毎月の記事やお知らせをぜひお見逃しなく!
メールマガジン配信登録は☆こちらから☆
トップインタビュー
総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部
データ通信課長 恩賀 一 氏
デジタルインフラの整備を進め信頼できる
情報通信環境を実現
総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課の恩賀課長をお訪ねし、総務省の情報通信政策の方向性と、データ通信課の主な取り組みを伺いました。恩賀課長は、「安全・安心で持続可能な地域社会と信頼できる情報通信環境を実現し、世界をリード」という総務省の重点施策2025にもとづき、データセンターや海底ケーブルなどのデジタルインフラの整備、固定ブロードバンドの品質測定、インターネットトラヒック流通効率化をはじめとする取り組みを進めていくと述べました。
安全・安心で持続可能な地域社会と信頼できる情報通信環境
–総務省の情報通信政策の方向性とデータ通信課の今年度の主な取り組みについて教えてください。
恩賀 総務省の情報通信政策の方向性ということでは、今年8月に令和7年度予算要求も含めた「総務省重点施策2025」を公表しています。副題は「安全・安心で持続可能な地域社会と信頼できる情報通信環境を実現し、世界をリード」です。
具体的には、まず、「能登半島地震の教訓を踏まえた国民・住民の安全・安心の確保」という点で、「通信・放送インフラの強靭化」があります。
続いて、「地域経済の好循環と持続可能な地域社会を実現するための地方行財政基盤の確立と地域経済・社会の活性化」という点で、主に「地域DXの推進」があります。
さらに、「信頼できる情報通信環境の整備」ということでは、インターネット上の偽・誤情報等への総合的対策の推進など「デジタル空間における情報流通の健全性の確保」などが重要になります。あとは「デジタル・ディバイド対策」ということで「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」ということ、さらに「サイバーセキュリティ対策の強力な推進」などに取り組んでいきます。
そして、「国際競争力の強化と国際連携の深化」という点で、「新技術開発・国際的なルール作り・海外展開の一体的推進」を進め、AI、Beyond 5G、宇宙通信などに取り組んでいきます。
–これらが主な取り組みになるわけですね。そのなかで、データ通信課の今年の主要な取り組みについてお願いします。
恩賀 大きく3つあります。1つ目は、今、申し上げた総務省の情報通信政策の方向性とのなかで通信インフラの強靭化、及び国際競争力強化等の関係で経済安全保障の確保という観点で、データセンターや海底ケーブルなどのデジタルインフラの整備を推進していくということが主要な課題になっています。
2つ目は、ネットワーク中立性等に関係するのですが、これまでモバイル・携帯電話の実効速度について、携帯電話事業者の自主的な取り組みで実効速度を測っていただいて、消費者・ユーザーに情報提供する取り組みをしていただいてきていますが、新しく固定ブロードバンドについても同様の実効速度の測定、ユーザー等への公表の取り組みについて、今年の夏に、総務省でガイドラインを作りました。そして、それを事業者団体で自主的に取り組んでいただくという動きが今、出てきていますので、これについて、事業者団体や事業者と連携してサポートしていくということがあります。
3つ目は、「ICANN」というインターネット資源のIPアドレス、ドメイン名、AS番号等の国際的な管理・調整をしている非営利組織があるのですが、そこに政府、企業、市民団体、技術コミュニティなど、いろいろな方々が対等な立場で参加して、インターネットのガバナンスをマルチステークホルダーで議論しているのですが、私どもも引き続き参加して、自律・分散・協調というインターネットが日本、世界に裨益するよう対応していきたいと思います。なお、年次総会が11月にトルコのイスタンブール、その次が来年3月にシアトルということで、日本の産学民等の関係者とも連携して、日本の立場をPRしつつ、国際連携をしっかりと進めていきたいと思います。
データセンターや海底ケーブルなどのデジタルインフラの整備
–ネットワーク強靭化のところとデータセンター、その辺のところをもう少し詳しく、教えてください。
恩賀 データセンターなどデジタルインフラの整備ですが、経産省と連携して「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」を、2021年10月に設置し、これまで中間とりまとめとして、3回ご提言頂いています。
1回目が2022年1月、「デジタルインフラ整備に当たっての官民等の役割」と、「デジタルインフラの分散立地を進める際に重視される事項」を整理頂きました。具体的には、前者について、1つ目は、「基本的に事業者のビジネスとして運営されるべき施設であり、設置主体は民間事業者」、2つ目は、「民間の経営判断として、採算の見通しが立ちづらい部分について、政府として、財政的な支援を行うとともに、制度的な不備について不断の見直し」を行うということ、後者については、1つ目は「災害等へのレジリエンス強化」、2つ目は、最近AI等で大量の電力消費の問題がクローズアップされていますが、「再生可能エネルギーの効率的活用」、3つ目は「データの地産地消を可能とする通信ネットワーク等の効率化」です。
なお、IX(Internet Exchange)、データセンターや国際海底ケーブルについて、関東、特に東京に、さらには、関西、特に大阪に集中している現状がありますので、これらのデータセンター等のデジタルインフラの整備にあたっては、東京圏や大阪圏以外への分散立地を進めていくことが重要だという大きな方向性を出していただいています。
–当然かもしれませんが、的を射た提言ですね。
恩賀 そうですね。2回目は、昨年5月に「中間とりまとめ2.0」を公表しています。
最初の中間とりまとめに加えて特に分散立地をする際に、「東京・大阪圏を補完・代替する中核拠点として、北海道・九州におけるDC整備の促進」ということを提言いただいています。
また、国際情勢の変化等を踏まえ、国際的なデータ流通のハブ機能強化等の観点から、データセンターの地域分散と連動して、「国際海底ケーブルの多ルート化の促進」が打ち出されています。インターネット上でのやり取りにあたっては、海外事業者が海外から提供するサービスを使われる機会も多いと思うのですが、これらを支える国際通信はほぼ全て、約99%は国際海底ケーブルを通っています。その国際海底ケーブルの陸揚局について、日本においては、関東圏、具体的には房総半島や北茨城に集中しています。
–揚陸ケーブルですね。
恩賀 そうです。陸揚げは、あとは、関西圏のうち特に三重県の志摩半島となります。この2カ所に集中しているので、先ほどの「災害等へのレジリエンス強化」の観点からは分散しないといけないということを「とりまとめ2.0」では提言されています。
あとは、「5Gの進展や脱炭素電源等、地域ごとの状況に応じた分散型DCの整備の促進」ということで、より地域に分散させていくことが重要だという点となります。
そして、今年10月4日に「中間とりまとめ3.0」のとりまとめを頂きました。ここでの主なポイントは、最近の生成AIの急速な普及等に対応して、どうしていくかということが1つです。
–AIへの対応は大問題ですね。
恩賀 そうです。AIの導入・進展によって電力確保が必要になります。電力インフラは整備に時間がかかります。日本政府全体がGX(グリーントランスフォーメーション)で2050年に向けカーボンニュートラル/脱炭素化へ、いろいろな電源の組み合わせを検討しています。目下、生成AIが急速に普及してきて、海外の投資家からも、日本はデータセンター等の立地においては、アジア太平洋の中で有望だということで注目されています。日本の競争相手としては、オーストラリア、東南アジアだとマレーシア、シンガポールとか、中国、香港だったのですが、地政学的なリスクも顕在化しつつあり、データセンターや国際海底ケーブルの陸揚げを日本に持ってくるということを、いろいろな方々から注目、期待を浴びています。
–日本の国内需要だけではなくて、国際的に見ても必要とされているのですね。
恩賀 こういうチャンスをどのようにしてしっかりとつかまえるか、ということもテーマです。他方で電力供給の制約があります。
–極めて戦略的な課題ですね。
恩賀 おっしゃる通り、ここを戦略的にどうやって進めていくかということを、ご提言いただいています。
もう1つ新しい動きとしては、これは総務省の国際戦略局で進めていますが、オール光ネットワーク(APN)について10月22日にAPNを複数プロバイダで協調しE2Eで品質確保できるネットワークへ進化させる研究開発について、NTTやKDDIなどが総務省/NICTの「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」社会実装・海外展開志向型戦略的プログラム(共通基盤技術確立型)に採択されたと発表されました。
オール光ネットワークは、今、専用線のサービスは提供されているのですが、データセンター間をつなぐことやより広い方々が低遅延、高速で省エネを享受できるのは、おそらく2030年ごろ以降だということが、総務省の審議会等でご議論いただいています。その動きとも合わせるということで、データセンターはニーズに近いところに遅延の関係で設置されるのですが、オール光ネットワークを使えば遅延の影響を低減し、設置場所を広げるということも見えてきます。設置場所が広がることとで、再エネの有効活用等により脱炭素にも貢献できますので、APNと連動したデジタルインフラの整備も重要という提言をいただいたということです。
–次々、新しい課題が出てきます。
恩賀 総務省としては、具体的に提言いただいたものを進めるために令和3年度の補正予算で「デジタルインフラ整備基金」という、単年度ではない基金の形で500億円を造成しました。また、令和5年度の補正予算で100億円の積み増しの了承をいただきました。このため、基金に600億円あるのですが、このうちデータセンター事業分は7カ所を昨年6月に交付決定をしています。今、各プロジェクトが進んでいる状況です。この中には北海道石狩で再エネを活用するデータセンター、QTnetによる福岡のデータセンター、あとは福島、京都、大阪、奈良、島根の7カ所にすでに交付決定しています。このため、今回の総合経済対策の令和6年度補正予算で、先ほど申し上げた「中間とりまとめ3.0」を踏まえてデータセンターの地域分散関係の予算の要求にチャレンジしているところです。
–AIが世界的に盛り上がっていますから、日本が遅れてはいけないですから、それは重要ですね。
恩賀 あと、基金事業のうち国際海底ケーブル関係はまだ未執行です。国際海底ケーブルを日本に引っ張ってくる分岐の支線、分岐する装置、日本に陸揚げする陸揚局が基金の対象になっています。早ければ年内には公募を始めたいと思っています。
–どこに揚げるとかは決まっていますか。
恩賀 これは公募なので、公募で出てきたものについて、審査させていただきます。
–戦略的な取り組みがいっぱいありますね。
恩賀 大型で、かついろいろな観点で検討する変数が多くあります。最近だと電力やAIなど、あとオール光ネットワークの社会実装をどう進めるかという観点があります。国際海底ケーブルは、最近、特に太平洋地域について、欧米やオーストラリアなどと連携して、より信頼できる海底ケーブルを敷設しようという国際戦略的な話もあり重視しています。
–GXの課題もありますからね。
恩賀 GXは経産省やエネ庁と連携して進めています。特に、データセンターについては経産省の商務情報政策局と連携してきています。新しくGXの要素をしっかりとより考えなければいけないため経産省のGXチームともコミュニケーションを始めています。今年中に「GXビジョン2040」が策定される予定です。
–2040年ですか?
恩賀 2040年に向けたGXの戦略を日本政府として打ち出す予定です。「GX実行会議」という場があるのですが、今年8月の会議資料の中で、データセンターと電力インフラ、特に電力系統の整備とデータセンターの通信基盤の整備について、日本全体を俯瞰して一体的に整備することを、今後官民で検討を進めるということが打ち出されています。総務省としては先ほどの有識者会合の「中間とりまとめ3.0」も踏まえて、経産省等と連携して、しっかりと対応していくということが、デジタルインフラの課題の中で大きなところになっています。
固定ブロードバンドのデータ速度の実測と公表
–もう1つは、先ほど取り組みでおっしゃっていたインターネット絡みのところと、固定ブロードバンドのデータ速度の実測と公表、ここのところはどんな状況でしょうか。
恩賀 きっかけはコロナ禍で、2020年ぐらいに議論を始めました。ネットワーク中立性に関するワーキンググループのもとに固定ブロードバンドの品質測定手法の確立に関するサブワーキンググループを設置し議論を始めてきました。固定ブロードバンドの品質測定手法について、今年9月に報告書とガイドラインを公表しました。
–報告が出たばかりですね。
恩賀 はい、今年9月に公表された報告書とガイドラインを踏まえて事業者団体である「電気通信サービス向上推進協議会」(以下「サ向協」。通信関係の電気通信事業者協会(TCA)、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)、日本ケーブルテレビ連盟、テレコムサービス協会の4団体による任意団体)において、事業者団体として、より具体的なものを今、進めようとされています。
–「協議会」はできているわけですね。
恩賀 サ向協の中で体制づくりが始められています。主要な事業者も任意でこの取り組みに参加しようとされているので、各事業者が実際に測定して、ガイドラインに書いてあるのですが、測定結果を例えば各社のホームページで公表することが期待されています。これは、事業者の任意の取り組みなので、まずはサ向協を中心として事業者の中で具体的なところを今、検討されようとしている状況になります。
–「測定基準」は決まったのですか。
恩賀 ガイドラインの中でこういう測定端末を使うとか非常に専門的で細かい規定を定めています。モバイルと違って固定の場合は、宅内の配線とか、マンションにおいて共同で管理している施設がある場合とか、必ずしも通信事業者側の責任の範囲ではないところで原因があることも多いので、そのあたりを消費者に情報を共有して適切な対応を取っていただけるようにしようとしています。
例えば、光ファイバを契約されたお客様から「全然当初言われていた速度が出てないんだけど」と苦情が来ると、通信事業者は「元々ベストエフォートサービスですから」ということで、やり取りが終わってしまっていたので、「弊社としては実効速度を測定してこうなります。」やそれとあまりにも乖離しているということであれば、「もしかしたらお住まいのマンションの施設の影響が考えられます。」とか、今まで以上に丁寧に対応していただけるようになることが今後は期待されるということです。
この測定ガイドラインに加えて、総務省では消費者保護ルールのガイドラインもあり、これまでは「ベストエフォートだから」というふうに消費者対応されていたものについて、より丁寧な苦情対応を求める方向でこのガイドラインを見直すことを検討しており、ちょうどパブコメがこの前、終わったところです。
–消費者対応の統一化というか、基準化ということですか。
恩賀 消費者対応する際には、こういう対応が望ましいとか望ましくないということを示したガイドラインです。
–それが動きだして、2025年からは基準のもとに公表が進むだろうというふうな状況ですか。
恩賀 そうですね。早ければですが、2025年度中にも具体的な取組が始まることが期待されます。
インターネットトラヒックの流通効率化
–コロナ禍でデータのトラヒック、いろいろな変化があったと思いますが、その後、5類以降、トラヒックの変化や懸案など、そういうものは今、何かありますか。
恩賀 トラヒックは、コロナ禍、特にコロナ発生後、急増しました。総務省において、トラヒック勉強会というものを20年ぐらいやってきていて、これも事業者の皆様の任意の取り組みで情報共有いただいて、トラヒックの傾向を追っているのですが、これは世界的にもあまりない取組で、日本の官民のいろいろな方々がうまく連携してトラヒック状況を見せていただいています。最近だと今年の5月時点のものがありまして、これは前年の5月、同月比で18%増ということなので、安定しているかなという評価をいただいています。
–前年比18%増ですか。大分、落ち着いてきているということですか。
恩賀 そうですね。トラヒックの集計をする際に民間等のいろいろな有識者の方々が、いろいろとおっしゃっていた中では、コロナ禍でだいぶ通信事業者の皆様がネットワークを増強されたこともあって安定しているのではないかということと、中身を見ると1人当たりのダウンロードトラヒックが伸びているんです。これはなぜかということで1つおっしゃっていたことは、1人当たりが利用するコンテンツがリッチ化している。例えば動画とか高精細化のためダウンロードトラヒックの1人当たりが特に伸びていることがあります。いずれにせよ、ネットワークとしては安定している感じです。
–インターネットトラヒック流通効率化にも取り組んでいますね。
恩賀 そうです。トラヒック勉強会ということで、トラヒック推計を定期的にやっているものとは別に、コロナ禍に「インターネットトラヒック流通効率化協議会(CONECT)」が立ち上がっています。
コロナ禍のときは、諸外国では在宅で外に出られないので、インターネットでいろいろなサービスを使う、そうするとトラヒックが急増します。ヨーロッパでは動画配信事業者に「レートを落としてくれ」とか「画質を粗くしてくれ」とか、そういうことを半ば強制的にお願いするようなことが行われていました。トラヒックを抑えるために大きなトラヒックを流している事業者に「ちょっとそれを抑えてくれ」という要請等をしていました。日本はそういうやり方を取らずに、通信事業者とコンテンツ事業者が信頼関係の下で情報共有するCONECTにおいて対応されています。なお、総務省はオブザーバー的に参加しています。例えば、大きなイベントやゲームのアップデートのためにネットワークに悪影響や混雑を促してしまうことがあれば、うまく情報共有を図ることによって、ネットワーク事業者側が事前にネットワークの対策を取りやすくなります。このような情報共有の場があるので、ネットワークが安定することに寄与していると思います。
Wi-Bizの新たな役割と期待
–Wi-Biz(無線LANビジネス推進連絡会)に対して、期待をお願いいたします。
恩賀 コロナ禍が明けてインバウンドがかなり復活してきています。まさしく地域活性化という意味では、観光は日本の成長にも資するところなので、Wi-Fiの強化については、我々も応援していきます。特に定住者も含めた形で在留とか訪日外国人の方については効果が大きいと思います。
また、00000JAPANの災害対応への取り組み、あとは通信障害時も00000JAPAN発動の対象に含められているということで、非常に重要な取り組みをされていると思います。
あと無線LANは上空利用もそろそろ決まっていくので役割は大きいと思います。
北條 ドローンのお話もありますし、6GHz帯の新しい周波数の割り当てを今、検討していただいています。一気にトラヒックが増える可能性があるので、電波部でもいろいろ検討がはじまっています。
恩賀 トラヒック関係で何かあれば先ほどのCONECTとの連携も考えられるかもしれません。Wi-Bizは素晴らしい取り組みをされていると思いますので、総務省としても応援させていただきたいと思っています。日ごろのお取り組みに感謝申し上げるとともに引き続いての取り組みに期待をしています。
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら