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インタビュー
日本電信電話株式会社 常務取締役 常務執行役員
研究開発マーケティング本部長 大西 佐知子 氏
大阪・関西万博で最新のIOWNを見せる
ワイヤレス分野でもAIの先端活用

いよいよ4月から始まる2025年日本国際博覧会(以下、「大阪・関西万博」)に注目が集まっています。当初から「大阪・関西万博」を積極的に推進してきたNTTグループの取り組みについて、常務取締役・常務執行役員・研究開発マーケティング本部長の大西 佐知子氏をお訪ねし、全体の概略をお聞きしました。また、「大阪・関西万博」にも出展される次世代情報通信基盤「IOWN」とNTT版大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi」についても取り組みの現状を伺いました。さらに、ワイヤレス分野の新しい取り組みを紹介していただきました。

※3/21にNTTより大阪・関西万博の最新の展示内容について報道発表が
ありましたのでぜひご覧ください。(こちら)

 

 

 

パビリオンのテーマは、「パラレルトラベル」

–「大阪・関西万博」に参加されますが、NTTグループはどういう取り組みですか。

大西 今回の「大阪・関西万博」のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。NTTグループとしても、その開催趣旨に非常に共鳴いたしまして、我々もそういう次世代を担う子どもたちが、いかに持続可能で笑顔溢れる豊かな世界にバトンタッチしていけるかということで、ここ数年、「大阪・関西万博」に向けて準備をしてまいりました。

 

 

前回の1970年の大阪万博では、「ワイヤレステレホン」を展示しています。当時のコミュニケーションは、電話機は全てコードでつながっていたわけですが、そのコードがなくなったワイヤレスホンを出しています。もちろん、携帯電話なんか形もなかった時代ですから、それだけで画期的だったのです。大変大きな反響をいただきました。
そこから55年を経て、さまざまな進化を遂げ、コミュニケーションの手段も内容もかなり変わってきています。そこで、NTTグループとしても、新しいコミュニケーションの進化をお届けしたいと思っています。

–どういうコンセプトになるのでしょうか。

大西 こういった進化の過程には、バックグラウンドとしてITテクノロジーがあります、そしてITテクノロジーで進化すればするほど、実は電力消費というのが比例して非常に大きくなります。AIもそうですけれども、進化して便利になればなるほど、環境への負荷が増加するという側面もあると思っています。そこで、今回我々としては、新たなコミュニケーションの進化により、人々の心豊かな社会へ貢献すると同時に、それをサスティナブルに低消費で実現する、消費電力を下げることと両立させることを御覧いただければと思っています。

 

今回のNTTパビリオンの体験テーマは、「パラレルトラベル」です。「IOWN」による空間伝送技術で、離れた場所と空間そのものを繋ぎます。時空を旅するパビリオンとして、距離を超えて場を共有し、互いに存在を感じあう。そんなコミュニケーションの未来を、展示体験としてお届けします。

 

 

こちらが上から見たNTTパビリオンの全景です。撮影した際はまだ建設途中ですが、夜もこのような形で、優しく見えると思います。パビリオン棟が3つと、側にVIP棟が立っています。実はこの建物の外側は布で出来ています。この布は、無駄にせずに全部土にかえる素材で、万博終了後、ゴミにならず自然へ帰ります。建物自体、循環しサスティナブルになっています。

–どういう展示になるのでしょうか。

大西 展示の詳細は、3月21日に記者会見の予定で、それまでは発表できませんが、「感情をまとう建築」ということで、「生きているパビリオン」を予定しています。

 

 

パビリオンの外観は、今申し上げたように幕でできていて、ワイヤーなども含めて循環する、地球資源に優しい建物になっています。また、NTTグループが取り組むグリーンエネルギーを実装しており、太陽光発電を使ったり、水素生成をして、水素パイプラインで輸送し、パナソニック様のパビリオンでご利用いただいています。
グループの総力を挙げて展開しますので、是非、現地で実感していただきますよう、お願いいたします。

「IOWN」の省電力効果も

–今回展示されます「IOWN」は未来をたぐりよせる戦略的な取り組みであり、万博においてもとても重要な役割を果たすと思います。「IOWN」の取り組みの現状と今後の見通しを教えてください。

大西 「IOWN」は今、ステップ2に入っています。IOWN2.0として、電気回路と光回路を融合する光電融合デバイスがついに出ました。商用化はまだですが、もう使える形になり、今回も重要なところに使っています。スイッチが実物としてできたのは、かなり画期的なことです。世の中に商品として出すのは26年を予定しています。電力消費が8分の1になります。2032年以降には、100分の1になります。

 

 

–電力効率が2025年で8倍、2032年以降は100倍ということですね。それは、すさまじいエネルギー効率のアップになりますね。

大西 大変なインパクトを持っていると思います。ご承知のように、「IOWN」のネットワークサービスとしてはNTT東日本/西日本から昨年、IOWN APN2.0を商用化しており、データセンター間をつなぐ形で実行しています。国内のみならず、アメリカやロンドンなど、距離が離れたところも接続して、求められる要件が満たせた状態になっておりますので、今後は実際のサービスとして使っていただけるように広げようという段階です。

 

 

–AIブームで電力問題がクローズアップされており、「IOWN」の普及にはちょうどタイミングが良かったですね。電力消費と遅延が少ないという2つのメリットで、「IOWN」の出番となっています。

大西 まさにそうなんです。例えばシンガポールでは、データセンターの電力が全ての消費電力の10%以上になっていて、政府がシンガポールに新たなデータセンター建設は中止するよう規制しているようで、今後データセンターを新設するとしたらお隣のマレーシアに建てそこからデータを自国へ運ばなければいけない状況になっているといわれています。アイルランドでは既にデータセンターの電力が、総電力の17%になっていて、2026年には32%になることがみえているようです。
日本でも、東京で使っている電力消費は2022年で758KWhです。ところが、2030年にはデータセンターだけで東京全体とほぼ同じ消費量になってしまい、2050年には日本全体で9028 KWhなので、データセンターだけで今の電力を使ってしまうことになります。ネットワーク分も足すともっとすごいことになるのです。こういうカーブを、IOWNによって大きく減らしていくということが使命ではないかと思っています。
ChatGPTの2年目ぐらいのモデルで1回の学習に必要な電力消費が1300MWhと言われていますので、原発1基を1時間稼働している電力量よりも多いことになります。大規模なデータを学習すればするほど精度が上がる状態になっていますので、このままいくと、どんどん電力を使うということになります。そのために、NTTグループとしては、「IOWN」という低消費、つまり光を使った低消費という観点と、AIについても「tsuzumi」のような小規模の学習データ、少ないパラメーター数で精度を上げるアーキテクチャにのようなAIも組みあわせて、省エネAIと省エネインフラで世の中を支えたいというふうに思っています。

企業のDXを推進する「tsuzumi」

—-その「tsuzumi」は今回の「大阪・関西万博」でも活躍すると思うのですが、大規模言語モデル(LLM)としての特徴と活用について教えてください。まず、小規模のLLMを選ばれた理由を教えてください。

大西 OpenAIがChatGPTを出す前から、私どもはLLMの研究をしていました。電話の会社でもあったので、日本語コーパスというのですけれども、さまざまな日本語の辞書を持っていました。そういう良質なデータがあったので、少ない学習データで精度を上げられる技術が確立できたのです。インターネット上のデータは8割ぐらいは使えないデータと言われていますね。そのゴミと分からないものまで全部学習させて、チューニングしてきれいにするということをやるので大規模になってしまいます。学習させるテキストデータの量とそれをつなぎ合わせるニューラルネットワークの大きさで、パラメーターのサイズが決まってきます。沢山のデータを学ばないと関係性が見えないですが、NTTの場合は、そのパラメーター自体がもともと日本語を学習していたので、少ないパラメーターである程度、関連付けることができるということです。データ量とパラメーターを少なくしても、性能を上げることができたのです。

 

 

—-生成AIはプロンプトで個別に使うものからAIエージェントとして組み合わせて使うものが出てきていますが、「tsuzumi」はどのように発展していくのでしょうか。

大西 大規模LLMで1つのAIを万能化して使うと、それこそ電力問題もありますので、私たちはAIエージェント化して、AIをつなぎ合わせて、いろんな課題に対応していくということが必要かなと思っています。「tsuzumi」だけということではなくて、得意分野を持ったいろいろなAIを組み合わせて、例えば金融の「tsuzumi」や、ヘルスケアの「tsuzumi」など、それぞれの専門家としてのAIをつなぎ合わせて、レベルアップしていきます。コンステレーションと呼ぶ、星座のようにつながる仕組みです。それを今は、エージェントという言い方に変わってきているのです。いろんなAIを組み合わせて、エージェントが機能して、AI同士が会話しながら問題解決するという方向で、それがAIエージェントということだと思います。

 

 

–高度な専門性を持ったLLMを組み合わせてパフォーマンスを上げる仕組みですね。AIエージェントの段階に入って、AIの活用はどういう発展していくのでしょうか。

大西 日本の企業では、まだまだクラウドに上がってないデータが多いと思います。しかも、そのデータは構造化されていないものが多い、日本においては、人事は終身雇用が主流だったということもありデータ化されず、暗黙知の状況でした。人に属しているわけです。今は、それをデータ化し、AIに持って行くというところが一番の課題になっています。
そういった意味では、「tsuzumi」自体は軽いので、企業内のクラウドに上げていないようなデータを個別に学習し、モデル自体に学ばせることができるのです。当初はどちらかというと、企業内に学ばせるデータ量が少なすぎて、「tsuzumi」の精度がなかなか上がらないという課題がありました。今はまずはChatGTPなどで汎用的なデータを基に企業内のDXを進めながら、だんだんとその企業の中にあった非構造データをデータ化し、それを「tsuzumi」に学ばせ、それらを組み合わせて、最終的にはトータルでDXを成し遂げていくというステップになっております。

–AIの活用は、主にどういう業種が多いのでしょうか。

 

 

大西 これが業界と用途を分類した図です。業界としては満遍なくですが、やはり自治体は多いですね。利用用途としては、コンタクトセンターや問い合わせ対応が多く、社内業務の改善が多い形になっています。
「tsuzumi」の活用については、ネット上に上げられない社内のマニュアル、社内文書の検索、要約生成のところのご要望をいただいています。いざ始めるとマニュアルの量が少ないのと、社員向けなので社内用語が多く入っているということが課題になっています。

 

 

—-すぐそのままでは使えない。

大西 社内向けですから、社員が分かっている単語には定義が書いてないので、「tsuzumi」が学んでも分からないのです。分からないところを定義付けしていかないといけません。マニュアルも、いろんな部署の人が作っている場合は答えが異なり、ゆらぎが出てきます。

—-AIもまずは日本的な企業の在り方と向き合わなければいけませんね。でも、そこがAIの出発点なのですね。

大西 そうですね。そういった意味ではDXが日本企業においては想像以上に進んでいなかったという現実が見えてきています。よく言われるように、アメリカなどは、労働人口が激しく流動しますからドキュメント化することが大前提で、言わなくてもあうんで分かってしまうという日本の文化とは異なるわけですね。

—-日本では大手企業はともかく、多くの中小企業ではERPが入っていないですから、全部の業務の定義からやっていかなければいけないですね。

大西 そうなのです。そういった意味では逆に伸び代が非常にある、可能性が大きいと思っています。例えば、ここにあるような、「バーチャルコンシェルジュ」ということもやっています。「デジタルヒューマン」ということで、NTTコミュニケーションズの実際の男女社員9人を掛け合わせたら左側の人「CONN」になったのですが、動きも付けられます。事例として富士薬品様で、例えば「目がかゆくてかすむ、ハードコンタクトなんです」という問いに、この「CONN」が「お勧めの目薬はこちらです」と勧めるように話すことが出来ます。「tsuzumi」が動いているわけです。
コンタクトセンターでオペレーターは顔出しが嫌だけれども、お客様は顔を見て話したいという方もいらっしゃって、そこで「CONN」のようなバーチャルコンシェルジュで話します。余談ですが、年齢プラス20歳くらの声にして話すと苦情も早く収まるらしいです。顧客接点では、こういうITテクノロジ―を使ってより良いものにしていくというニーズはとてもあると思います。

 

 

–日本の企業のDXがまだ出来ていないところを、AIで一気にDX化するようなイメージですね。

大西 そうですね。できれば、DX化が単なるデジタル化でなく、付加価値のところにまで進んでいきたいなと思っていまして、新たな価値創造に持っていければと思っています。
日本ではまだAIを日常的に使っている人が海外と比べると少なかったり、生成AIの効果を確信している人が極めて低く、逆に不安を感じている1位が日本、となっていたり、まだ全体的に慎重な傾向にあるのではないかと思います。

無線研究開発の方向性とマルチ無線プロアクティブ制御技術
「Cradio」の取り組み

—-ワイヤレス分野でも新たな取り組みを進めていますね。

大西 無線の研究開発の方向性は、多様な無線ネットワークが登場するなかで、それをユーザーのニーズに応じてうまく連動させ、最大のポテンシャルを発揮できるようなネットワークサービスを提供するということです。IOWN APNのパワーをエンドエンドで無線領域に拡張することともいえます。そういう意味で、無線アクセスの高度化です。
現在、これらの無線技術についてIOWNの技術の一つとして、Cradio(クレイディオ)という、複数の無線の種類をユーザーの環境に合わせて、ユーザーが意識せずに、最適なネットワークをつかんで快適に使えるようにしていく取り組みを行っております。

 

 

—-実用化に取り組んでいるのですか。

大西 複数の無線を組み合わせて、お客様の利用実態に合わせて、予測し、チューニングしていくという技術で、一例として2024年度に横浜の動物園「ズーラシア」において自動運転パスの実証を行いました。

 

 

安全な自動運転を行うには、安定的な遠隔監視のための高品質な通信回線の確保が重要となります。その際ズーラシアのような広大な敷地の中では、場所によっては公衆のセルラ―回線が届きづらく敷地全体の品質を確保することが難しくなることが課題の一つでした。そこで、まずCradio置局設計技術を用いて、ローカル5G基地局を適切な位置に適切なパラメーターで置局しました。さらに、Cradio品質予測技術を用いて、自動運転バスの品質を予測しながら途切れずに通信できることを確認しました。この実験では、園内を周回するバスの経路の無線電波の強さや混雑状況をあらかじめ学習しておいて、実際に自動運転のバスが走るときに、最も品質が良くなるタイミングでセルラー回線とローカル5Gを切り替えます。遠隔管制室からバスに設置されたカメラ映像を見ると、途切れずに滑らかに流れていることが確認できました。

 

–5GとWi-Fiを自動的に切り替えるという技術で、さらに新たにAIで予測して、最適なネットワークを提供するというコンセプトですね。

 

 

大西 そうです。この技術の活用によって、地域などの厳しい環境においても、複数の無線を組み合わせて、自動運転バスがスムーズに運行できるようになるのではないかと考えています。さらに複数の無線として、Wi-FiやIoT無線を組み合わせると、物流倉庫や工場内のロボットのオートメーション化にも効果的で、活用範囲が大きく広がると考えています。

 

 

 

 

–「IOWN」をベースにワイヤレス分野においても、AIとの連携が進んでいるわけですね。今日はありがとうございました。


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