特別インタビュー
NTT(日本電信電話)取締役 新ビジネス推進室長 2020準備担当 栗山浩樹氏

 

2020と地方創生で「トランスフォーメーション」を実現
Wi-Fiは「量から質への転換」の時期

栗山浩樹氏

NTT(持株会社)で「2020準備担当」を務める栗山浩樹取締役に、「2020オリンピック/パラリンピック」に向けたグループの取り組みを尋ねました。

栗山取締役は、国の直面する社会的諸課題を「2020」と「地方創生」をテーマに具体的に解決していくことがNTTの使命と考えており、二大事業ドメインである通信と情報システムの融合で企業や自治体に新たな付加価値を提供していきたいと述べました。

また、固定通信、移動通信に加えてWi-Fiが情報通信基盤として確立してきており、これを活用することが「2020」と「地方創生」の成功にとって重要な役割を果たすと強調し、無線LANビジネス推進連絡会をはじめとするWi-Fi業界の次の発展への期待を述べました。

 

市場や技術の変化に合わせて事業構造を変える

――NTTはグループをあげて、「2020オリンピック/パラリンピック」に取り組んでいますが、その狙いは何でしょうか。

栗山取締役 我々は、市場や技術の変化に合わせてグループの事業構造を変えていきたいと考えています。それを「トランスフォーメーション」と言って、戦略的に重視しています。
トランスフォーメーションを具体的にどう実現するかというので、「2020」と「地方創生」を掲げています。この二つは日本全体の大きなテーマであり、同時に私たち自身の課題だと捉えています。

日本は少子高齢化、市場の成熟、消費の低迷、経済の停滞に直面しています。人口が減るので労働生産人口が減少し、生産も苦しい、GDPの6割を占める個人消費も伸びないわけです。
そこで、生産性向上や仕事の効率化を図るために情報通信(ICT)をもっともっと活用していく機運が高まっています。

消費という観点でみると、たとえば我々が提供している通信サービスと情報システムとが二大事業ドメインになるわけですが、それらをユーザーに使い切っていただいているのかというと、まだまだではないかとの状況です。
ブロードバンドのフレッツ光もほぼ全国に行き渡りましたが、それを活用して企業で十分に効果を上げてもらっているのかというと、まだ満足できる状況ではないわけです。もっと効果の上がる新しい使い方があるのではないかということで光コラボレーションを始め、新しい活用方法の開拓に挑戦しています。

固定通信と移動通信はリンクしていくはずで、それをよりスムーズに進めることで新しい需要が開拓できるのではないかと考え、新たな付加価値創出のサポート、触媒という観点で光コラボを進めているわけです。

今の光コラボの主要推進者は通信事業者、ISPなどが中心ですが、それ以外の産業領域の企業が参入してきています。もっとそれを加速して新しいビジネスを生み出す後押しをしていきたいと考えています。

「通信と情報システムの融合」で新しい価値を提供する

――このプロセスは技術面では、どういう変化が起きるとお考えですか。

栗山取締役 今も「固定通信と移動通信の融合」は進んでいますが、次の大きなステップは「通信と情報システムの融合」だと考えています。

今までの情報システムは、誤解をおそれずに敢えて単純化して言えば、企業の仕様に合わせて作って納め、そこでユーザーとの関係がいったん切れます。保守は続きますが、ある意味、間欠的な関係になってしまいます。

しかし、本当はその情報システムの先の顧客に何を価値提供するかが最も大事なことです。つまり消費者、企業、自治体、住民などに対して、その情報システムがどういう価値を提供できるのかという観点です。これが「B2B2X」の視点です。

たとえば航空会社のフライトシステムは社内情報システムで、以前は旅行代理店を使ってチケット販売する仕組みでした。フライト情報も代理店経由でした。
しかし、今は、ユーザーはスマートフォンからフライトシステムに入り、自分でフライト情報を調べ予約から搭乗手続きまで済ませています。座席指定もその変更も、機内サービスの予約までできます。マイレージの積算もできます。さらに、そのサイト内でホテル予約やレンタカー予約もできます。ここでは、消費者・利用者の目線に立って、通信と情報システムが融合されています。

航空会社にとっては社内システムまで開放することで、逆にシステムの価値が上がっているわけです。座席予約までオープンにすることで、航空会社は顧客ニーズをダイレクトに把握することが出来ています。それらのデータは仲介者を介さないでより良いサービスのスピーディーな開発につながっていきます。

つまり、従来のようにオンプレミスの情報システムを収めて終わりにせず、通信と情報システムの融合を進めることで企業の付加価値を高めることにつながるわけです。それが、我々の言うB2B2Xのコンセプトにつながります。

――「事業構造の変革」とは、B2B2Xの観点でNTT自身が変わることで、企業の付加価値を高める「デジタルトランスフォーメーション」を進めようということですね。

栗山取締役 その通りです。その時間軸が「2020」であり、その場が「オリンピック/パラリンピック」と「地方創生」ということです。首都だけでなく、全国規模でそれを実現したいと思っています。

都市機能の再構築をICTで実現

――オリンピック/パラリンピックに向けて、具体的にはどういう取り組みを進めるのでしょうか。

栗山取締役 首都東京の機能の再構築が我々にとっても大きな機会だと考えています。交通系、商業系、観光系など様々な局面で再構築が始まっています。

たとえば、街づくりという観点でデジタルサイネージをどう活用するか、観光面でも多言語化をどう進めていくかが検討されています。交通系も施設の再整備を進められており、そのなかで情報化も進めています。

この首都機能の再構築では、通信だけでなく情報システムだけでもない、両者を融合させることで価値が高まると思います。

たとえば、車いすやベビーカーを利用する人々が交通機関を利用する時、エレベーターがないと支障が多く移動に困難が生じます。地下鉄構内でエレベーターを設置するスペースには限りがありますから、それがある場所の位置情報を提供して最短ルートをお示しできれば、利用者にはとても便利で有効です。

――都市機能の再構築には、情報の再構築というか情報通信の再構築という要素が不可欠に含まれるということですね。

栗山取締役 そうです。ハードとソフトが一緒になった首都東京の機能の再構築が、今めざしている姿だと思います。

これは東京だけではなく、札幌でも同様です。札幌オリンピックからもう40年以上経っていますので、都市のハードインフラが老朽化してきています。それをハードとソフトを融合した新たなインフラ基盤として再構築したいという意向をお持ちと聞いています。通信と情報システムの融合、それはクラウドと言ってもよいでしょうが、それが重要になってきています。

「都市機能の再構築」ということも一般論ではなく、2020オリンピック/パラリンピックを迎えるという視点で見てみると、具体的な機能イメージが分かりやすくなると思います。時間が区切られ、外国からの訪問者などの要素が入ってくると、求められるものが明確になりますから。

このプロセスをやりきることで事業構造を変え、収益構造を変え、人材を育成し、体質転換を遂げるということに取り組みたいと考えています。

Wi-Fiの普及が大きな役割を果たす

――このプロセスで技術の進化も進むと思いますが。

栗山取締役 5Gが世界の先頭集団として実用化されることは大きなインパクトを持ちます。バックボーンが光だということは明らかで、光の重要性は揺るがないでしょう。

テーマは、ユーザーにとっての最後のアクセスのところで、光だけでもなく、5GだけでもなくWi-Fiなども含めて多様なニーズが高まります。ここがとても重要です。

B2B2Xの「2X」のところの選択肢が増えてきて、キャリアフリーなりマルチキャリアで使えることがセンターの「B」の企業にとってますます重要となります。そこで、情報のインプット・アウトプット、情報のトランザクション/インタラクションが行われているわけですから。アクセスをターミナルデバイスと合わせて、それぞれのユーザーにどこまで使い勝手よく用意できるか、また情報を相互に流通させられるかが勝負です。

Wi-Fiが重要なのはキャリアフリーで、企業なり自治体なりが自分たちの情報サービスの手段として使いきれるということです。

――2020という点では、来日外国人がますます増えることでしょうから、やはりWi-Fiの出番でしようね。

栗山取締役 無線LANビジネス推進連絡会のご尽力もあり、ここ数年でWi-Fiは全国規模でカバー範囲が大きく広がりました。3、4年前、「外国人が増えているのにWi-Fiが少ないではないか」と多方面で取り上げられました。むしろそのお蔭で、Wi-Fiは認知度が上がり、その必要性の理解が深まりました。

我々も「Wi-Fiは第三のアクセス」ということを打ち出しましたが、Wi-Fiは今や市民権を得ました。地方に行けば首長さんから、早くWi-Fiの提案を持ってきてください、と言われるようになりました。日本地図を広げると人口稠密地域はほぼすべてカバーしています。

翻ってみると、スマートフォンの登場と世界的な普及が、キャリアフリーの、また、国境を越えるボーダーフリーのWi-Fiの価値を押し上げました。

地方創生の新しい効果と成功例を

――地方創生についてはいかがでしょうか。

栗山取締役 一番最初に取り組んだのは観光です。これは国内のパイの奪い合いではなく、純粋に外部需要を増やせるわけで、地域経済にとって効果が大きいものです。

5年前は外国人観光客は1000万人を切っていました。政府が2000万という目標を掲げた時、官民問わず単なる努力目標と認識していましたが、見事それを達成してしまいました。明確に経済効果を生み出し、みんな目を見張ったわけです。そのお客を逃がさない手はないというので皆さんがWi-Fiに注目しました。

福岡に始まり全九州に、さらに東北でも。主要な空港や駅などにもWi-Fiが導入され、また、コンビニエンスストアでは全国のほぼ全ての店舗に導入されています。

携帯電話事業者によるモバイル網の補完ではなく、それぞれの企業や自治体の皆様が主体となって、自分の情報サービスのために自らのエリアでWi-Fiを構築されており、そこに大きな意義があるわけです。

「通信+情報システム」というものの価値は、それを使って顧客に来ていただき、より楽しく、より多くのサービスを使ってもらおうとしているということです。

たとえば、こういう例があります。今、観光は長期滞在化の傾向が見られます。北海道だとオーストラリアやニュージーランドから観光客がニセコに来て冬の間、長期滞在しています。そこの店舗などでは売上が大きく拡大しています。さらには、冬季だけでなく、夏も楽しみたいということで、ラフティングをスポーツとして楽しむようになったとのことです。

短期の観光が長期滞在となり、その延長線上で、日本での生活や仕事を望まれるようになると、自然な形で、日本は働きやすく、住みやすい国だということが浸透し、多くの外国人が日本に惹きつけられるようになるのではないでしょうか。観光はそのための突破口になるわけです。長期に見れば素晴らしい経済効果のある取り組みだと思います。その基盤の一つは間違いなくWi-Fiです。

――地方は疲弊しているという話ばかりが出ていますが、そういう良い事例を生み出し明るい展望を打ち出すことか大事ですね。

栗山取締役 観光と並行して、スポーツに取り組んでいます。

B2B2Xで我々は「触媒」であり「黒子」を自ら任じているわけですが、その先の2Xで顧客を感動させるものでなくてはいけないし、人を感動させるもの、生きている喜びを生み出すもの、それを我々が裏で支えるという風になりたいのです。

大宮のサッカースタジアムNack5をスマート化するためWi-Fiを構築しましたし、その延長線上で日本のプロサッカーリーグ(Jリーグ)と提携して、そのサポートにも取り組んでいます。そのことによって、リーグの趣旨である「ホームタウンの活性化」にも寄与したいと考えています。大宮、広くさいたまの商業の発展、市民生活の充実を実現できないかにチャレンジしていこうとしています。

スタジアムからホームタウンへ、大宮から全国へというエリアの拡大に取り組んでいきたいと考えています。

そして、次は交通系です。モビリティを確保することは人間の生活や就労の面でとても重要なことです。バリアフリーの情報提供サポートなど、ソフトインフラの提供を進めています。また、デジタルマーケティングの活用を支える仕組みとして、ポスターにスマートフォンと連動して情報提供する機能を組み込んだり、デジタルクーポンを配布して提携店舗に送客する仕組みなどにトライしています。

――観光、スポーツ、交通など、現業を営む企業に「通信+情報システム」でより価値を生みだす、それらの企業のデジタルトランスフォーメーションを実現し、その過程を通して自らのトランスフォーメーションも実現するということですね。

栗山取締役 札幌では雪まつりがあり、冬季アジア大会がありました。それはまさに「観光×スポーツ」でした。アジア中から来られた人々がどういう購買行動をしているか、それに対しどういう情報提供をすればよいのか、どうすれば札幌という街がより楽しく豊かな場となれるかを実証実験で分析しようとしています。札幌市をはじめとして地元の百貨店などの流通業、ホテルなどの宿泊施設や地元大学の有識者などが参画・主導されています。

Wi-Fiを活用した情報サービスの活性化を

――今後のWi-Fiないし無線LANビジネス推進連絡会の役割と期待についてはいかがでしょうか。

栗山取締役 固定通信網、移動通信網に加えて、Wi-Fi網が普及してきたことはとても大きいと考えています。面的なカバーを加速する段階は概ね終わり、「量から質への移行期」だと考えています。今や、情報サービスの活性化の時です。

官公庁のアンケートでも、Wi-Fiのカバー率よりも、多言語対応や魅力の発信が不足している、という指摘や要望の方が多くなっています。

Wi-Fiが通信ネットワークとしてあるのだから、そこに情報サービスをちゃんと載せていくということが大事です。この情報サービスを載せるのは通信事業者ではありません。企業であり、商店街などの団体であり、自治体などです。そこで、どういうお手伝いをするかが我々の使命です。こうしたらもっと伝えやすいですよというようなことを提供することです。まさに情報の質への転換です。

Wi-Fiは、今、第2フェーズにあります。情報サービスの多様化・進化です。この動きに対応して、スポーツから健康や子育て支援、観光の延長線上で商業や交通など、ますます範囲が広がっていきます。IoTはこの動きを加速させています。

B2B2Xビジネスは、先行例が着実に登場してきています。今後、同じ業界で二例目を作る、業界のなかでバリューチェーンの一部への提供であるものを前後に連携・拡大するなどバリューチェーンの横串をさらに広げる、また、対象となる業界の数をさらに広げる、といったことが重要です。そして、これを推進するケイパビリティを体系化し体質化することだと思います。その時、重要なのは人材です。B2CやB2BをB2B「2X」まで持って行ける人材を育成、確保していければと思います。

こうした取り組みを進めていくことが、2020年に向けて、グループにとっても、日本の社会・経済的課題の解決に貢献するためにも大事なポイントではないかと考えています。


目次へ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら