技術情報
家の中のIoTネットワークとハイエンドAPの役割
無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男
家の中では多くの方が、スマートフォン・タブレットやパソコンを光回線につながったWi-Fiのアクセスポイント(AP)を介してインターネットに接続していると思います。
毎日話題になっているIoTがこれから家庭にまで普及すれば、スマホやパソコン以外にもテレビ、冷蔵庫、ペット監視や防犯のためのカメラ、プリンタ、防犯センサー、駐車場にあるクルマまでが、IoT端末としてWi-Fiアクセスポイントを介してインターネット、クラウドにつながるようになると思います。Wi-Fiによるスマートホームが実現するのではないでしょうか(図1)。
スマートホームで広がるWi-Fiラインナップ
Wi-Fiによるスマートホームの時代が来ると、コンテンツはますますリッチになり、大容量化します。また、家のどこにもIoTデバイスを置きたいという要望も強まるでしょう。
そのために、Wi-Fiの商品ラインナップは、今のメインストリームであるIEEE802.11acに加えて、図1に示すように、8K映像伝送に最適な60GHz帯を用いたIEEE802.11adが近いうちに商品化されるでしょう。そして、皆さんが使われているスマホの中にIEEE802.11adのチップが搭載されるでしょう。
また、IoTのワイヤレスシステムとして最適なIEEE802.11ahは標準化が完了し、Wi-Fi Allianceの認証が日本でも早期に始まることが期待されています。
IEEE802.11ac、ad、ahのトリプルモードの家庭用アクセスポイントが手元に届き、皆さんがお使いになる様々な端末、機器、モジュールがWi-Fiで接続してインターネットにつながる時代が到来します。
当然、Wi-FiだけではなくLTEや、2020には商用化される第5世代移動通信システム(5G)でも家の中にある様々な端末をインターネットにつなげることが可能です。
現在の契約では端末一台ごとにキャリアとの契約が必要で一台ごとに料金がかかることを考えると(将来的には改善されるでしょうが)、Wi-Fiはちょっとリテラシーが必要ですが、皆さんの好きな時に好きなように端末を増やしたり減らしたりすることが出来ますし、光回線を一本契約すれば何台の端末をつないでも原則定額料金です。
8K画像を家族全員が好きなだけ堪能したらどれだけのパケットになるか分かりませんが、光を引いていれば安心です。
横道にそれますが、劇的に急増するトラヒックを処理するためには膨大な設備投資をキャリアもISPもクラウド事業者も行う必要があります。急速に進む技術革新でもそのギャップを吸収できなかった場合に誰がそれを負担するかは今後大きな問題になるかもしれません。
図1の中の端末、機器等に値段がついています。クルマやテレビやエアコン、冷蔵庫等の値段を合計するとかなりの額になります。
これらの高額商品がWi-Fiのアクセスポイントにつながってクラウドに行き、様々なサービスを受けることになります。
アクセスポイントは価格が安いことに越したことはありませんが、家の中の様々な機器がクラウドにつながり、家の安心安全にかかわる機能を提供するような時代には、機能、品質、安全性に優れ、少々値段の高い高額なWi-Fiアクセスポイントがあっても十分売れるのではと、個人的に考えていました。Wi-Fiのマス商品は値段が安すぎるとも、思っていました。
ASUS社ハイエンドAPの3つの機能と狙い
そんなことを感じていた時に、知人から、台湾のASUSが3万円もするハイエンドのWi-Fiアクセスポイントを販売したと聞きました。それは、ちょうど私がこんなアクセスポイントがあったらと考えていたものです。
インターネットでこの商品の機能を調べると以下のようでした。(ASUS社製品ページ参照)
- 高速規格「IEEE802.11ac」に対応したほか、NitroQAM技術への対応で最大2167Mbpsの高速接続が可能
- ゲームの通信優先度を高める「Adaptive QoS」機能やネットワークゲームのタイムラグを軽減する「WTFast」機能を搭載
- 本機に接続しているPCやスマートフォンなどの機器の位置を検出し、その機器を狙い撃つように電波を飛ばす「Ai Radar」機能を搭載
こうした機能に関心を持ち、早速、ASUSの開発担当の方に、いろいろお聞きしました。以下がその回答です。
質問1 ASUSは家庭用Wi-FiルーターとしてRT-AC88Uを販売されています。
マス向けのWi-Fiルーターとしては3万円の高額なWi-Fiルーターだと思います。何故このような高額のWi-Fiルーターをマス向けに販売しようと考えたのですか。
回答1 ASUSはretail market に自社ブランドを強くするため(NetGear、 Linksysと区別するため)、より高付加価値の製品を出そうと決めました。
さらにretail marketで No.1を目指しています。
質問2 RT-AC88Uの開発、販売の決定について社内でどんな議論があったのでしょうか。
回答2 自社ブランドを優良化するため、ローエンドで大量の製品を出すよりも機種を絞った上、高付加価値の製品を出すことにしました。
質問3 予想以上に売れていると聞いていますが販売状況について教えて下さい。
回答3 ヨーロッパと北米では売れ行きがNo.1になりました。予測より反響がよくて、一年間で約70万個を出しました。
質問4 ユーザーはどんな方で何に使われているのでしょうか。
回答4 家庭用で、とくにヨーロッパと北米では、宅内のWiFi環境を良くするために購入されています。
質問5 今後もRT-AC88UのようなハイスペックのWi-Fiルーターを開発販売して欲しいと思いますが、ASUSの考えを教えて下さい。
回答5 はい、そうです。今は確かに成果が出てきていますので、この路線を続けていく予定です。
繰り返しになりますが、これからは家の中に、これまでのようなパソコンやスマホをワイヤレスでインターネットにつなげればそれで十分という時代から、様々な端末や機器、デバイスがインターネット・クラウドにつながり、家で生活する人たちの学習や娯楽、利便向上、省力化、安心安全の向上の向上に役立つ時代になります。
それに伴いセキュリティの確保も重要な問題になります。
以上に十分対応可能なWi-Fi商品をお客様に提供することがWi-Fi業界のこれからの重要な課題だと思います。
ASUS社製品ページ:https://www.asus.com/jp/Networking/RT-AC88U/
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