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ファジー5G試験の実態は…専門メディアニュース記事紹介
岩本賢二
全米で繰り広げられている5Gの試験やトライアルは良いニュースばかりが流れていますが、専門メディアの「FierceWireless」では実際の成果について厳しい指摘が行われています。そのニュース記事を、そのまま紹介します。
2016年は全米で多くの5Gネットワークの試験やトライアルが行われました。5Gのトライアルが活発に行われることで、ネットワーク分野の人たちは勇気づけられた訳ですが、その詳細を確認すると、現実には無意味な環境でのマルバツ表的な結果ばかりが先走っている面もあり、とても問題です。
実際2016年に行われたトライアルの中で、「なるほど、これはすごい!」と言えるような試験結果はほとんどありません。
ある特定の場所で1Gbps以上のスピードが出たとか、シングルユーザー接続で14Gbps以上出たなど、一定の結果は存在しています。移動車両で2.5Gbps以上出たとか、エリクソンとテリアのピークデータレートは15Gbpsでレンテンシーは3ms以下だったというデモもありました。速度やレンテンシーについて、成果は出ているともいえます。
しかし、これらの試験はまだ始まったばかりで現実の世界ではあまり意味の無い結果であったということを知らされることになります。
何が起こっているのかを解読するには、それが「どこで、どのように、何が行われたか」をきちんと知る必要があります。
本当に重要なことは
・どの周波数を使ったのか
・何の無線インターフェースを、どのように使ったのか
・ベースステーションの仕組みがどうなっているのか
などを正確に押さえることでしょう。
しかし、ベンダーやオペレーターは詳細について秘密にするのが大好きなので簡単には公表されません。
また、多くの人がスピードの数字について聞きたがっている時に、このスピードが、いつ、どの周波数で、どのような環境で行われかという点については興味を持って貰えることが少なく、また語られにくい環境にもあります。
実はこれらは大抵の試験において、密集した都市部で行われたケースは皆無に等しいのです。
T-MobileやVeraizonといったお馴染みのプレイヤーが自慢話をしたくてスピードの話を公表しているだけにしか過ぎません。
すでに過去にAT&Tがプロジェクト協賛企業の協力を得てさんざんやり終えた感のある固定無線による実験を、Veraizonなどが5Gの試験としてひたすら続けていることについては笑うしかない状況です。
とは言いつつも、Mobile World Congress 2016でサムスンがVR機に360度のVRコンテンツをライブ配信するデモを行いました。これはMIMO技術を使用して移動中の端末に 4K UHDビデオコンテンツを伝送するというデモでした。
以前からサムソンはこのような技術の重要性を感じ、2013~2014年に固定環境で7.5Gbpsの通信デモを実現しようとして、実際に2014年に成功させました。この時点でこの速度は5Gのデータ送信レートとして世界最速でした。
さらに時速100km/h以上の車両での通信デモで1.2Gbpsの速度を途切れること無く安定的に出すことにも成功しました
(筆者注:といっても、これも都市密集地ではなくオープンな環境での話です。)
このようなデモをきっかけにサムスンは数年前から5Gの研究開発に集中し、商用化の道を真剣に考えました。最近では商用段階に到達するために必要なミリ波の技術について沢山の試験やデモを行っています。
彼が言うには「スループットデータのスピードは素晴らしい見出しになるが、市場投入までの道のりを考えると、他のすべての要因を把握することの方が必要だ」
(筆者注:これは大事なことです。良い指摘ですね。)
5Gは小さなセルを多く必要とするため、小型化と経済性を向上させることが鍵になることを知っておく必要があります。
小型化は徐々に進んでいるので2018年2月の韓国の冬期オリンピックの前に、それを見ることができるかもしれません。
サムスンは長い間、NYU Wirelessのような教育研究機関と提携して5Gの重要な要素であるミリ波の研究を行っています。
昨年の夏にNYUの教授たちと一緒にバージニア州のRinerにある山荘で73GHz帯を使った伝送試験を行いました。そこで何か驚くべき結果が出たようです。たぶん飛距離です。
そのほかの関心事としては、エリクソンとチャイナモバイルが5G対応のドローンプロトタイプ実験を行ったことです。携帯会社の通信網を利用し飛行するドローンですが、複数のサイトをハンドオーバーして移動できるようになっています。
特筆すべきは「ハンドオーバー」「マルチユースネットワーク」「エッジコンピューティングによる低レンテンシー」が導入されていることです。
ドイツテレコムとファーウェイは自立型のエンド・トゥ・エンドネットワークスライシングを5G無線アクセスネットワークのダイナミックリアルタイムスライシングに実装し、データセンターとの接続を実現しました。
このデモは、共有のRAN、コア、トランスポートネットワークを自動的に最適化しながら異なるネットワークスライスを作成するという物です
(筆者注:そうすると、5G網を専用線のように使うことが可能になります。)
5Gにおいて、ネットワークスライスが重要な利点になることは有名ですが、セットアップには非常に時間が掛かり、運用中のネットワークの一部に手を加えることはとても問題があるという認識がありますので、ダイナミックリアルタイムスライシングというのはすごい技術です。
アナリストのJoe Maddenは以下のように話しています。
2016年にマッシブMIMOの移動体とフィールドでの検証が大幅に進歩しました。サムスンは28GHzのリンクを使用して移動体に関する主要なテストを行い、ファーウェイはLTEにマッシブMIMOを導入して他のベンダーから先んじました。5Gの導入に先立ってマッシブMIMOは現実的な利点であることを証明しました。
今後の挑戦としては60ワット以上の出力を持つ28GHz無線の放熱に関する問題解決が挙げられます。28GHz無線のアンプ効率はこの放熱問題が壁になっていますが2017年には何らかの解決方法が見いだされるかもしれません。
(筆者注:実際日本でも商用利用されているミリ波のシステムの多くが法令で規定されている出力に遠く及ばない低出力で運用されています。)
しかし、残念なことに、このように各社が5Gの試験をしていますが全てオープンエリアで行われており、混雑している都市環境でのモバイルハンドオーバーの性能はまだ実証されていません。
5Gにおいて都市環境での利用は必須なのです。
来年以降、事業者がミリ波無線で出来ることと出来ないことを正確に理解しつつ、その他の低いバンドやミッドバンドとどのように整合させていくかについて経験していることをもっと詳細に聞けるはずです。
翻訳記事 FieceWireless https://goo.gl/2y92E7
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