術と挑戦でやっていきたいと思います。

–この間、BPは方向感が弱かったと思いますが、今後の決意は。

加藤 最盛期まですぐ回復できるかは別にして、今後は守りから攻めに転換し、上昇基調で力強く推進していきたいと思っています。


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