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新年特別座談会
2025年のWi-Fiビジネスはどうなる?
市場の展開と技術・サービス動向を大胆予測!
出席
NTTブロードバンドプラットフォーム株式会社 山崎 顕 氏
株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス 佐藤 圭 氏
日本ヒューレット・パッカード合同会社 下野 慶太 氏
株式会社フルノシステムズ 森田 基康 氏
2025年を迎え、Wi-Fi市場はどう展開するのか、技術とサービスはどのように進むのか、またWi-Bizの課題は何か—-各分野の方々にお集まりいただき新年特別座談会を行いました。
経済社会動向、DX、AI、IoT、NEXT GIGA、Open Roaming、Wi-Fi6/7、11ah、ドローン、万博など幅広く、大胆にWi-Fi業界のビジネス展望が論議されました。
左奥から時計回りに山崎氏、下野氏、佐藤氏、森田氏
山崎 先日トランプ大統領が就任し、政治経済が激動する可能性もありますが、まず我々の足元の無線ビジネスの話をさせていただきます。去年1年間はコロナ禍が本当に終わったという実感を得た年かと思います。対面で行うものが復活し、旅行や観光など、「リアルな場所」が戻ってきたなという印象を持っています。他方で、そのリアルな場所を支える人手不足などの問題が、よりクローズアップされた年かと思っています。
2025年は、そのリアルな環境をいかにもっと快適なものにするか、その中には人手不足も含めた働く環境をどうDXするかといった課題感がより高まっているという印象を持っているので、今年はさらに無線の活躍場所が増えるのではないかと感じています。
佐藤 私も同じことを実感として持っています。当社のネットワークを通るトラフィックをずっと観測していますが、コロナ禍でガクンと落ちた後、今はコロナ禍前を超えたトラフィックがネットワークを流れています。コロナ禍前に戻ったというよりは、すでに超えてしまい、なおかつ上がり続けている状況です。
Wi-Fiはかつての街中のどこに行っても見かけるという状況からだいぶ絞られてきて、Wi-Fiのアクセスポイント自体の数は減っているのですが、残っているエリアでのトラフィックは増えて続けています。
もう1つトラフィックを見ていると面白いことがありまして、上り通信・下り通信それぞれを見ると、上りが凄く増えています。リモートワークのような双方向での動画通信やインスタグラムの画像のアップなど、Wi-Fiの使われ方も変わってきていると思います。
使い方の変化によって求められるニーズも変わってきているんだろうなということで、事業者の立場としては、それに応えるようなネットワークの作り方やサービスを考えていかなければいけないと思っています。
下野 当社の話で恐縮ですが、HPE全体で見るとAIの伸びが非常に大きくて、ビジネスでもAIが非常にリードしている状況です。そこで無線がどう関係してくるのかというと、アップロードが凄く伸びているということで、ローカルのエッジ側でエッジコンピューティングが非常に重要になってきている、コンピューティングリソースがシフトしているということだと思います。
PCやスマホなどインスタもそうですけれども、動画の処理とかもAIの技術を使っていて、その結果をアップロードするということがあるので、コンピューティングが本当にいろいろなところにあり、それをつなぐネットワークは非常に重要なのかなと思います。
そういった背景もあってHPEとしてはネットワークに投資をしています。そこは単純にデータセンターの中のネットワークだけではなくて、もはや有線でつながる端末はほとんど無いぐらいになってきているのでWi-Fiという最初のワンステップのネットワークはこれまで以上に極めて比重が高くなってくると考えています。
もう1つ、今年の明るい話でいうと、大阪万博だと思います。東京はあまり盛り上がっていないという話も聞いていますが、万博は日本全体のイベントでもあり、そこでWi-Fiのテクノロジーに関連する、IoTとかICTのいろいろなテクノロジーがまた出てくると思います。そこからまた何か新しいビジネス、生活スタイルが変わるようなものが生まれてくる1年になることを個人的には期待したいと思っています。
さらにもう1つ明るい話で、アメリカだとスポーツ・エンターテインメントの世界でのスタジアムのWi-Fiは非常に大きなビジネスになって、HPEや他ベンダーも大きなビジネスをしています。日本でも5~6年ぐらい前から「そこのビジネスをやっていこう」ということが社内でもあったのですが、日本人がスポーツ・エンターテインメントに払うお金とアメリカ人が払うお金は全く違うので、なかなか盛り上がりに欠けていた部分がありました。
最近、大谷翔平選手をはじめ日本人が凄く世界で活躍していますし、東京五輪もあった後なので、あらためてスポーツ・エンターテインメントに取り組んでいく必要があると思います。そういったエンターテインメント、そこの最後のエッジの部分のネットワークはWi-Fiになっていく。そういったところのビジネスがどんどん伸びていって、当たり前のようにWi-Fiを使っていくという世界が増えてくるのではないかなという期待もしています。
「地方創生2.0」への期待
森田 今年は石破内閣が打ち出している政策「地方創生2.0」で、5つぐらいの取り組みを進めていくようです。今後、地方自治体や地方企業の起爆剤になるような目玉政策を進めてくれれば、地域は活性化し元気になるのではないかと思っています。財政指数が高い都市部の自治体は、自主財源等の体力もあり自治体職員もいるので、Wi-FiにしてもIoTにしてもいろいろな整備を進めやすいです。
ただ、地方自治体で田舎へ行けば行くほど、職員も少ないですし財政指数も低い。地方交付税という形で国から歳入されますが、潤沢に使えるお金が少ない。
内閣府がやっている「デジタル田園都市国家構想」、それから総務省で進めている「地域デジタル基盤活用推進事業」、こういったものをもう少し使いやすい環境にしてくれると、地方自治体・企業におけるWi-Fiのビジネス、それから11ahのIoT実証とか社会実装が加速するではないかとは考えています。石破内閣がしっかりした施策をブレークダウンして、各省庁がそれに応じた形で予算化、目玉施策を作って、しっかり展開していくことに期待したいと思っています。
内閣府「デジタル田園都市国家構想交付金」より
–年々人口はどんどん減っていて、「消滅可能性都市」が毎年更新される状況がずっと続いていて、この間の地方創生の施策は効果があったんだろうかという問題が問い掛けられています。石破内閣が「地方創生」を大きなテーマとして改めて打ち出したので、本当に正念場ですね。2025年のキーワードの一つですね。
森田 内閣官房の「デジ田」の事務局に聞くと、「去年の倍ぐらい予算は付ける、2000億円ぐらい付ける」と言っています。ただ、去年と同じことではつまらないし、結果的に目玉になるような大胆な施策を期待したいです。例えば都市部の自治体だったらこういう目玉があります、過疎地に近いところだったらこうしたいとか、財政指数が低い自治体にはそれを補う目玉施策をやっていくべきだと思っています。
交付事業は全額が出るものと3分の1や2分の1など、事業内容に応じて内閣府の事業はかなり細かく分かれています。例えば以前、総務省が実施した公衆無線LAN環境整備支援事業は財政指数が一定以上の場合は2分の1になるけれども、その基準を満たさない自治体の場合は4分の3補助を付けますとか、地方自治体が事業を予算化しやすい思い切った施策をしてくれると、地方自治体や地方産業の活性化につながってくるのではないかと考えています。
Wi-Fiの新たな活用の提案
–Wi-Fiの技術そのものがWi-Fi 6/6Eさらに7へと大きく飛躍していますし、OpenRoamingも出てきて、5G/ローカル5Gが登場するなかで、Wi-Fiビジネスが歴史のなかで大きな転換期に入っていることは確かで、市場とかユーザニーズの変化にどう踏み込んでいくかということが問われていますね。
佐藤 それは全くその通りですね。公衆Wi-FiでいうとフリーWi-Fiのエリアが急速に広がっていたWi-Fi4の頃から今は2世代変わってWi-Fi6/6Eが中心になっており、まさに、かなりのボリュームゾーンが、更改のタイミングを迎えています。これが、多くの自治体などで、既存のWi-Fiをどうしようかと考えるきっかけにもなっているのではないかと思っています。
そのような中で、最新のトレンドとか、森田さんがおっしゃっていただいた政府の支援や活用事例のような情報が、特に地方では充分に行き渡っていないように思います。逆に、そうした情報を浸透させることによって、全体に大きな波及効果を生むチャンスがあるのではないかなと思っています。
地方が抱えている課題は、昨日今日に始まったことというよりはずっと続いているものが多いので、今年が通信インフラを見直すきっかけになるのだとしたら、我々事業者はその課題に切り込む機会ととらえて積極的に提案すべき年ではないかと思います。
山崎 少子高齢化やDXの観点、地方創生の観点のいずれにおいても、例えばロボットやドローンをどう無線でコントロールするかという新しいミッションが加わっていると感じています。そのような提案しなければ、お客様に無線の価値を伝えられないし、お客様ご自身もロボットやドローンを安心して導入できないということが実際に起きている実感を持っています。
Wi-Fiの世代が4・5・6と上がってきているなかでかつてのダウンロードだけでフリーWi-Fiが普及した頃とは全く違うニーズが出てきています。さきほどアップリンクの話もあったとおり、このようなニーズを満たすためには高密度な環境や高品質な無線環境を実現することが必要です。そこで確かな無線の技術力を提供していく必要が出てきているので、技術の進化とともに新しい市場をつくるといった意味で、無線にとって明るい2025年になっていくのではないかなと思っています。
NTTBP 山崎氏
下野 公衆無線LANのWi-Fiの部分と、企業ネットワークのWi-Fiの部分があると思います。企業はIT機器は5年周期でリプレースすることがほとんどなので、そのタイミングで新しいものを提案していくことになります。その時にコスト低減は避けられないので、運用の部分でいかにコストを下げていくかに注目しています。HPEだけでなくCisco、Juniper MistやExtremeなど、アメリカのベンダーはクラウド管理型がとても増えてきていて、クラウド管理にすることで運用コストを下げていくことができます。
それから、大手キャリアが一括で管理して地方自治体にSaaSのような形でネットワークを「NaaS(Network as a Service)」として使いたいときにだけ使っていただきたいと思っています。サーバの仮想化のようには、ネットワークのアクセスポイントを仮想化して簡単に送れないので、設置コストとかいろいろと課題はありますが、サブスクリプションのような形で使いたいときに支払って使えるようなモデルが今後は増えていきます。大きなコストを掛けなくても、小さなコストから始めるというところが、地方のユーザでも利用できるようになっていくのではないかなと思っています。
Wi-Fiは7が出てきたことはありますが、やはり一番は6E・7の6GHz帯という新しい世界、そこが今から伸び始めていくところだと思っています。今まで一般道を走っていた車が急に高速道路を自由に走られるようなイメージなので、それこそ新しい使い方がどんどん出てくると思います。
ドローンでの活用もそうですが、IoTも万博を機に何か新しいものが出てきて、例えば医療や見守りなどで、家の中にあるいろいろな機器でセンサーが状態をキャッチして健康管理をしていくとか、そういったところでもWi-Fiは活躍できます。そういう新しいサービス、何か起爆剤が出てくれば一気に伸びる、そんな土台は整っていると思っています。
例えば、ゲーミング業界。今まで、少しの遅延も許せないので、有線でないと絶対にだめだったんです。それが去年、大きなイベントをWi-Fiで行ったり、Wi-Fi 7の320MHzという大きな帯域をポンと使うことで無線でできることが増えてきたということがあります。320MHzは電波の取り合いになるので、どこもかしこも使えるわけではないのですが、大きな起爆剤の1つが出てきていると思っています。
NEXT GIGAと自治体への提案
–GIGAスクール構想は大きなインパクトを与えましたが、今年からNEXT GIGAが始まるようです。
森田 私はNEXT GIGAのWi-Fiビジネスはもう少し先だと思っています。今は基本的にタブレットのリプレースで、ネットワークの更新はまだなのです。GIGAスクールのときに整備したネットワークが今、学校で稼働しています。ただ、タブレット端末を活用した授業を実現しているのはそんなに多くはなく、ほとんどの学校は週に1度利用している程度で、十分な利用状況ではないと感じます。タブレット端末は1台5.5万円の補助で4年から5年ごとにリプレースされていくので、今年はその予算の話です。ネットワークの方は、財務省の規程でネットワーク機器は最低9年使いなさいというものがあるので、目安は2029年がターゲットなるはずです。
文科省の過去の施策から見ると1回補助を付けたものにまた付けるということを当面しないことから、タブレット端末の補助はやりますが、ネットワークはやらないと思います。そうなると、地方自治体の教育委員会の情報部門の担当者が考えるのは、「9年たって一気に入れ替える財政能力がないよね。じゃあ、少し早めに3年ぐらい前から検討を始めて、経年で整備していこう」という動きになり、たぶん8割ぐらいの自治体はそうなると見ています。
文科省「GIGAスクール構想の実現へ」より
9年後にドンと入れ替える体力があるところは入れ替えますけど、ほとんどの自治体が3年から4年の計画で整備を進める流れになるので、どちらかというとNEXT GIGAに関してWi-Fiは、2026年、2027年ぐらいから具体的な話が出てくると踏んでいます。そのタイミングでいうと、間違いなくWi-Fi 7になってきますし、それに対応したスイッチにある程度入れ替えていくことになります。
タブレット端末の稼働率を上げることが文科省の方針として出ているので、インターネット側のトラフィックが膨大に上がってくるので、それに対応できる回線とかルータの整備、それからセキュリティ環境が必要になってくるというのが私の見立てです。ただ、そういうノウハウは教育委員会や自治体の情報部門の方々には少ないので、メーカーや地域のインテグレーターが、しっかり提案をしてサポートしていくことが重要だと思っています。
下野 我々も去年ぐらいから早めにそこの取り組みを始めています。ただ、予算が付いてのGIGAスクールなので、そのネットワーク部分は少し待ち状態かなと見ています。ここでも、Wi-Fiに限らずアップリンクのスイッチは非常に重要視されています。
OpenRoamingとWi-Fiビジネス
–OpenRoamingの状況はどうですか?
佐藤 OpenRoamingは公共の分野において、大きく広がるのではないかと思っています。日本国内で先陣を切った東京都から始まり、大阪でも万博を見据えるということで、昨秋からOpenRoamingに対応したWi-Fiエリアの整備が始まっています。
OpenRoamingの価値として、セキュリティの強化とワールドワイドな認証連携の2点がありますが、認証連携は、使える面が広がって実際のメリットを享受できるものです。特に関西では、京都、大阪、神戸の3大都市で導入が始まっており、点だったものが線になりつつあります。こうした流れでは、一定の閾値を超えると、入っていないことの不便さのほうが際立ってくるという状況になってくるかと。来年度から再来年度ぐらいから、特にパブリック(公共)の分野においては、普及の加速が期待できるのではないかなと思っています。
— OpenRoaming はWi-Fi6でないとだめでしたか。
佐藤 技術的には別の規格ですので、直接的には関係ありません。しかし、結果的に同時になることが多いです。OpenRoamingを導入するためだけにネットワークを入れ替えるとなるとハードルが高いので、設備更改のタイミングで導入されることが多く、その際はWi-Fi6になります。通信品質も上がって、なおかつ認証連携とセキュリティも強化される。このトータルの価値でもってOpenRoamingを導入されるという形です。
下野 自治体はOpenRoaming導入の費用負担はどうされているのですか。
佐藤 公共施設では自治体で予算化されています。行政分野においてもデジタル化やDXが進んでいく中で、「誰でも使える通信インフラ」を行政として確保することの重要性は高まっています。であれば更改のタイミングにおいて、より安全でより便利なものを導入するというのは自然な流れかなと思います。
–確かに、自治体は行政サービスの観点からもWi-Fiは不可欠ですし、その手段としての通信サービスの提供も避けては通れない課題ですね。Wi-Bizのメルマガでも紹介されていますが、ニューヨーク市では住民への最低限の通信手段の提供は義務ということで、「Wi-Fiキオスク」として、住民への無料スポットのスタンドが市内に設置されていました。
佐藤 また、行政が予算化するにあたっては、社会課題に対して、「こういう形のソリューションをインフラと合わせて導入します」という形になってきています。通信インフラは、社会課題を解決するような新しいサービスを入れる土台になっているわけです。ですので、拡張性やしっかりしたものを導入することが必要です。
Wi2 佐藤氏
ローカル5Gとの連携と協調
–Wi-Fiビジネスの展開を考える時、5G、ローカル5Gなど他のワイヤレスとの関係がいよいよ重要になってきています。
山崎 Wi-Fiビジネスをどのように展開するかということですが、お客様がWi-Fiを使いたいということは、工場の課題を解決したいとか、地方の課題を解決したい、災害対策をしたいということで、そのために情報をやり取りしたい、IoTを動かしたい、AIをエッジで動かしたいということですよね。そのときに、Wi-Fiは非常にいい技術なので、ビジネスモデルをうまく作れば明るい未来が待っていると思うんですけれども、一方で周波数の特性がありますから「これはローカル5Gがいい」とか、「これは11ahのほうがいい」だとか、課題に向き合うほど、いろいろな無線を選び使うべきだという議論が出てきます。最先端のユースケース、ソリューションほどワイヤレスの適性の選択が必要になってくるのです。そこで、我々も顧客課題に対してWi-Fiありきではなく、Wi-Fiの6E・7に加えて11ahやローカル5G、はたまたキャリアがやっているLTEと5Gとの補完関係を提案できるかが求められていると感じています。そういったところが今年は進み、Wi-Fi、5G、ローカル5G、11ahとの役割分担がくっきり見えてくる年なのではないかと思っています。
ワイヤレスシステムは無線だけの進化ではなくて端末の進化がないとビジネスは成立しません。ローカル5Gはだいぶ、端末のバリエーションが増えてきていますから、6Eも7も端末がどんどん増えてこないと普及しないわけです。キャリアの5G構築もほぼ進んできたなかで「ここは5Gでできる。ここは5Gになった結果つながりにくいから、決済端末用にWi-Fiを置いたほうがいいんじゃないかな」とか、そういった事例も最近は出始めてきているので、どこでWi-Fiがより生きるかとか、新しい活躍場所がくっきりしてくる、そういう1年になるのではないかなと期待をしています。
11ahの離陸と飛躍の年
–Wi-Fiファミリーとしての11ahについて今年はどうですか。
森田 11ahは実用化が始まったばかりで、こういう時の政府の動きは重要だと思っています。総務省の「地域デジタル活用推進基盤事業」の実証事業で2023年は15企業のうち7つほど11ahが採択されています。2024年度も一次公募は19のうち7つ、二次公募は10のうち3つが11ahということで、比較的に11ahが多いですね。総務省の補助金施策の資料でも最初はLPWAと言う表現でしたが、2023年度から明確に11ahと明示されています。
2025年度は実証事業の中身が少し変わります。「上りのトラフィックが増えてきています、AIを使ったエッジ処理が重要になってきています」という話がありましたが、AIを用いた通信負荷の低減、通信量の確保に向けた実証事業が追加になっています。もう1つは自動運転、ここでの通信インフラの利用ということでローカル5Gとキャリア5Gというキーワードが入っています。
11ahだけを実証で使うだけではなくて、そこで得られたデータをシステムとして実証していく。半年くらい検証する中でデータが取れるようになるともっとデータを細分化したいという動きになり、11ahにおいてもトラフィックが上がってきてAIを使って分析するような事例がエントリーされてくると、今まではトラフィックの管理は対象外でしたが、2025年の事業はそれらも含め実証ができるようになったのです。
–「11ahはWi-Fiと違って遠くに飛ぶからいいよね」というものから、AI絡み、IoT・データ分析絡みで、11ahの実用が注目されているということですね。
森田 トラフィックがどう変わっていくのかという、1つの例になりますけど、平時に自治体で河川の監視や鳥獣害の監視など、地域の安心・安全で監視カメラやセンサーを使っているところがたくさんあります。
実際に台風が上陸する予報が出て、避難所開放の判断をするときは、それなりの映像による確認が必要になります。センサーも通常時は10分に一度、30分に一度でいいけど台風が来る予報がでたら、かなり短い間隔で送らなければいけないという状況になってきます。平時と有事になる前と有事になったときのトラフィックやデータ値がどう変わっていくのか、それをAIで分析するのです。ある程度データが蓄積されてくると、11ahは単なるインフラではなくAIで予測告知もできるシステムになれば、もっといろいろなことに活用できるようになります。
802.11ah推進協議会講演資料から
850MHz帯のMCA無線の跡地での11ahの利用も進んでいるところです。技術面での取りまとめが進んで、今は運用の話をしている状況です。デジ田を含めて政府が自治体と地方の企業に対してバックアップをしてくれるのであれば、さらに高機能な11ahの環境でさまざまな実装や実証事業が実現できると思います。地域におけるIoTとICTを使ったDX化がさらに進んでいくのではないかと考えています。
ワイヤレスとAIの活用
–豪雨でアンダーパスとか川の水位があがると、これまでは人間が見に行ったりしていたのを、AIをかませて事前に知る、予測して対応するというのは非常に効果的ですね。この11ah×AIのケースのみならず、IoTは今やAIによって劇的に効果が上がる段階ですね。
下野 我々は「Network for AI」と「AI for Network」という言葉を使っています。「AIのためのネットワーク」というとどちらかというとデータセンター向けのネットワークです。「ネットワークのためのAI」で考えると、ネットワークをどう運用していくか、そこにビッグデータを使ったAIの活用は道筋としてあるかと見ています。
今はWi-Fiが中心ですが、将来的にはその中に例えばローカル5Gが入ってきて、本当の意味で最適なワイヤレスとは何かという判断をAIの力も借りながら、ここだったらこのワイヤレスが最適というところで、Wi-Fi、11ah、ローカル5G、そういうものが選択できるようになっていけばいいと思っています。
–Wi-FiソリューションにもっともっとAIを使うということは当然、出てきますね。
下野 そこは少しずつ始まってきています。電波の調整のところでも、我々も最適な電波環境で出力やチャネルなどの計算は全て今、AIがやるようになってきています。あと使われている機器のファームウェアは何が最適かというのを、AIか判断することもあるでしょう。メーカーはいつも最新バージョンを提案しますが、本当に最新バージョンでいいのか、もしかしたら最新より1個手前のほうが安定していていいということもあるわけです。それこそ今、一番大きな課題となっているランサムウェア対策に脆弱性があった場合、明らかにこれは脆弱性があるからすぐバージョンアップしろというものも、単純に新しいものというだけではなくて、利用する設定とか環境に応じてAIが最適なものを提案することが、今、我々の中では始まってきています。時間帯を決めて深夜にアップデートするということにしていけば、安心・安全なネットワークインフラ、Wi-Fiも含めたネットワークインフラを提供することができるのではないか、そういったところもAIの活用はどんどん進んでいくのではないかと思っています。
–Wi-Fi業界も今のAIトレンドに遅れてはマイナスですから、AI×Wi-Fi、AI×11ahで、お客様をより便利にしていく必要があります。それが出来れば業界としては飛躍のチャンスです。
下野 運用者の方をAIで支援するというところが実は大きいと思います。Wi-Fiのアクセスポイントは数が増えていくので、そこの管理がとても大変になってきます。そこで安定したWi-Fiを提供する。トラブルを見つけるとか、解決するための設定をどうするとか、そういうところも全て今、AIで見つけて提案するところまでできるようになってきています。
森田 11ahもそれをしたいですね。Wi-Fiは距離が見える範囲なので、学校では教室単位で整備したり、廊下設置で2教室に1台ずつ整備しているので、アクセスポイントが見えるところにありますよね。病院に行っても、店舗などに行っても、上を見ていれば「ああ、Wi-Fiだな」と分かるはずです。
11ahは距離が飛ぶので、端末機器やデバイスが見えないところで利用します。もっと実証や経験値を積んで設置前や設置の電波状態のデータを作っていく必要性があるはずですよね。そういうデータを集めてAI化の環境を作ると、「この地域で設置場所の平面図はこうで、等高線がこうなれば、この辺に基地局を整備する」と分かるようになる。ある程度目安になるものをAIシステムが出してくれると、11ahのインテグレーターは導入のハードルが一気に下がります。また11ahは距離が離れているので、何か問題が出た場合は現地に行くことが凄く大変ですね。その課題をクラウド側で状況を判断して、「先ずはこういう設定を送って、様子を見てみよう」ということができるようになれば、管理運用面ではかなり有効になると思いました。利用するお客様、サービスを提供するインテグレータ側も含め、いろいろな意味で効率化が出来て楽になりますね。
下野 人材不足で、設計できる人材が今は非常に減っているとSIerの方からもお伺いするので、そこの部分はAIを使いながらというのが広まってくるのではないかと思います。
HPE 下野氏
佐藤 施設オーナーに向けても、サプライヤーの立場でAIを活用したサービスを提供することができると思います。まず、Wi-Fiのいいところとして、11ahもそうですが、IPベースのネットワークなので、いろいろな機械を組み合わせたソリューションが容易になります。カメラも然り、サイネージとかも。例えば、カメラで取り込んだ画像データにAIを組み合わせて、サイネージに状況に応じた案内を入れたりするとか。また、Wi-Fiをある程度の密度で整備すると、施設の中の人の流れが見えてくる。そこに、AIを間に入れることで、さまざまな案内を最適化するとか、有事の際の対応を考えるとか。AIを組み込んだソリューションには大変な可能性があると思うので、これから楽しみなところだと思っています。
森田 Wi-Fiでも11ahでも現場のサーベイや管理運用にAIを活用できれば、凄く使いやすい無線インフラになるのではないかなと思います。全国どこでも担い手不足という状況があります。自治体は特に人手不足で、地元の企業や通信キャリアに委託する形でやっているところが少なくないです。そういう部分を通信キャリアや地域のインテグレーターが、しっかりとAI含めた活用提案してくれると、Wi-Fi・11ahを含めて、地域での利活用用途が増えてくるのではないかと思います。
社会課題の解決とWi-Biz
山崎 我々は無線に関わる技術はトレンドを読みやすいはずなので、5年後10年後にどういうインフラ、どういうプラットフォームをつくっていくと国にとって一番安くて便利でフレキシブルなものができるのかを、メーカー・キャリアで横断的に見直したりすることは、有益なことではないかと思うのです。
我々はビジネスをつくるときに補助金とか政策を利用させていただいているので、公益性についても常々考えていく必要があると思うんです。我々は無線を通じてハード設備を構築しサービスをつくったりしているわけですけれども、これを通じて文化や社会を発展させるとか、国内産業への貢献だとか、AIをはじめとする国内技術者の育成や支援等、日本として正の循環を生み出すように、個社を超えた取り組みが必要なのではないかと思います。
–「企業は自分のビジネスを大きくし、顧客に価値を提供するだけじゃなくて、社会課題解決に貢献できない企業は生き残れない」ということをキャリアのトップが言っていました。企業はビジネスだけではなく、ビジネスを通して社会貢献、社会課題解決に貢献できることがないと存続できない、価値がないということではないかと思います。
山崎 当然、会社単位でもそういう観点を持って、もちろんやらせていただいているわけですけれども、1社だけではできないことがあるので、Wi-Bizという存在がこういう場だと思うので、そういうときには社の立場を離れて議論することが重要なのではないかと思います。
佐藤 そうですね。私はWi-Bizの中で00000JAPAN推進委員会に参加していますが、そうした協調領域や、今、お話が出たような社会課題解決とかでは、当然ながら1つの会社だけでは難しいと思いますので、Wi-Bizのような枠組みの中で取り組んでいくことがこれからも重要じゃないかなと思っています。また、先ほどお話しの出た自動運転やドローンなども、個社単位でばらばらにやるよりも、ある程度の枠組みを決めた上で競争していくことが、公益の面でも、ハッピーな方向にいくのではないかなと思うので、そういう視点は大事と思います。
下野 「00000JAPAN」は大きなプロジェクトとして、日本全体でメーカーの違いは関係なく取り組める1つなので、とてもいいものかなと思います。もう1つは、何年か前は「クラウドネイティブ」というキーワードがよく出ていましたが、今はそれが「AIネイティブ」になっていて、AIを初めから使えるような人たちがどんどん増えてきた。
ただ、それよりもっと前に「Wi-Fiネイティブ」が居るんじゃないか。そこで、Wi-Bizという会があるので、Wi-BizとしてWi-Fiの啓蒙活動というか、「安定したWi-Fiってこうなんだよ。こういうときにA社さんはトラブったけど、B社さんはトラブらなくて、何だったんだろう」ということを、Wi-Bizで議論できたらいいなと思います。日本のWi-Fi環境をもっと良くしていくんだという活動を、Wi-Bizのなかでどう取り組んでいくのか。難しいところではあると思うんですが、情報発信でもいいと思うので、そういう発信をどんどん増やして、Wi-Fiネイティブな日本全国の人たちに、もっとWi-Fiの本質を知ってもらえたら嬉しいなと思っています。
森田 今、Wi-BizとAHPCは親子関係の形で活動をしています。当然両方に属しているメンバーの方も少なくないと思っています。ただ、団体として密に連携をしているかというと、表立ってそういう動きはあまりされていない。先ほどもいいましたが、自治体の諸課題も11ahで全部解決できるかといったら、そうではないと思っています。Wi-Fiでやるべきところ、ローカル5Gを使うところ、スターリンクとWi-FiとHaLowを使いましょうとか、さまざまな使い方があると思います。自治体でさまざまなインフラを適材適所で活用していくというのであれば、もう少し情報共有をしたり意見交換の場をつくることも必要ですしそういう取組みをしていくと、新しいビジネスチャンスが生まれてくると思っています。
社内でもWi-Fiのチームと私がやっているIoTは違うんですね。Wi-Fiのチームは今、介護マーケットとか医療マーケットを進めていますが、その市場にも「11ahを持っていってくれよ」というところがあるので、両団体でそんな枠組みをつくって活動できるとお互いに刺激になるし、新しい発見につながるかなと考えています。
フルノシステムズ 森田氏
山崎 私からは2つあります。1つは、コロナ禍とかウクライナ紛争の間に無線を使ったロボティクスがもの凄い勢いで発達しています。米・中、欧州も含めて。そこで使われている電波は基本2.4GHz帯です。ということは、入っているチップはWi-Fiですよね。グローバルと日本とでは電波出力はじめ同じWi-Fiでも異なるところがありますが、ロボティクス向けの無線活用はかなり先にいっている印象があります。民間のロボティクス技術と、ウクライナ等で進化した軍事技術の両面で、グローバルの最先端のユースケースについて学ばなければと危機感を持っています。
2つ目は、なかなか表現が難しいんですけれども、新しい無線技術が次々に登場し、それらをお客様に使っていただいています、でも、それらの無線はスペックシート通りに性能が出ていますか。例えば速度が出なかったり、つながりづらいWi-Fi環境があるのではないか。無線がつながるのはどういうことか、こういった基準を、国が定めるという手もあるんでしょうけれども、民間側で基準を作ることができるかもしれません。我々が我々自身を律する業界としての「Wi-Fiがつながるってこういうことですよ」というところがキチンとできるといいなと思っています。
北條 本日は、大変ユニークな議論をしていただきまして、ありがとうございます。社会課題は解決すると市場が広がるので、仮にシェアが下がっても売上が上がってきます。そういった観点でWi-Bizは、市場が広がって、使い勝手も含めてより良いサービスが提供できるようになるということを推進したいと思いますので、どんどん提案していただければと思います。今年も、引き続きよろしくお願いします。
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